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中国、人工知能教育を小学1年生から義務化。20年後を見据えた実践教育で日本の周回遅れは確定か=牧野武文

日本の指導要領にあたる「義務教育情報科技課程標準」を、中国の教育部が公開しました。小学1年生から中学3年生までに何を学び、ITリテラシーを高めていくのかについて、細かく規定しています。体感を中心に据えた教育法は日本も参考にすべきです。(『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』牧野武文)

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※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2022年9月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:牧野武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。

中国と日本の情報教育の差

みなさん、こんにちは!ITジャーナリストの牧野武文です。

今回は、中国の情報教育についてご紹介します。

中国の教育部が新しい「義務教育情報科技課程標準」を公開しました。これは日本の指導要領にあたるもので、小学校1年生から中学3年生までの9年間で、何を学ぶべきかを定めたものです。

この中で、小学校1年生から情報教育(情報科技課程)を学ぶことが定められました。

日本の情報教育の大きな特徴は、思考能力に重点を置いていることです。プログラミング思考が重要視されますが、それは決してプログラムを書く能力を養うことではなく、いわゆる論理思考に近いものです。他の教科を学ぶときに、デジタルデバイスを使いこなし、論理的な思考をすることで、教科の習得に役立て、社会に出てからも仕事に役立てる基礎スキルをつけようという狙いです。

一方、中国の場合は、デジタルデバイスを体験すること、使いこなすことに比重が置かれています。思考能力というよりも、使いこなしスキルに比重が置かれ、実習としてスマホ決済を使ってみる、フードデリバリーを注文してみるという授業案もあるほどです。

もちろん、どちらが優れているかは一概には言えません。日本の方が思考能力という基礎能力に真正面から取り組んでいて、中国の場合は、社会を生き抜く力をつけることに取り組んでいるように思います。

面白いのは、情報科技課程は、労働課程とともに、総合実践活動課程というカテゴリーに分類されていることです。労働課程とは、さまざまな職業の仕事内容を学ぶというものです。つまり、情報科技課程も労働課程と同じように、社会に出てから役立つ力をつけることが目的になっています。

そのため、特に低学年では、デジタルサービスを使ってみるという体験が重視されています。

課程標準には、各学年での学習の目標と、授業案が記載されています。今回は、この授業案をご紹介し、中国の情報教育がどのようなものであるのかをご紹介します。

中国義務教育の情報教育がスタート

日本でも小学校、中学校でプログラミング学習が必修科されました。このプログラミング学習は、C言語やJavaといったプログラミング言語の学習だと誤解している人もいますが、文部科学省が目指しているのは「プログラミング的思考を養う」ことです。

そのため、タブレットなどの基本操作は教えますが、基本的には数学や国語、理科、社会などの各教科の中で、デジタルツールを活用した学習をすることになります。例えば、社会科では地域の事情を取材してビデオ撮影し、それをムービーにまとめたり、スライドにして発表をしたりということをします。決して、コーディングを教えるわけではありません。

中国では、2022年版の「義務教育情報科技課程標準」が公開され、小学校1年生から情報科技の授業が行われることが決まりました。今年の9月から施行されます。

これまで、中国が情報科技を教えてこなかったわけではありません。すでに2010年代には先進モデル地区を指定して、情報科技の授業を取り入れ、学校単位、地区単位で試みられてきました。また、2017年頃からは、多くの省市の独自標準で、小中学校での情報教育が行われてきました。今回、国の標準に組み入れられたことで、すべての小中学校で情報教育が行われることになります。

この“先進地区で先行をさせていた”ということがポイントです。すでに授業案も蓄積をしていますし、教育人材も育ってきています。やりたい人に先にやらして、いろいろ問題が起きることもあるけど、それで環境が整ったところで国家標準にするという、いつもの中央政府のやり方です。

今回は、この課程標準に掲載されている事例や、先行していた授業例から、どのような教育が行われているのかをご紹介したいと思います。

Next: 意外に難しい、中国情報科技の期末試験の問題例

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