マネーボイス メニュー

From Wikimedia Commons

「戦争と株価」3つの法則~第一次・第二次大戦からテロとの戦いまで=東条雅彦

現在、北朝鮮の地政学的リスクがクローズアップされていますが、もし戦争が起きた場合、株価はどのように動くのでしょうか?歴史を振り返り、戦争が株価に及ぼす影響に迫ります。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)

株価が下がるとは限らない、歴史を紐解いて分かった3つの法則

戦争は株価にどのような影響を与えるのか?

第二次世界大戦が終結した1945年以降、大きな戦争は起きていません。特に日本は長い間、平和を謳歌してきました。

ところが、2017年3月下旬頃から、急に北朝鮮の地政学的なリスクがクローズアップされるようになりました。今、米国と北朝鮮は軍事衝突、一歩手前まで来ています。この動向は引き続き注視しなければいけません。

株式投資をしている人の中には、「戦争になっても自分の資産は大丈夫なのだろうか?」と気になっている人も多くいると思います。そこで本稿では、戦争が起きると株価はどのように反応するのかについて、過去の歴史的データをもとに調べていきます。

【関連】米国の北朝鮮攻撃は期待薄?トランプのシナリオに翻弄される日本=近藤駿介

二度の大戦とS&P500指数

人類の歴史上、大きな戦争は第一次世界大戦第二次世界大戦の2つです。

<第一次世界大戦>1914年7月28日~1918年11月11日(4年3ヵ月間)

<第二次世界大戦>1939年9月1日~1945年8月15日(6年間)

米国市場の代表的指数であるS&P500の動きを見ると、次のようになっていました。

<S&P500 1909年~1923年の株価チャート(第一次世界大戦前後)>

この株価チャートは、第一次世界大戦が開戦する5年前の1909年から、終戦5年後の1923年までの動きを示しています。第一次世界大戦中(1914年7月28日から1918年11月11日まで)の期間を黄色で網掛けしました。S&P500は1909年から1923年まで7ドルから11ドルの範囲で動いています。

同じように、第二次世界大戦が行われた時期についても確認してみます。

<S&P500 1934年から1950年までの株価チャート(第二次世界大戦)>

株価チャートは第二次世界大戦が開戦する5年前の1934年から終戦5年後の1950年までの動きを示しています。第二次世界大戦中(1939年9月1日から1945年8月15日まで)の期間を黄色で網掛けしました。1942年に7ドル近くまで下落していますが、その後、急反発しています。

戦争期間中だからと言って、株価が一方的に下がり続けることはありません。株式市場は意外にも弾力性があることが伺えます。

株価はいつも通りに上がったり下がったり

戦争期間中だからと言って、株価が一方的に下がり続けることはありません。いつも通りに上がったり下がったりを繰り返すだけです。

S&P500の年足終値は、次のように推移していました。

<第一次世界大戦 1914年~1917年>

<第二次世界大戦 1939年~1945年>

参考までに、下記に米国が戦争していなかった1920年から1925年までの株価推移を示します。

<米国が戦争していない期間 1920年~1925年>

前年比だけに着目して株価の推移を追っていくと、戦争中なのかそうでないのかを見分けるのはほとんど不可能でしょう。第一次世界大戦、第二次世界大戦は世界中の国々を巻き込んだ大きな戦争だったので、株価が大きく下がったと推測していた人が多いかもしれません。ところが、実際にはほぼいつも通りの動きだったのです。

Next: 第二次世界大戦中の日本市場はどうだった?意外な結果と注意点



日本の株式市場はどうだった?

米国は第一次世界大戦と第二次世界大戦の2度とも戦勝国になったので、株価の動きに顕著な変化がなかった可能性があります。そこで、日本の株式市場が第二次世界大戦中にどのように動いたかを見てみましょう。

<日経平均株価 1934年から1950年までの株価チャート>

第二次世界大戦中(1939年~1945年)の期間を黄色で網かけしました。意外にも戦争中の株価は概ね横ばいで推移しています。開戦前は35円前後でウロウロしていました。戦争中は35円から45円の範囲で動いています。それほど、大きな差はありません。おそらく黄色の網掛けをなくして、年数を隠して、純粋にグラフだけを見た場合、戦争中かどうかを判断するのは相当、困難だと思われます。

ところで、第二次世界大戦が終了した1945年以降、日経平均株価はS&P500にはなかった特異な動きを示しています。1946年の後半には30円を割っていた株価が、1947年には40円を突破し、1948年には60円を超えて、グラフの表示範囲上部に突き抜けてします。

なんとなく想像できた人もいるかもしれませんが、これは戦後のハイパーインフレ(急激にインフレが進むこと)の影響です。さらに詳しく見てきましょう。
※本稿でのハイパーインフレの定義は、国際会計基準(3年間で累積100%(年率約26%)の物価上昇)に基づきます。

日本の敗戦後に株価が「暴騰」したのはなぜ?

日経平均株価は第二次世界大戦が終わった1945年から10年後の1955年まで、次のように推移しています。

<日経平均株価の推移 1945年~1955年>

<日経平均株価(年足終値)の推移 1945年~1955年>

10年後には日経平均株価が10倍以上(40.53円→425.69円)に増えています。

戦争で社会インフラと生産設備が破壊されたので、需給バランスが大きく締まりました(=需要に対して供給が不足する→価格が上昇する)。

さらに追い打ちをかけるように1946年、国債の返済が不可能になった日本政府は「新円切り替え」「預金封鎖」「財産税による資産没収」を実施しました。日本政府は通貨「円」の価値を大幅に毀損することによって、実質的な債務をチャラにしたのです。

日経平均株価の暴騰は間違いなく、インフレの影響です。インフレとは「通貨価値が下がる減少」です。当時、相対的に通貨以外の全ての商品・サービスの値段が上昇していきました。これは敗戦国であるドイツでも同じ状況に陥っています。

Next: 当時、日本株を保有していた場合、資産防衛は可能だったのか?



日本株を保有していた場合、資産防衛は可能だったのか?

第二次世界大戦中に日本株を保有していた場合、その後のインフレに打ち勝てたかどうかがとても重要です。いくら株価が10年で10倍になっても、通貨価値が急激に下がり続けるインフレが進行したら無意味だからです。

当時、消費者物価指数を計測していなかったため、代わりに企業物価指数を確認してみます。企業物価指数とは、国内において企業同士で取引されるモノの価格を対象とした指数となります。

<企業物価指数(戦前基準)1945年~1955年>

企業物価指数は3.5(1945年)から343.0(1955年)に増えています。10年で98倍(343.0÷3.5)の物価上昇が発生しています。

その間、日経平均株価は40.53円から425.69円の10.5倍に増えました。物価が約100倍になって、株価が約10倍になりました。

物価上昇率のほうが、日経平均株価の上昇率よりもはるかに高くなっています。

このことは、戦争で社会インフラと生産設備の大半が失われた影響と、政府の実質的なデフォルトの影響が、いかに大きなものだったかということを物語っています。

参考までにですが、投資期間を1983年まで引き延ばすと、日経平均株価が企業物価指数に勝つようになります。

日経平均株価が企業物価指数に打ち勝つには、1980年代のバブル経済の力が必要だったのです。

<企業物価指数 vs. 日経平均株価>

Next: 新しい戦争の形。21世紀の「テロとの戦い」でS&P500はどう動いた?



21世紀の「テロとの戦い」でS&P500はどう動いた?

第二次世界大戦が起きても、S&P500も日経平均株価も大きくは下落しませんでした。そして、戦後に日経平均株価が急騰したのは、社会インフラの毀損と政府の財政破綻によるハイパーインフレが原因でした。

そこでここからは、近年に発生した地政学的な有事がどのぐらい株価に影響を及ぼしたのかを見ていきます。

あの第二次世界大戦でさえ大きくは下落していなかったので、それほど影響は受けていないはずですが、一応、確認していきましょう。

S&P500を中心にチェックしたいと思いますので、米国に関係する地政学的な有事をリストアップします。

<21世紀以降で発生した米国が関係した主な有事>

2001年9月11日:米国同時多発テロ
2001年~2014年:アフガニスタン紛争
2003年~2011年:イラク戦争
※他にも多くあります。

米国同時多発テロが発生した2001年9月11日は、S&P500が大きく下落しました。1,100ドルから950ドル近辺まで落ちています(約14%弱、下落しました)。しかし、すぐに反転して、1ヵ月後には元の水準まで回復しています。

<S&P500 米国同時多発テロ(2001年)>

アフガニスタン紛争やイラク戦争については、株価チャートを見る限り影響はほぼありませんでした。

2001年以降、S&P500は次のように推移しています。

<S&P500 2001年~2017年現在>

2008年のリーマンショックの影響で大きく下落しています。株価に対しては、戦争などの地政学的な有事よりも、金融危機の方が圧倒的に大きな影響を与えることがよくわかります。

Next: 「戦争と株価」3つの法則まとめ



近年は大規模な戦争は減りつつある

20世紀には、第一次世界大戦と第二次世界大戦と大きな戦争がありました。第二次世界大戦では推定で8,000万人近くが亡くなったと推定されています。下記のグラフは、1939年以降の戦争で亡くなった人の数を示したものです。

<1939年以降の戦争で亡くなった人の数>

(説明)
赤=第二次世界大戦での死者数
紫=植民地戦争での死者数
緑=国家間の戦争での死者数
黄=内戦での死者数
オレンジ=外国の干渉を受けた内戦での死者数

出典:映像作家ニール・ハロラン氏の動画「第二次世界大戦の戦没者」

このグラフを見ると、第二次世界大戦がとんでもなく非人道的で悲惨な戦いだったことがわかります。21世紀以降、戦争で亡くなる人は大幅に減ってきています。今後もこの傾向が続くことを望みたいものです。

「戦争と株価」3つの法則まとめ

【法則1】戦争中であっても、株価が一方的に下がり続けることはない。

<第二次世界大戦中のS&P500と日経平均株価の年足>

【法則2】S&P500の株価推移を見ると、2度の世界大戦があっても100年を超える長期では上昇し続けている。

(参考)
・第一次世界大戦(1914年~1918年)
・第二次世界大戦(1939年~1945年)

<S&P500 年末株価の推移>

【法則3】戦争によって社会インフラと生産設備の大半が破壊され、政府の財政が破綻した場合、当該国の株式保有で資産を防衛しようとすると、リカバリーに多くの時間がかかる(日本の場合、38年の時間が必要だった)。

<企業物価指数 vs. 日経平均株価>

【関連】著名投資家のジム・ロジャーズが「北朝鮮の内部崩壊」を確信するワケ=東条雅彦

【関連】ジョジョの奇妙な人口問題~「100人村」で理解する2065年日本の危機=東条雅彦

ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2017年4月30日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

無料メルマガ好評配信中

ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~

[無料 週刊]
■電子書籍『バフェット流投資入門(全292頁)』をメルマガ読者全員に無料プレゼント中♪世界一の投資家ウォーレン・バフェットの投資哲学、人生論、さらに経済や会計の知識が、このメルマガ一本で「あっ」と驚くほど簡単に習得できます!!著者はバフェット投資法を実践して、6000万円の資産を築き、さらにヒッソリと殖やし続けています。(ブログよりも濃い内容でお届け☆彡)●バフェットの投資法を小学生でもわかる例え話で学べます。●複利マジックで経済的自由の達成を目指します。●日本経済の現状から取るべき投資戦略がわかります。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。