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米国株の堅調地合いもここまでか? やはり上がらない日本株とドル円=江守哲

日本株に関して、ファンダメンタルズから分析するアナリスト系の方々は、株価収益率(PER)が14倍以下なので、これ以上の下げはないと主張してきました。しかし、このPERを算出するための一株当たり利益(EPS)がそもそも正しいのかがポイントです――有料メルマガ『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2016年6月13日号の一部を無料公開します。

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プロフィール:江守 哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

いよいよ大転換の到来か?株式、為替、コモディティ相場展望

米国株「堅調」の背景

米国株は堅調さを維持しています。

正直なところ、この堅調さの背景を理解するのに苦労しています。1月の急落後の戻りは、やはり米国株の持つ復元力なのでしょう。これが日本株との大きな違いでもあります。

11日(土)に大阪で、東京金融取引所でNYダウのCFD取引が27日に開始されるのを記念したセミナーで講演をさせていただいたのですが、そのためにいろいろ調べ、また考えました。

結論から言えば、日本株を中心にみていると、この米国株の復元力を理解できないということです。日本株と根本的に構成要素や市場の背景があまりに違うということです。

【関連】EU離脱まったなし。米シンクタンク調査にみる英国民投票の「理想と現実」=矢口新

やはり人口の問題が大きいのだと思います。米国は移民を受け入れて人口を増やしています。日本はその逆の政策を取っています。これでは、国力にも差が出てきても仕方がありません。

実際、就労人口も差が付き始めています。日本は伸び悩み、米国は増加傾向が続いています。この結果、GDPの総額の伸び方も大きく異なっています。これが株価の違いにつながっていることは言うまでもありません。

また、NYダウに採用されている銘柄が、世界をけん引するグローバル企業であることです。さらに、指数の構成銘柄が、その時代をけん引するような企業が採用されるなど、新陳代謝も行われています。

その結果、指数が堅調に推移しやすく、投資家はその指数に単純に投資していれば、相応のリターンが出てしまうという実があります。

また米国の主要企業は、過去5年の平均でみると、利益の約5割を自社株買い、約3割を配当に充てています。この傾向は最近になって顕著になっています。ある意味、非常にわかりやすい株価・株主対策です。

このような傾向もあるので、長期投資を検討されている投資家は、日本株ではなく、米国株を検討すべきなのでしょう。少なくとも、過去数十年のデータでは、そう言わざるを得ないのが実情です。

何が下落のきっかけに?重要イベント目白押し

さて、今後の動向についてです。やはり重要イベント後の動向に目が向きます。14・15日のFOMCでは、利上げがなくなりました。早くても7月でしょう。その可能性については、今後のイベント次第です。

6月23日の英国のEU残留・離脱に関する国民投票の結果次第では、市場が大混乱に陥り、FRBも7月でさえも利上げどころではなくなるでしょう。また6月の雇用統計の内容も見極めたいところです。

英国がEU残留・離脱に関する調査では、最近では離脱を支持する層が増えてきています。万が一のこともあるのでしょうが、それでも私は最終的には残留支持になると考えています。最後は現実的になるでしょう。

とは言え、ここで本当に離脱という話になれば、市場の混乱は不可避であると考えられます。ポンドやユーロが売られ、その結果ドル高になります。

米国株を支えるために、米国はドル安政策に転換しましたが、それを覆されては困るわけです。結果的にドル高になってしまえば、米国サイドの目論見は崩れてしまうことになり、株価は調整を余儀なくされるでしょう。

このように考えると、強すぎた5月相場の反動が大きく出る可能性もあります。その動きが金曜日の調整に表れたのかもしれません。

これまで米国株は、過去最高値を更新しようかという勢いで戻してきました。しかし、さすがに割高感も出ています。これ以上の上値を買うには材料は必要ですが、それが企業業績の改善であることは明白です。

すぐに第1四半期に比べて、第2四半期の企業業績は回復するのか。今後の米国株の上昇継続には、この点を見極める必要がありそうです。

いずれにしても、いまは常に下落に備えておくべきと考えています。まずは独立記念日までの動きを注視しましょう。

Next: 「割安」は目の錯覚? 日本株はやはり上がらない



日本株はやはり上がらない

日本株が金曜日のシカゴ市場で急落しています。

これまで何とか値を保ってきましたが、日経平均先物は岩盤だった16500円を割り込んでいます。これを早期に回復できないようだと、市場の雰囲気は一変してしまう可能性があります。

ファンダメンタルズから分析するアナリスト系の方々は、株価収益率(PER)が14倍以下なので、これ以上の下げはないと主張してきました。確かに、この「PERが正しい」とすれば、その主張も長期的には正しいといってよいのでしょう。

「目の錯覚」

しかし、このPERを算出するための一株当たり利益(EPS)がそもそも正しいのかがポイントです。このEPSは四半期ごとに修正されるわけですが、このEPSが円高を織り込んでいるのか、やや不透明なところがあります。

また、株安の際にはPER13倍程度まで売り込まれることがあります。したがって、もしかすると、15500円程度まで下げる可能性が十分にあるということになります。

こう考えると、株価そのものはかなり低い水準にあるように見えますが、それは目の錯覚かもしれません。

証券会社あるいは証券系のアナリストは、基本的には「株価は上がる」ことを前提にした分析結果・見通しを出す傾向があります。これ自体は仕方がないと思いますが、もちろん鵜呑みにしてはなりません。

EPSに対する信用性がないので、繰り返すように、いまはテクニカル重視で株価動向を見るべきでしょう。

16750円以上は売りのゾーンと考え、実際にそのような戦略を勧めていましたが、上値を買う投資家がいると嫌だな、と思い、売っていたポジションを閉じました。

しかし、この見方はやはり正しかった可能性が高まりつつあります。

重要イベント控え神経戦

前述のように、これから重要イベントが続きます。少なくとも、このような状況で積極的に買いを入れる投資家は居なくなります。

そうなると「閑散に売りなし」という相場格言が思い出されます。出来高が細っている中、下げも限定的だろう、ということです。

しかし、このような時こそ、先物主導での下げにつながりやすいように思います。7月10日の参院選が終わるまでは、本当に動きづらくなると思います。

その中で、無理に何かをすることもないでしょう。ただし、ヘッジファンドの発想では、投資家から預かっている投資資金を現金で保有し続けるということができません。

そうすれば、投資家はヘッジファンドマネージャーに「あなたは我々の預金先ではない」とたしなめられ、最終的には資金の引き上げを食らうでしょう。

Next: 投機筋の売買に日本株も大きく振らされる可能性/7月10日参院選



投機筋の売買に日本株も大きく振らされる可能性

ですので、ヘッジファンドは無理をしてでも何かしらの戦略を講じて、市場に仕掛けていかないといけない立場にあります。

一方、アルゴリズム取引AIなどを駆使して取引しているファンドなどは、機械的にトレード機会を抽出し、自動的かつ積極的にトレードを仕掛けてきます。彼らのトレードロジックは不透明ですので、先読みすることができないのが難点です。

このような市場環境ですから、日本株も大きく振らされる可能性が高いことを念頭に入れておく必要があるでしょう。この重要イベント目白押しの期間に、何も起きないと考えてはいけないと考えています。

繰り返しになってしまいますが、ECB理事会では全くの無風・無策の状況にあることが浮き彫りになりました。米国では雇用統計の内容が最悪だったこともあり、14・15日のFOMCでの利上げはないでしょう。

15・16日の日銀金融政策決定会合でも、いまのところ可能性としては現状維持が見込まれています。23日の英国のEU残留・離脱に関する国民投票の結果待ちで、結果次第では追加策を出す必要もあり、今回は見送られるとの見通しが多いのが現状です。

7月10日参院選

また日本の事情としては、7月10日の参院選もあります。ここで自民・公明が過半数を取れないなどの事態になれば、これは一大事です。日銀が何をやっても意味がない、ということになります。

いや、むしろ安倍政権が交替することになるわけで、これまでの金融政策の正当性が失われ、日銀はすぐに行動をとれないということになります。これは「政治・金融政策の空白」を生み出し、ヘッジファンドの空売りの絶好の機会になります。

参院選については、野党が一人区での候補者選びについて、合意しました。普通に考えれば、自民・公明が負ける可能性は低いのでしょうけど、万が一のことが起きると、これは本当に大変なことになると思います。

政策に頼った株高・円安だったことを考えると、政治・政策の空白は非常に危険です。まして、ドル円は円高方向にしか行かないので、株価上昇の可能性は大きく後退します。

米国株が過去最高値を更新しようかとしている最中にも、もたもた安値で推移しているのですから、日本株の上値はかなり限界的になったといってよいでしょう。

これまでも、このような見方を言い続けてきましたが、今後はより深刻な下げになるのかもしれません。その時に備え、十分な準備をすることを強くお勧めします。

具体的には、保有株を減らす、プットオプションを買う、先物を売るなどが考えられます。

Next: 為替市場~円高トレンドは変わらず/英国民投票とポンド動向



為替市場~やはり円高トレンドは変わらず

先週の市場の話題はやはり5月の米雇用統計でした。あまりに衝撃的な内容でしたので、どこに行っても雇用統計の話ばかりでしたね。

しかし、いろいろ考えても仕方がないので、ここは冷静に市場動向についていくことが重要でしょう。

今週は14・15日にFOMC、15・16日に日銀金融政策決定会合があります。

FOMCでの利上げはないでしょう。ただし、イエレン議長の会見がありますので、その内容には注目です。またFRB関係者の今後の経済見通しと利上げの時期などが公表されます。これも、今後の政策動向のヒントになりますので、非常に重要です。

一方、日銀については、基本線は新たな政策導入はないとの見方になっています。ただし、それまでに円高が進んだりすると、通常の量的緩和策の拡大を行う可能性はあります。しかし、これが円安・株高につながるとは思えません。

その一方で、23日には英国のEU残留・離脱に関する国民投票があります。これを受けて、市場が混乱するようだと、追加的な措置の実施は不可避になります。そのときに備えるために、今回の政策導入はないとの見方もあります。

いずれにしても、これらを予想して行動することはできません。また、何もなければ、市場の動きは限定的でしょう。

今はっきりしていることは、円高基調は何も変わっていないことです。108円台も維持できないようであれば、110円などは遥か遠い水準です。

そもそも、前回の戻り局面で111.40円を超えられなかったことで、円高是正の動きが止められてしまったことは、非常に大きいと思います。

英国民投票とポンドの動向

一方、他通貨では、やはりポンドの動きが気になりますね。最近のポンドの値動きの激しさは非常に大きなものがあります。普通のひとは手を出さないほうがよいでしょう。それくらい、ボラティリティが高い通貨になっています。

国民投票の結果次第では、どう動くかはわかりません。今回のイベントはあまりにリスクが高いと思います。まだ一週間ありますが、徐々にポジションを整理したほうが良いでしょう。

その他の通貨も、今後は動きがかなり大きくなるでしょう。ユーロも英国の国民投票の影響を受けることはほぼ間違いのないところだと思います。

「国民投票の前に、ポジションはどうすればよいでしょうか」という質問を受けることが増えてきました。

私は「ポンドやユーロの変動が大きくなるリスクがあるので、ポジションは解消した方がよい」とお答えしています。

いまは無理をしても仕方がありません。戦略がうまくはまれば大きな利益になる可能性はありますが、外れた時のリスクがあまりに大きいと思います。また、急変しても、すぐに水準を取り戻す可能性もあります。

いずれにしても、24日にはすべてが判明します。それまでは短期トレードに徹するか、見送りが賢明でしょう。

無論、私はトレードを続けます。積極的にはやりませんが、短期トレードに徹しようと考えています。

Next: コモディティ市場~金は堅調、原油に異変の可能性も



コモディティ市場~金は堅調、原油に異変の可能性も

は高値を維持しました。米雇用統計を背景に米利上げ観測が後退したため、金は下げにくくなっています。

金利が付かない金は、金利が上昇傾向のときにはかなり弱くなりますが、いまは金利が低下傾向にあります。このように、金利が付く・付かないではなく、金利が相対的に低下傾向かが重要です。低下傾向であれば、それだけで金に有利に作用します。

ここ最近は、再び投資マネーが金上場投資信託(ETF)に流れ始めています。投資家のリスク回避姿勢が強まっているようです。米国株は堅調ですが、疑心暗鬼の投資家が少なくないということでしょう。

金は長期的なテーマです。ドル安トレンドにある中、もっとも注目すべき投資対象のひとつであることを忘れないようにしたいものです。

一方、原油は50ドルを超えが話題になりました。一時は26ドルまで下げましたので、約2倍になったわけです。コモディティ市場では、先物市場での証拠金取引ですので、2倍になったという言い方はしないのですが、価格自体は確かに2倍ですね。

さて、その原油ですが、このままどんどん上昇していくかというと、少し疑問も出てきました。その原因が、米国のシェールオイルの増産の可能性です。

最近になって、石油掘削リグ稼働数が再び増加し始めています。これは、もしかすると、原油価格が反発し、50ドルを回復したので、遊休となっていた施設が再び動き出したのではないかと考えられるわけです。

そうなると、これまで原油価格の上昇要因だった、米国内の産油量の減少が止まり、価格は頭打ちになる可能性があります。実際、直近の米国の産油量は増加しています。こうなると、市場心理が悪化する可能性があります。

そうなれば、十分に買い建ててあるポジションの整理が始まる可能性があります。現時点でそうなると、これは痛手です。ポジション調整が下げを加速させるリスクがあります。

また、期待されていたガソリン在庫の減少傾向の継続も、むしろ増加に転じています。ガソリン需要の減少が要因のようですが、この傾向が続いてしまうと、始まったばかりのガソリン需要期の相場に水を差すことになります。

また、価格も安い水準にあります。ヒーティングオイルとの値差は非常に小さい状態にあり、これはガソリン需要期としては異例ともいえるかもしれません。このままガソリン相場が上昇しないようだと、原油相場の重石になってしまいます。

この点からも、原油相場だけでなく、NYMEX市場に上場されているガソリン先物の価格動向にもぜひ注目するようにしてください。

これまで順調に上昇してきた原油相場にいったん調整が入る可能性が高まっています。もしかすると、すでにその兆候が見られ始めているのかもしれません。

ここからの値動きには要注意といえそうです。

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株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。

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