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野党が教えない「年金カット法案」で本当に得をする人、損をする人=持田太市

年金給付を抑えるルールを盛り込んだ「国民年金法改正案」の審議が、11月2日より衆議院本会議で始まりました。野党はこれを「年金カット法案」と言っていますが、働く世代にとっては別の見え方があります。(『週刊「年金ウォッチ」-自分年金作りのためのメルマガ』持田太市)

プロフィール:持田太市 (もちだたいち)
SBIハイネットワース株式会社 代表取締役。2007年にSBIホールディングス入社。住信SBIネット銀行開業を経験後、ウェブマーケティング部署を経て、海外でのオンライン金融事業の進出プロジェクトに従事。2013年よりロシアのモスクワに駐在し、インターネット銀行サービスを導入。2015年に帰国後、ウェブを活用した国際資産運用の情報プラットフォームプロジェクトを立ち上げ、現在オンライン金融サロン「ヘッジオンライン」を運営中。

年金カット法案は、働く世代にとっての「年金安心法案」だった

野党が「年金カット」を叫ぶ2つの理由

年金給付を抑えるルールを盛り込んだ「国民年金法改正案」の審議が、11月2日より衆議院本会議で始まりました。野党はこれを「年金カット法案」と言っているのですが、その理由として、主に以下2つが挙げられます。

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1つ目:「賃金・物価スライド」の見直しという点

簡単に結論を言えば、世間の賃金が下がっていくときには、年金支給額もそれに合わせて減らしましょうということです。

今までの前提としては、物価が上昇している中で、例えば賃金が減っていく場合であっても、年金支給額を賃金の減少に合わせて減らさずに維持したり、あるいは物価の上下に合わせて年金額を改定してきました。これを世間の賃金状況に合わせて、年金額を改定しますよ、という内容になります。世間の賃金が下がれば、年金支給額も下げますという話です。

物価が上がっていく状況において、仮に賃金がそれに合わせて増えていかない場合、物価上昇分だけ私たちの生活は苦しくなります。100円のリンゴが110円になった(物価が上がった)として、給料が1,000円のままで増えないと、これまではリンゴ10個買えたのに、物価上昇後は9個しか買えません。

物価が上がって賃金が減る局面においては、働く世代は生活が苦しくなる一方です。しかし年金支給額は維持されてきましたので、年金受給世代は少なくとも、働く世代よりはまだマシだったわけです。これでは世代間で不公平ですから、こういう場合は、賃金の減少に合わせて、年金支給額も減らしましょう、公平にしましょう、という内容にしていくのです。

2つ目:「マクロ経済スライド」の強化

これも文字だけみると意味がまったくわかりません。もう、わざとこういう理解しにくい用語を使っていのではないかと疑ってしまいますが…。

まず、マクロ経済スライドの特徴を端的に言えば、物価や賃金が上昇していく局面において、本来であればその上昇に従って年金額も増やす必要がありますが、その増加分を抑えましょう、という制度です。物価(賃金)が上がっていく局面で、年金額が同じように増えないので、年金受給者の生活はちょっと苦しくなってきます。

ちなみにマクロ経済スライド自体は、年金支給額の決定に関するルールだけでなく、私たちが納める年金保険料についても言及しており、年金制度を維持するための全体的な仕組みとして2004年に導入されています。厚生労働省がわかりやすく説明しているサイトがありますので、興味ある方は下記を見てください。
※参考:マクロ経済スライドってなに? – 厚生労働省

Next: 働く世代は、年金受給世代の得票を狙う野党のウソに騙されるな!?



年金受給者は物価低迷の恩恵を享受し続けてきた

「マクロ経済スライド」の強化ということですが、説明文としては以下のようになっています。

物価が低迷する景気後退期には支給額の抑制を凍結し、代わりに物価が上昇した局面で複数年分まとめて年金額を抑えられるようにする。

文章だけみると、ちょっと分かりにくいですね。このマクロ経済スライドは、物価や賃金が上昇していかないと発動しないもので、2004年に制度導入されてからまだ1度しか実施されていません。裏を返せば、これまで物価や賃金が低迷するようなときばかりであって、そういった時は年金受給者が有利(年金額はずっと維持されていた)になっていたわけです。ある意味、年金受給者は物価低迷の恩恵を享受し続けてきた、ともいえるのです。

説明文にあるように、物価(賃金)が上昇した局面では、複数年分まとめて年金額を抑えるということは、要するに過去の恩恵を将来にちゃんと精算(調整)させてもらいますよ、といった読み方になります。これも1つ目と同じように、世代間の不公平さを無くす内容になっているわけです。

もっと砕いて言えば、本来は年金支給額も減らすべき時に減らせなかった調整額は、将来に渡ってキャリーオーバーさせて、景気が良くなって物価や賃金が大きく上がっていくときに調整させてもらいますよ、という内容です。

働く世代にとっては「将来の年金制度安心法案」である

どちらも直接的には「年金支給額を抑制する」ための法改正であり、そのため野党は「年金カット法案」と言うわけです。年金受給世代は票数が多いですから、こういう言い方を敢えてすることで、自分たちが正義の味方のような振る舞いをしているのでしょうか。

内容をよく理解していない現在の年金受給者や、これから受給する人たちからみれば、年金が減らされるなんて許せん、という心情になるのは当然です。

しかし、少子高齢化において年金支給額を抑えていかないと、私たち働く世代が実際に受給するときになって制度破たんしてしまう可能性があるわけですから、今もらっている、またはこれからすぐにもらう世代にとっては「年金カット法案」になるかもしれませんが、私たちからすれば「将来の年金制度安心法案」ということになります。立場によって、見え方が全く異なります。

Next: 安倍首相による質疑応答。世代を越えて安心できる制度はあるのか?



安倍首相による質疑応答

安倍首相は年金制度改革関連法案の趣旨説明後の質疑において、

将来の年金水準確保法案であり、(年金制度の)支え手である現役世代の負担能力に応じた給付とするものだ」と意義を強調。批判を強める民進党など野党に対しては「『年金が破綻する』『年金カット法案』といった無責任なレッテル貼りをすべきではない。

と反論しています。

マクロ経済スライドが1度しか発動していないと記載しましたが、これまで政府の想定通りになっているのであれば、今回の年金改革法はおそらく必要なかったはずです。なので、私たちがこのことから予想できることは、思っている以上に将来の年金制度維持が困難になってきているのではないか、ということです。

仮にそうであれば、私たちはもっとこの制度について理解を深めていく必要があるのではないでしょうか。なぜならば、私たちは老後の大部分を公的年金に頼らざるを得ないわけですから。

野党のような、どちらか一方だけをみた批判をするのではなく、どうやったら世代を越えて安心できる制度を作っていくことができるかを、真剣に考えていく時期になっているのだと感じます。

なお今回記載した法改正案は、あくまで審議の段階のものであり、どのように実現されるかはまだわかりません。内容が変わったりする可能性もありますので、このメルマガではしっかり追いかけていきたいと思っています。

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週刊「年金ウォッチ」-自分年金作りのためのメルマガ』(2016年11月6日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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これまで年金は国や企業が用意してくれました。しかし昨今の日本経済は、それが困難になっているのも事実です。だとしたら、自分で作っていくしかありません。しかし、自分で作りなさいと言われても、どうしていいかわからないし、むずしいことや面倒なことは、したくありません。それが人として、普通です。このメルマガを読めば、自分の年金作りに対する考え方やアクションが理解でき、新たな一歩が踏み出せる。さらに、他の情報源はいいから、このメルマガだけ読んでいれば年金作りはOK、と言っていただけるようにするつもりです。どうぞよろしくお願い申し上げます。

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