マネーボイス メニュー

NYダウと日経平均、利上げのアノマリー/ブラックスワンは何になる?=山崎和邦

投資歴55年の山崎和邦氏が、NYダウと日経平均の関係、米欧日の利上げのタイムラグ、今後の日本で起こりうるブラックスワンについて解説します。

※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2017年5月14日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

将来の日本市場におけるブラックスワンは何か?山崎和邦の視点

NYダウと日経平均~方向は連動しても、高低レベルはさにあらず

NYダウは、87年のブラックマンデーも含めて、86年以降から現在まで上下33%の範囲に収まっている。NYダウは上昇した場合も33%以内、下降した場合も33%以内の範囲に収まっているが、日経平均は上昇した場合には+50%、下降した場合には-40%超となっている。

リーマン・ショックを例外として、NYの下落率は20%以内に収まっている。NYダウ創設以来120年間で20%以上の下落は10数回しかなく、この20%以上の下落または上昇をもって「趨勢(すうせい)が変化した」ということにしている。日経平均の場合は20%以上の下落は何十回でもある

これはNYダウの構成と除数、構成する銘柄30種が時々株価の高いものに入れ替えられるという点と、連続性を継続させるために用いる除数が年々低まっていくようにできているからだ。従って、割り算される数値(被除数=NYダウ)は高まっていくことになる。

これに反して日経平均は除数が年々高まっている。つまり、割り算される日経平均そのものは低くなる勘定になる。例えば、歴史上最高値の平成バブル38,915円のときに日経225銘柄の株価を合計すれば、約40万円だった。この時、除数は9.9だった(ゆえに被除数は38,915円になった)。ところが、現在では除数は26.3ぐらいに増えている。

現在、日経平均を構成する225種の株価の合計は約50万円である。これを26.3で割るから今の被除数が今の日経平均となる。従って、NYダウと日経平均との上下の「方向性(トレンド)」は大いに連動するが、その「水準(レベル)」そのものも上昇率・下降率も連動させる必要はないし、連動しないのが自然である。

米欧日の利上げにタイムラグ、過去半世紀のアノマリー

1970年前半から世界的な金融引き締め局面は5回あった。そのうち4回は米国発だった。日本への波及は米利上げから概ね2年のタイムラグをもって現れた。FRBが最初の利上げに踏み切った一昨年12月を起点とすると、今回は過去半世紀で6回目の利上げ、6回目の金融引き締め局面となる。

普通は2年のタイムラグをもって日本が続いたが、今回2年というと今年の11月から日銀は出口戦略にかからなければならないことになるが、これは誰が考えても難しい。強行すればすべてが壊れる。

日銀は「2%」の達成は18年頃とするが、市場では疑問視している。まして米国が開始してから2年のタイムラグをもって行うとすれば今年の末からということになるが、これはまったく難しい。また、すべきではない。世界の主要中央銀行が7回目の金融引き締め局面に入るまで、日銀の利上げは難しいと思う。日・欧・米の中で日本だけが取り残される可能性はある。

かといってそれを急げば、「2%目標」からほど遠い現在、利上げに踏み切れば日本経済の腰折りを招くことは明らかである。よって日本だけが取り残される可能性はある。

Next: 今後、日本で「ブラックスワン」があるとすればそれは何か?



日本のテールリスクを考える

今後、日本でブラックスワンがあるとすればそれは何か。

  1. 首都圏直下型M8レベルの地震
  2. 富士山の噴火(富士山は地学上の定義で活火山であるから、富士山の大爆発で極東一帯に航空機が飛べなくなるし、日陰となって農業大不況が来るか、酪農も全滅する)
  3. 日欧米の中で日本だけが取り残される金融政策の失敗(人災である)
  4. 欧米を徘徊するポピュリズムやテロリズムの動き
  5. 日本の国債が投資不適格銘柄として格下げされる事態

色々があるが、そういうことを列挙して心配しているうちは、それは「ブラックスワン」とは言わない。「リスク」と言う。その確率が計算できないからむしろ「不確実性」と言おう。

「(1)リスク→(2)不確実性→(3)ブラックスワン」という順番に、(1)起きる可能性は極めて少ないが、(2)起きたら激震をもたらし、(3)その数年後にはなぜ起きたかということが理路整然と後講釈が理論付けられる(ヘーゲル曰く「ミネルヴァの梟(ふくろう)は迫り来る黄昏に飛び立つ」)。

これを「ブラックスワン」と言っている。リスクというのは事前に予想できるし、ある程度の確率計算ができるものを言い、不確実性というのは確率計算が全くできないが起こり得ると予想できるものを言う。ブラックスワンというのはそのいずれでもない

ここでブラックスワンの1つとして、日本の国債が投資不適格銘柄に認定される日が来るという仮説を考えてみよう。次の項で述べる。

Next: 果たして、日本国債が「投資不適格」になる日は来るか?



日本国債が「投資不適格」になる日は来るか?

2019年10月の消費税率再引き上げを再延期するという可能性がある。そういう中で日本国債の格下げの方向をとるリスクは大きい。

下記の見方はJPモルガン銀行の為替調査部、JPモルガン証券の債券調査部、同社株式調査部の展開をまとめたものである。

日本の国債は格付けを何度も落とされたが、それにもかかわらず安定的に消化されているのは次の4つの背景がある。

  1. 日本国は対外純資産を豊富に保有している
  2. 経常黒字に反映される潤沢な国内貯蓄がある
  3. それに対して外貨建ての債務はほとんどない
  4. 国債の多くを自国の中央銀行が保有している

だが何年か後、いずれかの時点で経常収支が赤字に転落し、国内だけでは財政ファイナンスができなくなる場合が起こり得るとする。そうすると投資不適格に格落ちした日本の国債は大きな逆風となるだろう。

その影響は把握し難い。為替はどうなるか。過去の格付けが格下げされた際の円相場の動向については一定のパターンがない。それは格付けの背景にある要因が既にマーケットに織り込まれているからであろう。次に国債が格下げになると、銀行格付けも下がる可能性が高い。

日本の公的債務対GDPの比率は、今年度のGDP推計で言えば約240%前後だ。これは主要先進国のうち群を抜いて高い。短期国債を除いても発行残高は936兆円に達している。

2019年10月に予定されている消費税率の10%への引き上げが再々延期される可能性も大いにある。そこで国債は再々格下げになる可能性が大いにある。格下げが何回もあったにもかかわらず、日本の長期金利は過去10年あまり低下基調をたどっていない(債券価格は下がっていない)。

これには上記に述べた4つの背景があることはもちろんである。日本の国債が投資不適格の格付けになった時にどういう見通しが起きるだろうか。

格付け会社ムーディーズは、日本の債務の規模は第二次大戦後に先進国が経験したことがどこにもないレベルに達した「アンチャーテッド・テリトリー(未知の領域)」と述べている。同社は初めてデフォルトの可能性にも言及した。「最もデフォルトの可能性は極めて低い」としてはいるが。

格付け会社は、経常黒字を稼ぎ出す能力や当該国のGDPの動向などはあまり重視せず、当該国家の政策が財政規律を重んじるか歳出削減を重視するかという点に大きく重点をかけているように見える。

2007年に福田政権の下で歳出削減を主軸とした財政再建方式がされると見通された時に、それはポジティブな要因としてS&Pが4月に格上げを行い、ムーディーズも10月に格上げを行ったことがある。このように、彼らの見方は財政規律と財政再建に重点が置かれているようだ。企業で例えれば、「物やサービスを作る力」「売る力」「稼ぐ力」などよりも、「経費節減、財務健全化」の方に重点が置かれて評価されるのが国債の格付け基準であるようだ。

前述した(1)から(4)までの背景をもう少し詳しく見てみると、

(1)日本国は対外純資産を豊富に保有している

経常収支、潤沢な国内貯蓄を背景に日本の経常収支は一貫して黒字を記録し続けており、日本が経常黒字を維持し続けることは、国債の安定消化の視点からも極めて重要である。

(2)経常黒字に反映される潤沢な国内貯蓄がある

対外資産を豊富に持っていること。これが潤沢にあれば、国内金利が急上昇するようなタイミングや自国通貨が暴落するタイミングでも、民間対外資産の巻き戻しや外貨準備による自国通貨防衛介入を実施することができる。

(3)それに対して外貨建ての債務はほとんどない

自国の中央銀行が国債を多く持っていること。これは国債の危機局面で、事実上無制限の国債買い入れオペを実施することができるということだ。ギリシャの場合は、ギリシャ国債がデフォルトする間際でも欧州中央銀行ECBはギリシャ国債の買い支えをしなかった。しかし日本の場合は、日本の国債がデフォルトする間際だということになれば、多額の買い入れオペによって暴落を食い止めるだろう。

(4)国債の多くを自国の中央銀行が保有している

外貨建て債務が豊富であること。90年から2000年代初頭に新興国で頻発した経済通貨危機では、固定相場制崩壊等に起因した通貨暴落を受けて、いくつかの国はデフォルトの危機に瀕した。外貨建ての対外債務が大きい国は、相対的にこういうリスクに対して脆弱である。日本の場合、政府債務の大部分は自国通貨建ての体内債務であるため、こうしたリスクからもほとんど隔離されていると見て良い。
続きはご購読ください。初月無料です<残約8000文字>

<初月無料購読ですぐ読める! 5月配信済みバックナンバー>

山崎和邦の投機の流儀 vol.258(5/14)目次

1)当面の市況1――満月の日に今年最高値を付けた先週
2)「先物主導で足踏みした」先週の相場
3)先週最終日の「幻のSQ値」
4)当面の市況2:
★上場企業の利益が拡大される
5)フランスが停めた欧州ポピュリズム
当面の市況3:
6)NYダウと日経平均
(上下の「方向」は連動するが、高低の「レベル」そのものは比較しても意味がない、ということ)
7)滞留する膨大な個人金融資産
8)米景気改善
9)米欧日の利上げのタイムラグ、過去半世紀のアノマリー
10)北朝鮮包囲網に問題
11)トランプ大統領の経済政策は動くか ── 次週に詳述したい
12)米朝が火力を使った戦争はあるか、についての補足
13)今後、「ブラックスワン」があるとすればそれは何か
14)日本の国債が投資不適格銘柄と格付けされる日が来るか
15)日米金利差と円安
16)「日米貿易摩擦」
17)以前に絶妙のタイミングで「ドイツ銀行株を買った」読者との交信

山崎和邦の投機の流儀 vol.257(5/7)目次

1)先週(2日間だけ)の市況
2)FRBは3日~4日の公開市場委員会FOMCで追加利上げを見送った
3)ドル建てで見た日経平均はITバブル最高値の2000年4月以来の高値
4)個人投資家の手元資金は豊富
5)先々週は今年最大の週間上げ幅
6)金正恩の挑発に軽々しく乗ってしまったトランプ
7)米朝が火力を使った戦争をやるか、それはやらない
8)トランプの経済政策と議会の折り合い
9)昨年6月のBrexit騒動に次いでまたまた欧州の政治イベントのリスク
10)手堅い投資家なら「休むも相場」
11)中東にも迫る政治リスク(5月19日投票のイラン大統領選の話し)
12)海外の重要イベントを控え様子見ムード
13)トランプラリー主導水準は一つの目途


※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2017年5月14日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

【関連】私の見た「幸福な富裕者と不幸な富裕者」その決定的違い=山崎和邦

【関連】専門家が予測するトランプ失脚と「2020年アメリカ内乱」のシナリオ=高島康司

【関連】「戦争と株価」3つの法則~第一次・第二次大戦からテロとの戦いまで=東条雅彦

山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2017年5月14日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

山崎和邦 週報『投機の流儀』

[月額1,500円(税込) 毎週日曜日(年末年始を除く)]
大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。