マネーボイス メニュー

安倍政権「28兆円経済対策」4つの不安と、たった1つの冴えた裏ワザ=三橋貴明

安倍政権は8月2日の臨時閣議で、第二次安倍政権以降では最大となる「事業規模」28兆1000億円の経済対策を決定した。この「事業規模」という言葉は、本当に曲者だ。素直に受け取ると、政府が28兆円分の「支出」を実施すると受け止めてしまうが、現実は異なる。(『週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』三橋貴明)

実はある!「政府が主導的に短期の経済効果を確実に上げる」方法

経済対策=GDPを押し上げる政府の支出

まずは「経済対策」について、

日本の国内総生産(以下、GDP)を押し上げる政府の支出

と、定義しよう。

GDPを押し上げるためには、誰かが消費や投資としてモノやサービスを購入しなければならない。どれだけ莫大なお金が「動いた」としても、消費・投資としての支出がなければ、GDPは増えない

以下、各種の「経済対策」について経済効果を比較してみよう。

(1)中小企業・小規模事業者への貸付関連

閣議決定された経済対策には、実際に「中小企業・小規模事業者等へのセーフティネット貸付制度等の金利引き下げ」が含まれている。

【関連】日本に残された道は? 28兆円の2倍「56兆円」でも実は足りない経済対策=矢口新

もちろん、資金繰りに苦しむ中小企業や小規模事業者にとって、セーフティネット貸付の金利引き下げは「延命」に貢献する可能性はゼロではない。

とはいえ、現在の中小企業や小規模事業者が苦境に陥っているのは、別に貸出金利が高いためではない。「仕事がない」か、もしくは「銀行からお金を借りられない」からこそ、経営難に陥るのだ。

現在の国内銀行の貸出態度は、中小企業に対してすらバブル期並みに緩和されている。ところが、金融庁のマニュアルが厳格化されたため、銀行は中小零細企業に対し貸し出しを増やしにくい状況に置かれている。

また、政府が政府系金融機関の貸出金利を引き下げたとしても、企業側が貸し出し条件を満たすのは容易ではない。

政府が本気で中小企業や小規模事業者の資金繰りを支援したいならば、金融庁のマニュアルを緩和する方がはるかに効果的であり、規模も大きくなる。

いずれにせよ、政府が中小企業や小規模事業者への低金利貸出枠を拡大したとしても、実際に借り入れが増え、消費や投資に向かうか否かは未知数だ。

Next: 「低所得者向け給付金」や「インフラ整備」の気になる弱点とは?



(2)低所得者への給付措置

政府は消費喚起策として、消費税率8%への引き上げの影響を緩和する低所得者向けの「簡素な給付措置」の2年半分に相当する15000円を一括して現金給付することを決定した。

対象が低所得者層であるため、15000円の現金給付の多くは消費に回る可能性はある。

とはいえ、現在の日本の家計の消費性向が下がってきていることに鑑みると、低所得者層であっても15000円を貯蓄に回す可能性が否定できない。

対象を低所得者層に絞ったという点は評価できるが、給付金系の経済対策が「フル」でGDPを押し上げる効果は、事前には誰にも保証することができない

(3)財政投融資によるインフラ整備

政府は財政投融資で借り入れた資金を「超」低金利でJR東海に貸し付け、リニア新幹線の大阪延伸を最大2037年まで前倒しすることを決定した。

もっとも、JR東海からしてみれば、政府から資金を借りたとして、すぐに名古屋-大阪間の建設工事にかかる必要はない。2037年までに名古屋-大阪間のリニア新幹線開業を目指すなら、アセスメントを2025年頃に開始すれば十分に間に合う

というわけで、金額は「兆円単位」ではあるものの、財政投融資による経済効果が「いつ」出るのかは、事業主体となる民間企業側の経営方針に依存してしまうのだ。

Next: 自然災害大国の日本で「公共投資」が効きづらくなっている?



(4)建設国債によるインフラ整備

政府が建設国債で資金を調達し、整備新幹線や港湾整備などのインフラ整備を「公共投資」として実施した場合、用地費等がないと仮定して、支出金額分、必ずGDPが増える。また、経済効果を「いつ」出すかについても、政府が主体的に決定することが可能だ。

もっとも、日本の公共事業費は1998年の15兆円から、直近では6兆円にまで縮小されてしまっている。当然ながら、土木・建設産業の供給能力も毀損した。

自然災害大国である我が国が、土木・建設産業の供給能力を回復しなければならないのは当然として、1年や2年でできるはずがない。

また、整備新幹線の建設は、どれだけリソースを注ぎ込んだとしても、5年以上は必ずかかる。

建設国債によるインフラ整備にしても、経済効果は「短期」では出にくいのである。

それでは、「政府が主導的に、短期の経済効果を確実に上げる」政策は存在しないのだろうか。

実は、ある。

Next: 短期の経済効果を確実に上げる、たった1つの冴えた裏ワザ



政府が主導的に、短期の経済効果を確実に上げる方法

「政府が主導的に、短期の経済効果を確実に上げる」政策は存在しないのだろうか。

実は、ある。

政府による公務員の雇用だ。政府が公務員を雇用すると、給料を支払った瞬間に「政府最終消費支出」というGDPの需要項目が拡大する。さらに、政府は自らの支出について、つまりは「何名の公務員を、いつ雇用するか」について、完全にコントロールすることができる。

実は、政策目標を「GDPの拡大」に置いたとき、最強の経済対策は「公務員の増員」なのである。

もっとも、現在の日本において公務員を増やそうとしたとき、世論の反発は避けられない。また、日本が首尾よくデフレから脱却し、政府最終消費支出という需要を抑制したかったとしても、公務員はなかなか解雇できないという問題もある。

とはいえ、インフレ率が発表のたびに低下している現在の日本にとっては、公務員増強も経済対策のメニューの1つにあげるべきだと思うのだ。

【関連】日本の未来を映す英国民投票~なぜイギリスの実質賃金は下がり続けたか=三橋貴明

【関連】小池百合子を圧勝させた「選挙の技術」と鳥越俊太郎「7つの敗因」=ちだい

【関連】勝負に勝って戦いに負けた舛添要一 品格なき知性、奸計による挫折=吉田繁治

週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』(2016年8月6日号)より抜粋・再構成
記事タイトル・本文見出し・太字・図版はマネーボイス編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~

[月額660円(税込) 毎週土曜日]
日本の新聞・テレビなどのマスメディアでは、上記のフレーズがあたかも「常識」のように使われている。本メルマガでは、正しい数値データに基づき各種の「嘘の常識」を暴き、ボトルネックを取り去ることで、日本経済が着実な成長路線を進めるようコンサルティングを提供する。大人気Blog『新世紀のビッグブラザーへ』著者、三橋貴明が綴る必読参考書です。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。