リスクは去ったが、成長は見えない
逆に言えば、6,000億円はゆうちょ銀行から「もらった」お金なので、ドブに捨ててもダメージは大したことではありませんでした。自動車免許取り立ての若者が、親から多額のお小遣いをもらって高い外車を買い、調子に乗って事故ったようなものです。
経営の根幹を脅かすものではなく、東芝のように急激に経営危機に陥ることはないでしょう。
巨額損失報道後、株価は一時下落しましたが、その後戻しています。減損処理を行ったことで、今後のリスクが減少すると市場は考えたのです。
これはある意味正しい考え方でしょう。日本郵政が抱える事業はいずれもローリスク・ローリターンのものばかりです。唯一大きなリスクとなっていたトール社を減損したことで、業績の下方リスクは軽減されました。
一方で、日本郵政の本当の問題はリスクの大きさではなく成長性です。
今回の件からもわかるように、日本郵政に成長戦略を実行する能力があるとは思えません。郵便事業はジリ貧の状況が続き、金融2社の株式を売却してしまったら、価値のあるものはほとんど残りません。
日本郵政が持つ最大の資源は、全国2万4,000件の郵便局です。最近ではIIJ<3774>と組んで、郵便局で格安スマホを販売するなど積極的な動きを見せています。
しかし、これくらいでは会社を大きく成長させるものにはならないでしょう。郵便局の局員が、切手を買いに来た人にスマートフォンの売り込みをしたり、複雑な契約をいちいち説明したりする時間や能力は必ずしも備わってないと思われるからです。
また、郵便局は金融2社の窓口業務を担うことで年間1兆円の収入を得ていますが、株式の売却が進めばこの委託手数料にも値下げ圧力がかかるでしょう。大幅な値下げが行われれば、単独としての郵便局はもはや立ち行かなくなるでしょう。