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中国、人工知能教育を小学1年生から義務化。20年後を見据えた実践教育で日本の周回遅れは確定か=牧野武文

デジタル社会で生きる力を重視した教育

今回は、中国教育部が公開した「情報科学教育課程標準」に基づいて、情報教育の授業例をご紹介していきます。

ユネスコの「小中学校段階の人工知能教育」に、2021年末段階で、義務教育課程で人工知能の授業を行なっている国の一覧がまとめられています。

▲ユネスコがまとめた全国一斉で人工知能教育を行なっている国。AIは21世紀の基幹技術となるため、多くの国で子どもたちに人工知能を教えるようになっている。

▲ユネスコがまとめた全国一斉で人工知能教育を行なっている国。AIは21世紀の基幹技術となるため、多くの国で子どもたちに人工知能を教えるようになっている。

すでに中国を始めとする多くの国が小学校から人工知能の教育を、国の制度として初めています。米国はこの表に出てきませんが、IBM、マイクロソフト、インテル、MITなどが独自プログラムを組み、さまざまな小中学校で特別授業の形で展開をしています。

中国の情報教育の特徴は、総合実践活動課程というカテゴリーが新設され、その中が労働課程と情報科技課程に分かれているということです。労働課程では、エッセンシャルワーク、生産労働、サービス労働の3つに分け、それぞれの職種でどのような仕事をしているのかを学びます。日本であれば、社会科の一部でやることですが、中国では独立した科目になっています。

この労働課程と並列するのが情報科技課程で、つまり、情報教育といっても、日本のようなプログラミング思考のような「考える力」という学問的な要素を重視するのではなく、社会で生きる力を重視をしています。そのため、身の回りにある情報機器をうまく使いこなすということが、主な目的になっています。

早い話がスマホやタブレットの使いこなしを学校で教えてくれるわけです。もちろん、単にフリック操作の練習をさせてくれるわけではなく、どのような局面で使えば役に立つのか、安全にSNSを利用するにはどうしたらいいかなどを教えてくれます。

情報科技課程は、小学校3段階+中学校1段階の4段階に分割をし、それぞれの段階で目標を定め、授業を展開してきます。

具体的な課程はこの4段階で異なっていますので、4つの段階それぞれに、教育部がどのような達成目標を定め、どのような授業例が行われていくのかを紹介していきます。

第1学年段階(小1+小2)では、次の3つを学びます。

1)情報の交流と共有

2)情報のプライバシーと安全

3)デジタルデバイスの体験

情報の交流と共有

1の情報の交流と共有では、次のような目標が設定されています。

1)日常の学習や生活の中で、教師の指導の下、デジタルデバイスやデジタルデータを使って、漢字、朗読などの学習をし、国語学習の手段を身につける。

2)家庭、学校、公園などで、AIアシスタントや公共のデジタル機器の使い方を体験する。

3)写真、ビデオ、録音、音声入力などで、文字や画像を入力し、見聞したことを記録する方法を学ぶ。教師の指導の下、その記録を共有する方法を学ぶ。

4)他人が公開したデジタル作品を見て、正しい評価の態度を学び、「いいね」などのデジタル特有の評価表現を学ぶ。

次のような授業が行われます。

・漢字の読み方は、教科書ではピンインがつけられていますが、小学校1年生、2年生には、アルファベット表記のピンインはまだ難しく、どのように読んだらいいかは大人に尋ねるしかありません。そこで、読上げ専用のデバイス(タオバオで安く売っています)や電子辞書(ペン型で文字を読み取れるものがあります)、スマホを利用して、文字を読み取り、読み方を発音させる方法を学びます。これを覚えれば、自分でどんどん国語の学習を進められるようになります。

・タブレットやスマホのアプリで、漢字を読み取ると、筆順を表示してくれるものがあるので、これを使って、正しい筆順を自分で学べるようにします。

・生徒がグループに分かれ、AIアシスタントを使って、天気予報を読み上げさせたり、童話を読み上げさせる方法を学びます。

・教師が実際にフードデリバリーを注文したり、顔認証の入管ゲートを通過するところを見せ、どのような仕組みでできているのかを学びます。

・故宮博物館と敦煌石窟のオンラインアーカイブにアクセスをして、収蔵品を鑑賞する方法を学びます。

・クラスの友人の写真を撮り、家族のスマホに転送して友だちを紹介をする方法を学びます。

・写真、ビデオ、音声を使って、自分が経験したことを記録し、クラスのクラウドにアップロードをし、クラスみんなに紹介する方法を学びます。また、それを見た人は「いいね」をつけたり、花マークをつけたりして、正しい評価の仕方とネットでの礼儀作法を学びます。

情報のプライバシーと安全

2の情報のプライバシーと安全では、次のような目標が設定されています。

1)さまざまなオンライン活動の中で、教師の指導の下、正しい情報と誤った情報を見分ける方法を身につける。また、プライバシーの重要性を理解し、プライバシーを尊重する習慣を身につける。

2)テキスト、画像、ビデオ、音声などの情報を分類して、保存し、活用できるようにする。

3)他人の作品を転載するときに、権利表記ができるようにし、作者の権利を尊重できるようにする。

4)計画を立ててデバイスを使うようにし、健康的にデバイスを使う重要性を理解する。

5)オンラインで交流するときも、日常と同じ規範を守れるようにする。

6)デバイスを使っている他人の邪魔をせず、社会の公共秩序が大切であることを自覚する。

次のような授業が行われます。

・「小兎子乖乖」の話(母親が不在の時は誰がきてもドアを開けないという賢い兎の寓話)を例に、ネットにも危険があり、詐欺などに巻き込まれない考え方を学びます。「無料で○○」などの実例を示し、詐欺の可能性があることを学びます。

・生活の中で必要なテキスト、画像、画像、音声などの情報を保存し、必要な時に表示する方法を学びます。

・作品を共有し、評価し合う実習を行い、その評価の仕方や作品の著者の権利が守られているかどうかを生徒で議論します。

デジタルデバイスの体験

3のデジタルデバイスの体験では、次のような体験学習をします。

・学校、家庭、公園、公共施設などで、タッチディスプレイ、スマートフォン、コンピューター、プロジェクターなどに触れてみます。

・クラスの中で、対面の交流だけでなく、SNSでの交流を行います。その際、「いいね」「笑顔」「5つ星」などの記号がどのような意味があり、どのような感情を表現しているのかを学びます。

・初歩的なパスワードを使ってみて、パスワードをむやみに人に教えるとどのようなことが起きるのかを学びます。また、スマートウォッチなどを例に取り、デバイスには所有者がいて、その人の権利を侵してはならないことを学びます。

第2学年段階(小3+小4)では、次の2つを学びます。

1)オンライン学習と生活

2)コードとデータ

1)のオンライン学習と生活では、次のような目標が設定されています─(中略

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