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TPPなき今、日欧は「経済連携協定」で自由貿易体制を加速できるか?=大前研一

ヨーロッパが中国に傾斜する中、日本への関心は非常に薄くなっています。TPPがなくなった今、日欧経済連携協定(EPA)交渉を加速する必要が出てくるだろうと思います。(『グローバルマネー・ジャーナル』大前研一)

※本記事は、最新の金融情報・データを大前研一氏をはじめとするプロフェッショナル講師陣の解説とともにお届けする無料メルマガ『グローバルマネー・ジャーナル』2017年3月29日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に定期購読をどうぞ。
※3月26日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。

プロフィール:大前研一(おおまえ けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長。マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997~98)。UCLA総長教授(1997~)。現在、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役。

欧州が中国に傾斜する中、日欧経済連携協定(EPA)の締結が急務に

【EU】低下する日本の影響力。EPA交渉を加速せよ

安倍首相は21日、ベルギー、ブリュッセルのEU本部で、トゥスク大統領、ユンケル欧州委員長と会談しました。その中で両首脳は、EPA日欧経済連携協定の交渉を加速し、年内の大筋合意を目指す方針を確認するとともに、各国で保護主義が台頭する中、日欧が率先して自由貿易を推進する考えで一致しました。

ヨーロッパとの間で日本はあまり大きな懸案は持っていません。しかし、ヨーロッパが中国傾斜している中で、日本への関心は非常に薄くなっていますので、時々こうした大きな会議をヨーロッパとの間で持たなければならないでしょう。またEPAのような経済連携協定は、ヨーロッパとはもうすぐ締結できそうなところまで来てはいますが、TPPがなくなった今となっては、ヨーロッパとのEPA交渉を加速する必要が出てくるだろうと思います。

トゥスクEU大統領はポーランドの出身で、ポーランドは彼の首相時代の対立野党の方が、今与党となっているので、ポーランドの首相がトゥスク大統領に対して下品な批判を繰り広げています。したがって彼はやや立場が悪くなっています。

ユンケル委員長の方は、ヨーロッパ委員長としてまあまあの立場を保っていますが、トゥスク大統領の権威は今、大きく傷つけられているのです。全員一致を前提にしているいろいろな決め事も、ポーランドの反対によってマイナス1になりながらも通してしまうという、EUにとっては非常に異例の状況が起こっています。これもEUの一つの不安定要因だと言えます。

日本とEUが世界経済に占める割合を見ると、EUは、GDP、貿易輸出入ともに巨大な割合を占めています。貿易は特に、EU間は関税無き自由貿易なので、非常に活発となっています。日本はその点では、かつて貿易で非常に栄えた国ですが、今では世界シェアの中で3.8%になっています。

GDPもかつては世界経済の10%に達していましたが、今では5.6%です。アメリカは、24%のGDPと11%の世界貿易となっています。中国も次第に占める割合が大きくなり、日本よりもだいぶ拡大してしまったという状況です。

ヨーロッパとのEPAは、いろいろなメリットがあると思います。ただワインが関税無しで入ってくるとしても、日本で代理店制度を採っていると、そこで値段が3倍になってしまうのであまり意味がないかもしれません。

一方、自動車の輸入では、日本はヨーロッパの商品をずいぶん買っていますし、逆に日本がヨーロッパに売り込むことにもつながります。かつて日本はどんどんヨーロッパに売り込みをしていましたが、今は弱くなり、中国に置き換えられてしまっているのが現状です。

Next: 【日仏】もんじゅの仇?原子力分野での「協力強化」が無意味な理由



【日仏】高速炉「アストリッド」建設で協力の意義

日本とフランス両政府は20日、原子力分野での協力を強化する合意文書に署名しました。次世代型原子炉としてフランスに建設予定の高速炉「アストリッド」について、両国がどのような技術を持ち寄り、知的財産をどう管理するかなどの枠組みを作る方針です。日本はフランスと協力し、高速炉の実用化を急ぐ考えです。

これはあまり意味のないものだと思います。日本の文科省としては、もんじゅ閉鎖となった結果、なんとかこれを活かしたいというので高速増殖炉の開発をやっているということにしないと、プルトニウムの備蓄を日本に認めないというヨーロッパおよびアメリカの意見があるのです。そのことにより、苦し紛れにフランスと組んでやっていきましょうということなのです。

フランスの場合は、実は「ラプソディー」という実験炉と、「フェニックス」というもんじゅと同じ原型炉の運転経験があり、さらに「スーパーフェニックス」という実証炉の運転に、既に成功してしまっているのです。実証ができたので、技術を全てタイムカプセルに詰めて、運転を止めてしまったという状況なのです。そこで今なぜ、新しい実証炉「アストリッド」をやるのか、私には疑問に思われます。

実はその点で、ロシアやインド、中国、いわゆるBRICs諸国が実用化を目指して動き始めているのです。元祖のフランスとしては、高速炉で本当に成功した唯一の国であるわけなので、高速増殖炉と言えばロシア、中国などと言われると癪にさわるということで、あるグループが復活させたのではないかと見ています。

そしてそこに今度は日本も、もんじゅ閉鎖ということで乗っかろうというわけで、非常にみっともない感じがします。日本の場合には、「常陽」という実験炉と、実証炉「もんじゅ」があり、その次の実証炉も実は計画されていたのですが、それは遥か先、今ではもう不可能ということになっています。もんじゅそのものも運転ができないまま終わりとなってしまったので、これに対する悔し紛れの逆転一発というつもりなのでしょうが、私は意味がない契約だったと思います。

Next: 【中国】現地日本企業が事業売却代金を本国に送金できない「異常事態」



【中国】資本規制で事業売却代金を日本に送金できない

日経新聞は18日、「中国資本規制、日本企業に影」と題する記事を掲載しました。日本企業が現地事業の売却代金を受け取れず、日本への送金が止まるなどの事態が続出していると紹介しています。外貨の流出を防ぐため、中国当局が人民元と外貨で国境をまたぐ取引を規制していることが要因です。

中国から今、お金が持ち出せない状況になっています。売却したお金が持ち出せないという事態が起こっているのです。本当に何をやろうとしているのか見込めない事態です。中国に進出するのはウェルカムですが、撤退したときにはお金が持ち出せないということが続出しているのです。日本企業だけでなく、中国企業もそのトラブルに巻き込まれています。中国の金融当局は、もう少しここに透明性や明確なルールを入れるべきなのです。理屈がなく、お金が届かないという状況が起こっているのです。

外貨準備がうんと減ってきて、中国当局としてもイライラしているのでしょうが、せっかくIMFのSDRバスケットに採用されたのだし、堂々と国際通貨になってほしいというところで、ここにきて内向き、下向き、後ろ向きということになってしまいました。

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グローバルマネー・ジャーナル』(2017年3月29日号)より抜粋
※記事タイトル、太字はMONEY VOICE編集部による

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