みなさん、こんにちは!ITジャーナリストの牧野武文です。今回は、テンセントのSNS「QQ(キューキュー)」についてご紹介します。
QQというのは、パソコン時代の2000年11月にリリースされたSNSで、アカウント数が10億件を超えるという大成功をして、一世を風靡したSNSです。友達といつでもチャットができるだけでなく、音声通話もでき、現在ではビデオ通話もできるようになっています。SNSというだけでなく、ゲーム、音楽、ブログといったサービスが追加され、テンセントの主要な事業がQQから生まれるという、テンセントの原点とも言うべきサービスです。
しかし、スマートフォン時代になると、テンセントはWeChat(ウィーチャット)を新たにリリース。現在はWeChatが国民インフラとなり、QQは時代の役割を終え、フェイドアウトしていくものだと誰もが思っていました。
ところが、コロナ禍以降、利用者数が下げ止まっているのです。減ったと言ってもまだ6億人近い利用者がいます。しかも、若者、特に学生の比率が多くなっています。これにより、若者に特化した垂直SNSとして、再び脚光を浴びるようになっています。なぜ、若者はQQを好むのか。今回はその理由をご紹介したいと思います。そこから、若者に好まれるサービスの特徴を探ってみましょう。(『 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 』牧野武文)
※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2024年3月18日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:牧野武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。
中国ではPC時代のSNSが再び脚光を浴びている
騰訊(タンシュン/Tencent)が運営するQQについては、このメルマガでも本格的には取り上げてきませんでしたし、中国でのマーケティングやプロモーションを語るときも、重要とされるのは「微信」(ウェイシン/WeChat)、「抖音」(ドウイン)、「小紅書」(シャオオンシュー/RED)が中心で、この他に「微博」(ウェイボー)や「ビリビリ」が登場するくらいだと思います。QQがあまり取り上げられないのは、時代の役割を終えたSNSだからです。
QQは、2000年11月にリリース(四半世紀前です)され、ピーク時のアカウント数は10億件を突破するという大成功を収めました。テンセントの今日の主要なビジネスは、すべてこのQQに源流があります。
しかし、スマートフォン時代になると、2011年1月にテンセントはSNS「WeChat」をリリースします。QQがあるのに、まったく新しいSNSをリリースするという大胆な策でした。このあたりの経緯は、過去のメルマガでもご紹介しています。
その後、WeChatの利用者数は増えていき、2023年上半期の平均月間アクティブユーザー数(MAU)は13.27億人になっています(海外利用者を含む)。中国人であれば全員が使っている国民インフラとなりました。
そのため、昔のSNSであるQQは利用者数が次第に減少して、いつかは消えるものだと思われていました。ところがコロナ禍が明けてみると、増えてこそいないものの、下げ止まりをしています。テンセントは、年度報告書でQQやWeChatのMAUを公開していますが、そのデータで最も遡れる2012年H1のQQのMAUは8.254億人でした。現在は6億人を切るところまで減っています。ところが、ここで下げ止まっているのです。しかも、少なくなったとはいえ、6億人近い利用者がいるSNSです。プロモーションメディアとして無視することはできません。
しかも、後ほど詳しくご紹介しますが、若い世代が使っている傾向にあるのです。社会人になると、仕事の関係もあり、QQを卒業してWeChatを使うようになります。普通は、若い世代も最初からWeChatを使う傾向が進み、QQは次第に忘れられていくというパターンなのですが、高校生、大学生がQQを好むため、若い世代の流入がけっこうあるのです。これで、卒業する流出量と新たに入る流入量がバランスをして、利用者数が下げ止まるようになっています。
そのため、QQに広告を出しているのは、若い人向けのブランドが中心になっています。日本でも知られているブランドでは、化粧品の「MAC」「ラ・メール」、スマホの「vivo」、シュガーレスガムの「5 Gum」、スニーカーの「VANS」などです。中国の若者にリーチするプロモーションを行うのであれば、QQも選択肢のひとつに入れる必要があるかもしれません。ではQQになぜ若者が流入し、利用者数が下げ止まっているのでしょうか?
Next: 中国が成功した若者を取り入れる方法
なぜ若者はQQを使うのか?
答えを先に言うと、若者に好まれる設計を積極的に取り入れているからです。QQの運営チームは、若者が好むポイントをよくわかっていて、意識的に好まれるものは残し、新たな機能追加を行っています。QQのどのような点が若者に好まれているのかがわかると、「若者に好まれるSNSとはどのようなものか」がわかってきます。
QQは2000年11月にテンセントがリリースしたSNSです。当時は当然ながらパソコン上のソフトウェアでした。重要なのは、QQは非常に先進的なサービスだったということです。当時は、SNSという言葉はまだなく、QQは「インスタントメッセンジャー」と呼ばれていました。
当時のインターネットのコミュニケーションの方法は、電子メールとBBS(掲示板)が主体でした。そこにイスラエルのミラビリス社が画期的なソフトウェア「ICQ」を発表します。これは、パソコンの画面に常駐をしておけば、友人がログインしているかどうかがわかり、クリックをすれば、チャットや音声通話ができるというものでした。ICQとは「I Seek You(あなたを探す)」の音をとったものです。現在のSkypeやFacebookメッセンジャーに近い感覚です。このICQは、世界で利用者が1,000万人を突破し、1998年に米AOLが4.07億ドルで買収をし、AOL Instant Messenger(AIM)となりました。
これに興味を示したのが、当時、潤訊という企業でポケベル関連の研究開発をしていた馬化騰(マー・ホワタン/ポニー・マー)です。ポニー・マーは、ポケベルよりも高機能のモバイルデバイスが登場することを想定して、それに乗せるコミュニケーションソフトウェアの研究開発を行っていました。ICQに注目をし、インスタントメッセンジャー開発の企画を上司に進言しますが、却下されてしまいます。そこで、友人と退社をして起業をして開発をすることにしました。これが騰訊(テンセント)です。社名は、馬化騰の名前と勤めていた会社の潤訊の名前からとっています。英語の社名も当時有名だったルーセントテクノロジーを真似て、テンセントにしています。
当時は、会社で企画が却下されると、外に出て起業し、開発を進め、数年である程度のビジネスに育てたら、元の会社に買収してもらい復職するというパターンがけっこうありました。平社員が数年で事業部長になれる可能性がありますから、挑戦してみる価値はあります。テンセントも、ネーミングの仕方から見て、当初はそのような気楽な起業のつもりだったのかもしれません。
ポニー・マーは最初の1年で1,000人、2年目で4,000人、3年目で1万人を突破する目標を立てていました。ところがQQはリリース9カ月目に利用者数が100万人を突破します。これは潤訊に買収されることよりも、自分でやった方がいいのではないか。そう考えたのかもしれません。
歴史を作り上げてきたQQの重要な機能4つ
QQについては、過去のメルマガで触れているので、ここではサービス内容については詳しく触れません。感覚として、FacebookやMIXIをイメージしていただければいいかと思います。
ただし、後のテンセントにとって、重要な機能が4つありますので、それについてご紹介しておきます。
1.個人商店にも連絡しやすい「QQホットライン」
QQは常にパソコンの画面に表示をしていて、友人のリストが表示されています。在籍中のランプがついていたら、クリックするだけでチャットができ、音声通話もできるようになっていました。
これを利用したのが個人商店です。顧客や関係者との連絡に使ったのです。顧客がお店に行く前に在庫があるかどうかを確認したいという場合は、QQで連絡をとり、在庫の有無を尋ね、取り置きをしてもらってから行くということができました。この当時は、多くの個人商店が名刺やチラシ、看板などに「QQホットライン」としてQQのアカウントを掲載していました。
このサービスは、次第に発展をして、現在のエンタープライズサービス支援/コンサルサービスにつながっています。
2.大流行したソーシャルゲームの先駆け「QQゲーム」
QQ上ではさまざまなゲームを楽しむことができました。大流行したのは「QQ農場」です。畑に種を蒔いて育てる単純なゲームですが、水や肥料をやったり、収穫をしたりしなければなりません。注目すべきはソーシャルゲームになっていたことです。QQ上の友達の農場を訪ねることができ、そこで水やりを手伝ってあげたり、逆に作物を勝手に収穫して盗んでしまうこともできました。もちろん、ゲーム上のことなので怒る人はまずいません。そういうじゃれ合いがが楽しめたのです。
その後もヒットするソーシャルゲームが続き、現在のゲーム事業に発展していきます。
3.WeChatペイの基礎を作った「QQ幣」
当時の中国はオンライン決済の仕組みが少なく、QQの中では「QQ幣」という貨幣が使えました。銀行振込みでQQ幣を購入すると、自分のアカウントにチャージされる仕組みです。これにより、ゲームの有料アイテムを購入することができるようになりました。また、ブログであるQQ空間や、自分のアバターに服を着させて披露するQQショーなどで面白いコンテンツを発表する人に投げ銭をするなどができました。
これが後に「財付通」となり、現在のWeChatペイにつながっています。
4.Spotifyよりもいち早く音楽配信をスタートした「QQ音楽」
さまざまな音楽が聴ける音楽ストリーミング配信です。2005年という時期に始まっていることに注目をしてください。翌年、SpotifyとNapsterがスタートしますが、ユーザー同士が自分の音源を他人に聞かせるというもので法的な問題があり、社会問題ともなりました。QQ音楽は、その中で、いち早くレーベルと交渉をし、正式に音楽配信をしていたサービスです(ユーザーが自分の音源を友人に向けて公開する機能もあった)。
これが後に、エンターテイメント事業に育っていきます。つまり、今日のテンセントの主要事業は、ほぼQQの中から生まれているのです。
時代はPCからスマホへ、衰退するかと思いきや利用者数は増加中
しかし、QQはパソコンベースであるため、スマートフォンが台頭をしてくると、QQのモバイル版の開発が難航をしました。機能が多すぎて、モバイルアプリに詰め込むことが難しかったのです。また、コミュニケーションの仕方も「画面に常駐しておき、いつでも連絡が取れる」というスタイルは、スマホになじみません。
そこで、2011年にスマホ時代のまったく新しいSNSとしてWeChatをリリースします。多くの人がQQからWeChatに引越し、QQは時代の役割を終え、いつか人がいなくなって終わるものだと誰もが思いました。
ところが、この数年、QQの利用者数の減少が止まり、2022年上期には400万人ほど増加するとーー
- vol.219:学生たちはなぜQQが好きなのか。若者に好まれるSNSの要素とは?(3/18)
- vol.219:潜在能力は高いのに、成長ができない中国経済。その原因と処方箋。清華大学の論文を読む(3/11)
- vol.218:東南アジアで広まりライブコマース。TikTok Shoppingの東南アジアでの現在(3/4)
- vol.217:中国主要テック企業18社の現在。脱コロナから平常運転に戻るのに必要なこととは?(2/26)
- vol.216:アリババが新小売事業を売却か?業績好調な新小売を売却する理由とは(2/19)
- vol.215:BYDのEVは欧州市場で成功できるのか。スイスUBSの衝撃的なレポート(2/12)
- vol.214:2023年小売マーケティングの優れた事例集。消費者への誠実さが求められる時代に(2/5)
- vol.213:ファーウェイの独自開発OS「ハーモニーOS NEXT」とは。脱Androidだけではないその意味(1/29)
- vol.212:抖音、小紅書、微博などの8大SNSメディアを比較する。発信力などをマトリクス整理(1/22)
- vol.211:劣悪品を排除し、低価格を実現する仕組み。Temuの革新的なビジネスモデルとは(1/15)
- vol.210:Z世代の新たな10の消費傾向。内向き、節約、伝統文化。小紅書の調査から(1/8)
- vol.209:ライドシェアの運賃はタクシーとほぼ同じ。それでも7割の人がライドシェアを選ぶ理由とは(1/1)
- vol.208:サブスク化する小売業「ホールセラー」。フーマの生死をかけた戦いとは(12/25)
- vol.207:国際デジタル競争力ランキングで、日本は32位。ライバルはマレーシアとタイ(12/18)
- vol.206:デジタル入力に向かなかった中国語は、どのようにして入力効率を高めたのか。九宮格、ダブルピンインなど、ピンイン入力だけではない中国語入力。(12/11)
- vol.205:電子競技員、ネット販売師、ネット配音員、陪診師。続々生まれる新職業。国が新職業を認定する理由とは(12/4)
- vol.204:進む生成AIのビジネス応用。対話型AIが嘘をつく問題にもさまざまな解決策が(11/27)
- vol.203:コロナ禍、物価高騰、消費不況が連続して襲う飲食業。火鍋チェーン「海底撈」はどうやってV字回復に成功できたのか(11/20)
- vol.202:中国のGDP統計は信頼できるのか。日本とは異なる中国GDP統計の仕組み(11/13)
- vol.201:トラフィックプールとは何か。ラッキンコーヒーのマーケティングの核心的な考え方(11/6)
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知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード
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』(2024年3月18日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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