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日銀のお手本は第二次世界大戦中の米国?/先週の動きと今週の予想=久保田博幸

日銀が新たに採用した政策のひとつ「イールドカーブ・コントロール」は、米金融当局が第二次世界大戦中から1950年代初頭にかけて活用したのと同様の政策ではないかとの見方がある。(『牛熊ウイークリー』久保田博幸)

※本記事は有料メルマガ『牛熊ウイークリー』2016年10月7号を一部抜粋したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

イールドカーブ・コントロールは現代中銀においても可能なのか?

過去のイールドカーブ・コントロールの事例

日銀が新たに採用した政策のひとつ「イールドカーブ・コントロール」は、米金融当局が第二次世界大戦中から1950年代初頭にかけて活用したのと同様の政策ではないかとの見方がある。

真珠湾攻撃から2週間以内に財務省とFRBは、金利安定を目指すことに合意したとされる。1942年2月の財務省と連銀の会議で財務省が2.5%を金利の上限として国債を調達し、連銀がそれに協力することを約束した。ただし、それが公にされることはなかったようだが、2.5%が国債の利回りの上限として市場参加者も意識することとなった。この政策は預金準備率の操作FRBによる国債買入によって行われた。(『財務省・連銀によるアコードの検証』富田俊基氏のレポートより引用)。

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この低金利政策は、第二次世界大戦後のアコードの締結まで続けられた。戦後、国債の利払いコストを抑えさらに利上げによる国債価格の下落を回避しようとした米財務省と、インフレ抑制のために金融引き締めを主張するFRBとの対立が激化した。このため1951年にトルーマン大統領の調停により、財務省とFRBとの間で「アコード」が成立し、国債管理政策と金融政策が分離された。これによって低金利政策は廃止されたのである。

日銀のイールドカーブ・コントロールは壮大な実験

米国の第二次世界大戦中のイールドカーブ・コントロールを、今回、日銀は自らの政策において参考にした可能性はある。ただし当時の米国の長期金利抑制政策は、戦争遂行のために組み入れられたものであった。

しかし、今回の日銀のイールドカーブ・コントロールは、日銀による大量の国債買入により国債市場の流動性が低下しているなか、日銀の国債買入の調節で国債の利回りが変化しうることを利用して、むしろ国債の利回りを引き上げることが当初の目的となっていた。その点に大きな違いがある。

国債の利回りを低位に維持していたのは米国ばかりでなく、戦中の日本も同様の政策を取っていた。戦後も1977年頃までは国債の利回りは低位に抑えられていた。国債は銀行や証券会社などで構成された引受シ団と大蔵省資金運用部が引き受けていた。市中消化されるのはごく一部で、ほとんどがシ団メンバーの金融機関が保有した。シ団の引き受けた国債の市場売却は事実上自粛され、国債の利率も低く抑えられていた。ただし銀行が保有する国債の大半は、日銀の買いオペで吸い上げられていたのである。

いずれにしてもイールドカーブ・コントロールが過去行われていたのは、国債市場がそれほど大きくなく整備されていない頃のことであった。果たして同様の政策が現代の中央銀行に可能なのか。これもひとつの壮大な実験のように私には思われる。

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長期金利ターゲットの上限を探る展開か

■先週の動き

ドイツ銀がRMBS問題をめぐる米司法省への支払額が大幅に減額されるとの報道で、ドイツ銀行に対する不安が後退し、30日の米10年債利回りは1.59%に上昇した。

これを受け3日の債券先物は売りが先行し、18銭安の152円16銭で引けた。この日発表された日銀短観では大企業・製造業DIはプラス6と前回から横ばいに。3日に発表された9月の米ISM製造業景気指数が予想を上回り、FRBの年内利上げ観測が再燃し、米10年債利回りは1.62%に上昇した。

4日の債券先物は売りが先行し、一時152円割れとなった。この日の10年国債の入札が順調に結果となったことで買い戻しも。しかし上値も重く、先物の引けは6銭安の152円10銭。ユーロ圏中銀の複数の関係者からテーパリングの可能性があると指摘され、4日の欧州の国債は軒並み下落。リッチモンド連銀のラッカー総裁が早期の利上げ再開を改めて主張し米債も下落。

5日の債券先物は売りが先行したが下値も限られ、引けは4銭安の152円06銭。9月の米ISM非製造業景況感指数は予想を上回り、年内の米利上げ観測からドル円が103円台に乗せた。

6日の債券先物は下落し、6銭安の152円ちょうどで引けた。

7日の債券先物は米雇用統計の発表も控えてさらに動きが鈍くなり、引けは1銭安の151円99銭。現物債も動きに乏しく、10年債利回りはマイナス0.065%。

■今週の予想

ドイツ銀行に絡んだリスクオフの動きは後退し、今度はあらためて欧米の中央銀行の金融政策の行方が材料視されはじめた。

9月の米ISM製造業景気指数が予想を上回るなどしたことで、FRBの年内利上げの可能性があらためて意識された。

そしてECBのテーパリング観測まで出ていた。イングランド銀行についてもメイ首相が低金利政策と量的緩和に対して懸念を表明した。

日銀の長短金利操作付き量的・質的金融緩和も、結果として大規模な金融緩和の限界を示したものとの見方もされ、日米欧の中央銀行による積極的な金融緩和策が転換期を迎えているのではなかろうか。すぐに出口政策に向かうことは考えづらいものの、積極緩和からの軌道修正が図られる可能性がある。

ただし、日銀は長期金利の操作も組み入れていることで、市場は国債買入動向を含めて、日銀の想定レンジを探るような動きとなっている。長期金利のターゲットの下限はマイナス0.1%との見方も強まりつつある。ここにきて欧米の国債が下落していることで、今度は長期金利のターゲットの上限を探る展開となることも予想される。

12日には30年国債の入札が予定されているが、30年債は0.5%近辺に利回りが上昇してきたこともあり、投資家の買いも期待できることで無難な入札になると予想される。14日の5年債入札も無難なものとなりそう。

■主な予定

10月11日(火)
8月経常収支・貿易収支
9月景気ウォッチャー調査
10月ユーロ圏ZEW景気期待指数
9月米労働市場情勢指数

10月12日(水)
30年利付国債入札
原田日銀審議委員(長野)講演
8月機械受注
FOMC議事要旨

10月13日(木)
国庫短期証券(3か月物)入札
「生活意識に関するアンケート調査」の結果
8月第3次産業活動指数
9月米輸入物価指数
米新規失業保険申請件数

10月14日(金)
5年利付国債入札
9月米小売売上高
9月米生産者物価指数
8月米企業在庫
10月米ミシガン大消費者信頼感指数速報値


※本記事は有料メルマガ『牛熊ウイークリー』2016年10月7号を一部抜粋したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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牛熊ウイークリー』(2016年10月7日号)より一部抜粋
※見出し、太字はMONEY VOICE編集部による

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