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安倍“改憲”政権の消費増税先送りが日本にもたらす「4つの悲劇」=岩崎博充

消費増税再延期には4つの大きなリスクが潜んでいる。1.アベノミクスの継続リスク、2.年金・保険の崩壊リスク、3.日銀の暴走リスク、4.戦争ビジネス国家への転身リスクだ。(岩崎博充の「財政破綻時代の資産防衛法」

※本記事は、日銀のQQE+マイナス金利政策に反対を唱える立場から日本国民がどうすれば資産を防衛できるのか、そのヒントになる情報を発信するメルマガ『岩崎博充の「財政破綻時代の資産防衛法」』からの抜粋です。ぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

「目先の選挙」しか眼中にない経済政策に翻弄される日本国民

消費増税再延期に潜む4つのリスク

安倍首相が、2017年4月に予定していた「消費税率の引き上げ」を、再び2019年10月まで再延期した。前回の延期の時に「次回は必ず実施する」「再延期することはない」と明言したにもかかわらず再延期した。

消費増税再延期には、実は大きなリスクが潜んでいることを認識すべきだ。安倍首相は、消費税率だけの問題ではなく日本全体の命運を握る大きな決断をG7サミットまで利用して強行してしまったのだ。

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では、どんなリスクが潜んでいるのか。大きく分けて4つある。第1には「アベノミクス継続リスク」、第2は「年金制度、健康保険制度の崩壊リスク」、第3が「日銀の暴走リスク」、そして第4が「戦争ビジネスができる国家への転身リスク」だ。順番に解説していこう。

1.日本破綻のカウントダウン~アベノミクス継続リスク

「アベノミクス」なる金融緩和政策が、失敗に終わっていることは誰の目にも明らかだ。

アベノミクスが成果を上げていると言っているのは、安倍政権に近い政治家のグループと安倍政権=自民党支持者を熱烈に支持するグループ。そして政治的信条というよりもアベノミクスによって恩恵を得る証券会社とか広告代理店といったグループぐらいなものだ。

残念なことに、日本のサラリーマンは公私ともに会社のイエスマンだから、選挙という個人的な活動でも会社の意に沿って投票行動する。

アベノミクスにとって都合のいい数字だけを羅列して、それ以外の数字は一切無視する姿は「無知と無恥」と言っても過言ではないだろう。加えて、ちょっと脅されて縮み上がってしまったマスコミも、今回の安倍政権でその信用度と信頼度を大きく傷つけてしまった。

この失敗しているアベノミクスを、あと3年近くこのまま続けたらどうなるのか……。詳細は後述するが、安倍政権最大の目的は「憲法改正」であって、「選挙に勝つための経済政策」であり、日本国民の未来など考えていない。

安倍首相は、サミット後の演説でくしくも「さらにアベノミクスをふかす必要がある」と発言した。あくまでも、構造改革のような抜本的な手法ではなく、目の前の景気が良くなって自民党が選挙に勝てばそれでいい、という考え方が見え見えだ。

あるエコノミストは、その言葉を皮肉って「ふかすエンジンが搭載されていない」と批判した。実際に、政府も公的資金をばらまきたいがもはやその資金も尽きつつある。

予想される最悪のシナリオ

現在のアベノミクスは、年間80兆円の新発国債を買い取り、さらにREITやETFなどに投資して、むりやりデフレ脱却を目指すという経済政策を続けている。米国や欧州もみんなやっていることじゃないか、と言われるかもしれないが、米国や欧州などが始めたのは2008年の「リーマンショック」による大恐慌から回復するためにやったのであって、日本とは大きく異なる。

日本の場合は、1990年代前半からバブル崩壊による不況脱出を目指して金融緩和を実施しており、そういう意味では背景がまったく異なる。金融緩和や公共投資をさんざんやりつくして、あとは構造改革や規制緩和といった抜本的な経済政策しかないはずだった。

ところが、東日本大震災の混乱に乗じて安倍政権が誕生してしまった。さんざん抗生物質だの痛み止めを投与したのに効かない、あとは手術だけというタイミングで医師が変わって、もっと大量の抗生物質だの痛み止めを投与し始めた、というのがアベノミクスの実態だ。

問題は、このままアベノミクスを続けたらどうなるのかだ。予想できるシナリオを簡単に列記すると……

これだけのことが、1年ぐらいの短期間で起こってしまう可能性も十分にある。現在の日本政府が抱える1054兆円の赤字というのは、これだけのことを瞬間的に引き起こすだけの威力を持っている、と考えていい。

三菱UFJ銀行が、国債の入札に参加できる「プライマリーディーラー」の資格を返上すると報道されているが、今後はその動きが加速するかもしれない。アベノミクスは、やってはいけないことをフルパワーでやって来た政権なのだ。

Next: 2.高齢者の貧困を放置~年金・健康保険制度の崩壊リスク



2.高齢者の貧困を放置~年金・健康保険制度の崩壊リスク

高齢化による「社会保障費」の合計は、2015年度予算では総額31兆円を超えている。さらに毎年1兆円ずつ増え続けており、その財源確保のための消費税率10%が必要だったわけだが、今後3年以上に渡って8%のままになる。

たとえば消費税率が当初の予定通り10%に上がっていれば、2015年度の消費税増収分は9兆円台半ばの予定だった。それが消費税延期によって1兆3500億円の税収不足になっている。

さらに、財源不足というだけでなく消費税率10%に引上げと同時に実施されるはずだった公的年金の「受給資格期間の短縮」が、またしても延期されることになった。

年金の受給資格は本来25年だが、消費税率10%と同時に10年に短縮される。これが実施されるのと、されないのとでは大きな差が出る。無年金受給者を減らすことができるからだ。

消費税率10%引き上げと同時に、低所得の年金生活者に対しても福祉的な給付が実施されることになっている。支給対象者は、老齢基礎年金受給者600万人、障害・遺族基礎年金受給者190万人、合計で約790万人にも達する。こちらも消費税率が10%にならないと実施されない。

自民党はこうした政策を公約として掲げて2度の衆院選で勝利している。再延期は明らかな「公約違反」だ。高齢者の貧困を放置していると言っていいだろう。

追い打ちをかけそうなGPIFの大損失

さらに、一番大きなリスクと言えるのが厚生年金など年金基金の棄損リスクだ。アベノミクスはその原動力である株価を上げるために、「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」のポートフォリオ(資産構成)の構成比率のルールを変更して、無理やり株式市場が上昇するように演出した。

選挙で勝って憲法を改正したいという動機だけで、安倍政権は国民の大切な財産である公的年金基金の一部を株式市場につぎ込んだのだ。このツケが、今後3年間に表面化して、日本の株式市場がさらなる暴落に陥るかもしれない。

Next: 3.「ヘリコプターマネー」という片道特攻~日銀の暴走リスク



3.「ヘリコプターマネー」という片道特攻~日銀の暴走リスク

2015年1月5日、ロイターの電子版が「日本は先進国初の『ヘリコプターマネー』発動か」という記事を配信した。日銀が保有する国債を「ゼロクーポン永久債」に転換して、国に潤沢な資金を提供するという方法を紹介している。

ヘリコプターマネーというのは、中央銀行が政府の発行する国債を無制限に買い入れて、政府の資金調達をサポートするもので、政府は返済の義務も追わない。「財政ファイナンス」とも呼ばれるものだ。

ゼロクーポンというのは「金利ゼロ」のこと、額面価格のままで発行されて利息はなし、しかも償還期間のない永久債ということは、政府は返さなくてもいい国債の枠が300兆円程度増えることを意味する。

返済する義務がないから「政府債務の増大」といった指摘を受けることもなく、財政赤字への拡大に悩むこともない。

財政赤字の増大が止まるために、国民は将来の増税や政府の債務不履行(デフォルト)を心配する必要もなくなる。インフレになることも目に見えているから、今のうちに使ってしまおうという「消費意欲」もわいてくる。

保有国債をゼロクーポン永久債に転換させるという方法は、日銀法によって制限されている「規定外の業務」に相当するが、これも「財務省及び首相の認可を受けたとき」は例外扱いされている。実現は可能と言われている。

一方、最近になって注目され始めたのが「ベーシックインカム」だ。

国民一人一人に、生活保護費や最低賃金の1か月分の賃金を上回るお金を給付しようという政策で、「ヘリコプターマネー」そのものの政策だが、生活保護や最低賃金に関わる様々な諸問題を解決する方法として、すでに200年以上も前から提唱されている奇抜な政策だ。

Next: ベーシックインカムの利点と欠点/ヘリコプターマネーは失敗必至



「ベーシックインカム」の利点と欠点

たとえば、フィンランドでは月額約11万円を国民一人一人に給付する計画が進行中だ。生活保護と違って、貧しい人であろうと、裕福な人であろうと、すべての国民に現金を給付するのだが、生活保護制度や最低賃金制度、年金制度などの社会保障費もすべて廃止してしまう。

生活保護制度は収入額に応じて給付されるが、選別が困難でコストがかかる。選別を辞めて最低限暮らせるだけの現金を全国民に配ってしまおうという考え方がベーシックインカムだ。移民が多い欧州独特の考え方だが、市民権のない移民は給付対象にならない。格差が拡大するのではないか、とも言われている。国民の勤労意欲も大きく減退する。

それでもベーシックインカムは、無駄な政策を省略してコストを引き下げるため、格差拡大の解消に効果的と主張する人もいる。「少子化」の解決策にもなる。

1人当たりの給付金額だから、子どもを一人産めば、その分だけ世帯の収入も増える。仕事をしなくても、子育てだけで食べていけることになるわけだ。

スイスでは1人当たり「月額30万円」のベーシックインカムの導入を巡って、この夏にも国民投票が行われる。ベーシックインカムが国民の判断に委ねられること自体が異常だ。

「ヘリコプターマネー」は失敗必至

こうした方法は、ヘリコプターマネーの一種だが、現在の日銀に残されている数少ない選択肢のひとつともいえる。

ヘリコプターマネー導入は、長い歴史の中では成功したこともある。18世紀初頭のペンシルベニア植民地や1860年代の米連合政府、そして第2次世界大戦時の米国などは成功例として上げられている。

とはいえ、失敗例はもっと多い。1930年代前半の日本の高橋蔵相時代のヘリコプターマネー政策は、その資金が軍部に流れて、際限のない軍拡時代をもたらした。1920年代のドイツでは凄まじいハイパーインフレをもたらした。70年代以降、何度かハイパーインフレを経験したアルゼンチンなども、財政ファイナンスが原因で悲惨な結末を迎えた。

1053兆円超の財政赤字を抱える日本にヘリコプターマネーを導入すれば、どうなるのか。

太平洋戦争時代の政府債務残高は、最終的に対GNP(国民総生産)比で204%に達した。現在の政府債務残高はその数値より高い240%超(対GDP比)。日本は、ヘリコプターマネーを導入した太平洋戦争敗戦までの10年間よりもっとひどい状況だということだ。

ドイツ銀行は、そのレポートで「日本経済は、危機を真っ先に知らせる炭鉱のカナリア状態だ」と指摘している。

Next: 4.安倍政権は憲法改正=戦争への道を開くためなら手段を選ばない



4.安倍政権は憲法改正=戦争への道を開くためなら手段を選ばない

安倍政権は、憲法改正だけを目指していて手段は選ばない。経済優先という主張は詭弁であり、そのためならサミットまでをも利用する。

安倍首相の本当の狙いは「戦争」の遂行であり、戦争ビジネスによる日本の復活だ。その狙いは戦争ビジネスによる収益(儲け)だ。戦争は、とにかく儲かる。弾丸一発で400円から500円が消費される。

しかも、昔の戦争と異なり一人を殺害するのに要する弾丸の数は、第一次大戦で8000発、第2次世界大戦で5万発、ベトナム戦争では20万発、湾岸戦争では80万発とも言われている。現在は、性能が向上して射程距離が伸びたため、とにかく弾丸を撃ちまくって相手を倒すスタイルになっている。

世の中が不景気になると、愚かな政治家はすぐに戦争ビジネスに飛びつく。武器メーカーや広告代理店がバックにつき、後押ししてくれるからだ。

米国が湾岸戦争に突き進むきっかけとなった、クウェート人少女の「ナイラ証言」というのがある。詳細は省くが、米国が戦争につき進めるように広告代理店が仕掛けた世論づくりの詐欺だったと言われる。

オリンピックの賄賂ひとつまともに報道できない日本のメディアには、真実を伝えようという意思すらない。

3年後は、ひょっとしたら安倍政権はないかもしれないが、彼の遺志を継いだ何者かが、同じ政策を繰り広げている可能性が高い。アベノミクスをこれ以上継続させてはならない。

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岩崎博充の「財政破綻時代の資産防衛法」』(2016年6月13日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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財政赤字1054兆円の日本に暮らす国民にとって、自分の資産をどう守ればいいのか。コラムや単行本で書けなかった幅広い分野(メディア、業界、政府対応など)に視野に広げ、ニュースや統計の分析などを通して、役立つ情報を提供する。

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