マネーボイス メニュー

「人工知能」と「無責任なアナリスト」株価予測はどちらが信用できる?=吉田繁治

人工知能による未来予測は、過去と現在のルールが同じ場合に上手く機能します。しかし金融の世界には、「将棋で突然、桂馬が前に進み出す」ようなルール変更がつきものです。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)

※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2017年8月27日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

人間にもAIにも、明日の日経平均株価を予想することはできない

人工知能による金融商品の価格予想は原理的に不可能

AIによるディープラーニングでは、金融商品の価格とそれを左右する多くの要素との関係を「多変量解析」プログラムによって分析しますが、これらはあくまで「過去の関係」です。

多変量解析は、「1カ月後の予想価格=a×(要素1)+b×(要素2)+c×要素3+d×(要素4)+e(要素4)+f×(要素5)+・・・」という構造をもっています。このa,b,c,d,e,f・・・がそれぞれの要素の「重み」を決めるパラメータ(変数)です。要素は、その価格に関係する「金融・経済のファンダメンタルズ(基礎指標)」でしょう。

AIは、過去の価格と「パラメータ×要素の関係」を、過去のデータを学習することによって、傾向の平均値予測になる最小二乗法で決定します。それを将来に延長するのです。この最小二乗の計算は、要素数で数万になることも多い。

この方法を経済に応用するとき、「フレーム問題(枠組み問題)」と言われる根本的な問題があります。

将棋や碁のように、過去と現在のルールが同じときは、フレーム(ルール)が一定なので、多変量解析のパラメータと要素を決定できます。法則が変わらない自然科学の領域でも、AIは有効です。たとえば、新薬の開発は自然科学です。

しかし、売買の均衡により価格が決定される金融商品では「過去のルールと現在のルールが変わる」ことが問題となります。

【関連】人間はAIに敗れるか?投資の世界に訪れるシンギュラリティ(技術的特異点)=田渕直也

金融商品の売買では、常にルールが変わっていく

金融商品の売買では、将棋で言うと「あるとき突然、桂馬が前に進めるようになる」ようなルール変更が常に起こっています。自然科学で言えば「過去は効いた医薬品が効かなくなる」状態です。「人が通る道路が変わったのに、過去の道路の学習しかしていないAI車」でも同じです。

このため、過去のルールに適合させた多変量解析は、金融商品の未来には延長できない。

たとえば日本の株価、特に日経平均株価やTOPIXの価格を決めているのは、海外ヘッジファンドによる売買(2008年以降、東証売買の60~70%を占める)ですが、彼らの動向を予想することはできません

日本株を最も大きく変化させている要素は何か?

ヘッジファンドが週間で2000~3000億円以上買い越すときは、それが最も大きな要素となって、ファンダメンタルズがどうであれ日経平均株価は大きく上がります。売り越すときは下がるのです。

わが国の株価を予想する上では、「6000~8000本の英米ヘッジファンド(元本資金350兆円)が日本株をいくら買うか、あるは売るか?」を考慮しなければならない。これがない限り、その株価予想は無効です。

では、ヘッジファンドが「今月、日本株をいくら買うか、あるいは売るか?」を予想するための根拠となる数値はあるでしょうか。

8000本のヘッジファンドそれぞれが、当然に発表せず、ほぼ3カ月単位で買いのルール・売りのルール(つまりフレーム)を変えているのですから、その売買は予想不可能です。

少数の大手ファンドが、投資資金を募るために、ときどき(不規則に)行っているマスコミ向けの方針発表も、実際の売買とは違うことが多い。

彼らにとっては「裏をかく」ことが目的であることも多いからです。投機の世界は、太古の昔から海千山千であり、魑魅魍魎が跋扈しています。

Next: 2017年12月の日経平均株価を予測できる人は、世界に1人もいない



予測できない投機的売買

投資ではなく投機的な売買が多い金融商品(株式、通貨、コモディティ)では、「価格予想」は不可能です。

たとえば、原油価格を考えてみましょう。もし原油価格が実需の現物売買量によって決まっているなら、経済指標との関係で、多変量解析の方程式を作ることができます。産油国の生産量予測(ゆっくり動く)と、中国の実質GDPの増加に比例する需要予測(ゆっくり動く)により、価格予想ができるわけです。

しかし、現実の原油市場は、原油先物という実需を伴わないファンドによる投機的売買が多く、価格は先物市場で決まっています。この投機的売買は予想できないものです。

このように、指数化されて金融商品に属するようになったコモディティも、数値的な根拠をもった価格予想はできない、要は「ヤマカン」にしかならないのです。

(注)不動産価格は実需で決まっているので、関連するファンメンタルズを根拠に長期的な価格予想ができます

多くの参加者が「ヤマカン」で売買

多くの人が金融商品の売買で損をすることが多いのは、価格変動の罫線(チャート)を見て、その延長上で、数理的な根拠の薄いヤマカンによって価格傾向を考えるからです。

その結果は、上がったものは上がる、下がったものは下がる(順張り)。あるいは、上がったものは下がる、下がったものは上がる(逆張り)です。要はこのいずれでしかない。

わが国の個人投資家700万人は、全体では、上がった相場では売り、下がった相場では買う「逆張り」の傾向があります。

そして順張りにせよ逆張りにせよ、株価罫線(通貨罫線)の「傾向」を、様々な根拠をつけて作り上げ、その傾向の判断により売買がされています。つまり傾向の(ヤマカンでの)判断がベースとなっているのです。

予測できる人は、世界に1人もいない

しかし、この傾向の判断は当たるのが50%、外れるのが50%です。その理由は、株価は1カ月単位ではランダム・ウォークしているからです。

後で見れば、株価(あるいは通貨)の罫線にも、ほぼ3~6カ月単位での、上がる時期と下がる時期の傾向が見えますが、そこから未来の傾向は予測できないからです。

たとえば、本稿執筆時点の日経平均株価は1万9470円です。約1カ月前の2万円に対しては、2.65%下がっています。

ここから2017年12月の日経平均株価を根拠をもって予測できる人は、世界に1人もいない。しかし実際に売買するときは、少なくとも3カ月後の株価を想定せねばならないのです。

上がるか下がるかは50:50

現物や先物を買う人は、価格が上がると想定しています。売る人は、価格が下がると想定しています。上がると思う人の買いが50、逆に下がると思う人の売りが50です。買い50:売り50で、今の株価の1万9470円が成立しています。

つまり「今日の株価は、異なる予想の売りと買いの両方が均衡した結果」です。

実際に、明日上がるか下がるか、1週間後に上げているか下げているか、3カ月後に上げているか下げているか、それは、論理的には50:50としか言えません

現在の日本株を実際に売買している人たちの予想が、仮に上げ55%、下げ45%だったと仮定します。

その予想の結果、55株の買いが出て、45株の売りが出ます。買いが10株も多ければ価格は高騰します。10株も差があれば株価は30%は上がって、1.3倍の価格で売買が均衡し、今日の価格になります。

つまり、今日の実際の売買量が均衡した価格が、今日の株価です。今日の株価(終値)になった時点で、上がるという予想と下がるという予想は50:50になっています。

Next: 証券会社の「ポジショントーク」に騙されてはいけない



「出遅れ日本株」という嘘

実際に売買しない人たちの予想は価格とは無関係であり、価格から見れば「ニセモノ情報」です。

証券会社がよく言う「日本株の出遅れ」もありません。これは、株式の売買を仲介して手数料を稼ぐためのポジショントークです。日経平均とダウは、上げも下げも(値幅の違いはあっても)リアルタイムで連動しています。

株価が上がる、あるいは下がると毎日はやし立てているアナリストや証券会社は、実際の売買は行っていません。彼らは「価格を作る市場参加者」ではないからです。

上がること、あるいは下がることが確実なら「人に言わず、自分が売買を実行」します。証券アナリストは、本心では自分の予想を信じていないから、売買に参加しないのです。競馬の予想屋と変わらないでしょう。テレビのアナリストのコメントを見ていて感じることです――
続きはご購読ください。初月無料です<残約7,000文字>

1.価格変動の標準偏差を示すのが、オプション料

2.ランダム・ウォークをしている金融商品の価格

3.株価の日経平均でも、通貨と同じプログラム、同じパラメータを適用してみた・・・その結果


※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2017年8月27日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した「常識と異なるところのある現代ファイナンス理論」シリーズの全文もすぐ読めます。

【関連】アマゾンのAI食料品店『Amazon Go』はあと5年で世界を何色に塗り替えるか?=吉田繁治

<初月無料購読で今すぐ読める! 8月のバックナンバー>

・常識と異なるところのある現代ファイナンス理論(4)(8/23)
・常識と異なるところのある現代ファイナンス理論(3)(8/17)
・常識と異なるところのある現代ファイナンス論(2)(8/9)
・常識と異なるところのある現代ファイナンス理論(1)(8/3)

【関連】人工知能(AI)革命前夜。私たちが間もなく目にする「天国と地獄」とは=東条雅彦

【関連】クルーグマンと安倍首相の議事録『Meeting with Japanese officials』を読む=吉田繁治

ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊を超える情報価値をe-Mailで』(2017年8月27日号)より一部抜粋、再構成
※記事タイトル、本文見出し、太字はマネーボイス編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊を超える情報価値をe-Mailで

[月額660円(税込) 毎週水曜日]
●最新かつ普遍的なビジネスの成功原理と経済・金融を、基礎から分かりやすく説いて提供 ●時間がない、原理と方法の本質を知りたい、最新の知識・原理・技術・戦略を得たいという方に ●経営戦略・経済・金融・IT・SCM・小売・流通・物流を、基礎から専門的なレベルまで幅広くカバー ■新規申込では、最初の1ヶ月間が無料です。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。