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海外カジノ業者と国内パチンコ大手のタッグに「毟りとられる」日本人=施光恒

記事提供:『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2016年12月9日号(カジノで毟りとられる日本人)より
※本記事のタイトル・リード・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

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パチンコを潰せ!安倍政権のカジノ解禁を支持せよ!という思考停止

カジノ解禁法案、今国会で可決の見通し

統合型リゾート(IR)推進の法案、つまりカジノ解禁の法案が今国会で通りそうです。

しかし、最近、本当に「奇妙な政策」が多いですよね。一昔前だったらとても通らなかった変な法案がどんどん決まります。「外国人家政婦」「民泊」、そして近い将来、「水道事業の民営化」も開始されるようです。そして今回のカジノです。

私は以前、このメルマガに「おバカな三代目の経済学」という記事(2016年2月5日)を書きました。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/02/05/se-72/

時代劇とか落語とかでよく描かれることですが、才覚がなく、食っていけなくなったおバカな三代目のボンボンが、元々は裕福だった生家の財産を切り売りすることによってどうにかこうにか糊口をしのいでいく。現在の日本の経済政策は、まさに、そんな状態になぞらえることができるのではないかと論じました。

20年近くデフレ不況に陥っている日本は、本来なら、適切な公共投資を行い、長期的な観点から国民生活の基盤を整え、需要を喚起していく政策をとるべきです。

しかし、新自由主義の「小さな政府」路線に固執する1990年代後半以降の日本は、こうした真っ当な政策を採用しません。逆に、先人が培ってきた国民生活の基盤(国民の共有資産)を切り売りすることによって、目先の需要を喚起し、経済をその場しのぎで回していくという手法をとっています。

例えば、電力やガスなどのエネルギー産業の自由化、あるいは水道事業の民営化などがわかりやすい事例でしょう。医療や食料(農業)、雇用などの分野もそうです。外国人の入国審査の緩和(ビザの緩和)を通じて観光客を呼び込み「爆買い」を煽るという手法や、「民泊」で不動産需要を喚起するという手法も、含まれるでしょう。「安全」「落ち着いた街並み」という国民の共有資産を切り崩しつつ、稼ごうとするものですから。

Next: 日本を世界に切り売り。安倍政権は「愚かな三代目」になるか?



日本を世界に切り売り。安倍政権は「愚かな三代目」になるか?

社会的インフラ事業や医療、食料、安全などは国民生活の基盤ですので、一昔前まで政府は自らの規制・監督の下において調整を図るのが常でした。

他方、ビジネスの側から見れば、社会的インフラ関連や医療、食料といった領域は、非常に「おいしい」分野です。デフレ不況下であっても人々はこういった分野にはお金を使わざるを得ません。ビジネスの側からみれば、不況下でも安定的に稼ぐことが見込まれる領域なのです。

ですから、米国などのグローバル企業(日本の財界もそうですが)は、常に、「こういった領域を開放せよ」「我々にビジネスをさせよ」という要求を繰り返してきました。

デフレ脱却ができない政府は、近年、こういう要求に折れ、規制緩和を繰り返し、一時的にカネを回すという場当たり的手法をとるようになってきました。これは、見ようによっては、国民の生活基盤や共有資産の切り売りです。ちょうど、金策に困った、商家の愚かな三代目が家産を切り売りしてやっとのことで暮らしを維持する状態に似ています。

しかし、豊かだった商家でも、さすがにこういうその場しのぎを繰り返していくと、しだいに売るものがなくなって困窮してきます。そうなったとき、おバカな三代目はどうするでしょうか。時代劇ですと、だいたいこういうおバカな三代目には、三代目を食い物にするヤクザっぽい悪友がいて、そいつが次のようにささやくんですよね。

「おう若旦那、お前のとこもさすがにもう売るものがなくなってきたよな。じゃあ今度はこうしようぜ。お前んち広くて割といい場所にあるからさ、賭場を開いて、バカな連中からカネを巻き上げようや。テラ銭はお前が取ればいいし、博打の上がりからも1割ぐらいだったらお前に分けてやってもいいぜ!」

Next: 日本人から「毟り取る気マンマン」のアメリカ財界団体



日本人から「毟り取る気マンマン」のアメリカ財界団体

実際、三代目のボンボンたる「日本政府」には、近年、こういう黒い呼びかけが結構来ています。

例えば、下記の記事のように、米国のカジノ運営業者の大手が、カジノ法案が通った暁には、日本に1兆円を超える大型投資をすると明言しています。日本の大都市でならガッポリ稼げそうだというわけです。

カジノ大手の米サンズ「日本に100億ドル規模を投資する計画に変化ない」 -産経ニュース 2016年4月5日配信

「日本版カジノにぜひ」IR法案の行方にらみ米カジノ王、日本進出に熱い視線 – 産経WEST 2016年10月22日配信

また、こういう外資系カジノ業者の背後に控える米国の財界団体「在日米国商工会議所(ACCJ)」は、以前から、日本政府に対する「意見書」を何度も出し、カジノで稼がせろと要求してきています。

(この点については、以前も本メルマガで触れました。下記をご覧ください。)
【施 光恒】在日米国商工会議所から学べること – 「新」経世済民新聞 2015年10月30日付

在日米国商工会議所は、「統合型リゾートが日本経済の活性化に寄与するための枠組みの構築(Establish the Necessary Frameworks to Make Integrated Resorts a Vibrant Contributor to the Japanese Economy)」という意見書を提出しています。

この文書の英語原文のタイトルは、“Establish the Necessary Frameworks ….”ですので、直訳すれば命令形で「…必要な枠組みを構築せよ!」ですね。なかなか居丈高です。

この意見書は、強欲資本主義の総本山だとしばしば言われる米国系の財界団体の出したものですから、中身も容赦ない文言が並んでいます。上記リンク先のメルマガ記事にも書きましたが、日本人から毟り取る気マンマンです。

Next: なぜ日本だけがカジノへの自国民入場を禁止にできないのか?



なぜ日本だけがカジノへの自国民入場を禁止にできないのか?

カジノを認めている国の多くは、自国民をギャンブル依存症にしないように、カジノへの自国民の入場を禁止、もしくは制限しています。

例えば、韓国にもカジノは17か所ありますが、韓国人が入場できるのは一か所だけです。モナコはカジノで有名ですが、モナコ人はカジノには立ち入り禁止です。シンガポールのカジノは、外国人は無料ですが、自国民からは100ドル(シンガポールドル)(約8000円)の入場料をとっています。高めの入場料を設定し、自国民が入りにくくしているわけです。

在日米国商工会議所は日本人から稼ごうとしていますので、「入場料はなしにしろよ!」と強く訴えています。他にも、日本人がアクセスしやすいように田舎ではなく、「東京、横浜、大阪のような大都市に作れよ」、「公共交通機関がアクセスしやすいようにしろよ」といった提言が並びます。

加えて、「24時間年中無休にしろよ」、「カジノの総収入にかける税金は10%以下にしろよ」、「カジノでは金融サービスが受けられるようにしろよ」、「ギャンブル依存症対策などといって例えば一日にカジノで使える金額の上限を設けたりするなよ」などと要求しています。

こういう要求を掲げる際、在日米国商工会議所の意見書は、「パチンコや、競輪などの公営ギャンブルと競争条件を平等にしろ。そうじゃないと不公平だろ」としばしば指摘します。つまり、「パチンコなどが入場料をとらないのだから、カジノもそうしないとダメだぞ」などと言うのです。

もしTPPが発効したら、ギャンブル依存症対策の一環として政府がカジノに日本人対象の高めの入場料を設定するように求めた場合、外資系カジノ業者は「公平な競争条件が侵害され、期待される利益が不当に損なわれた」などとナンクセをつけ、ISD条項で日本政府に対し、訴訟を起こすのではないでしょうか。

また、当然ながら、在日米国商工会議所の意見書は、米系のカジノ業者が日本のカジノの運営権を獲得できるように戦略をよく練っています。例えば、カジノ業界の規制・監督にはカジノ管理委員会を創設し、それが当たるようにすべきだと求めています。そして、委員には、関連する専門的背景や経験を有する者を選任せよと提言します。

また、「落札した各共同事業体には、グローバル・ベストプラクティスに従って、カジノ運営を行う優れた実績を有する参加者や、大規模な複合利用IRを含む複数の施設の運営・統合を成功裏に行った経験を有する参加者を含めること」などとも記しています。

日本国内には、カジノを成功裏に運営した経験のある業者などあまりいないでしょうから、結局、この文言は、米系企業が恩恵にあずかれるようにせよということを意味していると受け取っていいでしょう。

Next: 「安倍政権のカジノ解禁でパチンコ消滅」という楽観的すぎるデマ



海外カジノ業者と国内パチンコ業者が「悪魔のタッグ」を組む

ところで、ネット掲示板やいわゆる保守系ブログなどで次のような見解をときおり見かけます。「安倍政権は、今回のカジノ解禁によって相対的にパチンコ業界が不利になるようにしているのだ。実は深謀遠慮なのだ。だから安倍政権のカジノ解禁を支持すべきだ」。

残念ながら、こういう見解は、過度に楽観的で的外れでしょうね。解禁後のカジノの運営には、おそらく既存のパチンコ大手もかなり参画してくる米国系の業者と、国内のギャンブル事情に精通しているパチンコ大手がタッグを組んで、共同事業体を作り、カジノを運営するというのが、最もありそうなかたちだと思います。

海外のカジノ業者と国内のパチンコ業者が手を組んで、主に日本人客相手に商売をする――。そうなるんじゃないですかね…。やな構図ですな。(断っておきますが、私は、当然ながらパチンコにも反対です。)

そもそも政府とは、国民の生活基盤を守り、幸福に資するためにあるはずです。カジノ解禁が、それにつながるかどうかは甚だしく疑問です。

実際、刑法185条が賭博を禁じているのは、健全な経済活動及び勤労への悪影響や、副次的犯罪の発生を懸念してのことです。つまり国民の射幸心を煽り、勤労の美風を損い、治安を悪化させる恐れがあるから禁じているのです。

また、刑法186条には、「賭博場開張図利罪」に関する条文があります。「賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する」。カジノ解禁に当たっては、競輪や競馬などと同様に特別に法律を作り、刑法のこれらの条文の適用外にするのでしょう。

しかし、政府が認可しさえすれば民間業者があからさまに博打の胴元となり、日本人を食い物にして稼げるようになるというのは、どう考えてもおかしくはないでしょうか。

パチンコなどの影響でただでさえ多い、日本のギャンブル依存症患者はいっそう増えるでしょう。ギャンブルが背景にある犯罪も増加するのではないでしょうか。

ほんと最近の「成長戦略」には碌なものがありませんね。いい加減に、「おバカな三代目」も目を覚まして、「家産を切り売りして凌げばいい」とか「賭場を開いて、大儲けしようぜ!」などと甘言を弄してくる新自由主義者とその取り巻きという下品な悪友とは縁を切り、真っ当になってもらいたいものです。

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三橋貴明の「新」経世済民新聞』(2016年12月9日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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