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長続きしそうにない円安・株高。9月FOMC声明とイエレン会見を読み解く=E氏

9月20日に発表された米連邦公開市場委員会(FOMC)は、声明で金利据え置きを決定したほか、予想通りにバランスシート(約4兆2000億ドル規模)の縮小に10月に着手することも決定しました。

いずれの決定も想定通りでしたが、ドルが急反発したことで円安に振れ、日本株は円安を好感して大幅に上げることになっています。その一方で、米国株はFOMCまでの勢いは消え、発表後は小動きの展開になっています。

市場では今回の決定はタカ派という見方が主流ですが、実際にはそうではありません。そこで本日は、今後の日本株や円相場の方向感を占う上で重要な、今回のFOMCの見方と今後のマーケットの方向性について書くことにします。(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)

プロフィール:E氏
国内大手生保、ゴールドマン・サックス、当時日本最大のヘッジファンドだったジャパン・アドバイザリーでのファンドマネージャー経験を経て、2006年に自らのヘッジファンドであるINDRA Investmentsを設立し国内外の年金基金や富裕層への投資助言を開始。2006年10月からのファンド開始後はリーマンショックや東日本大震災で、期間中TOPIXは5割程度下落した中で、6年連続のプラス(累積30%)のリターンを達成。運用歴25年超。

円安株高は続かず?9月FOMC・イエレン会見の分析と今後の注目点

FOMC声明とイエレン会見のポイント

まず、FOMCの声明や、イエレンFRB議長の会見で出た重要な内容は以下の通りです。

また、FOMC参加者による金利予測であるドットプロットによると、今年末のFFレートの最頻値に変化が無かった上、もう1回の利上げを見込むFOMCメンバーがFOMCの過半である11名となり、前回6月の金利予測時の8名から3名増えています。

このような点から、足元のインフレ率がターゲットを下回っていても、多くのFOMC参加者はそれを一時的で深刻な問題ではないと考えていて、金融政策決定には影響しないという意思が読み取れます。

遡ると、今年6月のFOMCでの金利予測から、今年の利上げ回数は3回というのがマーケットコンセンサスになっていました。しかし、7月上旬のイエレンFRB議長による議会証言で、議長が「足元のインフレ率低下は一時的と思われるが理由は不明。インフレ率は長期的目標の2%に近づいていくと思われるが、目標達成時期は後ズレするかもしれない」といった弱気な発言をしたことで、FOMCは直近のインフレ率低下を気にするようになったとマーケットが判断したことで急速に利上げ期待が後退しました。

その後も多くのFOMCメンバーがハト派的な発言をするようになったので、マーケットは「今年の利上げ回数は2回で打ち止め、年内の利上げはない」と考えるようになったのです。

しかし、今回のFOMCでは、足元のインフレ率低下を不可解としながらも、金利予測で年内にあと1回の利上げを予測するメンバーが増えたことで、足元のインフレ率低下はあまり深刻に考えていないという見方が主流になりました。

今年6月時点に回帰した利上げ期待

実際、年内あと1回の利上げと見る参加者の比率は先月末は30%台だったのに、今回の発表を受けて70%程度まで上昇しましたが、今年6月のFOMC後の水準は50%を超えていたので、今年6月の時点の見方に戻っただけに過ぎないといえます。

つまり、今回の決定は決してタカ派ではなく、逆に今年7月以降のインフレ見通しに関して過度に弱気な見方が行き過ぎ、かつハト派的だっただけなのです。

この結果、ハリケーンの影響で経済が多少下ブレしても年内あと1回程度の利上げができる環境にあることには変わりがない以上、年内あと1回の利上げはほぼ間違いないだろうとマーケットが考えるようになったわけですが、このFOMCを受けてのマーケットの反応が決して行き過ぎではないことは、22日にFOMCメンバーであるカンザスシティー地区連銀のジョージ総裁が、今回のFOMC後の市場の反応には満足していると語ったことでも明らかです。

Next: 今後ドルは戻し歩調?円安トレンドに向かう?いやそれは違う



さらなるドル高・円安は難しい

では、この決定を受けて、今後ドルは戻し歩調になり、円安トレンドに向かうのかというとそれは違うと思います。

足元のドルインデックスは昨年末の水準よりも1割程度切り下がっていますが、この間に2度の利上げをしましたし、今年6月のFOMC以降での利上げ以降も下落基調が続いています。

上で書いたように、今年6月のFOMC時点では、今と同じ年内あと1回の利上げを見込んでいたのに、それでも低下し続けたのです。従って、利上げがあったくらいではドルの低下は止まらないということですが、これは今のドルの水準を決定しているのは金融政策以上に、地政学的リスク投機筋の為替ポジションといった需給要因、更にはトランプ政権に対する信認低下という金融政策以外の要素が大きいからです。

元々ドルは年初来下落基調なのは、昨年11月にトランプ氏が大統領に就任したサプライズがあまりにも大きかったためです。

起こりえないと思っていたことが起こってしまったことで思考停止に近い状態に陥ったマーケットは、この未知の人物であるトランプ氏の公約が全て実現してしまうかもしれないという過剰な期待を描くことになりましたが、彼の公約は、メキシコの壁や移民排除といった対外的な事以上に、国内への企業回帰や大幅や経済対策といったインフレ政策が並んでいました。

多くは財源の裏づけのない荒唐無稽な夢物語でしたが、政治経験がない素人が政治家の名家のクリントン氏を打ち破ってしまうという不可能を成し得た以上、荒唐無稽と思われる公約ももしかしたら本当に達成してしまうのではないかと考えた結果、インフレ率が急上昇したのです。

ドルはなぜ下落し続けるのか?

勿論、昨年後半のマーケットの動きは期待感以上に、投機筋のオーバーアクションがあったのは否めず、この結果投機筋は昨年末時点で数年来のピークとも言えるドルロングを保有してしまったのです。

しかし、トランプ氏が今年1月に大統領に就任して期待で動く相場から現実を見る相場に変わると、議会とぶつかってばかりな上に、身近な政策スタッフもどんどん止めていき、政権の維持が困難に思われるくらいの惨状になるに連れて、トランプのインフレ政策はほとんど実行されないだろうから、昨年後半に描いたインフレシナリオは全てご破算になるという失望感からドルが売られ、米金利が低下したのです。

この失望感の売りの結果、今年6月時点で、ドルは大統領選前の水準まで下落したのですが、以降もドルが下落し続けたのは、トランプ政権のゴタゴタで、彼が大統領に就任する前より経済が停滞する可能性をマーケットが感じ始めたこともありますが、それ以上に北朝鮮問題が緊迫化したこともまた大きいです。

Next: 依然として円買い戻し・ドル売り圧力は強い



依然として円買い戻し・ドル売り圧力は強い

通貨の価値は相対的なものなので、ドルが上がるには他の通貨が下落する必要がありますが、昨年後半のドル上昇時にはその反対勘定としてが使われました。

しかし、円もまた投機筋によってオーバーアクションをさせられて、昨年末時点で大幅な円ショートが積まれたために、日本の金融政策が何も変わらない中でも年初来で円が上昇し続けたのです。

この円は、4月以降は、今度はユーロの過剰買いの反対勘定にされたことで、円高進行が足踏みになりましたが、まもなく量的緩和縮小開始ということで、材料出尽くしによるユーロの頭打ち間が出てきた中で、北朝鮮問題が出てきたことで、安全資産需要が急激に高まりました。

しかし、今年6月時点でも円ショートは高水準だったので、円を買い戻す際に、(量的緩和縮小が近いユーロを売るのは怖いので)ドルを売るニーズが高まって、7月以降ドル安が進行したのです。

では、今の円の投機筋ポジションはというと、かなり買い戻しが進んだとはいえ依然としてショートポジションなので、依然として円の買い戻しによる、ドル売り圧力は強いといえます。

売られる理由に乏しい円

また、日米金利差で考えても、円が売られ続ける理由は乏しいです。

今年6月下旬以降、米長期金利の急上昇に伴って日米金利差拡大の思惑から日本円が大幅に売られたときもドルは下落していましたが、それは米朝金利が米国の期待インフレ率が上がったことで上昇したのではなく、あくまでも投機的な理由で欧州金利が急上昇したことに釣られて米国債利回りも上がっただけでした。

欧州債の利回りが急上昇したのは、ECBが早ければ秋口にも量的緩和縮小を開始するという見込みが台頭して金融引き締め懸念で債券利回りが上昇したのですが、間もなく欧州の量的緩和縮小が始まろうとしている今の欧州債利回りは、6月時点よりもむしろ低下しています。

同様に、先週のFOMCを受けても米国債利回りも6月下旬の水準より低い水準なので、こういった過剰な債券価格の動きは投機筋によるオーバーアクションと判断できます。

また、金融政策の方向性を考えると円安云々という方がいますが、日本は緩和を続けていると言っているだけで、実際は昨年9月から量的緩和縮小的なアクションをしています。

具体的にいうと、昨年9月までは第二次量的緩和のターゲット通り年間80兆円の債券購入によって市場にマネーを供給していましたが、昨年9月の日銀政策決定会合で「長期金利が0.1%が超える状況では無制限に供給する」というスタンス変更の結果、長期金利が0.1%以下の状態では引き締めサイドのアクションになってしまうので、年間国債購入額増加ペースは昨年10月以降漸減して、昨年12月には70兆円台、今年6月以降は60兆円台まで低下しています。

こうした実際のマネーの供給量を考えると、円が独歩で下落するステージは最早通過したと判断するのが妥当です。

Next: では、足元でドル安・円高が進行しなかった理由とは?



足元でドル安・円高が進行しなかった理由とは?

にも関わらず、今月に入ってからのドルの売られ方が軽微(≒円高が軽微)だったのは、トランプ政権内でのゴタゴタが落ち着いていることと、ハリケーン対策の予算化のためトランプ政権提出の予算案が通りやすくなっているといった政権崩壊が足踏みしていることが理由です。

しかし、当然ですが、トランプの司法介入疑惑やロシア問題は依然として捜査中なので、政権リスクはいまだに残っていますし、先日の国連総会でもわかるように、日米のみならず多くの国にとって喫緊のリスクが北朝鮮問題になっているのは明白なので、北朝鮮が暴走を諦めるどころか、さらに増長している以上、依然として円買い需要は強いし、ドルの独歩売りの潜在ニーズも強いといえます。

このように考えると、今回FOMCで市場見通しよりタカ派の利上げ姿勢になったからといって、円高基調に変化が出る可能性は低いといえますし、円相場との連動性が高い日本株も売り圧力が強まると思われます。

日本株買いは続かない

従来、日本株は、米国株が史上最高値を更新し続けたことに引きずられて、円高でも下げ渋っていましたが、先週のFOMC以降米国株の上値が重くなっている以上、従来のような牽引役がなくなりました

選挙時の日本株は上がり易いといううがった見方がありますが、これは通常は選挙対策のリップサービスがふんだんに用意されるからであって、今回のように解散の大義がいまいち不明な場合は期待感で買い上げる要素に乏しいでしょう。

勿論、政権与党内には今解散をしないといけない理由があるのでしょうし、巷間では年末の北朝鮮への軍事行動に備えて前倒しにしたなどというまことしやかな噂も出回っていますが、株式市場に必要なのは噂ではなくて、経済対策などの目に見える「数字」なので、こういった憶測だけ(しかも、株が上がる理由にはならない)で株式市場の押し上げ要因にはなりません。

以上を考えると、先週発表のFOMCの決定は、7月以降続いていた過剰に弱気なインフレ見通しを修正させることには成功したものの、そもそもドルや円が金融政策以外の要素で動いている以上、ドル安円高の歯止めにはならないと言え、結果、日本株も下落余地の方が高いといえます。

主要先進国で、今最も世界が危険視する北朝鮮に近いのは日本なのです。今は期待感で買う相場ではなく、楽観で上がったところで弱気ポジションを構築して、ヒヤっとして売られたときにポジションの解消を行う(利益確定)ことで稼ぐ相場です。

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年9月24日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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