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いざ衆院解散!日本が「消費増税」で選べる3つのオプションとは?=内閣官房参与 藤井聡

記事提供:『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年9月19日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

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ここで道を誤れば、日本は終わる。消費増税をめぐる重要な論点

「消費増税」が解散の大義に?

先週末から急激に、「解散風」が激しく吹き始め、解散は既定路線となったと覚しき報道が連日繰り返されています。

そこで今、大きく注目されはじめた「解散大義」が、「消費増税」です。

つまり、与党自民党は、「消費税を10%に引き上げ、その増収分の使い道を、『国の借金返済』から『社会保障の充実』に『変更する』ことを、国民に問う」のであり、これこそが、「解散大義」とされる見通しだと報道されています。
http://www.yomiuri.co.jp/election/shugiin/20170917-OYT1T50120.html
http://www.asahi.com/articles/ASK9L5RPMK9LULFA003.html

その背後には、今解散し、その時の公約に「増税」を盛り込んでおけば、「選挙を気にせずに増税できる」という、増税推進派の思惑があるのではないかとも報道されています。
http://blogos.com/article/246717/

こうした報道の真偽は分かりかねますし、北朝鮮状勢もある以上、今この時点で解散確定と断ずることは難しいところですが、ここではあくまでも、経済政策論の観点から「増税と経済成長」の関係について解説したいと思います。

「4つの選択肢」と「3つの増税オプション」

消費税の今後については、(減税を除けば)少なくとも次の4つの選択肢があります。

  1. 現状のまま(増税凍結)
  2. 増税(増収分で借金返済)
  3. 増税(増収分を教育社会保障のみに支出)
  4. 増税(増収分のワイズスペンディング)

ここで、この(2)~(4)の増税が、「成長」つまり「自然増収」に対してどのような影響を持つのかを考察いたしましょう(なお、減税については、確実に成長=自然増収を導くものですから、以下の考察では除外して考えたいと思います)。

まず、(2)~(4)の「増税」は、いずれも消費を大きく低迷させることは決定的です。好むと好まざるとに関わらず、消費税は、すべての「消費」行為に対する「罰金」の機能を果たしてしまうからです。これで消費に大きくブレーキがかけられることは不可避です。

しかも、今度の消費増税は10%になりますから、誰でもすぐに計算できてしまい、その結果、「心理的抵抗感」が肥大化し、消費へのブレーキがさらに大きくなる、とも懸念されています(これは近日中に一度、心理実験してみたいと思います)。

いずれにしても、(2)~(4)の増税は、その「ブレーキ」効果を埋め合わせる「アクセル」が存在するかどうかによって、増税による景気後退がどれくらいになるかが決定されます。

Next: PB改善を狙う「(2)増税で借金返済」は最悪のオプションだ



PB改善を狙う「(2)増税で借金返済」は最悪オプション

では、(2)~(4)の「アクセル」に着目すると、そのアクセル度は、

(2)増税で借金返済 < (3)増税で教育社会保障 < (4)増税でワイズスペンディング

となります。

まず、「(2)増税で借金返済」は最悪のオプション。アクセル度は文字通り「ゼロ」です。

プライマリーバランス(PB)の点で言うなら、この「(2)増税で借金返済」オプションは、増収分だけPBを「改善」させますから、経済は自ずとその分、縮小するからです(PBは改善すると経済は縮小するのです。詳細は『プライマリーバランス亡国論』を参照ください。)

したがって、このオプションが採用されれば、日本は二度とデフレ脱却を果たすことができない程のダメージを被ることになります。

借金返済より幾分マシな「(3)増税で教育社会保障」の危険性

この「(2)増税で借金返済」よりもマシなのが、「(3)増税で教育社会保障」です。

少なくとも、「増収分」を「支出」しますから、PBは変化しません。繰り返しますが、景気を低迷させるのは「PB黒字」「PBの改善」なのですから、このオプションの景気「悪化」効果は、「借金返済」オプションよりもマシな水準となります。

むしろ、経済学の基本的な理論である「均衡予算乗数理論」(あるいは、均衡財政乗数理論)に基づくなら、増税してそのまま支出すれば、その分GDPが拡大することが知られています。

直感的に言うなら、増税して吸い上げた分の一部は、確実に貯蓄に回っていた(そしてそれによってGDPが縮小していた)一方、政府が吸い上げて使えば、貯蓄に回る分は「ゼロ」になり、結果、経済は拡大する、という次第です。

しかし、この均衡予算乗数理論は、「税の種類」の区別を考慮しない理論で、現実に適用するには、留意が必要です。経済(GDP)に対するインパクトはもちろん、税の種類によってまったく異なるからです。

「企業の内部留保」がやたらと多い今日、法人税を増やしてそのまま支出すれば、経済成長が期待できます。今や、「企業」は「家計」の約2倍もの金額を貯蓄しているのですから、「政府が吸い上げて使う」効果は、理論通りにプラスになることが期待できるのです(https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf によれば、家計約13兆円に対して、企業は約24兆円も毎年貯蓄を増やしています)。

一方で、消費税が増税されれば、GDPの6割を占める消費に対する「罰金」効果が拡大し、消費それ自身が低迷する「ブレーキ」が大きくかかります。しかも、昨今では消費のメイン主体である世帯の貯蓄は、企業のそれの半分程度。だから、均衡予算乗数理論が主張する「政府が吸い上げて使う」効果は限定的です。

つまり、「(3)増税で教育社会保障」は「(2)増税で社会保障」よりは「マシ」ではありますが、だからといって、増税の「マイナス」を埋め合わせるほどの「アクセル」が確保できるかどうか分からないのです。

結果、この「(3)増税で教育社会保障」オプションを採用し、他に何の手立ても講じなければ、デフレ脱却どころから「デフレ深刻化」も危惧される状況に至ります。

Next: 一番マシな消費増税「(4)増税でワイズスペンディング」の狙い



一番マシな消費増税「(4)増税でワイズスペンディング」の狙い

先に述べた「(3)増税で教育社会保障」よりもさらにマシなのが、「(4)増税でワイズスペンディング」オプションです。

つまり、教育社会保障だけでなく、研究開発科学技術投資インフラ投資等にも、増収分を「柔軟」に充当していき、これを通して、「アクセル度」を「最大化」しようというオプションです。

しかし、それでもなお、「ブレーキ」の方がこの「アクセル」を上回る可能性は十分に想定されることは、ここに明言しておかねばなりません。

8%増税時の増収分をワイズスペンディングに回すべし!

以上、10%増税についてあれこれ論じましたが、それ以前にそもそも、8%増税した時の3%分の大半は、「最悪」の「借金返済」に回されたのですから、その分を「ワイズスペンディング」に回す取り組みが、以上の議論以前に必要なはずです。

残念ながら、今の所、そういった声はどこからも聞こえてきませんが…ぜひ、今回の選挙時の公約でこういった点も議論してもらいたいと思います。

「(3)増税で教育社会保障」を採用なら、「コンクリートから人へ」が加速する

ところで、以上に述べた「(3)増税で教育社会保障」は、ワイズスペンディングの視点から言うなら、結局は、かの民主党政権が主張していた「コンクリートから人へ」の財政方針と類似したものと言わざるを得ません。

そもそも、民主党政権は公共投資を3割カットしましたが、自民党政権になっても、当初予算ベースで言うならそれは基本的に増えてはいません。一方で、社会保障は順調に拡大し続けています。

つまり、補正予算の多寡を除けば、今の自民党政権下での財政は、民主党下の「コンクリートから人へ」路線をそのまま引き継いでいるわけで、今回もしも「(3)増税で教育社会保障」オプションが採用されれば、「コンクリートから人へ」路線はさらに加速することになります。

Next: このままでは日本は、二度とデフレから脱却できなくなる



このままでは日本は、二度とデフレから脱却できなくなる

いずれにせよ、日本がデフレになったのは97年消費税増税であり、今の経済停滞は14年増税なのですから、今度増税されれば、日本がデフレ脱却できる可能性はほとんどなくなるのではないか、というのが率直な筆者の学者としての見通しです。

しかし、万が一にも、増税によるブレーキを上回る「アクセル」を、数カ年の大型景気対策(15兆円規模を、3~5年程度)という形で確保できるのなら、増税をしてもデフレ脱却ができるという可能性は皆無ではない、ということも、理論的には言うことはできます。

なお、筆者は、現時点なら「10兆円程度を2カ年」程度でもデフレ脱却ができるかもしれない、という可能性に言及してきた一方で、「15兆円規模を、3~5年程度」とここで述べているのはひとえに、「10%に増税するなら」という条件を想定したからに他なりません。

とはいえ、「消費税を増税しなければならない!」という声の主達が、「15兆円規模の大型景気対策を、3~5年程度継続する」ことがあり得るのかどうかというと――もちろん理論的にはpossibleではあっても、実際上は極めてunlikelyと言わざるを得ないでしょう…。

最終的な解散の有無、公約の内容等は、内閣や国会議員の先生方がお決めになることであり、筆者にはあずかり知らぬところではありますが、以上の筆者の「解説」が最大限に考慮されることを、心から祈念したいと思います。

追伸:消費増税がどれだけ酷いインパクトを日本経済に与えたのかについては、『プライマリー・バランス亡国論』をぜひ、しっかりとお読み下さい。

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三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年9月19日号より

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