今回はレーザーテック<6920>についてです。これまでも半導体については度々取り上げてきましたが、やはり売買代金として市場を最も賑わせているのがレーザーテックだと思います。しかし、レーザーテックがどのような事業を行ってどんな商品を売っているのか、理解しているでしょうか。その企業がどういう事業を行っているにかきちんと理解していないと投資はなかなかうまくいきません。レーザーテックの事業内容と強みについて考えていきましょう。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
半導体の作り方
レーザーテックを見ていく前に、まずは半導体の作り方について説明します。
というのも、この半導体の作り方というものがレーザーテックの肝になるからです。
半導体とは、ウエハに電子回路が描かれたものです。
これは㎚(ナノメートル)という目には見えないレベルで作られています。
非常に細かい回路をどのようにして描くかというと、光を使います。
まず、「マスクブランクス」という板に回路の絵を描き(フォトマスク)、フォトマスクを通してウエハに光を照射し、回路を描くことになります。
回路の大元となるフォトマスクが間違っているとその後の全てが違うということになってしまうので、非常に重要な工程です。
レーザーテックはこのマスクブランクスやフォトマスクがしっかりできているか検査する装置を作っているのです。ここからは当社アナリストで半導体に詳しい元村さん(以下・元村)に説明していただきます。

レーザーテック<6920> 日足(SBI証券提供)
シェア100%!レーザーテックの技術
栫井:それでは元村さん、レーザーテックの商品がどんなものなのか、説明をお願いします。
元村:はい。こちらがレーザーテックが実際に販売している欠陥検査装置です。
サイズ的には、人間の2倍以上の大きさのものとなります。
栫井:これは1台いくらくらいするのでしょうか。
元村:ものによりますが、少なくとも30~50億円で、最先端のものとなるとそれ以上の価格になります。
栫井:それだけ高価ということはかなり希少な技術ということですよね。レーザーテック以外にこれを作れる会社はあるんですか?
元村:マスクの欠陥検査装置自体は米国のKLAという会社やアプライド・マテリアルズという会社が作ってはいるのですが、最先端のものに関してはレーザーテックがシェア100%となっています。
栫井:”最先端”というのはどういうものになるんですか?
元村:最先端というのは、一番細かい回路を描くための技術を持っているということですね。
栫井:なぜそれはレーザーテックにしかできないのでしょうか。
元村:そのポイントとなるのが「EUV」というものです。半導体はどんどん小さくなっていて、7㎚よりも小さい回路を描こうとするとこれまで使っていた光の波長では描くことができないのです。なので、新たにEUV(極端紫外線)というものすごく細かい回路を描くための光の波長が今技術開発で進んでいるのですが、この波長で描かれたものを検査する検査装置はもうレーザーテックしか持っていないということです。
栫井:そもそも露光装置の時点でEUVを使っていて、その露光装置を作れるのがオランダのASMLだけでしたよね。それに付随する形で検査装置を作れるのはレーザーテックだけということですね。
元村:そういうことですね。これまでのARFやDUVと言われる波長の領域とEUVの間にものすごく高い技術的な壁があります。
栫井:ライバルはまだその技術を持っていないということですか?
元村:そうですね。今KLAが開発しているところではあるのですが、特許の出願状況などを見るとまだまだ及んでいないようです。
栫井:逆に言うと、7㎚よりも小さい3㎚や2㎚という世界になるとレーザーテックの検査装置を使わざるを得ないということですね。お客さんとしてはTSMCなどになると思いますが、いくら高い値段であっても買わざるを得ないと。
元村:そういうことです。
栫井:なぜレーザーテックはこの技術を持てたのでしょうか。
元村:本当にEUVが世の中の半導体の形成に実用化されるのかまだ疑われていた時代から、ここは将来的に必ず必要になると見込んで研究開発の領域を絞ってやっていたんですね。その時点で技術開発を行っていたのはレーザーテック一社だったということです。
栫井:なぜそんなことができたのでしょうか?
元村:顧客企業からの要望を一番受けていたということがありますね。KLAもEUVの検査装置をやっているんですが、その他の製品の方が売上比率として大きいので、KLAにとってはニッチな分野ということになるんですね。
栫井:KLAはすごく大きな会社ですもんね。
元村:はい。レーザーテックはそういうところにも目を付けて、売上規模が5倍も6倍もあるところに勝つためにはこの分野しかないという背景もあったと考えられます。
栫井:一本槍でいって、結果的に技術開発ができたということですね。
元村:マスクの検査装置の分野では絶対に負けないぞと10年以上前からやっていたということです。
栫井:実際に開発できたのはいつだったんですか?
元村:商品として実用化されたのは2018~2019年あたりですね。
栫井:それによって業績が大きく上がったりしたのでしょうか。
元村:そうですね。
EUVの欠陥検査装置ができて、その後コロナ禍に入り半導体バブルが起きて一気に需要が拡大した背景もあって、業績が急激に伸びています。
栫井:2018年からすると売上としては5倍以上になっているんですね。利益率も上がってきて40%にもなっているんですね。株式市場も当然反応しますね。
元村:それだけ最先端の検査装置が高くて高利益であるということですね。
栫井:今の好調な業績はこれからも続くのでしょうか。
元村:基本的には続くと思っています。競合のKLAが同じような装置を2025年に出すと噂はされているのですが、大手のTSMCなどでは2025年に2㎚の生産ラインの量産化が始まるので、そこには間に合わないですし、そもそも実績もないので大手に組み込まれることは考えにくいです。需要がある限りレーザーテックが伸び続けるだろうと思っています。
栫井:少なくとも今後数年は安泰ということですね。
元村:むしろ様々な追い風があると思います。