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メルケル独首相「ユーロ弱すぎ」発言が示唆する新たな上昇サイクル=児島康孝

メルケル独首相が「ユーロは弱すぎる」と発言。世間では不況によるユーロ崩壊説も囁かれていますが、今後はどうなるのか。ユーロの歩みを振り返りながら分析します。(『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』児島康孝)

「2017年央から中期的な上昇サイクルに入る」ユーロ相場の行方

「ユーロは弱すぎる」メルケル首相

ドイツのメルケル首相は、22日、「ユーロは弱すぎる」と発言。複数の海外メディア、日本のメディアが伝えて話題になっています。

これは、つまりこういうことです。ドイツの競争力は強いが、ユーロは欧州各国の全体の競争力を反映するので、ドイツにとってはユーロの水準は安いということです。

これはドイツが、ギリシャやポルトガル、アイルランドなどと同じ通貨同じ為替レートということが背景です。逆に言えば、ドイツは難民問題やギリシャ・ショックなどの難題に直面する一方で、輸出産業は極めて有利な為替レートを享受できるということです。

日本に置き換えれば、こういう話になります。例えば、日本が周辺国と通貨連合を組み、いくつかの国で円を使えば、円は最初は注目されても、いずれはいくつかの国を合わせた経済圏全体を反映した為替レートになります。つまり、平準化されて円は弱くなるということです(※名称が「円」か「新通貨」かは別として)。この場合、日本は難題に直面するものの、為替レートは有利になります。ドイツの話はこれと同様の話です。

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強いユーロへの歩み

もともと欧州では、ドイツはドイツマルク、フランスはフラン、イタリアはリラなど、各国の通貨がそれぞれに使われていました。

それを、通貨同盟(統一通貨にする)という壮大な構想が浮上。「本当に可能なのか?」と思われていましたが、そこは欧州の知恵とパワーで本当に始めました

最初は、1999年に決済通貨(=通貨の「表示」)としてのみ導入

その後、2002年から実際にユーロ紙幣やユーロ硬貨が流通を開始。名実ともに、ユーロが本格的に導入されました。

当初は、バラ色の通貨。欧州の隣の国に行っても、両替しなくてもそのまま通貨が使えて便利。輸出や輸入も統一通貨で決済されるので、極めて便利です。ユーロの導入で、欧州の経済は活性化されました。

ユーロ自体の為替レートも、最初の疑心暗鬼状態から、強い為替レートへ変化。ユーロは、対ドルや対円でぐんぐん上昇しました。良いことばかりのように見え、欧米のアナリストや運用者はしきりにユーロを持ち上げて推奨していました。

Next: なぜユーロ崩壊説が流れるのか/今後は上昇サイクルに



なぜユーロ崩壊説が流れるのか

ユーロは、個別の国が景気の状況にあわせて為替レートの調整を行うことができません。この点、私は当初からユーロに懐疑的でした。案の定、不況とともにユーロ危機が起きました。

ドイツとギリシャが同じ通貨というのですから、それは無理があります。ギリシャの景気が悪くても、以前のように為替レートを切り下げたり利下げすることができません。

かくしてユーロは下落し、ユーロ崩壊かと物議をかもすこととなりました。このため、いわゆる「経済健全な国」のドイツは、非常に安い為替レートで、輸出産業が有利になっています。逆の言い方をしますと、ギリシャの零細な輸出業者と、ドイツの巨大な輸出企業が同じ為替レートということです。

ドイツはこの通貨安の恩恵を受けているのですが、最近のドイツでは、金融関係者やメルケル首相が「大ドイツ」的な発想?のように発言しています。

ユーロが安い」とか「ドイツマルクだったらもっと通貨は強いはず」とか、このような発言が目立ってきているのです。ナショナリズムを少し意識しているのでしょう。

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ユーロは中期的に上昇へ

私は、ユーロについては、過度の悲観も楽観もしていません。以前とは逆にユーロの崩壊がクローズアップされていますが、導入国のフィンランドなどの様子をみますと、ユーロはやはり非常に便利です。

周辺国に自由に移動できて、自由にユーロで買い物ができて、支払いがすべてユーロ表示なので簡単でわかりやすいです。あたり前のように隣の国に出かけて、観光したり、買い物をして帰ってくる。こういうことになっているのです。

また、欧州は観光立国が多いですから、域外(アメリカや日本など)からの観光客の誘致の面でも、ユーロには強みがあります。航空チケットや鉄道の利用でも、この国はこの通貨、あの国はあの通貨といった具合では、観光客は非常にめんどうです。ユーロなら、欧州周遊旅行でも欧州バックパッカー旅行でも、簡単です。これだけ実社会に流通していて、便利なわけです。

ですから、ユーロをやめるというのも考えにくく、私は「ユーロ崩壊説」にも懐疑的です。もうすっかり、ユーロは根付いているのです。

ちなみにユーロは、2017年の年央、つまり今年の6月頃から、上昇のサイクル(中期)に入るとみられます。これは、景気の回復がアメリカ→欧州という順番で起きるためで、景気回復に伴うユーロの上昇が見込まれるのです。最近のユーロドルの上昇は、これを先取りしたような動きでしょう。

ユーロ/米ドル 月足(SBI証券提供)

超短期的には、ユーロの上昇過熱で、目先は調整するかもしれません。しかし中期的には、ユーロは景気回復に伴う上昇の時期にそろそろ来ているのです。

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ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』(2017年5月24日)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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