民放・在京キー局ともなれば何かと話題に持ち上がるのが視聴率の問題です。スポット広告も個別の番組提供も視聴率が下がれば元の値段では売れなくなりますから、この数字次第で経営状態は著しく悪化してしまうのが現実。そして、今年の10月改編で大失敗を喫してしまったのが「フジテレビ(CX)」です。レギュラーの新番組が始まった11月にはすでにゴールデンタイムの平均視聴率が万年ビリだった「テレビ東京(TX)」を下回る結果となり、振り向いてもすでにテレ東はいないという衝撃の状況に陥っていることが報道されはじめています。(『 今市的視点 IMAICHI POV 今市的視点 IMAICHI POV 』今市太郎)
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視聴率に業績が左右されるテレビ局
民放・在京キー局ともなれば何かと話題に持ち上がるのが視聴率の問題です。
この視聴率、「番組の中身が重要なのであってレーティングに捕らわれるべきではない」などと調子の良いことを言う評論家が現れることも多いものです。
しかし、実は民放の広告販売のビジネスモデルは、開局当初からこの視聴率を利用したものとなっており、「ゴールデン」「プライム」といった看板放送時間帯の視聴率が下がれば、スポットを中心に自動的に売上が下がるという厳しい現実を抱えています。
個別の番組提供も視聴率が下がれば元の値段では売れなくなりますから、この数字次第で経営状態は著しく悪化してしまうのが現実です。
キー局では4月と10月に番組改編を行い、編成替えとともにスポンサーの入れ替えも行うのが通例。この編成を失敗してしまいますと、視聴率は低迷、スポンサーも離れて売上減少……という恐怖に晒されることになります。
フジテレビの凋落ぶり
そして、今年の10月改編で大失敗を喫してしまったのが「フジテレビ(CX)」です。
機首の特番が終わり、レギュラーの新番組が始まった11月にはすでにゴールデンタイムの平均視聴率が万年ビリだった「テレビ東京(TX)」を下回る結果となり、振り向いてもすでにテレ東はいないという衝撃の状況に陥っていることが報道されはじめています。
特にこの視聴率低迷で深刻なのは、在京5局の他局に視聴者を取られたというよりは、自滅的に視聴率を低下させてしまっていることで、過去にはなかった状況に陥っていることが窺われる状況です。
80年代後半から90年代初頭にかけては在京キー局のトップを走り、一時は会社の定款に記載されていたスポット広告の定価を上回る金額での販売を打ち立てるなど話題に事欠かなかったはずのフジテレビ。
まさかこのテレビ局が東京で民放最下位の視聴率に転落する時代が到来することを予想できた放送・広告関係者はいませんでしたが、いよいよそういう時代が到来していることを実感させられます。
Next: 視聴率が下がれば広告は売れない。テレビ離れの初期に対処できれば…
視聴率低下は即広告売上低下というビジネスモデル
民放地上波のテレビ広告販売モデルは、開局当時からおおむね2つで構成されています。
1つは、特定枠を2クール(つまり6か月)以上提供する契約となる「番組提供」のモデル。もう1つは、特定期間に15秒のスポット広告を購入する「スポット広告」です。
番組提供料は本来キー局の売り上げとなる「電波料」に、地方局への売り上げの分け前となる「ネット費」、さらに「制作費」という3つの項目で構成された請求額が設定されてきましたが、80年代のバブル期のあたりからその価格はかなりどんぶり勘定になり、60秒提供なら月額6,000万円とか7,000万円とかいうようにバルクの価格でやり取りがされるようになりました。
言ってみれば、銀座の交差点に隣接する一等地に大きな看板を確保できれば間違いなく街行く人たちの広告認知と理解が確保できるというのがGPタイムにおける番組提供であったわけですが、すでにそれに見向きもしない視聴者が激増し始めているのが現実です。
電波利用の在京キー局は5局でそれ以上増えることはまったくありませんでしたから、需給の逼迫で料金が上がることはあっても、下がることなどない時代が長く続きました。しかし、21世紀に入ってそれが崩れ始めており、足元では相当深刻な状況に陥っていることが覗かれる状況です。
とくにゴールデンやプライムの時間帯にテレビを見ない人間が激増するという社会が到来することはこの業界関係者は全く予想していなかった状況で、全般的に番組視聴率がとれなくなってしまった足元の状況ではかつての月9のような看板枠であっても逆に価格の正当性を失う結果となってしまい、高い料金で番組提供をする広告主は大幅に減少、結果的に価格は下がり売れ残りの枠はスポットにばらして販売して凌ぐ状況が常態化しはじめています。
ただこちらも前四週の同時間帯平均視聴率をもとに値付けが行われるため、同じスポットでも視聴率が下がれば価格は下落。1本15%の視聴率で売れたものが5%の視聴率に下がれば、売り上げは一気に3分の1に落ち込むような仕組みとなっており、まさに視聴率の低下は局にとっては死活問題になっていることがわかります。
テレビスポットの場合は一定期間に50本とか100本といったバルク買いをするわけですが、予定総視聴率(通称GRP)は各番組時間帯の視聴率が低下すると100本で1400%あったものが500%になってしまうといった具合に減少してしまい、それに一定の%コストと呼ばれる単価をかけ合わせていきますから、視聴率低迷は即刻売上激減を引き起こす大きな問題となってしまうのです。
視聴者離れに対応できないフジテレビ
放送法では、番組の最大1割が広告と上限を決められています。そのため、売上が足りないから空き枠をすべてスポットにして売るなどということもできませんし、時間が過ぎれば在庫として保存しておくこともできない、凄まじい水物ビジネスになっていることが垣間見える状況です。
それでも長年低視聴率の中を生きぬいてきたテレビ東京などは限られた原資で番組を制作して放送するという術を身に着けています。
しかし、長年勢いだけで派手な番組制作を続けてきたフジテレビのような局にとっては、足元の状況はどうすることもできない様子。
とくにかつて華やかな成功体験を得て幹部になった経営者は、まったくこの危機的状況に適切な戦略を打ち出すことができないまま、視聴者離れに直面していることがわかります。
Next: テレビ局は見せかけの大企業?地デジ実施時に対応すべきだった…
本来なら地デジ実施時にブロードバンド配信にすべきだった
ドリル優子でお馴染みの小渕議員の父親であった小渕首相時代に突然、地上波がアナログからデジタル化にシフトすることが決定し、この業界はかなりの設備投資が行われたのは記憶に新しいところ。
しかしいま思うと、このタイミングに地上波はブロードバンド利用のネット配信にシフトすべきであって、それが実現していれば視聴率が下落しても優良な顧客の視聴だけをアルゴリズムで感知して、既存地上波より破格の高額広告配信モデルを実現することもできたはずです。
GoogleはYouTubeでも実際にリアルタイムのビッド(競争入札)により優良顧客への動画CMを特別なものにして販売できていますから、国内のキー局もとっくの昔にそれができていたはず。
過去の数字から予想するような既存の番組提供やテレビスポット販売のビジネスモデルを広告主が納得する斬新なものにできたのに、実現できずにここに至っているのは非常に残念な状況です。
キー局はホールディングカンパニー化してとにかく大きな会社に見せている
在京キー局の決算見てみますと、とにかく5社すべてがホールディングカンパニー化して、その下に売上がつくあらゆる事業をぶら下げて企業規模を大きく見せており、実情を知らない投資家が見れば、それなりの成長がはかられているかのような錯覚に陥るところです。
しかしながら、過去から続く放送事業だけ取り出してみますと、儲かっていないところがほとんどで、しかも事業規模は上述のようなビジネスモデルの中で本当はどんどん縮減していることが見えてきます。
HDカンパニーの決算は実態をデフォルメするのに相当適していますから、各社ともにそんなことはおくびにも出さずに経営を続けています。
そして、もう電波を使った同報配信の放送事業などはさっさとやめて、不動産業に経営資源を集中したほうがよろしいのでは……と思われるような会社も存在しているのが現状。
残念ながらフジテレビも、いい加減放送事業やめたら?という時間帯に突入しているように見えて仕方ありません。
こういう記事を書きますと、「まだまだやりようはあるのだから失礼なことを言うな」というお叱りを受けることが多いのですが、業界事情に詳しい者の目で見ますと、もはや相当厳しい状況に陥っており、根本的なビジネスモデルの全面改訂を早急に進めることが必要であることを強く感じる次第です。
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※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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