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【大前研一の世界分析】難航するBrexit/アルゼンチン100年債の異常人気/インドネシア首都移転の効果

難航するBrexitの想定される6シナリオ、アルゼンチンが発行した100年国債、インドネシアの首都移転計画など世界を取り巻く3つの問題を大前研一氏が分析します。(『グローバルマネー・ジャーナル』大前研一)

※本記事は、最新の金融情報・データを大前研一氏をはじめとするプロフェッショナル講師陣の解説とともにお届けする無料メルマガ『グローバルマネー・ジャーナル』2017年7月19日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に定期購読をどうぞ。
※7月16日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。

プロフィール:大前研一(おおまえ けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長。マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997~98)。UCLA総長教授(1997~)。現在、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役。

EU離脱はやめておけ。なぜ超長期債が買われる?大前氏の視点

【英国】ソフトランディングなきBrexitは撤回すべき

フィナンシャル・タイムズ(FT)は13日、「FTが予想するブレグジット、6つの選択肢」と題する記事を掲載しました。イギリスとEUの合意がまとまらず、交渉なしで離脱するという極めて破壊的なものから、欧州経済地域(EEA)への加盟を維持することで単一市場にとどまるという最もソフトな離脱まで、6つのシナリオを挙げています。それぞれの勝者、敗者、FTとしての評価などをまとめたものとなっています。

これはかなり長い論文で、私も辛抱して読みましたが、役に立たない論文です。要は、どちらにしてもイギリスにとって良いことはないのです。ヨーロッパがいいとこ取りをさせないと言っている以上は、このままとぼけていくと、実は3月から数えて2年後には自動的にEUを出ていくことになるのです。

したがって、もう1度国民投票をすることになれば、離脱しない方に投票する人の方が圧倒的に多くなっていると思います。離脱について1つ1つ見ていくと、やはりいいとこ取りもできないし、7兆円という大変な負担も入り口で払わなくてはならないということもあり、イギリス人はまったくメンタリティが変わってしまっています。メイ首相についても、あいつでは無理だというところまで来てしまっているのです。

当然のことながら総選挙をするというのも1つですが、少なくとももう1度国民投票をして、最後に国民に聞いてみようというステップを踏んで、その結果、残留の方向に向かう可能性が高いと私は思っています。またそれがリーズナブルであり、賢明な国民の選ぶ道ではないかと思うのです。

どのみち、冒頭で紹介したFTの記事の6つのシナリオは、すべてパーになるのです。6つすべてが、つまらない、うまくいかないものなのです。単一市場との関係を維持するとしても、同時に移民などの問題についても縛りを受けることになるのです。私は、この問題についてはもう1度国民投票をして、離脱を止めたというところまで積極的に行かないと、イギリスの被害が大きくなるだろうと思います。

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【アルゼンチン】100年の超長期債に購入申込殺到

アルゼンチン政府は6月19日、償還までの期限が100年に及ぶ超長期債を発行しました。発行額は30億ドル(約3400億円)で、利回りは約7.9%。アルゼンチンは200年前の建国以来、これまで8回債務不履行に陥っていますが、世界的な低金利という運用難を背景に、投資家から3倍超の申し込みがあったということです。

狐につままれたような状況です。100年債ということですが、この国は建国以来、8回デフォルトしているのです。ただ、100年前にはアルゼンチンは世界5位の経済を持つ国でした。ですから100年後は、もしかしたら世界5位か10位くらいには入っているのかもしれません。

アルゼンチンの現在の格付けを見ると、下から2番目のBです。カンボジアキプロスベトナムと同じランクにあります。これが申し込み3倍ということで、やはり怖いもの見たさということなのでしょう。

100年間の間にはいろいろなことがあるのでしょうが、こういうものを買う人がいるということは、それだけの金余り現象であると言えます。おそらくこれぐらいのものであれば、今の世界にとって需要があるのでしょう。償還能力があるのかは説明不能ですが、100年前のような偉大な国になるという期待もあるのでしょう。

Next: 【インドネシア】首都移転の効果/それでも日本はジョコ政権を信用してはいけない



【インドネシア】首都機能移転の効果

インドネシアのジャワ島を横断する鉄道建設計画について、ジョコ政権内に、国際入札にかける案が浮上していることがわかりました。これまでは日本と建設するとしていましたが、コストを重視し、中国など他国からも計画を募る考えが浮上してきたものです。ジョコ政権が日本との約束を再び反故にすれば、関係悪化は避けられない見通しです。

私は何度も言ってきましたが、ジョコ政権を信用してはいけないのです。この人は最も信用できない国家元首の1人だと思います。ちょろちょろと様子見をしては、太くしっかりしたところがない人物で、またここでもかという印象です。

実は今回の計画は、在来線を強化していくということであり、新しい新幹線を作るという話ではありません。今10時間かかっているところを、5時間程度にしようという改良の話なのです。日本はずっとここに調査を派遣して、向こうから大臣もやってきて、調印までしているのです。しかしまたここでこうした問題が起きています。

一方、バンドンまで行く新幹線の建設はまったく進んでいません。中国が途中から割って入り、持っていってしまった計画ですが、進んでいないということで、これについてもジョコ政権に説明を求めたいところです。私はこういう話があれば、インドネシアから何を頼まれてもやらないという判断が正しいのではないかと思います。やはりドゥテルテやジョコを見ていると、日本はしばらくは何もしないのがいいと思います。

また、インドネシアのバスキ公共事業・国民住宅相は、ジャカルタの首都機能移転について、西カリマンタン州など、3つの州が有力候補との考えを示しました。将来的な土地収容に対する懸念から、国有地を中心に候補地を検討しているということで、インフラ計画では民間の参入を促すということです。

インドネシアの主要地域別のGDP比率を見ると、ジャワ島が半分以上で圧倒的に強くなっていて、その次がスマトラです。スマトラはやや北西に寄り過ぎているので、その次のカリマンタンが候補になっています。カリマンタンは、かつてボルネオと呼んでいたところのインドネシア領の部分です。GDP比率は次いでスラウェシ、小スンダ列島、そしてパプアニューギニアの左側と続きます。

また、各地域の面積と人口比率を見ると、ジャカルタのあるジャワ島人口もGDPも寄りすぎているのが分かります。そしてその北にあるのが広大なカリマンタン島で、その北の部分はマレーシア領です。インドネシアはヨーロッパと同じ位東と西の間の距離が大変離れています。ヨーロッパの地図を重ねると同じになるのです。またマルク・パプア地域も、ニューギニア島の西半分であり、インドネシアが島としてすべて持っているのは、スマトラ、ジャワ、小スンダ、そしてスラウェシのみです。

ボルネオ島(インドネシア語ではカリマンタン島と呼ばれる)におけるインドネシア領は5つの州に分かれており、そのうちの3州が候補にあがっています。ジャカルタ以外のところにというのは、初めて聞く話です。ジャカルタは今、空港も交通も機能不全になるほど混雑していて、世界最大の駐車場はジャカルタそのものと言われるほど、車が動かない状況なのです。

その点で、新首都という考えはブラジリアに近いと思います。オーストラリアの場合にはメルボルンとシドニーの仲が悪かったので、キャンベラのようなとんでもない場所に首都を持っていったわけですが、ブラジルの場合にはアマゾン側を開発するという狙いと、リオデジャネイロと近郊の仲が悪かったために遠くへ持っていったという経緯がありました。今回の場合は、仲が悪かったというよりも、ブラジル型で、少し奥地に移すという狙いがあるのだと思います。

首都移転をすると何が起こるかというと、ほとんどの議員はジャカルタ近郊から来ているので、週末にはジャカルタへ帰っていくことになります。これは「ブラジリア現象」と言い、ブラジリアという素晴らしい首都をオスカー・ニーマイヤーなどの設計でつくったものの、みんなすぐにサンパウロなど地元に帰ってしまい、なかなか思ったほど首都らしくならないということが起こります。インドネシアでもそうした現象がしばらく起こることになるでしょう。しかし、インドネシアに関しては、あまりにもジャカルタへの一極集中が強いので、この首都移転は良いアイディアだと思います。


※本記事は、グローバルマネー・ジャーナル 2017年7月26日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に無料購読をどうぞ。

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・米国で想定される2つの金融政策(福永博之)(7/26)
・ソフトランディングなきBREXITは撤回すべき(大前研一)(7/19)
・日本株PER低下!割安でまだまだ買う余地あり?(田口美一)(7/12)
・BREXIT問題は進んでいくのか?(大前研一)(7/5)

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グローバルマネー・ジャーナル』(2017年7月19日号)より一部抜粋
※記事タイトル、太字はMONEY VOICE編集部による

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