マネーボイス メニュー

From Wikimedia Commons

日銀の新緩和策が「矛盾とデタラメ」に満ちてしまった本当の理由=近藤駿介

21日に日銀が打ち出した追加緩和策「金融緩和強化のための新しい枠組み:長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、金融緩和策が限界に達したことを露呈する結果となった。また、緩和策に限界に来ていることを隠そうとするあまり、矛盾に満ちた「出鱈目な金融政策」になっている。(『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。

期待に働きかけるとしつつ、国民に通じない言葉を連発する日銀

専門家にも記者にも意味が分からない横文字だらけ

21日に日銀が打ち出した追加緩和策「金融緩和強化のための新しい枠組み:長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、金融緩和策が限界に達したことを露呈する結果となった。また、緩和策に限界に来ていることを隠そうとするあまり、矛盾に満ちた「出鱈目な金融政策」になっている。

【関連】「緩和強化」という言葉遊び~黒田日銀の“転進”で終わる株高モード=E氏

この「出鱈目な金融政策」のいくつかについて、一つずつ指摘していく。

まず指摘しておきたいのは、日銀の説明能力に関わる問題点だ。

「イールドカーブ・コントロール」「オーバーシュート型コミットメント」「適合的な期待形成」「フォワード・ルッキングな期待形成」…。21日に日銀が打ち出した追加緩和策「金融緩和強化のための新しい枠組み:長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の公表文には、金融・経済の専門家でもほとんど耳にしたことのない言葉がちりばめられていた。

これらの言葉には共通点がある。それは、基本的に金融セミナーなどで一般の方向けには使うことを避ける言葉だということ。それは、一般の人には通じないからだ(実際には記者会見に出席している記者などにも通じていないと思われる)。

日銀は「総括的検証」の中で、「量的・質的金融緩和」は「(日銀が)2%の目標を実現すると強く約束し、実際に大規模な緩和を行うことで、人々の物価に 対する見方を変える」と、人々の物価観を変えることで「2%の物価安定目標」の達成を目指す政策であることを再確認している。

そのうえで、「2%の物価安定目標」が達成できなかったのは、原油価格の下落や消費増税後の消費低迷、新興国経済の減速などにより、人々の物価観が下押しされたことが主要因だと結論付けている。

そして、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を実施したのは、(人々の)予想物価上昇率をより強力な方法で高めていくために、『マネタリーベースの拡大方針を継続する』と約束することで、『物価安定の目標』の実現に対する人々の信認を高めることが適当であると判断」したからだとしている。

Next: なぜ日銀は難しい言葉を使うのか/繰り返される「間違ったアプローチ」



なぜ日銀は難しい言葉を使うのか

公表文で指摘している通り、日銀が本当にいくつかの外的要因で「人々の持つ物価上昇期待」が低下してしまったことが「2%の物価安定目標」を達成できなかった原因だと考えているのであれば、一般の人には通じない言葉を連発するのは誤ったやり方だ。金融・経済の専門家でもほとんど耳にしたことのないような言葉を羅列しても、意味が分からない一般の人々の抱く「物価上昇期待」に働きかけることは出来ないからだ。

「『マネタリーベースの拡大方針を継続する』と約束することで、『物価安定の目標』の実現に対する人々の信認を高める」ことが出来ると思い込んでいるところが悲しいところ。「マネタリーベース」を正しく理解していない一般の人達にとっては「???」

人々の「物価上昇期待」に働きかけようとするのであれば、人々が理解できる分かりやすい言葉で説明し、納得させなければならないというのが一般常識。要するに、日銀が打ち出した「金融緩和強化のための新しい枠組み:長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、訴えたい相手に対して、間違ったアプローチをしているということだ。

今回日銀が、一般の人達には理解できるはずのない、金融・経済の専門家でもほとんど耳にしたことのないような言葉の羅列をしたのは、「人々の物価上昇期待」に働きかけようとする強い意図の表れでなく、これまで「2%の物価安定目標」を達成出来ていないことに対する批判をかわす目的が強かったからに他ならない。

分かりやすい言葉で説明をしてしまうと、「異次元の金融緩和」で「人々の物価上昇期待」を醸成することは難しいことが露呈してしまうからだ。何しろ「物価上昇期待」を持つ主体は「人々」であるから、論理的矛盾は、人々が理解すればするほど露呈していく関係にある。一般の人達に理解できるはずのない言葉を羅列したのは、「人々」に、「物価上昇期待」を持つ主体が「人々」であることを気付かせないためであったと言える。

繰り返される「間違ったアプローチ」

日銀がこうした間違ったアプローチをした背景には、「間違った成功体験」がある。

2013年4月に「異次元の金融緩和」に踏み切った時に、「マネタリーベース」という一般の人が聞いたこともない専門用語に、「2倍、2倍」と超シンプルなフレーズをトッピングすることで、「人々の円安・株高期待」に働きかけることに成功した。

メディア等で「黒田バズーカ」などと称賛されたこうした成功体験が、一般の人達が理解できない専門用語を使えば、一般の人達の「物価上昇期待」を上昇させることが出来るという誤った情報が黒田日銀内にインプットされる大きな要因になったと思われる。

しかし、それから3年半が経過し、「人々の物価上昇期待」に働きかけることに失敗したという結果が出た今、「一般の人達に理解できない専門用語を羅列することで人々の物価上昇期待を引き上げる」という同じ手は通用するはずもない

今回の「総括的な検証」では、本質とは関係のない多数の検証が行われている。しかし、「人々の物価上昇期待」に働きかけられるかが最重要である金融政策の説明を、一般の人達が理解できない専門用語を羅列して行うことの効果についての検証は一切行われていない。

金融政策分野においては、一般の人達に馴染みのない専門用語や横文字を使う人の話はほとんど内容がないものだ、というのが通り相場になっていることを理解していない日銀が、「人々の物価上昇期待」に働きかけるというのはかなり高いハードルだと言える。

以降は有料メルマガ『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』をご覧ください。

内容は、

【関連】日銀の新政策は追加緩和ではなく引き締め。株高・円安は短命に終わろう=馬渕治好

【関連】株も不動産も奪われる! 預金封鎖よりも怖い「財産税」の傾向と対策=東条雅彦

近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2016年9月26日号)より
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による

無料メルマガ好評配信中

近藤駿介~金融市場を通して見える世界

[無料 ほぼ 平日刊]
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動してきた近藤駿介の、教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝えるマガジン。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。