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メイ首相まさかの「敗北」も。イギリス総選挙とEU離脱交渉の行方=大前研一

英国のメイ首相が2020年予定の総選挙を前倒しで行うと表明。下院の可決を受け、6月8日の実施が決定しました。現状の高い支持率で足場を固め、EU離脱交渉に臨む考えです。(『グローバルマネー・ジャーナル』大前研一)

※本記事は、最新の金融情報・データを大前研一氏をはじめとするプロフェッショナル講師陣の解説とともにお届けする無料メルマガ『グローバルマネー・ジャーナル』2017年4月19日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に定期購読をどうぞ。
※4月23日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。

プロフィール:大前研一(おおまえ けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長。マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997~98)。UCLA総長教授(1997~)。現在、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役。

まるでサッチャー。メイ首相の公約破り「前倒し総選挙」は前途多難

【英国】6月8日に総選挙実施 現政権への民意を問う

イギリスのメイ首相は18日、2020年に予定している総選挙を前倒しで行うと表明し、下院の可決を受け6月8日の実施が決定しました。メイ首相は、イギリス政府はEU離脱という国民の意思を実現しようとしているが、議会はバラバラだとして野党等を批判。離脱を成功に導く強力な政権を作るため、選挙を行う必要があると強調しました。

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本来なら保守党が圧勝の状況です。労働党コービン氏は全く人気がなく、支持率は13%にとどまっています。一方、メイ首相の支持率は50%を上回っています。保守党と労働党の比率はもう少し拮抗していますが、党首同士の支持率は大きく差が開いているのです。

その他には、スコットランド独立志向を持つスコットランド国民党などがありますが、基本的には、下院の党派別議席数を見ると保守党が過半数を占めており、労働党は今の党首では惨敗する可能性が高いのです。しかし、実はこのままメイ首相が突っ走るのを許してはいけないということで、やむを得ず労働党に票を投じるという現象が起こる可能性も高いのです。メイ首相に勝手に走る手形を与えないという人が相当出てくると考えられるのです。

メイ首相は「今のままいけば、3分の2は取れる」と気楽に考えて6月に選挙となったわけですが、選挙をやることについては賛成の圧勝で、反対は13人しかいなかったのです。ただ、基本的にはこうしたことをやってもあまり意味がありません。メイ首相は「議会が言うことを聞かず、私の足を引っ張っている」としていて、彼女の頭の中にあるセルフイメージとしては、鉄の宰相サッチャーなのです。それによって今は喋り方もだんだんとサッチャーに似てきています。相手を決めつけるような話し方も、ほとんどサッチャーになってきています。

安定政権でEU離脱交渉に臨めるか

選挙はしないという約束で来たわけですが、今回の理屈としては、「EUとの交渉でいちばん苦境に陥っているときに選挙をすることになるので、今のうちに選挙をやり、それから改めて突っ込んでいく」ということを理由にしていました。選挙しないという今までの公約を覆した形なのです。

EUは「イギリスが分担金7兆円を払わないことには交渉しない」としていますが、その分担金について、イギリスは加盟国の中でドイツ、フランスに次いで3番目に多く負担していました。しかし、合計すると払っていない分が7兆円あるというのです。一方、イギリスは大学や農業の分野で補助金を受け取っていました。これは加盟国の中で6番目の割合となっています。イギリスにとってみると、払っている割には受け取る分が少ないという認識なのです。

いずれにしてもEUは、イギリスの思い通りにはさせないとしていて、痛い目に合わせてやると手ぐすねを引いて待っている状況です。メイ首相が選挙で圧勝しない限り、イギリスの言い分が通るとは思えません。ただし、圧勝したとしても、EUの方はそれによって態度を変えないと思われます。

スコットランド独立については、2年以内に投票をもう一度やるとしていて、ここでメイ首相がものすごい信任を得て、スコットランド国民党が大敗すれば、それを抑えこむこともできるかもしれません。しかし、スコットランドの人たちは自ずとそちらに投票するので、一定の票は取れることと思います。一定の座席は確保できるので、あまり影響なく国民投票をやってしまうことになるだろうと思います。

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【トルコ】国民投票勝利でエルドアン大統領の独裁制へ

EUは対トルコ関係の根本的見直しを」と題する記事を英紙『The Financial Times』が掲載しました。これは、16日に行われた国民投票の勝利により、トルコのエルドアン大統領はほぼ縛りのない行政権を握ることになったと指摘しています。これに対し、パートナーであるヨーロッパ諸国は控えめな反応を示しているものの、トルコの新憲法はEU加盟の基準とは相入れず、ヨーロッパ諸国にとってはジレンマが先鋭化することになるとしています。

今回の51対49という僅差でのエルドアン大統領の勝利は、いろいろな点で考えさせられるものです。1つは、大統領に全権限を三権まで与えてしまうことで、つまりトルコは議会制民主主義ではなくなり、大統領独裁制となるわけです。なぜ三権かと言うと、裁判所の司法長官を含め、大統領に任命権があるのです。したがって、これはオスマントルコに戻ったという表現をするイギリスのテレビもあるほどです。

「ここまでやらなければいけないのか」ということで、トルコの中は今回、完璧に二分化してしまいました。EUはこれにしらけてしまい、もうトルコのEU加盟はないだろうとしています。おそらくエルドアン大統領もそれは覚悟の上で、EUに加盟するなどという甘いことは考えず、トルコはトルコの道を行くという考えでしょう。

ただトルコはNATO(北大西洋条約機構)には入っているので、軍事同盟はやりながら、このようにヨーロッパから距離を取ることができるのかという点は疑問です。また、死刑復活ということになり、ヨーロッパから見ると許せない部分が多く出てきてしまいました。

アメリカも、Divided States of America と表現される状況になっていますが、トルコでも大統領独裁制に賛成をしたところは田舎が多く、アンカラやイスタンブールなどは改憲に反対しています。また、外国との関係が深いイズミールなども改憲反対です。地域別に見ると、アメリカでトランプを応援した地域があったのと同じようなことになっているわけです。

アメリカは「United States of Inland」と「United States of Coast」というふうに二分したわけですが、トルコの場合には「田舎」と「比較的産業の起こっている所」に分かれています。もちろんクルド人勢力の強いところは、東に多いのですが、田舎でも反対をしているところがあります。この地域では今のエルドアンの独裁など許せないと思っているのです。田舎は賛成していますが、その中でもクルド人地区の田舎は反対に回ったということなのです。

トルコはここから先は予断を許さず、エルドアン大統領が、どこまで以前の古き良きエルドアン(素晴らしいリーダーシップを発揮していた首相になって1年目の頃)に戻るのか、それともこのまま突っ走って行ってしまうのか、注意して見ておく必要があります。

エジプトとトルコは両方ともほぼ軍事独裁制の方に行ってしまったわけですが、これがいわゆる中東の盟主となっているのです。その他にはイラン、サウジのようにスンニ派とシーア派で戦うような国がありますが、中立的なところで期待ができるのはエジプトとトルコだったわけです。

しかしエジプトは軍事政権のような形で、一方のトルコは基本的には軍事政権とは言えませんが、憲法を変えて独裁制を突っ走っていくという国になったということなのです。そして驚くべきことに、これに賛成する人が51%もいたというわけなのです。

おさらいになりますが、トルコは、人口比でみた場合、イスタンブールのようにGDPの非常に大きい地域の全部が今回の改憲に反対しています。これらの地域は、どちらかというと外国との取引も多く、外国の人も住んでおり、外国からの訪問客も非常に多いところです。こうしたところは、エルドアン大統領にとってみると邪魔だということなのでしょう。

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グローバルマネー・ジャーナル』(2017年4月26日号)より抜粋
※記事タイトル、太字はMONEY VOICE編集部による

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