目先の米国株はいったん調整するかもしれません。しかし押し目があればさらに買い増せばよいだけ。米国株の長期的な上昇基調はまだまだこれからです。その根拠を挙げてみましょう。(江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて)
本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2017年5月15日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:江守 哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。
真のピークアウトはまだ相当先。目先の調整は押し目買い好機に
米国株式市場~ナスダック指数をけん引するアップル
米国株は堅調さを維持しています。
少し上値は重くなっていますが、それでも歴史的高値圏は維持しています。
ダウ平均は構成銘柄の中身が影響して軟調ですが、ナスダック指数がすごいですね。アップルがけん引する格好で高値を更新しています。
ウォーレン・バフェット氏による株式の大幅買い増しや、年内に発売が予定されるスマートフォン「iPhone」の10周年モデルへの期待感がアップル株の上昇を支えているようです。
時価総額は終値ベースで初めて8000億ドルを突破しました。アップル株は年初から3割以上も上昇し、昨年11月の米大統領選からほぼ5割の上昇となっています。
この結果、アップル株はS&P500全体の約4%を占めるまでになっています。ものすごいインパクトです。
市場関係者によるアップル株の目標株価の中央値は160ドルで、3カ月前の140ドルから切り上がっています。
アップル株への期待感はものすごいものがありますね。
アップルが成長企業かどうかは、かなり微妙になってはきています。しかし、それでも株式市場での期待感が強いのは事実です。
この流れが変わるまでは、ヘッジファンドなどの大口投資家も手放すことはできないでしょう。
万が一手放して、さらに株価が上がってしまうと、自分の運用成績がアンダーパフォームするので、思い切って売却することができないのです。この状況がさらに株価を押し上げるといってもよいでしょう。
長短利回りスプレッドはまだマイナス圏
しかし、徐々に株価が割高になってきたとの声も増えてきました。
一部にはS&P500の売り推奨を出すストラテジストも出始めています。
しかし、株式リターンとの比較で考えると、債券利回りはまだ相当低く、さらに長短利回りスプレッドもまだマイナスです。
現時点で、株式投資のリターンが他の投資に比べてアンダーパフォームする可能性は低いでしょう。
繰り返すように、まずは米国債のスプレッドを確認すべきです。2年債と10年債のスプレッドはまだマイナス1%です。
これが短期金利の上昇を背景にプラス圏に入るまでは、株価は上昇し続けると考えています。これは、2000年のITバブルと2007年のサブプライムローン問題の際にも確認済みです。
米独債券利回りスプレッドにも注目
また、最近では米独債券利回りスプレッドにも注目するようにしています。
これはほとんどの人が見ていない指標だと思います。単純なスプレッドではありますが、米国株の天井をとらえるための指標としては意外に使えます。
このスプレッドが低下傾向、つまり、米国債に対してドイツ債の利回りが上昇してくると、米国株は天井圏に近づいてくると考えます。
しかし、このスプレッドもまだ懸念を示すような状況ではありません。
ユーロ圏のインフレ率がそれほど上がっていませんし、まして米国に対してはまだ低い状況です。
さらに、ECBがすぐに金融緩和政策を転換するような状況ではありません。そう考えると、このスプレッドの動きが米国株の天井を示すのはまだ先といえそうです。
いずれにしても、今後は米2年債-10年債利回りスプレッドと、米独10年債利回りスプレッドのふたつの重要なスプレッドの動きを見ながら、これらが長期的な米国株のピークを示すかを確認することが肝要です。
Next: 多少の警戒感も出てきたNYダウ。いま注目すべき指標とは?
輸送株指数と公共株指数のレシオが示すこと
一方で、ダウ輸送株指数と公共株指数のレシオも重視したいところです。
輸送株指数は景気敏感、公共株指数はディフェンシブです。つまり、輸送株指数が公共株指数に対してしっかりしていれば、ダウ平均株価は上昇しやすいと考えるわけです。
このレシオを見ていると、少し警戒感が出ていることがわかります。つまり、このレシオがいまは横ばいからやや低迷している感があるのです。
そのため、ダウ平均は上がりにくくなっている印象があります。これが再び上向けば、米国株に力強さが戻ってくることになりますが、そうなるかを注視していきたいところです。
市場でよく言われますが、いわゆる「SELL IN MAY」の懸念は残ります。しかし、それはトレンドが明確に下向きになるまでは天井を付けたかどうかはわからないわけですし、いまは静観が賢明でしょう。
「ソフトデータ」と「ハードデータ」を比較すると?
一方市場では、「ソフトデータ」と「ハードデータ」を比較する動きがみられます。
「ソフトデータ」とは、市場センチメントを図るような指標です。消費者信頼感指数やISM製造業景況感指数などです。
一方、「ハードデータ」は、具体的な経済指標です。雇用統計もそうですし、小売売上高や消費者物価指数(CPI)などもそうです。
これらを比較すると、これまではソフトデータの堅調さが目立ち、ハードデータがやや軟調に推移していました。
そのため、米国景気はピークを付けたのではないかとの懸念が強まったわけです。
事実、第1四半期のGDP成長率が0.7%と低い伸びになったことで、その懸念はさらに高まりました。
その意味では、12日に発表された、小売売上高とCPIの数値はきわめて重要でした。
米百貨店大手の17年2~4月期決算が低調な結果となったことが嫌気され、11日の市場では関連株が軒並み下げていました。
メーシーズは純利益が市場予想を大きく下回り、既存店売上高は前年同期比5.2%減でした。コールズの既存店売上高も同2.7%減と不振が続いています。
両社とも客足減に苦しむ厳しい経営環境が浮き彫りとなり、JCペニーやノードストロムなど百貨店株も軒並み売られました。
その背景には、アマゾン・ドット・コムなどインターネット通販の攻勢が影響していることが考えられます。ネットでモノを購入するのが当たり前になっています。
売り場で現物を見て、ネットで注文するスタイルが根付くと、百貨店の存在意義はますます薄れそうです。
実際、私自身もそうですから(笑)。
さて、このように百貨店決算が低調だったことから、4月の小売売上高に対する懸念が高まっていましたが、結果を見れば、市場の予想を下回ったのものの、懸念するほどではありませんでした。
4月の小売売上高は前月比0.4%増で、市場予想の0.6%増を下回りました。しかし、前年同月比では4.5%増と、きわめて大きな増加となっています。今の時点で懸念する必要はないでしょう。
Next: 4月CPIは堅調。とはいえFRBの積極的な利上げはない
4月CPIは堅調。とはいえFRBの積極的な利上げはない
一方、4月のCPIは前月比0.2%上昇、コア指数は0.1%上昇でした。市場予想は両方とも0.2%上昇でした。
また、前年同月比では全体が2.2%上昇、コアは1.9%上昇でした。これも決して低い数値ではありません。
このような結果となりましたが、6月のFOMCでの利上げ確率は8割超と高く、6月のFOMCでの0.25%ポイントの利上下はほぼ確実といえます。
年内さらに2度の利上げ確率は46%と、指標発表前の54%からは低下しました。これは徐々に上昇していくことになりそうです。
小売売上高とCPIを見る限り、第2四半期の経済成長が再加速するとの見方が後退することはないでしょう。
とはいえ、FRBが積極的に利上げを推し進めることはないでしょう。
NY連銀のダドリー総裁は、量的緩和で膨らんだ保有資産の圧縮について「非常に慎重」に進める考えを示しています。
FRBが拙速な利上げや資産圧縮を行い、株価をわざわざ下げるような政策を取ることはないでしょう。
そのように考えておけば、金融政策への懸念を持つ必要はなくなります。
CPIが抑制されており、長期金利もいまだに3%にも達していません。まだまだ安心できます。
気を付けたいのは、将来的にFRBが急激な利上げを迫られるような局面になりそうな時だけです。
そのきっかけは賃金の上昇になる可能性がありそうです。U6(フルタイムでの仕事がなく、パートタイムで勤務している人たち)の失業率が改善してきていますので、この点には将来的には注意が必要かもしれません。
ダドリー発言をどう見るか?
一方、NY連銀のダドリー総裁の発言にはやや驚きました。
ダドリー総裁は、保護主義的な貿易政策で経済が「袋小路」に陥ると警告し、「政治的に点数を稼ぐことはできても、最後には米経済を傷つける」と発言しています。
トランプ政権が保護主義的な立場を取る中で、中央銀行幹部として最も力強い表現で自由貿易を擁護したといえます。
ご存知のように、FRBは政治的に独立した組織であり、議会に対しては説明責任を負っています。
その一方でFRB理事は大統領によって指名され、上院が承認する形となっています。
なんとも微妙な関係ですが、このような状況から、FRB関係者は、通常は財政政策について言及することを避ける傾向にあります。
しかし、「米国第一主義」の立場から貿易協定の再交渉や撤廃を掲げるトランプ氏が大統領に就任して以来、複数のFRB当局者が自由貿易の利点を強調しています。
ダドリー総裁も、「貿易の問題は米国経済の長期的な健全性や生産性、そして米国民の経済的な機会を危険にさらす可能性があり、今は非常に重要な岐路に立っている」としています。
トランプ政権は政策面できわめて厳しい状況に追い込まれています。これまで打ち出してきたオバマケア見直し法案や移民政策、為替操作国の認定など、すべてが失敗しています。
そのため、来年の中間選挙区に向けた実績作りのために、減税は必ず実行するでしょう。中身はどうでもよく、実行したという事実が欲しいわけです。
まずは減税を行い、税制改革は数年後に行うようなタイムスケジュールになるでしょう。
Next: 目先調整なら、アメリカ株は絶好の押し目買いチャンスに
コミーFBI長官「電撃解任」の影響
トランプ大統領は、先の大統領選中に民主党候補クリントン元国務長官の私用メール問題に関する捜査情報を公開したことを理由に、コミーFBI長官を解任しました。
一方で、FBIは選挙戦でトランプ陣営とロシア政府が結託したとの疑惑を調べており、「民主党を中心に捜査妨害を狙った解任だ」との批判が噴出しており、これが政治的混乱による政権運営の停滞を想起させています。
トランプ政権の半ば強引なやり方に辟易としますが、これもいずれは大幅な修正が求められることでしょう。
いずれにしても、中間選挙では議席の確保をする必要があります。そのための実績つくりを優先すると考えておけば、トランプ政権が何をするかはある程度想像がつきそうです。
目先の調整は、絶好の押し目買いチャンス
さて、目先の米国株はいったん調整するかもしれません。「Sell in May」が意識される中で、利益を確定させようという動きが強まり、これが株価を押し下げるかもしれません。
しかし、それはそれでよいと思います。押し目を作ってくれれば、そこでさらに買い増せばよいのですから。
米国株の長期的な上昇基調はまだまだこれからです。目先の上下動に振り回されないことが肝要です。
【ダウ平均株価:2017年の想定レンジ】
強気シナリオ19310ドル~23185ドル(17年末22870ドル)/弱気シナリオ16050ドル~20195ドル(17年末17850ドル)
【ダウ平均株価:5月の想定レンジ】
強気シナリオ20655ドル~21900ドル/弱気シナリオ18995ドル~20130ドル
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初月無料購読で今すぐ読める!2017年5月15日号の目次
・マーケット・ヴューポイント~「決算発表終了でいったんお休み」
・株式市場~米国株の真のピークアウトはまだ相当先、日本株はまだまだ割安
・為替市場~ドル円は想定レンジ上限から反落の動き
・コモディティ市場~金は底堅い展開、原油も反発基調継続
・今週の「ポジショントーク」~売りたい人は売り
・ヘッジファンド投資戦略~「大物たちがポジショントーク」-投資戦略構築のポイント
・マーケット人生物語~私の人生を変えたアノ事件
・ベースボール・パーク~「緒戦は素晴らしい結果」
・セミナー・メディア出演のお知らせ
本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2017年5月15日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事の続き(日本株式市場の分析)のほか、為替市場、コモディティ市場の見通しや、人気連載「今週のポジショントーク」「ヘッジファンド投資戦略」「マーケット人生物語~私の人生を変えたアノ事件」もすぐ読めます。
『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』(2017年5月15日号)より一部抜粋
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株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。