ヨーロッパが中国に傾斜する中、日本への関心は非常に薄くなっています。TPPがなくなった今、日欧経済連携協定(EPA)交渉を加速する必要が出てくるだろうと思います。(『グローバルマネー・ジャーナル』大前研一)
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※3月26日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
プロフィール:大前研一(おおまえ けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長。マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997~98)。UCLA総長教授(1997~)。現在、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役。
欧州が中国に傾斜する中、日欧経済連携協定(EPA)の締結が急務に
【EU】低下する日本の影響力。EPA交渉を加速せよ
安倍首相は21日、ベルギー、ブリュッセルのEU本部で、トゥスク大統領、ユンケル欧州委員長と会談しました。その中で両首脳は、EPA日欧経済連携協定の交渉を加速し、年内の大筋合意を目指す方針を確認するとともに、各国で保護主義が台頭する中、日欧が率先して自由貿易を推進する考えで一致しました。
ヨーロッパとの間で日本はあまり大きな懸案は持っていません。しかし、ヨーロッパが中国傾斜している中で、日本への関心は非常に薄くなっていますので、時々こうした大きな会議をヨーロッパとの間で持たなければならないでしょう。またEPAのような経済連携協定は、ヨーロッパとはもうすぐ締結できそうなところまで来てはいますが、TPPがなくなった今となっては、ヨーロッパとのEPA交渉を加速する必要が出てくるだろうと思います。
トゥスクEU大統領はポーランドの出身で、ポーランドは彼の首相時代の対立野党の方が、今与党となっているので、ポーランドの首相がトゥスク大統領に対して下品な批判を繰り広げています。したがって彼はやや立場が悪くなっています。
ユンケル委員長の方は、ヨーロッパ委員長としてまあまあの立場を保っていますが、トゥスク大統領の権威は今、大きく傷つけられているのです。全員一致を前提にしているいろいろな決め事も、ポーランドの反対によってマイナス1になりながらも通してしまうという、EUにとっては非常に異例の状況が起こっています。これもEUの一つの不安定要因だと言えます。
日本とEUが世界経済に占める割合を見ると、EUは、GDP、貿易輸出入ともに巨大な割合を占めています。貿易は特に、EU間は関税無き自由貿易なので、非常に活発となっています。日本はその点では、かつて貿易で非常に栄えた国ですが、今では世界シェアの中で3.8%になっています。
GDPもかつては世界経済の10%に達していましたが、今では5.6%です。アメリカは、24%のGDPと11%の世界貿易となっています。中国も次第に占める割合が大きくなり、日本よりもだいぶ拡大してしまったという状況です。
ヨーロッパとのEPAは、いろいろなメリットがあると思います。ただワインが関税無しで入ってくるとしても、日本で代理店制度を採っていると、そこで値段が3倍になってしまうのであまり意味がないかもしれません。
一方、自動車の輸入では、日本はヨーロッパの商品をずいぶん買っていますし、逆に日本がヨーロッパに売り込むことにもつながります。かつて日本はどんどんヨーロッパに売り込みをしていましたが、今は弱くなり、中国に置き換えられてしまっているのが現状です。