大きく報じられることが多い「大塚家具」の父娘の対立。どっちが良くて、どっちが間違っている…という話になりがちですが、双方の戦略を見ると、どちらも正しいです。(『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』児島康孝)
日本が「デフレ」でさえなければ、父娘はもっと仲良くできたはず
対立する父娘の経営戦略は「どちらも正しい」
大きく報じられることが多い「大塚家具」の父娘の対立。どっちが良くて、どっちが間違い…という話になりがちですが、双方の戦略を見ると、どちらも正しいです。どういうことなのか、解説していきます。
福岡の博多リバレインという複合商業ビルに大塚家具の福岡ショールームがあり、ちらっと覗いてみました。家具のクオリティとデザインのレベルは、以前の大塚家具に比べてセンスが良いと感じます。「どうしてこれが売れないのか?」という印象を持つぐらいです。
ところで、この博多リバレインは、福岡一の商業集積地「天神」と、ここ最近でターミナルビルが見違えるように良くなっている「博多駅」の中間にあります。地下鉄の「中洲川端駅」と直結していて、便利ではあるのですが、天神と博多駅の集客力が強すぎて、間にある博多リバレインは1999年の開業当初から苦戦しています。ですので、やはり店内の客は週末でもまばらです。面積は十分に広くて綺麗なビルなのですが、客数が明らかに少ないのです。
対照的なニトリと大塚家具
さて、一方でニトリは、デフレの経済状況で商売を伸ばしました。非正規雇用の増加や失業などの影響で、一般人の所得が大きく落ち込み、家賃の支払いも当然に厳しくなっています。収入がかつての半分になったとか、3割になったとか。そういう状況もあたり前に存在します。
すると、以前は3LDKの賃貸マンションに住んでいた人が、ワンルームや2DKのハイツ・アパートに流れてきます。当然、以前のように大きな家具を置くスペースがなく、ニトリで安くてコンパクトな家具を買うことになります。
つまり、大塚家具で買った家具を家に置けるという人が、急速に減ってしまったわけです。
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守りの父と攻めの娘。それぞれの経営戦略の特徴
大塚家具の父娘の考えをみますと、父は手堅く商売する方向でがっちり顧客を囲み、ニトリやイケアが売り上げを伸ばしても生き残る方法を模索していると見えます。やはり、長年にわたって家具の商売をしてきた経験と勘がそうさせているのでしょう。
父の商売は、ニトリやイケアを見たうえで、守りに強い商売を選択したように見えます。現状の厳しい消費の状況が続いても大丈夫なようにという考えなのでしょう。
一方の娘は、父親譲りなのでしょう、正面から苦境を突破しようとしています。大塚家具のセンスは良くなっているし、前進しているのは確かです。
ここでのおそらく決定的な問題は、デフレがいつまで続くかということです。娘のビジネスは、日本経済がデフレから回復し始めると、急速に息を吹き返す可能性があります。
当メルマガではデフレからの転換の見通しを書いていますので、方向としては合っていると思います。ただ、問題なのは、デフレ脱却のスピードがどうなのかです。デフレ解消のスピードが遅ければ、その間に潰れてしまうかもしれないからです。
また、ちょっと気にかかるのは、北欧や欧米家具のデザインのレベルの高さと、それらと競争をしなければならないということです。もちろん日本には、日本において使いやすい家具があります。それでもやはり、歴史的に見て、デザインの力の差は大きいです。これは、大塚家具の本社をNYやイタリアの都市に移してやるぐらいでないと、力の差を埋めるのは難しい問題です。
父の商売は、デフレ脱却が遅れても、何とか持ちこたえそうな考え方です。しかし、もしデフレが解消した場合のビジネスの拡大では、娘の戦略に比べて遅れをとるでしょう。
こうしてみますと、これほどのデフレ不況がなければ、ここまでの父娘の対立はなかったように思います。デフレ不況は1990年頃からの日銀の金融政策の結果であり、日銀の責任は重大です。おそらく、ここまでデフレが進まなければ、大塚家具の父娘も幸せに、ともに力を合わせて経営していたのでしょう。
『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』(2017年4月26日)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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