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博多駅前陥没で神対応「西日本鉄道」の何がすごいか?株価はどうなる?=栫井駿介

福岡・博多駅前で、地下鉄延伸工事を原因とする大規模な陥没事故が発生しました。現場は博多駅前のメインストリートであり、東京で言えば丸の内に穴が空いたようなものです。大きなけが人が出なかったことは本当に不幸中の幸いと言えるでしょう。

しかし、福岡の中心部であれだけの事故が発生したことで、多くの人々の生活に影響を及ぼしています。特に、ライフラインへの影響は深刻です。そんな中、何事もなかったかのように営業を続けた交通機関があります。それが西日本鉄道<9031>です。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

道路がなくても平常運行!? 西日本鉄道<9031>の真価を探る

事故対応は新たな「伝説」の1ページ

西日本鉄道(西鉄)は、事故の影響でバスターミナルが停電している中でも「ほぼ定時運行」を続けました。その状況に、現地では賞賛の声が上がっています。東日本大震災の際もそうでしたが、緊急時に通常営業を続けられる企業の底力は計り知れません。

過去には震度5の地震が起きても、巨大台風が直撃しても通常運転を続けた逸話があります。今回も「道路に穴が空いても通常運転」という新たな伝説が加わりました。西鉄が通常運転を続ける限り、福岡市民は安心して暮らせるでしょう。

ところで、西鉄とはどのような会社なのでしょうか。福岡以外に住む人にとってはあまり馴染みがないこの会社を分析したいと思います。

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西鉄は「日本一のバス会社」!?

西鉄は、その名前の通り鉄道会社です。しかし、鉄道事業は会社全体からすると「おまけ」のようなもので、その3倍近くの売上高を誇るのが、上記で出てきたバス事業です。

会社別のバスの保有台数を見ると、西鉄はグループ全体で約3,000台を保有し、2位の神奈川中央交通(約2,000台)を大きく引き離して圧倒的な日本一となっています。また、東京と福岡を結ぶ「はかた号」を運行し、こちらも日本一の運行距離を誇ります。

実態を考えると「西日本鉄道」ではなく「西日本バス」に改称した方がいいのではないかとさえ思います。それだけバスに関して右に出るものはいません。

福岡に降り立って目につくのは、バスの数の多さです。博多駅前には次から次へとバスがやってきて、時にはバスの渋滞ができています。そして、注意深く見るとそのほとんどが西鉄バスであることに気づくはずです。

もちろん、福岡には地下鉄もありますが、東京のように網目のように張り巡らされているわけではありません。もちろん、都市鉄道もありません。福岡市民の足を支えているのは間違いなく西鉄バスなのです。

Next: 因縁のライバルはJR九州。天神vs博多駅の「第二次戦争」がついに勃発!



JR九州とは因縁のライバル関係

バス事業と並んで西鉄の売上を支えているのが不動産事業です。西鉄の不動産事業の中核は、福岡の中心街である「天神」です。

天神といえば、東京に例えると銀座と新宿の両方を兼ね備えたような、福岡における商業の中心地です。一方で、博多駅前は東京駅周辺のビジネス街になぞらえることができるでしょう。しかし近年、その棲み分けが大きく変わりつつあります

2011年に「JR博多シティ」を開業すると、周辺の商業施設はにわかに活気づきました。JR博多シティには「博多阪急」が入り、天神に古くからある百貨店の顧客を奪いつつあります。さらには駅ビルに最新流行を取り入れたテナントが入り、若年層の呼び込みにも成功しています。

博多駅周辺の商業施設の元締めが九州旅客鉄道(JR九州)<9142>です。実は西鉄とJR九州は、福岡県を南北に走る路線が並行し、古くからライバル関係にありました。

そんな中、民営化して上場を目指していたJR九州が不動産事業に本腰を入れ始めると、天神vs博多駅という、西鉄とJR九州の第二次戦争が勃発したのです。

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目新しさにおいて引けを取る西鉄は、天神の再開発を急ぎ、JR九州に対抗しようとしています。対するJR九州も次の一手を打ってくるでしょう。両社のライバル関係は当分続くことになりそうです。

福岡は全国的にも人口の増加率が非常に高い地域です。過去5年間における政令指定都市の人口増加率・増加数はともにトップとなっています。西鉄とJR九州が競い合って街を盛り上げていけば、福岡の街と一緒に会社としての価値も上向いて行くことが期待できるでしょう。

Next: 株価は再び上向くか?「投資対象」としての西鉄をJR九州と比較する



株価は再び上向くか?

それでは投資対象としての西鉄はどうでしょうか。

実は今年の2月頃にかけて、西鉄の株価は一時大幅に上昇しました。その理由はインバウンド需要に対する期待によるものです。全国と同様に九州へも多くの外国人観光客が訪れ、西鉄が運営するホテル等の業績が上向くと目されたのです。

しかし、残念ながら期待されたほど業績は上がらず、ピークから株価は下落が続いています。しかし、下がった時こそ逆張りのチャンスの可能性もあります。

そこで、西鉄の投資指標をライバルのJR九州と比べてみます。

※2016年11月11日時点、JR九州の配当利回りは通年換算
西鉄 JR九州
PER 17.7倍 12.7倍
配当利回り 1.49% 2.48%
時価総額 1,864億円 4,832億円

PERはJR九州より高く、配当利回りでは下回るなど決して割安感はありませんが、逆に捉えると、より高い成長が期待されているとも言えます。

長距離路線を主体とするJR九州に対して、バスによって生活の足となっている西鉄は福岡市民により深く根付いていると言えます。

西日本鉄道<9031>週足


九州旅客鉄道<9142>週足

奇しくも、陥没事故が起きた現場はJR九州本社の目の前です。ライバル関係にある両社にとって、もしかしたらこれが何かを暗示しているのかもしれません。

事故対応の評価と同様に、市場でも西鉄の「株」が上がることを期待したいものです。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2016年11月13日)

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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