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イギリス離脱決定。崩壊する「EUの理想」と3つの危機シナリオ=吉田繁治

EU離脱の是非を問うイギリス国民投票の集計結果が、日本時間の午後12時40分過ぎに判明し、英国のEU離脱が確定しました。この結果は今後のイギリスや欧州経済にどのような影響をおよぼすのか? そもそもどうしてこの問題が起きたのか? 人気コンサルタントの吉田繁治さんが無料メルマガ『ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則』で解説しています。

間もなく露呈する、欧州経済の「恐慌に近い」惨憺たる実態

EU(欧州連合)=28カ国からなる準国家連合

EU(欧州連合)は日本人にとって馴染みが薄い。このEUと、英国が加盟していないユーロ通貨圏の区別も言える人は少ないでしょう。

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まずEUとは、欧州の28か国が加盟し、国家主権の一部をEUの機構(欧州議会、欧州理事会、欧州連合理事会、欧州委員会)に譲るものです。

5年ごとの選挙で議員を選ぶ欧州議会と理事会で決定された法は、加盟国の法(ローカルルール)に優先します。準国家連合の仕組みとなっています。

関税撤廃による自由な貿易の促進

EUの経済面で大きなものは、加盟国間での関税の非課税です。商品の移動の障壁をなくしたのです。消費税のような付加価値税(VAT)の率は各国で異なりますが、28カ国間の輸出入には関税はない。ただし、日本のようなEU外の国との貿易では、EUの共通関税を課しています(TARIC:EU統合関税)。

国境審査廃止による自由な人の行き来の実現

そして人の動きに関する「シェンゲン条約」です。条約を結んだ大陸のEU25カ国内(人口約4億人)では、国境での審査が廃止され、自由に行き来して、居住、労働ができます。ただし島国のアイルランド、英国などは除外されています。このためフランスから英国に行くときは、われわれも入国審査があります。なお日本人の、ビザ免除での1回のEU入国による最大滞在日数は、90日です。
(注)永世中立国のスイスと歴史的に英独不信のノルウェーは、もともとEUに加盟していません

つまり、関税の撤廃で商品の移動を、シェンゲン条約で人(労働力)の移動を自由にしようというのがEUです。対して、統一通貨(法定通貨)のユーロはEU28カ国のうち19カ国です。もっとも最近の加盟は、スロバキアの2009年でした。英国はもともとユーロには加盟していません。

崩れつつある「EUの理想」

EUは、二度の世界大戦を経た欧州で再び戦争を起こさない、米国に対抗できる28カ国(5億740万人:米国の1.6倍)の自由貿易圏をつくる、という2つのビジョンにより誕生したものでした。

Next: EUを揺るがせた難民問題の原因/想定される3つの危機シナリオ



EUを揺るがせた難民問題の原因

このEUを揺るがせたのは、アラブやアフリカからの難民問題(3200万人)です。

特に最近は、IS(イスラム国)も含み、内戦が続くシリアからトルコを経て、EU加盟のギリシャに入国する人たちが多い。国外に逃れた難民は410万人、シリア国内では1170万人と言われます。

賃金が高いドイツに逃れた難民は、2015年で110万人とされています。毎月10万人が押し寄せていますが、メルケル首相は受け入れを表明しているので、国内の反対が盛り上がっています(国民の40%が反対)。2015年11月にパリで起きた同時多発テロ、ドイツ各地での暴行や窃盗を、警察が「難民がらみ」と発表しているのも大きな理由です。

英国のEU離脱問題に波及

英国でEU離脱問題が起こったのは、加盟国を襲う難民問題、および国家主権回復への動きの高まりからです。保守層が多い60歳以上には離脱派が多く、30歳以下には残留派が多い。欧州諸国では、この問題に国民がとても高い関心をもって、英国の開票状況を注視していました。

想定される3つの危機シナリオ

英国のEU離脱による影響として考えられるのは以下です。

(1)自由貿易圏からの離脱による英国経済の弱体化。これはEU加盟国との貿易に関税がかかるようになるからです。
(2)金融面でのシティ・オブ・ロンドンの地位急低下。EUからの資金流入が減るからです。
(3)他加盟国のEU離脱を誘発。英国を皮切りにEU解体の動きが生じる可能性があります。

英国のEU離脱懸念が出始めて、英国ポンドは対円で163円から150円(6月中旬)まで下がりました。その後、残留派が勝つとの見込みから155円に戻していましたが、この週末のEU離脱決定を受け139円に急落しています。

南欧危機から回復していない経済

ギリシャ、スペイン、ポルトガルの財政問題は、ECBによる国債買いで小康を得ていますが、問題の根であるギリシャ、スペイン、ポルトガルの経済力は回復していないのです。その表れは、高い失業率です。

ギリシャ24.1%(5月)、スペイン20.1%(4月)、ポルトガル12.4%(第一四半期)、イタリア11.7%、フランス9.9%です。ユーロ圏全体の失業率は10.2%(4月)と高い状態を続けています。ドイツですら6.1%(5月)です。

失業率が15%を超えている経済は、恐慌に近いと言うべきです。
(注)日本の失業は3.2%(4月)、米国4.7%(5月)です。両国とも自然成長率に近い

2012年の南欧危機以降、ECBのマネー増発とマイナス金利の金融政策で、ユーロ経済は回復したかのように言われていますが、日本ではほとんど報じられないその実態は、物価が下がるデフレ型の大不況の持続です。3カ月国債の短期金利もマイナス0.27%であり、マイナス金利策を敷く日本の-0.03%より低い。

今後、ECBの金融政策で隠れていた欧州経済の悪さが露呈するでしょう。

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ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則』(2015年6月24日号)より一部抜粋、再構成
※記事タイトル、太字はMONEY VOICE編集部による

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