サウジアラビアなどのスンニ派諸国と、カタールが断交した本当の理由について解説する。日本ではまったく報道されていない極めて重要な情報だ。(『未来を見る!ヤスの備忘録連動メルマガ』高島康司)
※本記事は、未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 2017年6月30日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
日本のメディアが報じない中東情勢「一触即発」の危機的状況とは
イランとサウジの「対立」
6月5日、カタールに対し、サウジアラビア、バーレーン、アラブ首長国連邦、エジプトの4カ国が国交を断絶し、イエメン、モルディブなどもこれに続いた。
その表向きの理由は、カタールがムスリム同胞団やパレスチナのハマスなどのテロ組織を支援し、さらにサウジアラビアが盟主であるスンニ派連合と敵対しているシーア派国家のイランとの関係を深めており、カタールのこの方針を転換させるためだと報じられている。
食料を全面的に輸入に頼るカタールでは食糧難が報じられ、またカタール支援のために約3000名のトルコ軍が進駐し、それにサウジアラビアが強く反発するというような緊張した状態が続いた。いまはクウェートの仲裁の努力もあり、小康状態にある。
他方、5月17日にサウジアラビアでスンニ派諸国との首脳会議を行ったトランプ大統領は、サウジアラビアを全面的に支持し、カタールに政策転換するように圧力をかけている。
そして6月23日には、サウジアラビアはカタールに対し、国交を回復する13項目にわたる条件を出した。これには到底受け入れられないものが多く、カタールの反発を招いている。
日本の主要メディアでは、この断交について、ペルシャ湾における世界最大のガス田をイランと共有し、イランと協調関係にあるカタールに、イランを長年の宿敵と見ているサウジアラビアが反発し、カタールに政策の変更を迫ることが目的だったと報じられている。
イランとサウジアラビアの対立が背景にあるというわけだ。
問題の本質は「米ドル基軸通貨体制」にある
しかし、実際に調べると、状況はまったく異なっていることが見えてくる。サウジアラビアとイランの対立が、カタール断交の背景のひとつにあることは間違いないが、はるかに重要な状況がある。それは、アメリカ覇権の実質的な基盤であるドル基軸通貨体制をめぐる本質的な対立である。
これは、サウジアラビアが6月22日、カタールに突き付けた13項目の条件を見ると見えてくる。日本では、テロ組織の支援の停止、放送局アルジャジーラの閉鎖などが項目の主要な内容とされているが、この問題の危険な実態は、実はそんなものではない。
Next: 日本のメディアがまったく報道していない「大きな疑問」とは?
サウジが提示した「国交回復の13条件」の危険な中身
以下がその13の要求項目の全体だ。これに対しカタールは即座に反応し、「実施不能」としてこれを非難し受け入れを拒否した。これは「我が国の主権制限が狙いだ」ともしている。
しかし、この13の要求項目は、日本の主要メディアではまったく報道されていない事態があることを匂わせている。
1. イランとの外交関係を変更し、外交使節団を引き上げること。カタールにいるイラン、革命防衛隊を追放し、イランとの軍事協力を中止すること。イランとの関係は、アメリカ及び国際的な制裁の枠組みが許容する範囲の商取引と貿易に限定すること。
2. ムスリム同胞団、アルカイダ、レバノンのヒズボラなど、テロ組織と認定された組織との関係を断ち切ること。
3. アルジャジーラとその系列局を閉鎖すること。
4. アラビ21、ラッサド、アル・アラビ、アルジャジード、ミドル・イースト・アイなどカタールが資金を提供している放送局をすべて閉鎖すること。
5. カタールに駐留しているトルコ軍を即時撤退させ、カタール国内におけるトルコ軍との軍事協力を停止すること。
6. サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプト、バーレーン、アメリカがテロリストとして認定するすべての組織や個人、グループへの資金提供を停止すること。
7. サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプト、バーレーン出身のテロリストや指名手配されている個人を、出身国に引き渡すこと。
8. 主権国家の外交政策に対する干渉をやめること。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプト、バーレーンで指名手配されている個人の受け入れをやめること。これらの国々の国内法に抵触した個人に対し、カタールの市民権を停止すること。
9. サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプト、バーレーンの反体制派グループとの連絡をやめること。このようなグループへのカタールの支援を示すすべてのファイルを提出すること。
10. 近年のカタールの政策が引き起こした損害を金銭で補償すること。補償額はカタールとの協議で決定されるものとする。
11. 2014年のサウジアラビアとの合意に基づき、経済のみならず、カタールの軍事、政治、そして社会政策を湾岸諸国と連携させること。
12. この要求の提出から10日以内にカタールはこれに同意すること。期間を過ぎると要求は失効する。もしカタールが同意しない場合、関係国がどのような対応を取るのかこの文書は規定していない。
13. 同意すると、2年目からは順守の査察を受け入れること。査察は3カ月に1回実施される。カタールは今後10年間、合意を順守しているかどうか監視される。
日本メディアが報道しない「大きな疑問」
カタールとイランはペルシャ湾のガス田を共有しているので、政治的に協力しなければならない立場にいることは理解できるかもしれない。しかし、要求項目にイランとの軍事協力中止やイランの革命防衛隊の追放が含まれているのはどういうことだろうか?
カタールとトルコとの親密な関係は知られている。現在、3000人規模のトルコ軍がカタールに駐屯している。しかしカタールは、イランとの政治的な協調関係を越えて、軍事協力や革命防衛隊の受け入れなどという軍事的な領域まで協力関係を深化させているのだろうか?
この要求が事実に基づいているとしたなら、それは中国の人民解放軍が日本国内に駐屯しているようなものである。サウジアラビアを盟主とするスンニ派諸国の宿敵と軍事協力し、カタールは反対側の陣営に寝返ったとも見える。いったい何が進行しているのだろうか?
Next: カタールのガス田とパイプラインが、米ドル基軸を揺るがしている
2009年から始まったガスパイプライン計画
実は、この背後には米ドルの基軸通貨体制を揺るがすことにもなる重大な事態がある。それは、カタールのガス田とそのパイプラインをめぐる情勢である。
現在、エネルギー源としての天然ガスに注目が集まっている。それは、ヨーロッパや中国などで地球温暖化への配慮の必要から、石炭や石油にかわるよりクリーンなエネルギー原としての天然ガスへの需要が高まっているのだ。この動きは地球温暖化防止のパリ協定で、石炭の使用が大幅に制限されるに及んで本格的な動きになっている。
さらに、天然ガス液化の技術の急速な進歩により、広い地域にパイプラインで天然ガスを輸送することができるようになったことも、注目を集める理由になっている。
すでに何年も前から、このようなトレンドを見越して、世界のガス田の争奪戦が始まっている。5月にトランプ大統領はサウジアラビアを訪問し、集団安全保障条約であるアラブ版NATOの立ち上げを声明したが、これもガス田の国際的な争奪戦が背景にある。この争奪戦の標的になっているのが、カタール、イラン、ロシアだ。
2009年3月15日、当時まだ湾岸諸国との関係がよかったカタールのカルファ・アル・サニ首相はシリアを訪問し、アサド大統領にシリアを通るガスパイプラインの建設を持ちかけた。
これは、ペルシャ湾のカタールのガス田からシリアのアレッポを介してトルコに送り、そこからヨーロッパ市場にガスを輸送する計画だった。
だがシリアのアサド大統領は、ヨーロッパにガスを供給しているロシアの利害に抵触することになるとして、この提案を拒否した。ロシアとの関係を重視した決断であった。
ちなみにペルシャ湾のガス田は世界最大であるとされ、カタールではこれをノース・ドームと呼び、イランはこれをサウス・パースと呼んでいる。
ロシアとの2011年のパイプライン計画
その後、2011年7月に、ロシアの支援でイランのサウス・パースのガスをヨーロッパに輸送するためのガスパイプライン計画が調印された。これは、イランのガスをシリア、イラク、レバノンを通って地中海からヨーロッパへと運ぶ1500キロのパイプライン計画だった。これはフレンドシップ・パイプラインと呼ばれた。
だが、計画が発表された翌月の8月には、アサド政権の退陣を迫るアメリカ主導の安全保障理事会の決議がなされた。
そして同じ年には、アラブの春による民主化運動の影響という名目で、シリア国内で民主化運動が起こり、急速に内戦化した。内戦化した理由は、ISやアルカイダなどのワハビ系テロリストグループによるシリア侵入である。
これらのイスラム原理主義勢力をサウジアラビアは資金的に支援しており、サウジアラビアの外交政策実現のツールになっていることはよく知られている。
また2014年にアレッポはイスラム原理主義勢力の支配地域となり戦闘が激化したが、アレッポが戦場となった背景には、このガスパイプライン計画があったことは想像に難くない。
長くなるのでこの続きは次回にする。ここから、カタールの方向転換と中国の一帯一路経済圏の建設、そしてドルの基軸通貨体制を突き崩す本格的な動きが見えてくるのだ。
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未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ(2017年6月30日号)より一部抜粋・再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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