記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年11月29日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
消費増税による「破壊的インパクト」が、ゆっくりと確実に日本を殺す
「三年限りの命だぜ…」
消費税が増税されたのが、2014年4月。あれから二年半以上が経過し、今やもう「三年目」となってしまいました。
思い起こせば、消費増税「前」には実に様々な議論が国民的に展開されました。筆者はそんな中、5年近くも前の2012年3月22日、参議院予算委員会の公聴会で「消費増税」に対する「反対派」の学識経験者として招聘され、意見陳述を求められました。
※口述の様子は下記を、
http://www.youtube.com/watch?v=2U5vCjS0O3U&feature=related
また、その際の正式の発言録は国会の正式の下記HPをご参照ください。
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/180/0029/18003220029001a.html
その際、消費増税の日本経済に対する「破壊的インパクト」について、次のように発言いたしました。
「増税後すぐには影響は出ないのですが、どのケースでも三年目辺りから景気が大きく減速します。
これは、ある年次の消費税増税のインパクトは数年間、単年度ではございません、数年間続くこと、そして、三年ほどたてばその前年、前々年の増税インパクトが累積をして大きく景気が減速していくこと、これが原因でございます。
言わば、消費税増税は幻の格闘技の技の三年殺しのような効果を持つわけでございます」
※参考:http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/180/0029/18003220029001a.html
(※この際に引用したグラフは下記資料の4頁です。なお、この頁にも「三年殺し」と指摘いたしております。http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/images/stories/PDF/Fujii/201201-201203/presentation/20120322councillors.pdf)
(※ちなみに、この「三年殺し」という格闘技の秘技は、しばしば格闘技ファンの間で噂されるものですが、例えば筋肉少女隊の大槻ケンヂ氏も、名曲『イワンのばか』の中で、次のように紹介しておられます。
三年殺しを知ってるかい、
ロシアのサンボの裏技さ、
三年限りの命だぜ…
あれから季節はめぐりゆき
確かに昨日で三年目引用:J-Lyric.net 筋肉少女帯『イワンのばか』作詞:大槻ケンヂ/作曲:橘高文彦
(この大槻ケンヂ氏のイワンのことはさておくとしても)日本国民としてはやはり、我が国が増税三年目にして、どうなっているのかは大変気になるところ。
Next: ついに「三年殺し」が日本経済でも実現しつつある
ついに「三年殺し」が日本経済でも実現しつつある
ついてはこの度、内閣府の統計値を用いて検証したところ…幸か不幸か、この四年前の指摘通りに、「三年殺し」の状況が日本経済において実現しつつあることが分かってしまいました。
今から四年前半前の平成24年3月22日、参議院予算委員会の公聴会で、当方は消費増税について反対派の学識経験者として招聘されました。
その際、次のように発言いたしました。
「増税後すぐには影響は出ないのですが、(中略)三年目辺りから景気が…
藤井 聡さんの投稿 2016年11月28日
ついては、詳しくこのグラフを解説しましょう。
このグラフには、名目GDPの成長率(名目成長率)と、その名目GDPから輸出入の影響を除去した「内需」についての名目GDPの成長率(内需・名目成長率)を示しています。
(※ちなみに、名目GDPに比した「純輸出」(輸出から輸入を差し引いた値)の大きさ(絶対値の水準)の割合は、過去12年間の平均でたった「1.2%」に過ぎません。つまり、名目GDPの99%近くが実は「内需・名目GDP」で占められているわけです。)
さて、上記のグラフの「名目GDP」(灰色の線)に着目すると、リーマンショック後しばらくマイナス成長の時期がありましたが、アベノミクスが始まった2013年以降、一貫して「プラス」であることがわかります。
しかし(以前も別記事で指摘しましたが)、消費増税後、内需が大幅に縮小し、「輸入」が大きく低下し、そのあおりを受けて名目GDPが大きくなってしまっているのが実態です(名目GDPは、とにかく輸入が減れば大きくなるものなのです!)。いわば、その名目成長率は、輸入減少によって、見かけ上、増えているように見えているだけ、という次第。
※http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/11/15/fujii-223/
その結果、名目成長率(灰色線)では、「増税の影響」がほとんど分からなくなっているのですが――内需・名目成長率(黒線)に着目すれば、「増税の影響」をくっきりと見てとることができます。
増税以後、内需成長率は右肩下がりに低下していき、三年目にして明確にマイナスの水準に至っているのです。そして今、内需成長率は三期連続(前年同月比で)「マイナス成長」の状況に至っています。
もう少し詳しく言うなら、消費増税翌年の2015年1-3月期にも内需成長率は一度「マイナス」に突入していますが、マイナス成長は一期だけで、その後回復し「プラス」成長になっています。つまり、増税二年目よりも三年目の方がより激しく内需が縮小しているのが実態なのです。
Next: 消費増税さえなければ、日本経済はデフレ脱却を果たしていた
消費増税さえなければ、日本経済はデフレ脱却を果たしていた
そもそもここ数年で三期も連続で内需名目GDPが縮小したのは、2011年の大震災直後の期間だけ。つまり、東日本大震災が日本にもたらした経済ショックと同程度のショックが、消費増税の「三年殺し」によってもたらされたという次第です。
そもそも消費増税直前には、金融政策のサポートを受けつつ10兆円の補正予算を組んだアベノミクスのあおりを受け、3〜4%もの「内需成長率」を記録していただけに、返す返す、消費増税さえなければ――と悔やまれてなりません。すなわち、消費増税を行わず、初年度のアベノミクスと同様の財政政策をしばらく継続してさえいれば、日本経済はデフレ脱却を果たしていた可能性は極めて高かったのです。
とはいえ、今となっては後の祭り。我々は今できることに、全力で取り組まねばなりません。
まずはこのグラフが明確に示している、消費増税の「三年殺し」の破壊的インパクトを明確に認識しつつ、次年度当初予算、第三次補正予算、そして、次年度当初予算の全ての機会を徹底的に活用し、大型の景気対策を継続していくことができれば、この消費増税インパクト「三年殺し」を乗り越えることは決して不可能ではありません。
政府の的確な状況認識と、理性と勇気ある決断を心から祈念したいと思います。
追伸:あるべき経済政策については、是非下記をご一読ください。
※https://goo.gl/Jcqhm0
『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016/11/29号より
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