マネーボイス メニュー

From 首相官邸ホームページ

2017年 強気筋の予想「1ドル130円、日経2万3000円」に死角はあるか?=江守哲

2017年の日経平均株価のレンジは、2016年末の前提を19500円として、強気シナリオは高値24400円/安値17800円、弱気シナリオは高値21000円/安値14400円としています。少なくとも2万円には到達しそうですが、問題はそのあとでしょう。(江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて

本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2016年12月26日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守 哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

大台を目前に一服中のNYダウ、日経平均、ドル円はどう動く?

足元の米国株式市場は頭打ち

米国株はやや頭打ちの様相となってきました。クリスマス休暇を控えていたこともあるのでしょうが、上値を買う動きはひとまず止まっています。

26日は欧米市場が休場ですので、27日から取引が再開されますが、ここからが重要ですね。海外市場では、12月末に決算を迎えるヘッジファンドが少なくありません。

今年は、トランプ政権の誕生に乗じてポジションをロングに転換し、辛うじてプラスで終えるといったところも少なくないようです。

もちろん、ポジションを維持しているのであれば、年末終値の評価価格がパフォーマンスに直結します。したがって、可能であれば、株価を高く維持しておきたいと考えていると思われます。

【関連】バリュー投資の視点で選ぶ「2017年注目セクター」と厳選銘柄3つ=栫井駿介

来年も再現?今年のNYダウ安値は「1月20日」だった

NYダウは、昨年(2015年)末の2日間で下落し、そのまま2016年年明けの急落につながりました。ダウ平均株価は12月29日の17750ドルから1月20日には最大で15450ドルまで下落しました。この間の下落幅は2300ドル、下落率は13%だったことになります。

興味深いのは、安値が1月20日だったことです。来年(2017年)の1月20日といえば、トランプ氏が大統領に就任する日です。偶然かもしれませんが、今年は年明けから急落し、1月20日まで下落していたのです。

来年も全く同じことが起きるとは思いませんが、注意した方がよいのかもしれませんね。同じように13%の下落となれば、おおよそ17400ドルまでの下落となります。2300ドルの下げとなれば、17700ドル程度でしょうか。

現時点では、300日移動平均線が17900ドルに位置しています。したがって、下げた場合には、このあたりがターゲットになりそうですね。

1月は最近、鬼門となるケースが増えていますね。16年もそうでしたが、14年・15年も1月には高値からそれぞれ900ドル、800ドルも下げています。このように、近年の1月は大きく下げるケースが多いので、要注意です。

大きな下げはビッグチャンス

しかし、ポイントはそのあとです。大きく値を上げています。つまり、要注意というのは、押し目を逃さないようにすべきという意味です。

もし、1月に急落するようなことがあれば、やはりそこはいったんは押し目を狙うべきでしょう。

一方、繰り返しですが、共和党政権では1年目のパフォーマンスがマイナスになる傾向があります。トランプ政権の政策と比較されるレーガン政権でも、米国株の1年目のパフォーマンスはマイナスでした。

ただし、2年目、3年目は大きく上昇しています。したがって、1年目の下げは買い場になるともいえます。しかし、できれば高いところは買いたくないところです。そう考えると、年初に下げたところを慎重に買っていくのがよいといえます。

逆に、1月から2月に堅調に推移すれば、そのまま年末まで上昇する傾向があることも事実です。ですので、1月・2月に下げずに上昇した場合には、その流れに乗っていくことも必要といえます。

今年の米国株の動きを振り返ると、常に押し目を拾っておけばよかった、という結果になっています。これはあとになってわかることではありますが、事実でもあります。

トランプ政権が今後も人口拡大を背景とした経済規模の拡大を続けていくのであれば、米国経済のパイが拡大し、結果的にGDPは増加して株価も上昇するという、これまでの米国の特徴が受け継がれることになります。

その一方で、懸念も指摘されています。それは、米国の内向き志向、保護主義の台頭です。米国だけがよければよいといったような姿勢が強まれば、米国が持つ本来の力強さが失われ、海外からの投資が低調になるリスクもあります。

そうなれば、これまでの米国の成長を支えてきた海外マネーの流入が止まる可能性があります。

中国はトランプ政権の外交に警戒感を強めています。その一方で、減少する外貨準備を穴埋めするために、保有している米国債を売却し始めています。

こうなると、米国債の価格下落が止まらず、利回りが上昇して、米国株に悪影響が出ます。中国の行動によって、間接的に米国市場が揺さぶられる可能性があることを念頭に入れておく必要がありそうです。

とはいえ、繰り返しではありますが、トランプ政権がよほどおかしな政策を推し進めない限り、米国株の長期上昇基調は崩れないと考えられます。なんといっても、米国は経済第一主義の国です。ここが日本と大きく違うところであり、株価の違いにも明確に反映されています。

日本の場合には、経済第一主義で政治を行っていません。株価の低迷もその影響を受けている可能性がきわめて高いといえます。また、国民性の違いもあるでしょう。

米国の家計資産の5割以上が株式や投資信託、債券などで占められています。株価が下がると個人消費が落ち込み、景気がガタ落ちになるのが米国の特徴です。

したがって、株価第一主義、景気・経済優先の政策がとられるわけです。ここが日本との大きな違いともいえます。このように考えると、やはり米国株をポートフォリオの主軸に置くことがきわめて重要であることがわかります。

2016年の反省と2017年の戦略

私にとって、今年の米国株の動きをとらえることができなかったことが最大の後悔であり、失敗でした。過去の値動きのパターンを知っていながら、いつか下げるだろうと考え、常にショートすることばかりを考えてしまいました。

金融危機的なショックが起きることに傾斜しすぎました。そのような事態になることもあり得たのかもしれませんが、考えが過ぎました。むしろ、そのようなときには押し目を買うことを考えるべきですね。

来年の米国株がどのような動きになるかは本当に読めませんし、むしろ読む必要すらないのかもしれません。つまり、押し目を狙う一方で、少しずつでも買いを入れていくことが重要なのかも知れません。

来年以降の米国株の傾向については、先週も解説していますので、そちらを参考にしていただければと思います。

その上で、着々と買いポジションを積み上げておき、大きく下げたときに多く買えるようにキャッシュも用意しておく。このスタンスが、米国株で安定的に収益を上げる秘訣といえそうです。

毎日のようにチャートを見ることも重要ですが、それ以上に上記のようなスタンスで投資することの方が重要なように感じた一年でした。

米雇用統計やFOMC、その他のイベントなどで一喜一憂することになりがちですが、実際にはあまり意味がないことが今年の市場で理解できたかと思います。これらの材料ももちろん見ながらですが、来年は大きく下げた時にたっぷりと買えるように準備しながら、日々の市場を見ていければと思います。

調整を待つのではなく、少しずつ買いながら、大きく下げたところでたっぷりと買う。そして、18年・19年の上昇パターンに備えることが、来年の米国株の戦略になると考えています。

NYダウの想定レンジ

ちなみに、私が考えている17年のダウ平均株価のシナリオは、2016年末の前提を19750ドルとした場合、強気シナリオでは高値23500ドル/安値18500ドル、弱気シナリオでは高値20500ドル/安値15500ドルです。

どちらのシナリオになるかは、1月・2月の株価次第と考えています。

来年はこの二つのシナリオを前提に、毎月のパフォーマンスを確認しながらトレンドを見極めることにしたいと思います。

Next: 来年の日経平均想定レンジは強気シナリオで24400-17800円、ただし…



結局、日経平均株価はドル円次第

現在は日本株も少し上値が重くなっています。基本的にはドル円との連動ですが、そのドル円の上値が重くなっていますので、当然といえます。

日経平均株価は19500円前後での推移ですが、この水準いあまり意味はないのかも知れません。PERは16倍ですが、これが割高かどうかの判断は難しいところです。

ドル円が現状の水準で推移すれば、今期の企業業績は改善されるでしょうから、割高ともいえなくなります。しかし、ドル円が再び反転すれば、その逆の動きになります。結局はドル円次第です。

市場では、来年の株価見通しが示される季節になってきました。多くのストラテジストは、日経平均株価の高値を23000円に置いているようです。

可能性としては、十分にあると思います。その前提は、ドル円が130円になることです。そうならないと、23000円は肯定されません。その意味では、分かりやすいともいえます。

それだけの話だと思います。個別株の投資は別ですが、日経平均株価についてだけ言えば、結局はドル円を取引するのと同じと言ってもよいのかもしれません。

日本株が長期的に上昇できるかは、ドル円が円安になることが大前提です。そのドル円が、円高になるリスクがある以上、ポートフォリオの主軸に置くことはやはり考えづらいというのが私の見方です。

いうまでもなく、米国株の方が期待収益率が圧倒的に高いので、そのような判断になります。

もちろん、日本株も投資対象から完全に外すべきというわけではありません。上下動を繰り返しますので、大きく下げた時に買えば、今年のようによいパフォーマンスを得ることが十分に可能です。

結局は投資タイミングの問題になりますが、そのタイミングを分散することが、結局は重要であるとの結論になります。

いまは日米ともPERが高すぎるため、投資も限定的に行うべきでしょうが、全くしないということもまたリスクのようにも感じます。

年初に下落なら押し目買い好機

米国株のところでも解説したように、年初は大きく変動する可能性がありそうです。そのときに、たっぷりと買えるように準備しておくことが必要でしょう。

日米株ともこのまま上げ続けるとは考えていません。押し目は必ず来ると思います。そのときに動けるようにしておくことが肝要です。

ちなみに、昨年12月30日には19000円だった日経平均株価は、今年2月12日には一時14865円にまで下落しました。下落幅は4000円超、下落率は2割を超えました。2017年もこのような動きにならないとも限りません。このような動きをとらえるためにも、準備をしておきたいところです。

特にドル円の動きには注意してきたいところです。

2017年の日経平均株価想定レンジ

ちなみに、17年の日経平均株価のレンジは、2016年末の前提を19500円として、強気シナリオは高値24400円/安値17800円、弱気シナリオは高値21000円/安値14400円としています。

少なくとも2万円には到達しそうですが、問題はそのあとでしょう。2万円超えで伸び悩むのか、また逆にさらに上昇基調が強まるのか。毎月の値動きを確認しながら見ていきたいと思います。

Next: ドル円相場分析~トランプ・ラリーはなぜ起きたのか?



ドル円相場は一服中

足元では、トランプ氏の大統領選後のドル高基調がやや一服気味です。クリスマス休暇前ということもあるのでしょうが、伸び悩んでいるようにも見えます。

この点を考慮すれば、そろそろ調整が入ってもよさそうな感じもします。120円の節目に届く前に、いったん下げる。このようなパターンはよくあることですので、要注意ともいえます。

2016年前半、円高の背景とは?

今後の動向については後述するとして、まずは今年の振り返りです。

今年の為替市場を振り返ると、年初からドル円は急落し、2015年の上昇基調が反転する動きとなりました。それまで市場ではドルに対して強気な見方が支配的だっただけに、市場参加者の多くがこの動きについていくことができませんでした。

また、ドル円のロングを大量に抱えていたこともあり、ストップロスの売りがさらに下げに拍車をかけました。

これらの動きは、市場では意外感をもって受け止められました。しかし、このメルマガでは、今年は円高の年になると繰り返し解説してきました。そのような予測ができた根拠はたくさんありました。

ドル円はそれまでの3年間、上昇していただけに、下落しても全くおかしくありませんでした。過去のドル円の上昇期間を見ると、おおむね3年が限界となっており、その翌年には下落する傾向がかなり鮮明だったからです。

また、米連邦準備理事会(FRB)が15年12月に利上げを実施したことも影響しました。それまでにドル円は十分に上昇しており、利上げは織り込まれていました。さらに、直近3回の利上げ局面では、利上げ後にドルが下落する傾向が鮮明でした。

このように、利上げ前にドル高が織り込まれるパターンが明確であり、今回もそのパターン通りの動きになっただけに過ぎなかったわけです。

つまり、年前半の円高は起きるべくして起きた。そう考えるのが妥当だったわけです。

そして、年央に向けてドル円は下落ピッチを速め、3月には110円を割り込み、6月には105円をも割り込む急落となりました。私は年末にかけてドル円が100円に下落していくことを想定していましたので、この下落ペースはあまりに早すぎました。

Brexitはチャンスだった

そして、6月23日の英国の欧州連合(EU)の離脱に関する国民投票を迎えました。投票の結果は予想に反して英国民が離脱を選択することになりました。この結果、ドル円は100円を割り込み、99円の安値を付けました。

その後も8月と9月にも100円割れを試しましたが、大きく下げることなく反発し、結果的にここがトリプルボトムを形成する格好となりました。

ここで、ドル円は底値を付けたと判断できればよかったのですが、それができなかったことは反省すべき点といえます。というのも、過去15年のドル円の平均値幅は16円でした。この時点で今年は22円の値幅になってましたので、これ以上の値幅を期待する必要がなかったわけです。

トランプ・ラリーはなぜ起きたのか?

そう考えると、いまさらながらですが、米大統領選後のドル円の動きもある程度予測できたはずでした。

選挙結果は市場の事前予想を覆すサプライズとなり、圧倒的に優位とされてきた民主党候補であるクリントン氏が敗れ、共和党候補のトランプ氏が勝利しました。

主要メディアがクリントン氏の勝利を予想していたこともあり、投票開始後の速報でトランプ氏の優位が鮮明になると、米国株の先物に売り出て、ドル円も下落しました。

しかし、ドル円が100円の大台を割り込まずに反転し、日本株や米国株先物なども急落したものの、下げがそれほどでもなかったことから買戻しが入り、投票日翌日の米国市場では引けてみると大幅高となりました。

ここが市場の転機となりました。

当初はトランプ氏が勝利した場合、金融市場は混乱し、ドルは売られ、株価は大幅安になるとみられていました。

確かに、最初の市場の反応としてはそのような動きになったものの、その日のうちにドルは上昇し、株価もプラス圏で引けました。これは市場の当初の予想と全く逆の動きであったといわざるを得ませんでした。

このように、トランプ氏の勝利自体がサプライズでしたが、それ以上にドルや株価が反発したことの方がサプライズであったといえます。

市場参加者は、トランプ氏の勝利を好意的に捉え、それを株価やドルの動きに反映させる投資行動をとったことになります。

「投機筋の思惑」以上に強い相場

これには、ヘッジファンドがショートからロングに大転換して、年末までの上昇相場を作り上げ、収益獲得を図ったというからくりがあるわけですが、いずれにしても、強い動きになったことは間違いありません。

米国民の民主党政権が続くことへの嫌悪感や、破天荒に見えるトランプ氏の大胆な改革や行動・政策への期待が、その後の株価やドルの急伸をもたらしたことも事実でしょう。

その後、米国株は連日のように過去最高値を更新するなど、まさに歴史的な上昇になる一方、トランプ氏が掲げる財政出動や減税、インフラ投資の拡大などを背景に、長期金利が上昇したことで、ドルも大幅に上昇しました。

この結果、ドル円はわずか1カ月あまりで17円も円安になりました。

Next: ドル高の持続性に疑問符。5~10円幅の調整はいつでも起こりうる



ドル高の持続性に疑問符

さて、このような形で年末にドル円が急激に上昇することとなりましたが、私は依然として持続性には大いに疑問を持っています。

このドル高が起きた理由を考えた場合、様々な背景が浮かび上がりますが、そのひとつが、ドル高に歯止めを掛ける立場の人間の不在でしょう。もしかすると、これがドル高基調継続の最大の理由といえるかもしれません。

これまでであれば、ルー財務長官がドル高けん制発言を行うことで、ドル安・円高基調が保たれてきました。

しかし、トランプ氏の勝利で政権が変わることになり、同長官からの発言は一切聞かれなくなったこともあり、ドル円相場の動きに歯止めを掛ける立場の人間が不在の状況になりました。

今年のゴールデンウィーク時にドル円が急落しましたが、その際に日本サイドの円高けん制発言を全否定したのがルー財務長官でした。しかし、同氏は政権交代で退任します。つまり、現在のドル円の水準に言及する立場ではなくなったわけです。

このような状況を利用したのがヘッジファンドであるといえます。それまで円高に掛けてきましたが、トランプ氏の誕生でポジションを反転させ、トランプ氏への評価を一変させたことがドル円の急伸につながったわけです。

まさに、レイムダック化したオバマ政権の虚を突いた行動だったということになります。

ゲーリー・コーン氏の発言に要注意

しかし、これからは注意が必要と考えます。それは、トランプ氏が国家経済会議(NEC)のトップに指名した、ゴールドマン・サックス社長のゲーリー・コーン氏の発言です。

同氏は繰り返し「ドル高は米国にとって不利益」と発言しています。その同氏を指名したのがトランプ氏であることを考えると、トランプ政権がドル安を志向しているとの発言がいつ飛び出してもおかしくないといえます。

今の時点でドル高けん制が出てくれば、ドル円は5円単位での大幅な調整を強いられるでしょう。そもそも、ドル円の理論値は103円ですから、10円以上の調整があっても全く驚きません

市場が予想する「1ドル=130円」のハードルは高い

日米実質金利差からみたドル円は、きわめて割高です。

米国の実質金利は縮小傾向にありますが、その背景には、米国の消費者物価指数(CPI)と連動性が高い原油相場の上昇があります。

この二つは前年比でみるとほぼ連動しており、2017年の初めにも2%を超え、3%近くに達する可能性が指摘できます。

一方、日本のCPIと円建て原油価格には1年程度のタイムラグがあります。つまり、日本のCPIが上がり始めるのは17年後半ということになります。

このように考えると、日米実質金利差は当面は縮小傾向が続き、円高傾向になると考えるのが理論的です。その結果、理論値は103円程度という結果が導かれます。そのため、今後は激しい調整が起きても全くおかしくないということになるわけです。

このように考えると、市場が予想するように、130円への動きはかなり無理があるということになります。

Next: 1ドル120円を明確に超えなければ、2017年末までに100円水準まで調整も



1ドル=120円が試金石

トレンドとしては、120円を明確に超えると相場として円安基調が加速し、130円まで上昇してしまう可能性は十分にあります。

しかし、これを超えられないようだと、やはり上昇は難しいとの見方になり、理論値に沿った値動きに戻ることが想定されます。その場合、2017年末に100円水準まで調整が進んでもおかしくない計算になります。

このような考え方は、現在の市場では皆無です。

また、過去の米国の共和党政権下における財政収支の悪化局面でのドル安傾向にも注意が必要です。

これはすでに何度か解説した通りですが、ブッシュ(父)政権の4年間およびブッシュ(子)政権の8年間では、米財政収支の対GDP比の悪化とドル指数の下落が鮮明でした。

財政悪化は金利上昇につながる一方、これがドル高を誘引するものの、それには持続性がなく、結果的におしなべてドル安になっています。

12月13・14日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、来年の利上げ回数の予測が3回となり、9月の2回から引き上げられました。

これを受けて、17年はFRBが利上げペースを加速させるため、ドル円も上昇するとの見方が多くなっているようです。

今後の原油価格の上昇ペースやCPIの上がり方を想定すれば、利上げペースはむしろ後手に回り、いわゆる「ビハインド・ザ・カーブ」となる可能性も否定できません。

しかし、理論値からすれば、今後の原油相場の上昇はむしろドル安につながるように思います。

このように、ドル円が一方的に上昇するとの見通しは立てづらいのが本音です。そして、これまでの反動を意識した動きを想定しておくべきというのが私のスタンスです。

ドル円相場の想定レンジ

共和党の大統領就任1年目はドル高・円安になりやすい傾向がありますが、今回についてはそれほどドル高にはならない可能性があります。

トランプ大統領の就任は来年1月20日ですが、すでに円安がかなり進んでしまっています。そのため、かなり早い段階でドル円がピークアウトする可能性も十分にあるでしょう。

これらから、17年のドル円相場のレンジを想定すると、16年末を115円とした場合、強気シナリオの場合には110円~130円、弱気シナリオの方は100円~120円を想定しています。

120円を明確に超えると、130円の可能性が高まりますが、120円を超えられなければ、年末にかけて再び100円を試す可能性も出てくるでしょう。

前述の日米金利差から見た理論値を前提にすれば、120円が上値となり、年末まで下落していくとみるのが、現段階では妥当と考えます。

一方向に見方を傾けないようにするのが、17年の動向を見ていくうえでは重要と考えますが、基本的な考え方はドル安です。

実際に政策面からドル安に転じるのか、トランプ政権から出てくる発言に注目しておきたいと思います。

Next: ユーロドルがパリティ(1ユーロ=1ドル)を割り込む可能性は低い



ユーロドルがパリティを割り込む可能性は低い

一方、ユーロドルはどうでしょうか?

現時点での17年のシナリオは、強気シナリオが1.01ドル~1.18ドル、弱気シナリオが0.92ドル~1.09ドルです。

ユーロドルはドル高基調を背景に下落基調が続いています。米大統領選でのトランプ氏の勝利後のドル高基調の継続に加え、17年に控えるフランス大統領選議会選挙ドイツの総選挙など政治リスクへの懸念も上値を抑えているといえます。

政治リスクは17年のユーロドルのテーマとして取り上げられやすいものの、為替市場への影響はそれほど大きくないと考えています。

欧州の銀行問題も、ユーロに対する弱気な見方の背景にあるようです。

まず、ドイツ銀行問題ですが、米司法省と手打ちしたようです。ドイツ銀行は、米国での住宅ローン担保証券(MBS)の不正販売問題を解決するため、72億ドルを支払うことで米司法省と和解したと発表しました。当初は140億ドルと見積もられていましたが、ほぼ半分の額となりました。

これにより信用不安が深まる事態は避けられましたたが、経営再生にはなお時間がかかるとみられています。

一方、イタリアの銀行大手モンテ・パスキは、資本増強が不可避の状況となり、イタリア政府が支援する方向となりました。しかし、欧州委員会がこれを認めるかは不透明です。このように、欧州の銀行問題は最大のヤマ場を迎えています。

このように考えると、ユーロは買いにくいと感じるかもしれません。確かに、問題が実際に起きれば、金融危機に近い状況になるのかもしれません。

しかし、そのような状況をいまから懸念しても仕方がないことが、今年の市場動向でよくわかりました。

2007年から08年にかけての、サブプライムローンの問題のような惨事になれば、下落に向かうのは十分に予測できますし、実際に下げ始めてからでも十分に対応できます

したがって、これらの問題に過度に懸念することは、今後は避けたいと思います。もっとも、より明確なエビデンスがあれば、それに伴って行動すればよいだけです。

一方、欧州中央銀行(ECB)の政策はどうでしょうか。

ECB12月8日の理事会で、量的緩和を9か月延長し、17年末まで継続するとしました。一方で資産購入額を17年4月から現状の800億ユーロから600億ユーロに減額するとしています。

ドラギ総裁は緩和継続に強いコミットメントを示しているものの、一方で政策自体はテーパリングと考えることも可能です。

したがって、今後は出口戦略を検討し始めているとの観測が浮上する可能性があります。そうなれば、緩和を背景とした金融政策面からのユーロ安には限界が出てくることが想定されます。

またドル円における日米実質金利差と同様のロジックで考えると、ユーロ高になりやすい構造にある点も見逃せません。

トランプ政権への期待が強まる中、ユーロドルは下落基調が継続し、将来的にはパリティ(1ユーロ=1ドル)になるとの見方も少なくありません。

しかし、世界的な金利の底打ちから上昇の流れの中、ユーロ債利回りも反転しており、現状の米国債利回りとの利回り差が加速度的に拡大する可能性はむしろ低いでしょう。

このように考えると、ユーロドルがパリティを割り込むほどの下落になる可能性は低いと考えることもできます。

戻り売り圧力は依然として強いでしょうが、一方で米国がドル安志向を鮮明にすれば、大きく下落する可能性は大幅に低下することになるでしょう。

将来の見通しは、どうしても直近の値動きが基準になりがちです。しかし、そこから一歩引いてみることが重要でしょう。

このような観点からも、私はユーロの一段の下落には否定的です。

いずれにしても、17年は極端なバイアスを掛けずに、冷静に市場動向を注視していきたいと思います。
続きはご購読ください。初月無料です


本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2016年12月26日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛したコモディティ市場の分析や、人気連載「マーケット人生物語~私の人生を変えたアノ事件」もすぐ読めます。

【関連】住商巨額損失事件のウラ~私が元上司の「簿外取引」を通して学んだこと=江守哲

有料メルマガ好評配信中

江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて

[月額3,300円(税込) 毎週月曜日(祝祭日・年末年始を除く) ]
株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。