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株価急落を予告する「ヒンデンブルグ・オーメン」の点灯と4つの懸念=斎藤満

NY株式市場で「ヒンデンブルグ・オーメン」が点灯しました。これは一旦点灯すると、5%以上の株価下落が77%、クラッシュが41%、重大な下落が24%の確率で発生するとされるグナルです。今週以降注目イベントが続くので、頭の隅に入れておいても良いかと思います。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年6月5日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

「高確率で株急落」のシグナル点灯。そのキッカケになるとすれば?

「ヒンデンブルグ・オーメン」とは

ニューヨーク株式市場の急落を予告するシグナルとされる「ヒンデンブルグ・オーメン」が6月1日に点灯しました。

これはニューヨーク市場についてのシグナルですが、これが一旦点灯すると、米国では5%以上の株価下落が生じる可能性が77%、クラッシュが起きる可能性が41%、重大な下落が生じる可能性が24%と言われます。

翌日の2日には3指標とも最高値を更新し、このシグナルに注目する向きは少ないのですが、最近では3月13日にこれが点灯し、1週間後の21日に米国株は大統領選後最大の下落を見せ、さらに2015年6月半ばに点灯した時は、そこから数百ドル下落した後、8月には2000ドル余り下落した経緯があります。

100%の確率ではありませんが、米国株が最高値にあり、VIX(恐怖指数)が低下している中で、今週以降注目イベントが続くので、頭の隅に入れておいても良いかと思います。

【関連】「忖度相場」からの6月14日ショック説、最悪ケースの株価下値は?=藤井まり子

懸念(1) コミー前FBI長官の議会証言

今週は8日に米国上院でコミー前FBI長官の議会証言が予定されています。トランプ大統領は大統領特権を行使してこれを拒否すると言われますが、最高裁がこれを認めない可能性があります。

この公聴会で前長官が、トランプ大統領の司法妨害を示唆する証言をすると、ロシアゲート疑惑が一段と高まり、弾劾リスクが意識され、先行き不透明感の高まり、政権の機能不全から税制改革など政策の遅れ、後退が市場に失望をもたらす懸念があります。

懸念(2)ECB理事会

8日には欧州でも注目イベントがあります。まずECB理事会では、金融緩和の出口に向けた動きがあるかどうか注目されています。

先に発表されたユーロ圏の消費者物価上昇率がまた低下したので、緩和継続の期待が強まっています。そのなかで、理事会で追加緩和の可能性文言を削除したり、景気の認識を強気化し、出口を示唆したりするようだと、市場は反応する可能性があります。

懸念(3)イギリス下院選挙

同じ日に英国では下院の議会選挙があります。メイ首相はEU離脱に勢いをつけるために、ここで保守党の圧勝を期待し、早めの選挙に打って出たのですが、世論調査では保守党のリード幅が縮小していると言います。

保守党が負ける可能性は小さいのですが、最近の連続テロ事件が保守党への支援となるかどうか、こちらも注目です。

Next: 最大の懸念は6月14日。念のため警戒したい「ショック安」発生

懸念(4)FOMCとイエレン議長会見

そしてニューヨーク市場に最も大きな影響を及ぼすとすれば、来週13~14日のFOMCとその後のイエレン議長の会見内容です。

現在、市場はここでの利上げを9割がた織り込んでいますが、それで終わり、との見方が多く、実際、債券相場では2年国債利回りが1.28%前後に留まっています。これは6月利上げで終わり、という水準です。

また10年国債利回りも、これまでは利上げの後低下するものの、利上げ前になるとこれを織り込む形で上昇し、昨年12月も今年3月も利回りは2.5%を超えてきました。ところが、足元では依然として金利水準が2.2%前後に低迷し、イールド・カーブはフラット化傾向を強めています。

これに対し、FRB幹部は、地区連銀総裁、理事らが続けて年内あと2回の利上げと、バランスシートの縮小開始を市場に伝えています。

つまり、当局の「正常化」意図を市場が理解していないか、信用していないか、両者の認識ギャップはかなり大きくなっています。それだけに、市場が予想していないことを声明なり、議長会見なりで打ち出すと、ショックも大きくなります。

無視できない「ショック安」の恐れ

例えば、FOMCの声明文で、さらなる利上げの可能性や資産縮小の可能性を書き込むか、イエレン議長が直接、年内の追加利上げやバランスシートの年内縮小開始を示唆するようだと、債券市場のみならず、株式市場にもショックの下げが生じるリスクが高くなります。

逆に雇用の下振れもあり、景気に慎重な見方を出しても、金利低下、ドル安とともに株も下げる懸念があります。

その点、雇用統計を反映して、アトランタ連銀のGDPナウは、4-6月のGDPを年率3.4%成長に引き下げました。コンファレンスボードが出している景気先行指数は足元でも上昇が続いていますが、週次統計をもとに作成しているECRI先行指数は、この2~3か月、頭打ちから低下気味の動きとなっています。

米国のインフレ率、並びにインフレ期待が高まらない中で、利上げを続けると、実質金利の上昇は従来より大きくなり、金利コストの上昇による景気抑制効果は大きくなります。

これは住宅建設、その着工許可件数などに反映されます。市場はイールド・カーブのフラット化ですでに反応しています。これは利ザヤの縮小を通じて金融活動を抑制します。

Next: 市場がノーを突き付ける?政権内部に入り込むゴールドマンの見方

GSは年内2回利上げと9月の資産縮小表明を予想するが…

FRBメンバーがこれらをどう評価するかで、声明文、議長の会見内容が変わります。

それでも、次の経済危機の前に、金利や資産買い入れの武器を少しでも多く確保しておこうとすれば、景気に負担をかける形で利上げを続け、バランスシートの縮小を急ぐかもしれません。

政権に入り込むゴールドマン・サックスは、年内2回の利上げと、9月に資産縮小表明を予想しています。

市場は、相場の下げを通してこれに「ノー」を突き付ける可能性があります。

好事魔多し

今週から来週にかけて、これら相場に影響しうる大きなイベントが続きます。皆がこのヒンデンブルグ・オーメンを意識するようになると、それ自体が相場の下げを呼びます。その中でイベント・ショックが重なると、株の下げが大きくなります。

ヒンデンブルグ・オーメンは米国株の下げをシグナルするものですが、現実に米国株が大きく下げれば、日本株にも跳ねます。3月中旬からの1か月で日経平均も1000円以上下げました。つまり、米国株だけの下げでは済まない可能性があります。

日米株式市場ともに高値を付けて盛り上がっていますが、「好事魔多し」とも言います。これから1か月は油断をせぬように。
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<こちらも必読!月単位で購入できる人気バックナンバー(抄)>

・ヒンデンブルグ・オーメンが点灯(6/5)
・米国経済に「終わりの始まり」?(6/2)
・家計調査に見る消費の構造変化(5/31)
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・日銀理論の破たんを示す需給ギャップのプラス化(4/7)
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マンさんの経済あらかると』(2017年6月5日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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