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トランプ大統領が繰り出す「ドル安カード」のタイミングを捉えよ=田口美一

トランプ政策が実行されればインフレになり、大変なことになると言われます。金利が上がればそのこと自体が経済を殺してしまいますが、そこに至るには順番があります。(『グローバルマネー・ジャーナル』田口美一)

※本記事は、最新の金融情報・データを大前研一氏をはじめとするプロフェッショナル講師陣の解説とともにお届けする無料メルマガ『グローバルマネー・ジャーナル』2017年3月22日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に定期購読をどうぞ。
※3月8日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております

プロフィール:田口美一(たぐちよしいち)
金融経済アナリスト、前クレディ・スイス証券副会長、ビジネス・ブレークスルー大学 資産形成力養成講座講師。専門分野は金融経済全般、資産運用、年金問題など。

米国がドル安政策に動くまでのステップとメカニズムを理解する

「トランプ発の危機」発生までには順序がある

アメリカの経済指標は強いものが多く、実際にFRBも自信を深めています。物価は落ち着き、前年比2%を達成するかという水準です。リーマンショックの後、ものすごく潤沢に資金を供給しましたが、2013年から徐々に出口戦略を始めました。まずは供給する量を止めるテーパリングを開始し、1年かけてテーパリングを止め、また1年かけて金利を上げ、さらに1年かけて金利をもう一度上げました。

今年はイエレン議長、副議長ともに年間3回の利上げを示唆していますが、3回上げるとなると、25ベーシス刻みで上げればFFレートは1.5%まで上昇します。これは結構上がってくるという印象です。長期金利も上昇してきていますが、アメリカは個人消費を中心に実体経済が強いということが一番のボトムラインなのです。ただし、このボトムラインにプラスされてくるのがトランプ大統領です。

トランプの政策が実行されればインフレになり、大変なことになるとよく言われます。金利が上がればそのこと自体が経済をダメにする、(マーケットでは)「キル・ザ・エコノミー」という言葉を使いますが、経済を殺してしまうわけです。しかし、それには順番があると思います。

トランプ政策の危険としてまとめましたが、今現在アメリカは非常に雇用が良く、完全雇用に近い状況です。このままFRBもあまり金利を上げずにいくと、かなり長期間に渡ってこの良い状態、つまり実体経済で言うと実質成長率が2.5%から3%に向かう、理想的な水準が続くだろうと思います。

しかし、もしここにトランプ大統領の追加財政刺激が10年で1兆ドルなどという強めのもので、かつ早めに対応をするとなると、やはりインフレ気味になってくると予想されます。そしてFedが金融引き締めに入ってくるわけです。

利上げがもし今年3回行われれば、FFレートは1.5%程度に上がってくると言いましたが、このように利上げモードになってきて、それ以上に引き締めるとなると、さすがに景気を悪化させ、困った状態になります。そして、この景気悪化状態になると、奥の部屋にしまっておいたドル安のカードを、トランプ大統領が出してくるのではないかと思うのです。

ですから、トランプ政策の危険というのは、このような何段階かのステップがあると思うのです。今はまだ第一ステップです。いきなりドル安を指摘する方が多いですが、このように順番があると思うのです。完全雇用の状態からいきなりドル安に飛ぶのではなく、順繰りに階段を上っていくので、この流れをしっかりとフォローアップしていくことが重要なのです。

Next: 米国10年国債の金利水準が試金石に、見極めのポイントは?



レーガノミクスとの類似点を把握する

そして、その流れを見ていくうえで試金石となるのが、米国10年国債の金利水準だと思います。米国10年国債の金利は今2.5%まで上がってきています。2000年頃からの20年間を見ると、日本とよく似ていてほぼ下がり続けています。もちろんアップダウンはありますが、ひたすら下がり続けていたものが、今、トランプ大統領が出てきてどんと上昇したのです。ボトムラインにはもちろん景気が良いことがあるわけですが、金利が上昇し、今2.5%まで来ているのです。

ただし、この10年間ぐらいを拡大してみると、金利は3%まではいっていないのです。リーマンショックで金利が大きく下がり、そこからの戻りも3%手前までで、そこからまた下がったりしているのです。長年日本の10年債も、2000年頃は2%が壁となっていました。大きく下がった後2%までは戻るのですが、それでも2%より上にはなかなかいかなかったのです。

私もこれまでに何度も、2%を超えていくなら日本もステージが変わりますとお伝えしてきました。そして今回アメリカは、その水準が3%だと思うのです。ですから、もし3%を超えてさらに、一瞬だけではなく3.5%に向かうような展開になれば、先ほど言っていたトランプ大統領の怖いシナリオとなり、最後はドル安政策に結びつくようなことになるでしょう。

これは実際に、レーガン元大統領がやったことです。彼は1980年の頃からの1期目は、強いドルを主張していました。ドル高を容認し、むしろ減税等で景気を刺激し、レーガノミクスを行っていたわけです。しかし効果が出なかったので、1985年に、ニューヨークのプラザホテルに先進国を集め、集まった各国に対し、明日からドル安にしてくださいと要請したのです。これがプラザ合意です。それにより1ドル235円台だったものが、最初は200円を割り込み、そして180円、150円へと、未曽有のドル安となりました。そこからドル安が本格化したのです。

今回皆さんが心配しているのは、「米国政権とっておきの手であるドル安政策が出て来るのか否か」という問題ですが、その一つのシグナルは10年物のアメリカ国債が3%を超えていくかどうかということだと思います。これを超えていくような事態になっていけば、要警戒だと言えると思います。

今は2.5%で止まっていますが、さらに超えてしまいそうな可能性も出て来ています。それが本格的に2.5%を上回っても、引き続き雇用が20万人を超え、車も売れ、住宅価格も続伸等々、そうした状態が続く中で、トランプ大統領が調子に乗り、いよいよ本格的に内需を刺激するために国債を増発、インフラ投資をするというような展開が考えられるわけです。

こうしたことは、FRBがブレーキをかけるシグナルとなり、どちらかと言うとハト派と言われているイエレン議長も、若干タカ派にならざるを得ないわけです。やはり物価が不安になり、少しブレーキをかけるようなことになってくるかもしれません。それがおそらく日本でいうゴールデンウィークのあたり、4月から6月にかけてが最初の山場だと思います。

今後の利上げについてですが、アメリカは年末のクリスマス商戦が12月にスタートしますが、実際には基本的に11月から仕入れを始めるので、今年最後に強くアクセルを踏むとすれば、11月です。そして、その前にあるとすれば、夏休み前、サマーバケーションの前でしょう。どちらに向かうのか見極める時期なので、その辺りで景気の実態が悪くなく、不動産や車のデータも悪くないということになると、金利はもう一段上がってくる可能性があると思います。

ただし、意外と車の売れ行きが落ち着き、不動産も長期的には良いものの、金利の上昇で一旦ペースダウンする可能性もあります。その場合、FRBもそれほどインフレを警戒しなくても済むので、場合によると、5月、6月あたりにはマーケットの見方ももう一回くらいの利上げで終わるか、あるいは今年はもう見送るかもしれないとなり、金利は落ち着いてくるでしょう。その辺をこれから見極めていく段階に差し掛かってきたと思います。ただ、一足飛びにドル安ではなく、順を追っていくのだろうと思っているので、そのステップを見ていくことが重要です。

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グローバルマネー・ジャーナル』(2017年3月22日号)より抜粋
※記事タイトル、太字はMONEY VOICE編集部による

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