ジョージ・ソロスは、自身が投資家として成功したのは「再帰性理論」のおかげであると、自身の書籍の中で繰り返し述べています。ただ、「本当は哲学者になりたかった」というだけあって、彼の説明はとても難解です。そこで今回はできるだけわかりやすく、ソロスの「再帰性理論」を解説していきます。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)
「本当は哲学者になりたかった」ソロスの再帰性理論を理解する
投資家として成功できたのはこの理論のおかげ
ジョージ・ソロスは、書籍『ソロスの講義録』にて、次のように述べています。
私は危機(2008年のリーマン・ショック)を予測することができたのですが、それは「再帰性」の理論のおかげでした。また、危機が現実化した際の対処の仕方も、「再帰性」の理論のおかげで、わかっていました。(P24より引用)
ソロスは、自身が投資家として成功したのは「再帰性理論」のおかげであると、自身の書籍の中で繰り返し述べています。
ただ、この理論は、私たちの間で広くは認知されていません。その原因の1つは、哲学者を目指していたソロスの非常に難解な文章にある(=なかなか伝わってこない)、というのが私の個人的な見解です。
そこで本稿では可能な範囲でわかりやすく、自作の図解も示しながら、ソロスの「再帰性理論」を解説していきたいと思います。
ソロス「市場は常に間違っている」の真意とは?
ソロスの言葉の中で最も有名なのは、「市場は常に間違っている」だと思います。一見、単純でわかりやすい言葉ですが、ソロスの真の意図はかなり深いところにあります。
なぜ、ソロスは「常に」と言っているのでしょうか?
いわゆる「適正株価」と呼ばれる、企業の実態と株価が釣り合っている時もあるはずです。それをなぜ「常に間違っている」と言い切れるのか?ここに、ソロスの説く「再帰性理論」の神髄が隠されています。
この「再帰性」を理解するにあたっては、まず「可謬性(かびゅうせい)」という考えを前提に市場と向き合わなければいけない、とソロスは言います。
「可謬性」は哲学の用語なので、普段、耳にすることはほとんどありません。「謬」とは「間違うこと、過ち」の意です。ここでは、可謬性という用語を「人は誤解しうる」という意味で捉えてください。
ソロスは世の中に存在する事象を、次の2種類に分類しました。
- 自然現象……(例)雨が降っている
- 社会的事象……(例)Z社の株価が大暴落して割安になった
「雨が降っている」という自然現象は、人間の思考とは無関係に発生し、思考が原因の役割を果たすことがありません。
観察者であるAさんとBさんが同じ場所にいるとき、「雨が降っている」という現象には関与できません。2人に天気を変えることはできないし、AさんとBさんで解釈が異なることもありません。
一方、「Z社の株価が大暴落して割安になった」という社会的事象には、人間の思考が入っていて、人間がこの現象をコントールもできます。次の日にAさんは割安になったZ社の株を買うかもしれないし、Bさんは逆にZ社の株を信用売りするかもしれません。
このような「社会的事象」に対して、ソロスは「自然現象」にはない特徴を発見したのです。それが「可謬性」です。
「雨が降っている」という自然現象は、誰が解釈しても動かせない事実であり、「可謬性」は入ってきません。
ところが、「Z社の株価が大暴落して割安になった」という社会的事象は、人間という参加者がそこにいて、その参加者たちの解釈と行動によって生じるものです。
社会の参加者である人間は、社会のすべての情報を知っているわけではなく、常に一部の情報をもとに判断しています。Z社に関する情報を100%、知っている人はいないのです。
従業員、経営者、株主、顧客…それぞれの立場で持っている情報が異なります。そのため、「社会的事象」には、人間の誤解や間違いがもともと入っているのです。

【図解1】自然現象とは違って社会的事象には「可謬性(かびゅうせい)」が存在する!
反対に、「自然現象」には人間が参加者として加わっておらず、人がいなくても、雨が降ったり風が吹いたり気温が上がったりします。
この「可謬性(=人は誤解しうる)」が、ソロスの「再帰性理論」の基礎になっています。