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いつまで安全?「リスク回避の円買い」に走る外国人のナニワ金融道=東条雅彦

イギリスがEUから離脱することが決まった瞬間、通貨「円」が世界中から買われて、一時、1ドル99円まで円高が進行しました。しかしながら、私たち日本人としては不思議な感情も湧いてきます。なぜ、政府の負債が対GDP比で250%を超えるほど借金の多い我が国の通貨が、海外から大量に買われるのか?と。

本日はこの疑問に可能な範囲でお答えしていきます。投資家の判断は最終的にはファンダメンタルズを拠り所にしているはずで、偶然で決まっているわけではありません。何か理由があるはずなのです。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)

なぜ金融危機のたび円高に? いつまで日本円は「安全」なのか――

『ナニワ金融道』の桑田がヒント!

大阪の街金を舞台にした大ヒット漫画『ナニワ金融道』。

まず最初に、お金を貸す立場の人間が、どういうロジックで融資をしているのか?について理解しておきたいと思います。

なぜ、お金を貸すという行為を理解する必要があるかと言えば、安全性を見極めるポイントがわかるからです。

ここから、なぜ金融危機のたびに「日本円が安全だ」と海外投資家から思われるのかを探っていきましょう。

【関連】ジョジョの奇妙な黒田バズーカ~イカサマは2018年にバレるんだぜ…=東条雅彦

お金を貸してもよい2つのケース

ナニワ金融道の主人公の灰原はサラ金で働くことになり、先輩の桑田から金貸しの鉄則を学んでいきます。

まず、桑田は「公務員だったら、融資せい!大丈夫や」と言います。

これがお金を貸す時の審査の1つ。公務員は景気に左右されない安定した職業です。金貸しからすると、「安定したプラス収入がある場合」は、お金を貸しても、貸し倒れるリスクが大幅に減ります。

これがケース1「安定したキャッシュフロー」です。

それでは、金貸しは安定したキャッシュフローを持たない人には一切、お金を貸さないのでしょうか?いいえ、そういうことはありません。もう1つ、融資するケースがあります。

それは「換金性の高い担保がある場合」です。

ナニワ金融道では、ケース1に該当しない場合は、「連帯保証人」または「不動産」などの担保を顧客に要求します。

桑田は灰原の先輩なので、不動産に関する知識が豊富です。金貸しは不動産に抵当権を設定して、万が一、借金を返せなくなった時、担保の不動産を没収します。

抵当権は同じ不動産に複数設定できるので、当然、桑田は灰原に「他の債権者が抵当権を設定しないか?」を念入りに確認させます。

連帯保証人は不動産などの担保を擬人化したものです。金貸しは借金を返せなくなったら、連帯保証人から資産を取ることができます。

不動産や人などを用いて、担保を押さえるのがケース2となります。

ここまでで一旦、まとめます。

<お金を貸してもよいケース>

ケース1:安定したキャッシュフローがある
ケース2:担保がある/連帯保証人がいる

我が国には安定したキャッシュフローがある

資源のない日本がどうして世界第3位の経済大国になれたのか?それは「モノ作り」が得意だからです。先進国になっても、ドイツと同じように輸出基盤を崩していません。

日本国のビジネスモデルは外国に製品を売って、外貨を得て、そのお金を国内に循環させることで成立しています。それは「経常収支」を見たら、一発でわかります。

Next: 35年間連続で経常収支が黒字の先進国は日本だけだった



35年間連続で経常収支が黒字の先進国は日本だけだった

経常収支とは、国際収支のうち、財貨やサービスの取引による収支を表したものです。経常収支は一国の対外的な経済力を示します。日本はこの数値がほぼ一貫して、黒字です。赤字を記録したのは1980年の1回だけです。

35年間連続で経常収支が黒字の国は先進国では日本だけです。GDPの2~4%は海外との貿易で稼ぎ出しています。
日本の経常収支の推移 – 世界経済のネタ帳

海外から日本を見た時に、この「安定したキャッシュフロー」はとても魅力的に映るのです。

日本とドイツの経常収支を比較すると

他の国の経常収支も確認してみましょう。

比較的、日本と似たようなビジネスモデルを持つドイツの経常収支はどうなっているのでしょうか?

21世紀に入ってからは、ドイツの方が日本よりも経常収支の黒字幅が大きく、GDPの占める割合も高いです(近年では概ね5~8%)。しかし、2001年までは赤字の年が多く、安定していません
【関連】ドイツの経常収支の推移 – 世界経済のネタ帳

ここで、ナニワ金融道の灰原・桑田が、なぜ公務員にお金を貸したがるかを思い出してください。

安定している」ことが重要なのです。

その点、35年間、黒字が続く我が国の経常収支の安定度は、他国が追従できないレベルに達しています。経常収支の黒字が続いているため、対外純資産は日本が世界一となっています。

先進国になっても資源のない我が国は輸出基盤を温存させてきました。このことは「円安で破たんしにくい体質」「破たんして円安になっても復活できる体質」であることを示しています。

Next: 通貨「円」の担保は私たち自身、日本国の個人と法人だ



通貨「円」の担保は私たち自身、日本国の個人と法人だ

我が国の最大のリスク要因は政府の負債の大きさです。GDP比で240%を突破しており、他国を圧倒しています。ダントツで1位です。

意外なことに、海外投資家は政府債務の大きさはそれほど気にしていません。なぜなら、お金を貸しても良いケースの2番目「担保がある/連帯保証人がいる」に該当すると思われているからです。

なぜなのでしょうか?それは政府の負債が「内国債」だからです。海外の保有者はわずか5%だけとなっています。95%は日本国内の金融機関が保有しています。
日本の国債の保有者内訳をグラフ化してみる(2016年)(最新) – ガベージニュース

私たちは銀行にお金を預けています。

日本国の個人・法人 → 預金 → 金融機関 → 国債購入 → 政府

このような構図になっています。間に「金融機関」が入っているため、話がわかりにくくなっていますが、結局は次のような構図です。

日本国の個人・法人 → 国債購入 → 政府

間に入っている金融機関を抽象化すれば、国債の所有者は日本国の個人・法人となります。つまり、万が一、政府が国債を返済できなくなった場合、日本国内の個人と法人がダメージを受けます

一方、日本国内の個人と法人は大きな資産を保有しています。これが「担保」になっているのです。

私たち日本国民は債務者?それとも債権者?

経済の主体は「法人」「個人(家計)」「政府」の3者です。

中には「私たちは債務者ではなく、政府に対して債権者である」という意見もあろうかと思います。しかし、政府は「法人」と「個人(家計)」に対して、徴税権を持っています。

そのため、万が一、政府が単独で破たんした場合、法人と個人が「我々は政府の債権者だから、お金を返せ!」と主張しても意味を成しません。歴史的には「インフレ税」という形での納付方法が最も多いのです。
※参考:『国家は破綻する――金融危機の800年』 第8章 国内債務 インフレおよびインフレ税に関する研究 P200

個人や法人は、有事の際には政府の負債をリカバリーする立場であることを忘れるべきではありません。

Next: 通貨「円」の連帯保証人=日本国民が抱えるリスクとは?



一番のお金持ちは「個人(家計)」

この3者の資産と負債がどうなっているのかを確認しましょう。日銀が作成した2016年第1四半期の資金循環(速報)から数字を拾っていきます。

金融機関は法人と個人の資金を預かっている中継機関であるため、ここでは除いて、法人、個人(家計)、政府の資産額と負債額を明らかにします。

<法人>
・資産 1,094兆円 ・負債 1,428兆円 → ・正味資産 ▲334兆円
<個人(家計)>
・資産 1,706兆円 ・負債 390兆円 → ・正味資産 1,316兆円
<政府>
・資産 554兆円 ・負債 1,245兆円 → ・正味資産 ▲691兆円
※「▲」はマイナス

政府の負債は1200兆円を突破していて、圧倒的に多いです。一方、我が国では個人(家計)の資産が1700兆円以上あり、政府の負債よりも大きな金額になっています。

これは個人、つまり、私たちは、政府が国債を返済できなくなっても、保証できるだけの資産を持っていることを意味します。

我が国のGDPは約500兆円。政府の負債は対GDP比で240%以上を突破しています。法人、個人、政府という経済における主要3者を総合的に見ると、個人の資産が圧倒的に多く、政府の連帯保証人としての役割りを十分に果たせると言えます。

つまり、下記の2点を重視して、海外投資家は通貨「円」を「安全資産」と見做しているのです。

ただし、通貨「円」は相対的に評価されているに過ぎない!

海外投資家の場合は、通貨「円」で生活しているわけではありません。ここが国内投資家との最大の相違点です。

つまり、海外投資家が通貨「円」を持っていても、一時的な避難先にしかならないということです。

空から飛来してくる爆弾から身を守る防空壕にはなっても、長期的に住む家にはなりません。だから、長期的に通貨「円」が安全資産になっているわけではないので、その点は誤解しないでください。

米ドル、ユーロ、円という世界3大通貨の中で、今回、イギリスのEU離脱により、ユーロが売られました。

ユーロが下がった分、相対的にドルと円が上がっただけです。永久に通貨「円」が上昇し続けることは難しいと思います。

なぜなら、最終的には通貨の価値も株式や不動産などの他の資産と同じく、ファンダメンタルズの価値に帰着するためです。

日本のGDPは現在、世界第3位です。

<2016年 GDPランキング>

1位:アメリカ
2位:中国
3位:日本

これがゴールドマン・サックスの予想によれば、2050年には日本は8位まで落ちます。シティグループによる長期予想でもほぼ同じ結果になっています。

2020年までは世界第3位の地位を維持できますが、2030年には4位、2040年には8位に転落する予想になっています。

<2050年 GDPランキング(ゴールドマン・サックスによる予想)>

1位:中国
2位:アメリカ
3位:インド
4位:ブラジル
5位:メキシコ
6位:ロシア
7位:インドネシア
8位:日本
9位:イギリス
10位:ドイツ

世界経済の中での相対的な地位が低下していく中で、当然、通貨「円」の価値も下がっていくはずです。

Next: いったい何が起こる?日本円が「リスク資産」になるとき



いったい何が起こる?日本円が「リスク資産」になるとき

個人の資産が約1700兆円、政府の負債が約1200兆円。政府の負債は次のようなペースで増えていっています。

1986年 241兆円
1996年 523兆円
2006年 942兆円
2016年 1245兆円

最低でも10年で1.3倍以上になっています。

我が国の人口は今後、毎年50万人以上、減っていくため、個人の資産が大幅に増えていくことは考えにくい状況です。

政府の負債が今のペースで増えていけば、2026年には1600兆円に迫るでしょう。そうなると、海外投資家は通貨「円」に対して、悲観的な評価を下すようになるはずです。

10年も経てば、世界は一変してしまいます。

今は空前の低金利でなんとか政府は耐え忍んでいますが、借金は返済しなければ複利でどんどん増えていきます。

ナニワ金融道で、泥沼というサラリーマンが帝国金融に180万円の借金をするというエピソードがありました。

泥沼は帝国金融以外から借金をして、180万円の借金を48万円に減らすことに成功しました。しかし、いつの間にか帝国金融以外からの借金がトータルで200万円を超えてしまいました。

泥沼は灰原に愚痴を言います。

全然、借金が減らない」と。

それに対して、灰原はこう諭します。

灰原:
「そりゃーそうでしょう。僕もそうだと思いますよ。だって実際に泥沼さんが汗水流して返済したのは12万だけなんですからね。確かに金策であちこち走り回ったことでしょう。でもそれは借金です」

泥沼:
「組合からの金も回数券で作った金もみんな借りた金やから……実際に働いて返済したのはわずか12万だけやったんか……」

借金は汗水流して返済しないと、元本は減らない!元本が減らなければ、複利で借金は増加していきます。政府が巨大なリスクを抱え込んでいることには変わりはなく、リスクが顕在化すれば、通貨安(円安)に一気に向かうのです。

Next: 今回のまとめ~金融危機のたびに、なぜ円高になるのですか?



今回のまとめ

<1>

金融危機のたびに、なぜ円高になるのですか?

回答(1)
<お金を貸してもよいケース>
ケース1:安定したキャッシュフローがある
ケース2:担保がある/連帯保証人がいる
 ↓
<海外投資家からの目線>
ケース1:経常収支が黒字、かつ、対外純資産が多い。
ケース2:個人の資産が政府の負債よりも多い。
 ↓
通貨「円」は海外から見ると、安全資産に見える。

回答(2)
米ドル、ユーロ、円の世界三大通貨のうち、今回、イギリスのEU離脱によりユーロが売られた。資金がユーロから逃げ出し、に米ドルと円に集まった。

<2>

ところが、10年、20年、30年と長期で見ると、通貨「円」は安全資産にならない。

理由(1)
政府の負債はどんどん複利で増大しており、いずれ「ケース2:個人の資産が政府の負債より多い」が満たせなくなる。

理由(2)
2050年には日本の世界GDPランキングは第3位から第8位に転落する。世界3大通貨の地位にとどまれない場合、金融危機の際、そもそも「避難先」として選択されなくなる(可能性が高い)。

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ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2016年7月3日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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