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弱気に傾くヘッジファンドの帝王、レイ・ダリオ氏の「台所事情」を読む=江守哲

ヘッジファンドの帝王・ダリオ氏が「金や日本円を買え」と勧めています。つまり市場が荒れると見ていることになりますが、その根拠な何なのでしょうか。(江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて

本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2017年9月4日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

運用不振に悩むダリオ氏「苦し紛れのポジショントーク」の可能性

主要な危機を予見してきたヘッジファンドの帝王

現在の市場では様々なリスクがあるとして、暴落説を唱える向きが多くなっています。

その代表格が、1620億ドルの資産を運用する世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツを率いる「ヘッジファンドの帝王」ことレイ・ダリオ氏でしょう。すでに報道されているので、彼の発言を目にされた方も少なくないでしょう。

ダリオ氏は、08年の金融危機欧州債務問題による株価暴落など、主要な市場の危機を予見したことで知られています。今年に入ってからも、弱気なスタンスを変えておらず、この点については、このコーナーでも何度か取り上げていたことを記憶されている方も多いでしょう。

ダリオ氏は08年にヘッジファンド全体の投資収益が前年比20%減と過去最悪の成績に落ち込む中、12%の収益を上げたことで知られる、まさに「伝説の人物」です。

ダリオ氏「金や日本円を買え」

そのダリオ氏が、「金や日本円を買え」と勧めているのです。これらの安全資産を購入すべきということは、ダリオ氏はこれから市場が荒れるとみていることになります。

その根拠な何なのでしょうか。振り返ると、トランプ政権が発足した1月には、ダリオ氏はトランプ政権に対して楽観的な見方を示していました。つまり、トランプ政権が打ち出すビジネス寄りの政策が米国経済の成長を促すと考えていたわけです。

報道によると、昨年11月の米大統領選挙でトランプ氏が勝利した直後に、ダリオ氏は顧客向けのレポートで、「次期大統領は、レーガン元大統領による右寄り路線への大シフトのような経済成長を促進する、財界寄りの非常に大規模なイデオロギー的変化を引き起こすと考える」としました。

そのうえで「人々が懸念するトランプ氏のクレイジーさによる波乱の要因は、思ったよりも抑制されるだろう」ともしました。

このような見方に対して、当初は懐疑的な見方が多かったように思います。

しかし、ダリオ氏は、トランプ氏が共和党主流派のイデオロギーに巻きこまれ、規制撤廃や減税などの常識的な保守派経済政策を採用し、その結果、経済成長が飛躍的に加速すると予測したわけです。

トランプ氏が大統領に就任して半年以上が経ちましたが、米国の第2四半期のGDP成長率は3%に達し、今後も拡大が期待されています。

また、失業率も歴史的低水準にあり、完全雇用状態にあるとの見方もあります。まさに安定的成長期にあるといってよいでしょう。

Next: 外れ続けるダリオ氏の予想。大胆発言の裏にある意図を読め



ダリオ氏はなぜトランプを見限ったのか?

しかし、ダリオ氏はトランプ大統領自身が市場のリスクになったとして、考えを変えたようです。

ダリオ氏は「市場がうまく織り込んでいないリスクが増大している。経済的というより政治的なものだ」としています。

そのうえで、具体的なリスクとして、北朝鮮の核ミサイルをめぐるトランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長のチキンレース、米国議会が9月末に債務上限引き上げに失敗し、政府が債務不履行に陥り、一部の連邦政府機関が閉鎖され、政治への信頼が失墜することを挙げています。

これらを理由に、ダリオ氏は「流動性を確保し、リスクを分散すべし。北朝鮮情勢と米債務上限問題が実際に悪化したなら金を買え。ポートフォリオの5~10%を金に換えておけばよいだろう」としています。

さらに「ドル・日本円・米国債などの安全資産も保有を増やせ」としています。

その一方で、最近では「現在のところ、重大な経済的リスクの高まりは見られない」としながらも、「米国内における党派的な対立が政府の効率性を麻痺させ、法案が通らず、政策を定めることができないことが懸念される」としています。

そのうえで、「現在の状況は、大衆迎合主義が台頭して民主主義が機能しなくなるなか、株式市場やリスク資産が上昇し、循環的回復で経済が改善する一方で、段階的で小規模な金融引き締めが行われた結果として不況に陥った1937年に大筋で重なる」としています。

ダリオ氏の弱気予想は外れ続けている

ダリオ氏は、昨年も「1929年の恐慌時に似ている」として、株価の暴落と金融市場の混乱を指摘していました。しかし、そのようなことは起きず、米国株は過去最高値を更新していきました。また、今年に入ってからも弱気なスタンスを変えず、ここにきてその見方をさらに強化させています。

報道では最近になって弱気に傾いたとしていますが、これは間違った報道ですね。つまり、この数年間のダリオ氏の見方は完全に外れているのです。

大胆発言の裏にある意図

ダリオ氏は、国際情勢からマクロ経済、金融政策、歴史、社会のトレンドなどが引き起こす需給の変化を綿密に調査し、そこから価格の大きな上昇または下落を予想してポジションをとる「グローバルマクロ戦略」を採用しています。まさに、私がこのメルマガでお伝えしている戦略です。

ダリオ氏の今回の発言の裏には、何かしらの意図がある可能性があります。ダリオ氏の市場の見立ては、見た目は道理にかなっているようにみえますが、結果が出ていません。

運用するブリッジウォーター・アソシエイツのファンドの最近の成績は冴えない状況にあり、今年上半期のパフォーマンスでは、マクロファンドの「ピュア・アルファII」が前年比マイナス2.5%となっています。そのため、何とか成績を挽回させる必要に迫られている可能性があります。

そこで、今回のような大胆な発言を行って、市場を動かそうとしているのではないかとの見方があるわけです。

つまり、ポジショントークで市場を動かそうとしているわけです。これは、米国のヘッジファンドマネージャーがよく使う手であり、まったく違法でも何でもありません。ごく当たり前です。この点は、このメルマガでも何度か解説したとおりです。私も同じようなことをしていますが、日本ではあまり感心されませんね(笑)。

Next: 弱気な見通しは冴えない運用成績の「言い訳」か?



弱気な見通しは冴えない運用成績の「言い訳」か?

さて、ダリオ氏のファンドは運用成績の問題だけでなく、後継者への継承でも問題を抱えているようです。このような事情もあり、焦りが見え始めているといえそうです。

このように、ブリッジウォーター・アソシエイツがありきたりのヘッジファンドになりつつあります

そのような状況の中、ダリオ氏は従来からの主張である、「原則に従って真実の追求を行うことが、パフォーマンスのカギ」という主義を示した『原則』という名の著書を9月中旬に出版するといいます。この著作はぜひ読んでみたいと思いますが、今の市場に対する苦しい思いが示されている可能性もあります。

いずれにしても、上述のように、運用成績が冴えない中でのダリオ氏の弱気な見通しが言い訳であるとすれば、それは非常に残念なことです。

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結果的に、ダリオ氏の取る弱気ポジションが、ブリッジウォーター・アソシエイツに収益をもたらすことができるのか、または想定以上に堅調な地合いが続き、空売りの買い戻しを強いられるのか

ちなみに、ここまでお読みになればおわかりだと思いますが、ダリオ氏と私の考え方はまったく逆です。そして、保有すべき資産は一部は似ていますが、その理由はまったく異なります

特に米国株に対する見方が真逆といえるでしょう。もっとも収益貢献が期待できる資産を外すのかと正直驚いていますが、さてどうなりますか。今後の市場動向を見守りたいと思います。

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2017年9月4日号の目次

・マーケット・ヴューポイント~「ナスダック指数の高値更新の意味を知る」
・株式市場~米国株は8月は堅調に終了、日本株はいまだに反応なし
・為替市場~ドル円は上値の重い展開、ユーロドルは上昇
・コモディティ市場~金は高値更新、原油は下値固め
・今週の「ポジショントーク」~ハイテク株の堅調さがポートフォリオを下支え
・ヘッジファンド投資戦略~「リスクを回避せよ?」−投資戦略構築のポイント~
・ベースボール・パーク~「土曜日は名古屋でセミナー、日曜日は野球の練習」
・セミナー・メディア出演のお知らせ


本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2017年9月4日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した米国株式、為替、コモディティ各市場の詳細な分析(約20,000文字)もすぐ読めます。

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株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。

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