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いつまで特大ファウル連発? 黒田日銀総裁「怒りのカット打法」=藤井まり子

安倍政権は黒田日銀をツーストライクまで追い込み、29日の日銀会合での「ホームラン」を期待していました。ところが、黒田総裁が打ち返したのは「大きなファール」でした。(『藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』藤井まり子)

※本記事は、『藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』2016年8月2日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に定期購読をどうぞ。

投資家も思わずウンザリ?日銀高校・黒田くん脅威のカット技術

期待はずれだった追加緩和

黒田日銀は、市場や政府が期待するのとはまったく違った意味で「サプライズ」を起こしました。今の日銀にとっては、「限りなくヘリコプターマネーに近い緩和策の発動」は、あまりに重荷であり過ぎたようです。

黒田日銀は「ルビコン川」を渡れなかったのです。「ヘリコプターマネー批判の矢面」には立ちたくなかったのです。

度胸がなかったというよりも、今の黒田日銀に「限りなくヘリコプターマネーに近い追加の緩和策」という重責を求めること自体、あまりにも残酷なことだったかもしれないと、当メルマガでは反省しているところです。
(もしかしたら、ひょっとすると、ヘリマネ出動のために、近いうちに国会審議が始まるかもしれません)

7月29日、黒田日銀の発表した追加の金融緩和策は、「日本株ETFを(現行の年間3.3兆円の枠を拡大して)年間6兆円買い支える」というものでした。

「追加の金融緩和策」としては「質的緩和」だけ、その規模はわずか+2.7兆円と超小粒。大方の期待を裏切る規模でした。「自分の代で、ヘリマネだけには手を染めたくない」という黒田日銀の「強い抵抗」がにじみ出ていました。

しかしながら、その「追加」の2.7兆円は、全額「日本株ETFをダイレクトに買い支える」という内容でした。「株価さえ下がらなかったら文句はないだろう!」という黒田日銀の「抵抗と怒り」を感じさせるものでした。

2016年度の日本経済はたいして良くならない

「追加の金融緩和策」としては小粒だったので、この日を境に日本国内の長期金利は上昇へ、ドル円はドル安円高へと振れました。ドル円は1ドル100円あたりまで円高になるかもしれません。

今後、政府が13兆円規模(?)の大規模な積極財政へ打って出ても、この積極財政を、日銀が大規模な金融緩和策で側面援助しなければ、日本国内では金利が上昇、円高になってしまいます。

かくして、「財政と金融のポリシーミックス」がたいして積極的に行われないため、せっかくの安倍自民党政権の積極財政をもってしても、その効果は(金利上昇と円高のせいで)ほとんどが失われてしまうでしょう。

これでは、2016年度の日本経済はたいして良くはならないでしょう。再び人為的ミス(政策失敗)で、「失われる10年」が始まるかもしれません。

しかしながらこの追加2.7兆円のETF買い支え、ダイレクトな日本国内の株価買い支えは、市場に対する規模としては大きかったので、日経平均は今のところは下がっていないようです。日本株を売り逃げるならば今でしょう。

ツーストライクまで追い込まれていた黒田総裁

振り返ると、7月下旬あたりから、黒田日銀は安倍自民党政権に追い込まれていました。

安倍自民党政権は、7月29日の日銀政策決定会合に先立って、7月21日に「およそ20兆円規模の経済対策」を発表。続いて7月28日には、さらに規模を拡大して、「およそ28兆円規模の経済対策(財政規模は13兆円規模?)」を発表。

安倍自民党政権は、「政府はここまで大規模な財政出動(補正予算)を準備したのだから、日銀よ、後は頼んだよ(ヘリコプターをよろしく!)」とばかりに、「限りなくヘリコプターマネーに近い追加緩和策の発動」を余儀なくさせようと、黒田日銀を追い込んでいたのでした。

安倍自民党政権は、「ツーストライク・ノーボール」の状態にまで黒田日銀を追い込んだ上で、29日の日銀金融政策決定会合では、「ホームラン(限りなくヘリコプターマネーに近い追加の金融緩和策)」を期待していたのです。

ところがところが、黒田日銀が打ち返したのは「ホームラン」ではなく、「大きなファール」でした。

元財務官僚の黒田東彦氏は、政治家ではありません。優秀だけれども、やはりしょせんは財務官僚です。批判の矢面には立ちたくなかったのでしょう。

「限りなくヘリコプターマネーに近い緩和策」は、元財務官僚としての黒田日銀にとっては、あまりにも「荷が重かった」のだと考えられます。

Next: 「ホームランは、かっ飛ばさない」黒田日銀総裁の苦悩と怒り



黒田日銀総裁の苦悩と怒り

黒田日銀とて、29日に「追加の金融緩和策」をまったく行わないわけにはいきませんでした(日本国内の内需が冷え込み始め、物価が下がり始めている!)。

さりとて、安倍自民党政権がおよそ13兆円規模(?)の財政刺激策を用意しているときに、黒田日銀が同時に「10兆円規模の量的金融緩和」を行えば、即座に「ヘリコプターマネー疑惑」が巻き起こってしまいます。黒田日銀は、これだけは避けたかったようです。

マイナス金利の深堀」は銀行業界に評判がよろしくない。これも避けなければならない。

「追加の金融緩和策」は行わなければならない、しかも「ヘリマネ疑惑がゼロ」の緩和策しか打ちたくない。すると「日本株ETFの買い支え」しか、もはや手段は残っていませんでした。

追い詰められた黒田日銀が苦肉の策として打ち出した緩和策こそが、「日本株ETFの6兆円買い支え」策だったようなのです。

この日の黒田日銀総裁は記者会見でも、始終、機嫌がとてもとても悪かったです。激しい怒りを全身全霊にため込んでいる様子でした。

「誰が日銀だけの責任でヘリマネなんか発動するものか!」
「ヘリマネを発動したいなら、政治家たちが国会審議を通じて決めるのが筋だろうが!」
「ヘリマネへの決断は日銀の責務ではない!それは政治が背負うものだ!」

怒り心頭の様子でした。

ホームランは、かっ飛ばさない

この日の黒田日銀は、次回9月会合での「追加の金融緩和策」に含みを持たせました。

黒田日銀は、7月29日に「ホームラン」(ヘリコプターマネー疑惑)をかっ飛ばすことを避けて、うまくファウル(日本株ETF買い)でお茶を濁して、時間稼ぎをしました。

そして黒田日銀は、次回9月の日銀金融政策決定会合でも、そのまた次回10月の日銀金融政策決定会合でも、ずーっと「ファウル」を打ち続けて時間稼ぎを続けることでしょう。

安倍自民党政権側が「ヘリコプターマネーは国会(=政治)の責任の下で発動する」と決断するまで、黒田日銀は「ファウル」を打ち続けるのではないでしょうか?

Next: 安倍政権は、ひたすらファウル狙いの黒田総裁をクビにする?



安倍政権は黒田日銀総裁をクビにする?

日本経済の場合は、デフレがあまりにも長きにわたって続いたので、ここから抜け出すには、ものすごい勢いが必要です。人々の心の中には、負け癖、節約癖がしみ込んでしまっています。

ここから脱出するには、それこそ「ロケットのような推進力」が必要。そのためには、今の日本には、積極財政とセットになった「ヘリコプターマネー」が必須なのです。

ただし、これほどの重責を、黒田日銀という単独の組織の決断(責任)に背負わせて良いものでしょうか?

「新発国債や新発財投債については、これを日銀が買い支える」ことを、国会で堂々と決議したほうが良いのではないのか?正当なヘリコプターマネーを発動するとの国会審議を経て、しっかりと決議してから、日銀にヘリコプターマネーを発動してもらうという正当な手順を踏んだほうがよいのではないか?」と、当メルマガではそう考えるようになりました。

日銀だけにヘリマネの決断と責任を背負わせようとするなら、黒田日銀総裁は、どんなに追い込まれても、ホームランではなく、今後もひたすらファウルを打ち続けて粘ろうとするのではないでしょうか?

それとも、安倍自民党政権は、黒田日銀総裁をクビにして、ギンギンのリフレ派(たとえば、本田悦朗元内閣官房参与あたり)を日銀総裁に持ってくることになるのでしょうか?


※本記事は、『藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』2016年8月2日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に定期購読をどうぞ。

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藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』2016年8月2日号より一部抜粋、再構成

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