記事提供:『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年10月12日号より
※本記事のタイトル・リード・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
少なすぎる日本の研究費。iPS細胞の山中伸弥氏が寄付を募る現実
日本人受賞者はゼロ
今年もノーベル賞が決まりました。巷では、日系イギリス人のカズオ・イシグロ氏が受賞したというので評判になっています。それは結構なことですが、残念ながら自然科学部門では、日本人受賞者がいませんでした。
この数年、物理学賞、化学賞、医学・生理学賞で、矢継ぎ早に日本人が受賞してきました。ところが今年はゼロ。ちなみに自然科学部門以外のノーベル賞は、受賞した方や団体には失礼ですが、あまりその価値が信用できません。人文系は基準があやふやだからです。特に平和賞はいいかげんですね。でも自然科学部門では、かなり信用がおけます。
歴代日本人受賞者の受賞時年齢は「68歳」
ところで、21世紀に入ってからの日本人受賞者は、自然科学部門で16人もいます。毎年1人の割合ですね。
この人たちの受賞時の年齢を調べて、その平均を出してみました。すると「68歳」と出ました。これから、いささか悲観的な予測を述べます。
どの分野であれ人間が一番活躍するのは、30代から50代にかけてでしょう。日本のノーベル賞受賞者の方たちが研究に一心に打ち込んだのも、おそらくこの年代だったと思われます。
ですから、この方たちがわき目もふらずに、寝る間も惜しんで研究に没頭したのは、おおよそ1970年代から2000年代初頭くらいということになります。
もちろん受賞時の年齢には相当なばらつきがありますので、若くして受賞し、いまなお活躍されている方もいます。しかし平均的にはそうだと思うのです。
基礎研究に投資しない日本政府
ところで言うまでもないことですが、長年研究に没頭するには膨大な研究費が要ります。企業研究の場合は応用研究ですから、その費用は企業がもってくれるでしょう。
しかしノーベル賞を受賞するような研究は、多くの場合、大学や研究所に身を置いた基礎研究です。すると、研究費を大学の研究資金や政府の補助金に頼ることになります。
先ほど述べた1970年代から2000年代初頭という時期は、日本が今日のような深刻な不況に陥っていない時期で、間には、1億総中流のバブル期もありました。
調べてみますと、それ以後の失われた20年の間に、科学技術研究費の総額はそれほど減っているわけではありません。しかし文科省の『科学技術関係予算等に関する資料(平成26年)』の「主要国等の政府負担研究費割合の推移」および「主要国等の基礎研究費割合の推移」というグラフを見てください。
80年代初頭から、前者は下がり気味、後者はずっと横ばいです。しかも他の先進国と比べると、たいへん低いことがわかります(前者では最低)。
このことは、政府が、国家的な基礎研究にろくに投資してこなかったことを意味します。それでも好景気の時は、民間や大学の資金がある程度潤沢だったのでしょう。
上の資料は2013年までのものですが、その後、消費増税などもあり、デフレが深刻化しました。内閣府が出している『科学技術関係予算』という資料の、「【参考】科学技術関係予算の推移」というグラフを見ますと、安倍政権成立以降、この予算がさらに削られていることがわかります。
大学でも、すぐ実用に適さない研究はどんどん削られる傾向にあります。こうした傾向が続く限り、もう今後、日本からは自然科学部門でのノーベル賞受賞者は出ないのではないか。そう危惧せざるを得ないのです。
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iPS細胞研究の山中伸弥さんが「寄付を募る」切迫した現実
筆者は去る9月18日にある情報に触れ、愕然としました。ノーベル賞受賞者で京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥さんが、「ご支援のお願い」として寄付を募っているのです。それだけならさほど驚きませんが、何と次のように書かれていました。
iPS細胞実用化までの長い道のりを走る弊所の教職員は、9割以上が非正規雇用です。これは、研究所の財源のほとんどが期限付きであることによるものです。
とっさに「財務省よ! 竹中よ!」と、怒りがこみ上げてきました。単年度会計、短期決戦での利益最大化。長期的な見通しや雇用の安定など知ったことではない。ノーベル賞級の基礎研究までが、この風潮の犠牲となっているのです。
こういう状態がこのまま続くと、日本の科学技術は、確実に世界に遅れを取ってしまうでしょう。
寄付に頼るというのはやむを得ない手段と言えますが、そこにばかり依存してしまうようになるとしたら切ない話です。国民経済の立場からは、政府の間違った経済政策に対してもっともっと怒りの声を発するべきなのです。
『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年10月12日号(日本からはもうノーベル賞受賞者は出ない?)より
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