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「アメリカへのマネー一極集中」を予想し身構えるマーケット=田口美一

今までアメリカが良ければヨーロッパも良くなり、エマージングもプラスの影響を受けるとされていたものが、今後はアメリカだけが良くなるという流れになるのか否か、そのような大きな変化が始まるのかもしれません。少なくとも敏感にマーケットではそうした気配を感じ取り始めている可能性はあります。(『グローバルマネー・ジャーナル』田口美一)

※本記事は、最新の金融情報・データを大前研一氏をはじめとするプロフェッショナル講師陣の解説とともにお届けする無料メルマガ『グローバルマネー・ジャーナル』2016年11月30日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に定期購読をどうぞ。
※11月24日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております

プロフィール:田口美一(たぐちよしいち)
金融経済アナリスト、前クレディ・スイス証券副会長、ビジネス・ブレークスルー大学 資産形成力養成講座講師。専門分野は金融経済全般、資産運用、年金問題など。

「巨額資金が米国に戻る」市場を駆け巡るストーリーは実現するか?

トランプ次期大統領に関するポイントをチェック

トランプ次期大統領に関するポイントを整理すると、まず、予想外に冷静だと言えます。大統領的風格すら出ています。そして、アメリカの内需を重視し、テコ入れ策を取ると明確に打ち出しています。成長率を2倍にし、雇用も拡大する、法人税もカットすると言うのです。

ただアメリカも、財政はドイツほどは良くなく、日本ほど悪くはないものの、そこそこ財政赤字を抱えています。そこへさらに国債を発行しての財政出動となれば、やはり金利の上昇、インフレの可能性が少し出てくることになるでしょう。

そして、重要な為替政策についてはドランプ氏の姿勢は未だ不透明です。ただ、対円以外について見るとドル高となっていて、その傾向が続けば、基本ドル高が続くでしょう。対円についても、これまでかなり円高ドル安になってきていたので、少し揺り戻されてもしかるべきだと思います。それがドル高円安の動きに見えてもおかしくはないでしょう。

外交と国防、つまり地政学の問題については、トランプ氏はまだ経験がありません。ヒラリー氏は長官も務め、ファーストレディーなど様々な経験もしていて、そこそこ手腕はあったと思われますが、トランプ氏に関しては未知数です。

ただし、今回は議会も共和党で、大統領と議会が一応マッチしています。その意味では、協議をしてベテランを起用するのではないかと言われています。外交や国防に関しては、言葉は良くありませんが専門家にお任せ、丸投げをして、自分は冷静に対応して新たな波を起こさないようにするようにも見えます。

このように、まだまだ不透明なところが多いものの、選挙前の見通しとは確実に変わっています。日本の為替・株式市場についてみると、大統領選挙前にはカラータイマーが点滅し、どちらの候補に決まっても不安な状態でした。しかも日本は金融政策が出尽くしていて、非常に厳しい状況でした。開票が進むにつれ、トランプ氏が有利となり、一旦カラータイマーの点滅は黄色から赤色に変わりましたが、その後「勝利宣言」演説以降、一転してドル高円安が進み、株もドンドンと上昇し、いきなり信号機が赤から青になったという現象が起きました。

世界の株価への影響は

マーケットの動きをより大局観で捉えてみましょう。年初からの株価の動きを見ると、Brexitを終えたイギリスは8.3%のプラスと、良いパフォーマンスです。アメリカはトランプ氏に決定後、さらにパフォーマンスを上げてきています。

一方ドイツは、いい国にもかかわらず難民問題を一手に引き受け、さらにはテロのリスクもある中、足元やや戻ってはいるものの一年を通して冴えない動きとなりました。そしてわが国日本は、再び円高で苦しめられ、黒田総裁率いる日銀も万策尽きたような状況でした。日経平均は16000円を割ろうという動きでしたが、今はそれを乗り越え、急激に大きな戻りを見せています。

もう少し狭く一ヶ月の変化で見てみると、日本は6%ほどの上昇、アメリカもさらに上昇し、指数は高値を更新しています。ドイツも少しは上昇していますが、日米には及びません。そしてイギリスについては、これまで良かった分の反動が出ています。

アメリカが外に出していたお金がアメリカへ戻ることになるという見方も出てきていて、これまでよかったマーケットが利喰われているというわけです。これまで買われてきたイギリスが売られ、アメリカは続伸、日本も復活、という動きが非常に象徴的です。

Next: この1ヵ月、ほとんど世界の株価は横ばい



この1ヵ月、ほとんど世界の株価は横ばい

さらに広い範囲のマーケットについて見てみます。全世界の平均で見ると、年初来は3%と上がっているものの、この1ヵ月で見ると、大統領選を踏まえて見てもほとんど世界の株価は横ばいなのです。

実は、上昇しているのはアメリカと日本、中国のみで、ヨーロッパもトントンです。それ以外の、例えばエマージングは6%も下落しています。BRICsも5%、イギリスも3%下げています。これは、明確に資金がアメリカに戻るというストーリーが、市場を駆け巡っているということを示しているのです。

通貨についてみると、ドル円は急激に戻してきています。ユーロドルは横ばい圏内ややドル高ですが、元は売られていて、どの通貨で見てもドル高が進んでいるわけです。

1980年代に共和党から出たレーガン大統領は、元映画スターで、カリフォルニア州知事を経て大統領になったわけですが、彼の行ったレーガノミクスと今回のトランプ氏の政策をだぶらせて考える見方が多く聞かれています。同じ共和党であり、トランプ氏は国を挙げてアメリカを復活させると主張しているからです。

トランプ氏の経済政策はレジュームチェンジをもたらすか。ドル金利が焦点に

レーガン大統領の時の為替レートを確認してみると、確かにドル円はドル高方向に動きました。今からは想像がつきませんが1ドル250円、どこの国の通貨かと思う水準です。レーガン大統領の一期目、1981年から85年まではドル高がどんどん進みました。アメリカの復活を掲げていたからです。

ところがこれはやり過ぎで、アメリカの輸出企業を中心に業績が苦しくなってきたのです。そこで、レーガン大統領はニューヨークに世界の国の中央銀行総裁と財務大臣を集めました。日本からは当時の澄田日銀総、竹下大蔵大臣が呼ばれました。

2人ともお忍びで、ゴルフに行く格好をしてゴルフ道具を持って車に乗り、成田からニューヨークへ向かったと言われています。ニューヨークのプラザホテルに召集がかけられ、いよいよドル高修正の時が来たのです。このレジュームチェンジにより250円だった為替は一気に100円台前半へと押し下げられました。今回もこうしたことが起きる可能性があるのです。

実はその時始まった円高がずっと続き、民主党政権末期の、80円を切るところまで続いたのです。失われた25年と言われるように、長い間日本経済は円高に苦しむことになります。この円高の動きはアベノミクスによって変わったと言われていますが、ここ1年は再び円高方向に進んできていました。

それがまたトランプ氏の登場により、現在は他の国の通貨と同じようにドル高が進んできているわけです。過去には大きなレジュームチェンジがあったことを踏まえると、安心してこれで大丈夫とは言い切れませんが、かなり急激な変化が起きていることは事実です。

Next: 各国で高まる、資本流出・アメリカ一極集中への不安感



各国で高まる、資本流出・アメリカ一極集中への不安感

米国金利も、このまま財政政策をして国債を多く発行する可能性があることから、米10年債の利回りは非常に急激な上昇を見せています。各国ともこの動きに完全に連動しています。日本ですら金利は上向いています。ただこれについてはより多くの国を見る必要があります。

10月末から比べると、アメリカやドイツなどの金利も上がっていますが、ブラジル、トルコ、メキシコ、インドネシアなどの金利は1%近く上昇しているのです。通貨もドルに対して弱くなっており、金利も上がっているのです。これらは最もアメリカに経済がリンクしている国々です。

アメリカの資本もたくさん入っているこうした国は、資金がアメリカへ戻ってしまうかもしれないという不安感があるのです。大きな外貨準備も持っておらず、対外収支もそれほど黒字がない中、金利の上昇と通貨の下落が同時に起こると、非常にリスクが高まります。現在、それが起きてしまっているのです。エマージング全体からも資本の流出が懸念され不安感が高まっている状況です。

ベルリンの壁が壊された時から、世界は資本主義を謳歌し始め、具体的にはユーロができ、エマージング市場や中国経済などが強くなってきた時代、お金が世界中に回っていくという豊かな時代であったと言えると思います。それがトランプ大統領により、アメリカに一極集中することになるとすればどうでしょう。

今までアメリカが良ければヨーロッパも良くなり、エマージングもプラスの影響を受けるとされていたものが、今後はアメリカだけが良くなるという流れになるのか否か、そのような大きな変化が始まるのかもしれません。少なくとも敏感にマーケットではそうした気配を感じ取り始めている可能性はあります。この辺りを今後は注意深く見ていく必要があると思います。

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グローバルマネー・ジャーナル』(2016年11月30日号)より抜粋
※記事タイトル、太字はMONEY VOICE編集部による

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