マネーボイス メニュー

From Wikimedia Commons

日本市場を襲う「株の冬」とヘッジファンドの誤算~3月FOMCを終えて=E氏

3月14~15日に開催されたFOMCで、3ヶ月ぶりとなる利上げが決定されましたが、市場の反応はまちまちでした。米国株は織り込み済みとばかりに、今のところ冷静な動きをしていますが、ドルは急落し、米国金利も利上げ決定後に低下しています。

こうした中で、これまで円相場との連動性が高かった日本株は、今回の円急伸には反応せず、まるで突如として冷静な米国株の動きに擦り寄ったかのように落ち着いた動きをしていますが、このようなまちまちの動きは果たして持続性があるものなのでしょうか?それとも、どれかのアセットの動きが全体と不整合であることから早晩調整が必至なのでしょうか?

本日は、一見すると比較的落ち着いているFOMC後のマーケットの「ダマシ的な不整合」と、今後の見方について解説してみることにします。(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)

プロフィール:E氏
国内大手生保、ゴールドマン・サックス、当時日本最大のヘッジファンドだったジャパン・アドバイザリーでのファンドマネージャー経験を経て、2006年に自らのヘッジファンドであるINDRA Investmentsを設立し国内外の年金基金や富裕層への投資助言を開始。2006年10月からのファンド開始後はリーマンショックや東日本大震災で、期間中TOPIXは5割程度下落した中で、6年連続のプラス(累積30%)のリターンを達成。運用歴25年超。

米ドル急落をよそに底堅い米国株と日本株。嘘つきは誰だ?

大きな転換点となった3月FOMC

まず、今回のFOMCでの25bpsの利上げは確実と見られていたので、想定通りの結果でした。と言っても、このコンセンサスが形成されたのは実は最近のことであって、それは多くのFOMCメンバーのタカ派的発言によって形成されたものです。

前回の利上げ決定がなされた昨年12月FOMCで、メンバーはドットプロットと呼ばれる(全メンバーの見通しを集めた)先行きの金利見通しを作成していましたが、その見通しでは今年の利上げ回数は2回程度でした。

なので、12月FOMC以降から2月に入るまで、マーケットの今年の利上げ回数のコンセンサスは2回程度で、それゆえに次回利上げ時期は今年6月(6月と12月)と見られていました。

この次回利上げ時期のコンセンサスが前倒しになり始めたのは、2月上旬になってからです。

発表された1月のインフレ関係のデータが強かった上に、トランプ大統領が「今後数週間以内に目を見張る減税を発表する」といった過剰に株価を煽るようなポジティブ発言を繰り返したことで、米国株が過熱気味になったことで、それまでタカ派だったメンバーだけでなく、従来はハト派と目されていたメンバーも3月FOMCでの利上げを支持し始めたのです。

と言っても、実は3月に入るまでは、3月FOMCでの利上げ確度は3割程度で、5月や6月での利上げが相変わらず主流の見方でした。

この見方が急速に変化したのは、3月3日の講演でイエレンFRB議長が、2月14日の議会証言に引き続いて3月FOMCでの利上げを支持すると発言したためです。

前任のバーナンキ氏と比べイエレンFRB議長は情報発信量がとても多く、市場との対話を積極的に心がけていますが、ほとんどの発言は具体性に欠ける曖昧なもので、従来は利上げ直前でも利上げ時期を明確に示唆することはほとんどありませんでした。

それが、今回は議会証言に加え、3月FOMCの直前の情報発信でも同会合での利上げを支持したので、市場は3月FOMCでの利上げをほぼ確実視し、利上げ確度は一気に100%近くまで上昇したのです。

ポイントは年間の利上げ回数だった

これだけなら、今回の決定はどのアセットにとってもノーサプライズになるのですが、あまりに急に多くのFOMC参加者がタカ派になったことで、マーケットの一部で今年の年間利上げ回数の見通しも引き上げられるのではないかという見方が急浮上してきたのです。

つまり、利上げ時期を前倒しにしただけでなく、今後乗り上げペースも従来考えられていた以上のスピードで利上げを行うというものです。この結果、市場コンセンサスの今年の年間利上げ回数は、3月に入ると年間3回を超え、4回の利上げを主張する見方も出てきたのです。

この見方に乗ってドルを買い進んだのがヘッジファンドなどの短期筋投資家です。CMEなどの取引データによると、短期筋のドルポジションは年初から一貫してロングを解消する動きになって、その一方で円やユーロなどの他通貨のショートポジションを買い戻していました。

Next: ヘッジファンドの思惑と誤算。FOMC後の米ドル急落はなぜ起きたか?



ヘッジファンドの思惑と誤算

このポジション解消は昨年11月のトランプショック以降の、トランプ政権になって米国のインフレが加速するという過度な見方でドル買い他通貨売りを進め過ぎた反動ですが、投機筋は昨年11月下旬から1ヶ月半程度で構築したこのポジションを今年に入ってから一貫して解消していたのです。

それは、12月のFOMCで先行きの金利見通しが示されたことで、トランプ政権のインフレ政策で米国の金利が今後大幅に上がるという見方が、さすがに行き過ぎていたと考え直したからです。

しかし、2月以降、FOMCメンバーが立て続けに早急な利上げを主張し、一部メンバーは年間4回の利上げを主張するようになっていたところに、イエレンFRB議長がダメ押しともいえる3月利上げを支持したことで、投機筋は「3月FOMCでは、年間の利上げ回数見込みも引き上げられるのではないか」と考えたようです。

この結果、年初以降ずっとドルを売り越していたのに、3月7日までの1週間では、今年に入って初めてドルを買い増し、反対に円などの他通貨の買い戻しを止めて、再度ショートポジションを増やしたのです。

その翌週のデータはまだ出ていませんが、FOMCの直前までドルインデックスが上昇し、円安が進んでいたことから、恐らく投機筋はFOMCまでドルのロングを増やし、円などのショートを増やしていたのでしょう。

しかし、3月のFOMCでは、利上げこそ決定されましたが、年間利上げ回数の引き上げにつながるような発言や声明は見られず、従来どおりのペースでの緩やかな利上げの見通しが示されました。

前回利上げから3ヶ月での利上げなので、定規で先まで延ばすと年4回の利上げを示唆しているだろうという見方は、このFOMC声明とイエレンFRB議長会見で崩れ去ったのですが、この結果、ドルは急落し、過度な利上げ見込みで売られていた米国債の買い戻し(金利は低下)が入ったのです。

米国株が連動しなかった理由

一方の米国株は、このような利上げペースに関する思惑は、事前に一切ありませんでした。

元々、米国株は2月上旬のトランプ大統領による「目を見張る減税を発表するから楽しみにしていて」という発言以降、過度な期待感で過熱していたのですが、先月28日の議会演説で、「減税は発表されたものの、なんの具体策もない」薄っぺらい内容だったので、一旦材料出尽くしになりました。

しかし、それでも近々迫る利上げというものをほとんど織り込まないばかりか、利上げ発表直後は「経済見通しが順調」という発表内容を好感して、ショートスクイズ主導で上げたくらいです。

米国株は、この数年、FRBによる引き締め発表直後は「利上げに耐えられる経済を好感」といった屁理屈で上げることが多いですが、ほとんどはショートスクイズで、通常はアヤが終ると引き締めによるリスク資産忌避的な動きをするようになりますので、今回もそのような動きになる可能性が高いでしょう。

このように、米国株はそもそも利上げを気にすることなくトランプ政権による経済成長を期待する相場が続いていましたが、その反面、為替市場や米国債券市場はFOMCの利上げペースが従来より早くなるという先読みをし過ぎたため、一見すると各アセットで違う反応になったのです。

Next: 円高が再開、米国株も頭打ちで日本株はリスクオフへ~今後の見方



これから「株の冬」がやってくる

では、今後の見方がどうかですが、ドル円を始めとする為替市場は年初からのトレンドである、ドル売り円など他通貨買いの流れに戻るでしょうし、過度な金利上昇観測も消えるので、債券へのマネーシフトも見られるでしょう。

米国の利上げは、米国や日本などの先進国以上に、新興国に悪影響を及ぼすので、周辺アセットから世界がリスクオフに転じる可能性が高まって行きます。

そうなると、安全資産である日本円は買われやすくなるので、米国の利上げがオーバーペースでないと判明した以上、円を依然としてショートポジションで持ち続けるのは合理的なポジションとは思えませんから、少なくともショートがニュートラルになるまで、投機筋による買い戻し圧力で円高ドル安になり易いでしょう。

一方の米国株は、議会演説以降、トランプ大統領が市場に過度な期待感を醸成させ続ける機会が事実上終ったことで、今後は現実を見る地合になっていく可能性が高い上に、過度な債券売りが止むということは債券買い/株売りにつながるため、今後は上値が重いでしょう。

加えて、利上げで新興国やコモディティなどの周辺アセットが過度なリスクオフになった場合は、米国株も当然引きずられるので、昨年11月以降延々と続いていた、「いまだかつてないタイプの大統領が何をしでかすか判らない」という極端な見方で形成されていた過剰な期待相場は終焉し、徐々に金融引き締め時の株価形成に入っていくと思われます。

日本株の買い材料は尽きた

このように考えると、円安時は円相場の動きに反応して好感して、しかし円高時は米国株高など他にポジティブな材料を見つけるなど「売らない理由を探していた」日本株の買い材料はほぼ尽きたと思われます。

トランプ大統領による過剰な期待感醸成はなくなり、米国の利上げがあったので、マーケットセンチメントは徐々に冷えていく中で、周辺アセットからのリスクオフの足音も聞こえてきます。

そうした中で、投機筋の円ショート解消という需給的要因で円高になり易いことから、日本株をサポートする外的要因はほとんどありません

日経平均2万円が近いからというだけで、2万円を目標に頑張ってきたマーケットでしょうが、買い材料がない中でこれ以上買い上がれると考えるのは、かなり楽観的だと思われます。

それよりは、トランプショック以降、円相場の下落以上にオーバーシュートして上げ続けた反動がいつ出てもおかしくないので、今後の日本株は米国株以上にリスクオフ的な動きになり易いと思われます。

冬が終わり、日増しに暖かくなってきていますが、こと株式市場に関しては、トランプ大統領との蜜月期間は終り、FRB主導による「株の冬」がこれからやってくるのです。

【関連】地獄の「あいりん地区」で覚える投資術 ジャンキーどもの逆を行け=鈴木傾城

【関連】米利上げ決定でなぜ円高に? アメリカ株高はいつまで続くのか=今市太郎

【関連】プロ直伝「独自の投資手法」の作り方。みんなと同じじゃ報われない!=房広治

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年3月19日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

無料メルマガ好評配信中

元ヘッジファンドE氏の投資情報

[無料 ほぼ 週刊]
日本株のファンドマネージャーを20年以上、うち8年はヘッジファンドマネージャーをしてきたE氏による「安定して稼ぐコツ」「相場の見方」「銘柄情報」を伝授していきます。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。