12月4日に行われたイタリアの憲法改正に関する国民投票では、レンツィ首相が敗北し辞任の意向を示しました。それでもマーケットは与党側の敗北を「想定の範囲内」として、依然として株価は上昇基調にあります。メディアの扱いも穏やかなものです。(『資産1億円への道』山田健彦)
欧州全体に混乱を招くイタリア国債暴落と銀行の不良債権問題
イタリア国民投票で与党敗北も、マーケットは依然として上昇基調
12月4日に行われたイタリアの憲法改正に関する国民投票で、レンツィ首相は敗北し辞任の意向を示しました。
もともとこの憲法改正は、現行の2院政を実質的に1院政にしてしまおう、という内容で、EU離脱の是非を問うものではありませんでした。ですが、レンツィ首相はEU残留派、野党の五つ星は離脱派という背景を抱えていて、ここで与党側が敗れると次回の総選挙では野党が政権を握り、EUからの離脱に弾みがつくのでは、と危惧されていたのでした。五つ星に所属するルイジ・ディマイオ下院副議長は、同党が政権を握れば、ユーロ参加について民意を問う国民投票の実施を進めるとしています。
マーケットは与党側の敗北を「想定の範囲内」として、依然として株価は上昇基調にあります。メディアの扱いも穏やかなものです。
大きな理由としては、
- イタリア憲法は国民投票による国際条約の破棄を禁止しており、まずは憲法を改正して、「国民投票により国際条約の破棄が可能」としなければならないこと
- その憲法改正案に対して、上下両院で3分の2議席以上の賛成票を得て憲法改正を行った上で、ユーロ参加継続の是非をめぐる国民投票を行うという手続きが必要になり、現実問題として、EUからの離脱にはかなりの時間がかかること
が挙げられます。
ひょっとするとイタリア国債の暴落があるかも?
ここで問題なのは、現在のイタリア国債の信用格付けです。
信用格付けとは、信用格付会社が債券投資をする投資家向けに、将来における元本の支払いや利息の支払いが確実に履行されるかどうかを評価し、債券発行者のリスク度合いを分かり易く表示したものです。代表的な格付機関としてS&P、ムーディーズ等があります。
イタリア国債の格付けはBBB(トリプル・ビー)という格付けで、投資適格債としては最下位です。あと1ランク下がり、BB(ダブル・ビー)となると「投機的債券」というカテゴリーになり、世界の生保、損保、銀行や年金投資基金などの機関投資家はその債券は原則持てなくなり、一斉に売りに出します。
レンツィ首相の辞任で、後任を巡り政治のゴタゴタがあると、格付け機関が国債の格付けを下げる方向で見直しするという意味の「ネガティブ方向でのクレジット・ウォッチ」を表明するかもしれません。
イタリアはユーロ圏3位の経済規模を持っており、その国債が投機的という指定を受けると、ヨーロッパ発の経済危機が発生するかもしれないのです。現在のところ、レンツィ首相の後任は現政権の財務大臣が就くのでは、という観測が流れており事態は穏やかですが、急変する可能性も視野に入れておく必要があります。
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楽観できない不良債権問題。ネガティブサプライズはあるか?
イタリアでは日本円に換算して約43兆円もの民間銀行の不良債権があり、レンツィ首相の辞任で、この処理に一層の混乱が生じる恐れもあります。
特にモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナという銀行(創業は1472年という世界最古の銀行)の不良債権比率は今年の9月現在35.5%にものぼり、同行の株価はこの1年間でほぼ10分の1まで下落という危機的状況です。
同行は増資を計画していると伝わっていますが、現在の時価総額(株価×発行済み株数)とほぼ同等の金額を調達する予定とのことで、破綻しかかっている銀行にそれだけの投資をする人がいるか、危ぶまれています。
EUでは、「EUまたは各国政府が銀行に資金注入する前に、株主・債権者がまず損失を負担すべし」との規定があり、イタリア政府による資金注入は直ちには進められない状況です。この規定も銀行のスムーズな再建を困難なものにしています。
もっとも、直近の情報では政府は民間からの資本調達計画が頓挫した場合に備え、「予防的な」資本注入のための作業を進めており、来週にもこれが承認される可能性があるとのことです。この方法は、政府は株主と債券保有者にも一部損失負担を強いるならば、資本不足の銀行を支援することが認められている、というものです。
ただ、真偽の程は分かりませんし、一部の株式と劣後債はただの紙切れになる可能性もあるとのことです。
モンテ・パスキの資本増強計画が頓挫すれば、破綻処理を余儀なくされます。ヨーロッパの銀行ではイタリアに限らず、スペインも不良債権を抱えています。同行が破綻処理されれば、欧州全体が混乱に陥る可能性は十分にあり、ここしばらくは欧州情勢に注意が必要です。
image by:360b / Shutterstock.com
『資産1億円への道』(2016年12月8日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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資産が1億円あるとゆとりある生活が可能と言われていますが、その1億円を目指す方法を株式投資を中心に考えていきます。株式投資以外の不動産投資や発行者が参加したセミナー等で有益な情報と思われるものを随時レポートしていきます。