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日本をダメにする、「保護主義」を忌み嫌うパブロフの犬たち=内閣官房参与 藤井聡

記事提供:『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年1月24日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

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条件反射的な「トランプ=悪」の批判は、日本の繁栄に繋がらない

「保護主義」を鮮明に打ち出したトランプ就任演説

トランプ大統領の就任演説における最大のエポックは、「保護主義」の姿勢を大統領として鮮明にした点にあります。実際、アメリカの大手ニュースメディアCNBCは、次の様なヘッドラインでトランプ就任演説を報じています。

「Trump inauguration speech: ‘Protection will lead to great prosperity and strength’」(トランプ就任演説:’保護主義こそが偉大な繁栄と強さにつながる’)
http://www.cnbc.com/2017/01/20/donald-trump-were-transferring-power-from-washington-back-to-the-people.html

この「保護主義(※NHKの全文訳より)」を主張したたった一つのセリフがヘッドラインを飾ったその背景には、現代のアメリカはそもそも(少なくともタテマエの上では)自由貿易主義を掲げ、保護貿易を蛇蝎のごとく忌み嫌い続けた、という歴史的事実があります。

そのアメリカ大統領が、就任演説にて保護主義を前面肯定したわけですから、もうそれだけで大きなニュースになる、という次第です。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170121/k10010847631000.html

ところが、日本では、このセリフは全く取り上げられませんでした。新聞各社はこぞって、「アメリカ第一(America First)」を見出しに掲げた一方で、「保護主義」という言葉をほとんど用いなかったのです。

それどころか、あの天下のNHKが最初に公表した「演説全文訳」では、「Protection will lead to great prosperity and strength」というセリフがすっぽりそのまま抜け落ちるほど、軽視されていたほどでした。

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ちなみにこれは、「軽視」というよりも「隠蔽」と言うに相応しいほどの対応。詳しくは、下記をご参照ください。
https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII/posts/959135840854026?pnref=story

なぜ日本のメディアは「保護主義」という言葉を忌避し続けたのか

なぜ、日本のメディアは「保護主義」という言葉を、忌避し続けたのでしょうか?

その背景には、「ポリコレ」の影がちらつきます。つまり、「保護主義」という言葉は「悪」を意味するもので、これを使うのは、政治的に(つまりポリコレの視点から)望ましくない――という空気が、言論空間を支配していたがゆえに、そういう空気に敏感なメディア界の「インテリ」達は、意識的か無意識的かはさておき、「保護主義」という言葉を使うことを回避してしまっていたという次第です。

一方で「アメリカ第一」は、ポリコレ棒にはひっかからない言葉。そもそも「アメリカ第一」なんてアメリカ大統領であれば当たり前の主張で、そんなものは何も驚くに値しません。そもそも、日本だって蓮舫の二重国籍があれだけ大問題となったのも、政治家たる者「日本第一」の姿勢が絶対的に求められているからに他なりません。

かくして、日本のメディアでは、差し障りのない「アメリカ第一」が見出しを飾る一方、差し障りある「保護主義」という言葉は、全文翻訳からすら削除される程に忌避され、隠蔽されたという次第です。

Next: 保護主義は「過激」ではない。自由貿易と保護貿易のメリット・デメリットとは



保護主義は「過激」ではない。自由貿易と保護貿易のメリット・デメリットとは

――ただし、よくよく考えれば、この「保護主義」は、決して滅茶苦茶なエキセントリックな過激なものでもなんでもありません。

そもそも貿易政策の方針を、

保護貿易 <------> 自由貿易

の二元論で考えるとするなら、完全な「保護貿易」の国も、完全な「自由貿易」の国も、この世には存在する筈はありません。

保護にも自由にもそれぞれメリットデメリットがあるのですから、「超極端国家」は、捨て去った一方の考え方のメリットを受けることができず、結局は、大きく衰退せざるを得なくなるからです。

自由貿易のメリットは、自由な交換を通して、各国の長所短所を補いながら、万国が世界中の財やサービスを共有でき、より強い国のより強い産業がさらに発展していくところにあります。そのデメリットは、それが過剰になれば、弱肉強食が横行し、より弱い国のより弱い産業が育成できなくなると同時に、雇用が失われ、挙げ句に需要が縮小してデフレ化していくところ――にあります。

一方で、保護のメリットとデメリットは、ちょうどその「逆」になります。

だとすれば、それぞれの国の繁栄、さらに言うなら、世界の繁栄のためには、状況に応じた保護と自由の「バランス」が必要だということになります。
(※折りしも、世界的な需要不足が指摘され続けている今日、デフレ圧力を高める「自由」に修正を加え、幾分「保護」を重視する方向に舵を切るのは、極めて理性的な当たり前の対応だと言うことすらできます)

いずれにせよ、保護が悪で自由が善であるわけでもなく、保護が善で自由貿易が悪、というわけではないのです。もしも「善」があるとするなら、「保護と自由のバランス」こそが「善」なのであり、「保護と自由のアンバランス」「保護の過剰」「自由の過剰」こそが「悪」だということになります。

この様に考えれば、今回のトランプの「保護主義」の宣言は、「保護と自由のバランス」において、「過剰」な自由貿易に「修正」を加えて「保護貿易」を幾分重視する側にリバランスを図ろうとする宣言だ、という実態が浮かび上がります。

そもそも、トランプとて完全な鎖国をするとは一言も言ってはいませんNAFTAをはじめとした様々な貿易協定を、一つずつ「見直す」と言っているに過ぎないのですから。

Next: 辟易する、コメンテーターの「トランプは危険」という論調



辟易する、コメンテーターの「トランプは危険」という論調

…にも拘わらず、ここ数日テレビを見ていると、我が国の多くのコメンテーターが、「トランプの保護主義は危険だ」という論調を口にし続けています。そんな通り一遍のコメンテーター達の態度に「辟易」してしまうのは、筆者だけではないと思います。

どうやら、彼らにしてみれば、

(1)トランプのマスコミや論敵に対して、ツイッター等を用いて悪態をつく行儀の悪い態度

を批判するのとまったく同じ調子で、

(2)トランプの保護主義という行儀の悪い下品な主張

を批判する、というのが、「インテリとして望ましいふるまいと思われるのだ」と思っている節があります。

当方はもちろん、(1)については大いに批判すべきだと考えています。

(1)のツイッター政治は、それを「肯定」する論調が(かつてそれを振り回していた方から)一部主張されてはいるようですが、こういうツイッター政治を「放置」しておけば、政治権力者の横暴につながるのは必至です。
https://twitter.com/t_ishin/status/822380771247669250

しかも、こうしたツイッター政治がまかり通るようになれば、「邪心」を持った人々がツイッター政治家にすり寄り、議会や法律をすっ飛ばしてその政治家を使って、世の中をその「邪心」に基づいて動かすようになるのもまた、必定です。だから、度を越した(1)の態度には、常に批判を差し向け、その暴走を食い止めることが必要なのですが――まぁ、これは常識の範囲。

したがって、この(1)を否定する風潮それ自身には、(その動機はさておき)同調はできるのですが、だからといって(2)の保護貿易の論調もついでに非難するのは、あまりにも短絡的

繰り返しますが、「保護貿易が悪」なのではなく、「保護と自由のアンバランス」や「過剰な保護」「過剰な自由が悪」なのです。だから、トランプの「保護貿易」の主張を批判するなら、「現状に過剰な保護貿易が存在し、それによって、公益を大いに棄損している」ことを説明する義務があるのです。

ですが、彼らは絶対にそういう批判をすることはありません。彼らはただ単に、条件反射的に、つまり「パブロフの犬」の様に、「保護貿易=悪」の図式で反応しているに過ぎません。

このままでは、日本と日米、世界を豊かにする「貿易政策」を議論することが不可能となってしまいます。自由貿易に正義があるように、保護貿易にも正義があるのです。同時に、保護貿易に不正義があるように、自由貿易にも不正義があるのです。

トランプ勝利という現象を、多面的に解釈しない限り、日本の繁栄や、日米の繁栄、そして世界の繁栄を育む貿易政策を議論していくことそれ自身が不可能となるでしょう。私たちは如何なる政治的課題についても、「パブロフの犬」になることだけは避けねばならないのです。

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