日本郵政<6178>が、2015年に買収したオーストラリアの物流子会社・トール社を減損処理し、4,000億円の特別損失を計上すると発表しました。これにより、日本郵政の業績は民営化以来初の赤字に転落します。
海外企業の巨額買収に絡む減損損失の計上は、東芝<6502>を筆頭に相次いでいます。奇しくも、トール社を買収した時の日本郵政社長は、東芝出身の西室泰三社長でした。日本郵政も東芝のように経営危機に陥ってしまうのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
東芝よりもタチが悪い? 日本郵政が抱える「本当の問題」とは
課題は金融2社依存からの脱却
日本郵政は、傘下に主要3子会社を抱える持株会社です。3社とは、日本郵便、ゆうちょ銀行<7182>、かんぽ生命<7181>です。トール社は日本郵便の子会社として買収しました。
もともと郵政事業として国が行っていましたが、小泉内閣により民営化され、2015年11月に日本郵政とゆうちょ銀行、かんぽ生命の3社が上場しました。
なぜ持株会社と傘下の子会社が両方上場するのかというと、そこには複雑な事情があります。
日本郵政は政府が株式の1/3超を保有しなければならないため、現行の法律では完全な民間会社になることはありません。
政府関与の残る日本郵政がゆうちょ銀行やかんぽ生命(以下、金融2社)の株式の大半を保有していると、競合他社から「暗黙の政府保証が残る」とクレームが付きます。これでは事業が前に進まないため、日本郵政は金融2社の株式を放出しなければならないのです。
しかし、日本郵政の利益の大半は将来的に売却される金融2社に依存しています。経常利益に占める割合は2社で約9割に及びます。金融2社の株式を売却してしまったら、日本郵政には利益は残らないのです。
経営の根幹を支える金融2社の株式をこれから売却していこうとする中で、日本郵政は金融以外の成長戦略を示さなければ、投資家から見向きもされないことは目に見えていました。
金融2社に頼らないとなると、残るのは日本郵便です。しかし、郵便はインターネットの普及により年々縮小が続いています。インターネット通販の拡大により、ゆうパックなどの宅配サービスは伸びていますが、人件費の高騰もあり「豊作貧乏」が続きます。
それでも上場を前に目に見える形で成長戦略を打ち出さなければならない中で目をつけたのが、たまたま売りに出ていたトール社です。買収により「上場を経て一気にグローバル企業へ」と言えば、それらしくも聞こえるものです。
要するに、成長の可能性を匂わせるものであれば何でもよかったと考えられます。実際に、日本郵政は買収後も経営陣を送り込むことすらせず、完全に野放し状態が続いていました(そもそも日本郵政はお役所なので、海外企業を経営する能力はないのですが)。