マネーボイス メニュー

ビットコインバブルの原因。トランプに敗れたヘッジファンドの苦境とは?=近藤駿介

今年のビットコイン暴騰は、トランプラリーによって予想以上に上昇してきた株価に起因する。では、ここに来てのビットコイン下落は何を意味するのだろうか?(『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。

翻弄されるヘッジファンド続出。トランプラリーとは何だったのか

「仮想通貨ヘッジファンド」設立はいったん棚上げ

ビットコインについては、今後も急落が続き8000ドルに下げる可能性があると予想した。

出典:ビットコインが一時1万4000ドル割れ-投資家は「現実直視」か – Bloomberg(2017年12月22日配信)

仮想通貨ヘッジファンドの設立計画を持っていたヘッジファンド運用者のマイケル・ノボグラーツ氏は、計画を棚上げすることを明らかにした。

「市場環境は好ましくなく、われわれの事業を評価し直すべきだと考えた」と説明。「現時点で一時停止ボタンを押すのは非常に賢明なことだと考えている」と加えた。

市場環境が好ましい時にしかパフォーマンスをあげられないヘッジファンドに存在価値があるのだろうか。

8000ドルまで下がる可能性がある」という予想に自信を持っているのであれば、空売りを仕掛ければいいだけのこと。CMEで先物取引もスタートしているのだから。

22日に一時30%下落したとはいえ、引値は13,000$前後。8,000ドルまで下がるとしたら、あと38%前後下落するということ。日経平均に例えたら23,000円から15,000円割れにまで下落するという急落。

こうした大きな投資機会を放棄するヘッジファンドの心境は理解不能だ。自分の予想に自信がないのか、自分の運用能力に自信がないのか、どちらかだと思われても仕方がない。ヤンキース入りを拒否した大谷翔平を「chicken野郎」と非難したNYのメディアは、このファンドマネージャーを何と称するのだろうか。話題に挙げることもしないだろうが…。

唯一喜ばしいことは、相場見通しと運用能力に自信を持っていない運用担当者がヘッジファンド設立を見送ったことで、被害者が出なくて済んだということだ。

Next: 2017年はトランプ大統領が主役の年。米株高をもたらしたものとは?



2017年はトランプ大統領が主役の年

トランプ大統領就任で始まり、目玉公約であった税制改革法案成立で締め括られようとしている2017年は、名実ともにトランプ大統領が主役の1年だったといえる。

昨年末時点で19,762ドルであったNYダウは、クリスマス休暇前の先週末時点で24,754ドルと約5,000ドル、25%上昇を記録した。

低支持率や政権幹部の相次ぐ離脱など政権の安定性に疑問符が付けられ、NAFTA(北米自由貿易協定)の見直しやTPP(環太平洋パートナーシップ)、パリ協定からの離脱など米国第一主義、保護主義的な政策や孤立化がずっとメディアから批判を受け続けたうえに、北朝鮮や中東問題などの地政学リスクに直面し続けた新大統領の任期1年目で、これだけ金融市場が好調に推移したのは奇跡だともいえる。

逆説的ではあるが、これだけメディアから批判を受け続ける大統領の下で金融市場が安定的に推移し続けたのは、メディアのおかげであったともいえる。

悲観の中で生まれ、懐疑の中で育つ」という相場の格言に準えれば、メディアがトランプ大統領を批判し続け、常に投資家に「懐疑」を与え続けたことが「相場を育てた」と大きな要因だったといえる。

一般的に、投資環境に「懐疑」を抱いている投資家は、投資資金を一度に使わず、様子を見ながら参戦するか、ヘッジを掛けながら慎重な運用に努めるかである。

NY株は、ボラティリティが低位安定的に推移してきた

トランプ大統領が誕生して以降のNY株式市場の大きな特徴は、ボラティリティが低位安定的に推移してきたことである。NY株式市場の中期的なボラティリティの平均は12%程度であるが、2017年は6.5%程度となっている。特筆すべきことは、2017年になって先週末22日までの247営業日のうち、ボラティリティが10%を超えたことは1日もないことである。ボラティリティが10%を超えたのは、トランプ大統領が大統領選で予想外の勝利をおさめ、トランプラリーが始まった2016年の11月が最後である。

ボラティリティが低下するということは、資金の流れが一定であることを示している。ボラティリティの上昇は、短期間に資金の流出入が起きた場合に起きるものである。

もしトランプ大統領の支持率が高く、政治的に安定していると見做されていたとしたら、投資家は我先に投資資金をリスク資産に注ぎ込んだだろう。しかし、トランプ政権は低支持率に喘ぎ、常にマスコミから批判を浴び続けていた。こうした状況を見続けていた投資家の多くは、投資資金を一時にリスク資産に投じることをためらったとしても不思議ではない。

100注ぎ込む予定だった資金を、10ずつ10回に分けて投じるようにすれば、結果的に市場へ安定的に資金が流入することとなり、市場のボラティリティは低下することになる。トランプラリーが予想以上に長く続いた背景には、投資家がトランプ政権に対して「懐疑」を抱き続けてきたことがあったといえる。

Next: ショートで挑んだヘッジファンドは壊滅的な結果に



閉鎖に追い込まれるヘッジファンドが増加

予想外に1年通じて市場が安定的に推移したことで、「懐疑」に賭けてショートポジションを積んだ一部のヘッジファンドは厳しい状況に追い込まれる結果となった。NYダウが1年間に約25%上昇する一方、

ヘッジファンド・リサーチのデータで見ると、マクロ戦略を採用するヘッジファンドの今年1-11月の資産加重ベースのリターンは平均プラス3.8%で、全戦略の中で最悪。ヘッジファンド業界全体の成績は今年、平均プラス6.2%。

出典:著名資産家が支援のヘッジファンド、読みが外れ厳しい12月に-関係者 – Bloomberg(2017年12月22日配信)

と、市場平均を大きく下回り、ヘッジファンドの存在意義を発揮しきれていない状況にある。

ヘッジファンド運用者のジョン・グリフィン氏は、自身が率いてきたブルー・リッジ・キャピタル(運用資産60億ドル=約6800億円)を清算する意向を投資家に伝えた。8年に及ぶ強気相場がヘッジファンド業界への重しとなる中、同業界での30年のキャリアを終える。

出典:ヘッジファンド業界で名を上げたグリフィン氏、21年間で事業清算 – Bloomberg(2017年12月18日配信)

ニール・クリス氏は同氏が率いる22億ドル(約2500億円)規模のヘッジファンド運用会社ハッチン・ヒル・ キャピタルを閉鎖し、全ての資金を投資家に返還する。

出典:ヘッジファンドのハッチン・ヒル、成績不振で閉鎖へ-投資家資金返還 – Bloomberg(2017年12月1日配信)

ヘッジファンドの多くが11月・12月決算であることもあり、株式市場が史上最高値を更新し続ける中で、閉鎖に追い込まれるヘッジファンドが増えて来ている。

ヘッジファンドが閉鎖に追い込まれるのはパフォーマンスが悪化してきているからであり、株式市場が史上最高値を更新し続けている環境を鑑みれば、苦戦の原因が空売り戦略を採用していたことにあることは明らかである。メディア等で繰り返されたトランプ政権に対する批判は、空売りを仕掛けるファンドにとって戦略の正当性を担保すると同時に、戦略の見直しする機会を奪っていく要因となったはずである。

空売り戦略が裏目に出たことで閉鎖を余儀なくされたヘッジファンドや、資金流出に見舞われたファンドはポジションの解消、現金化を迫られることになる。その際には苦戦の原因であった空売りの買い戻しが発生することになる。

11月半ばから米国株式市場が再び騰勢を強め、最高値を更新し始めたのも、年度末を控えた空売りの買い戻し圧力が強まったからだといえる。

Next: ビットコインで一発逆転を狙ったヘッジファンド



ビットコインで一発逆転を狙ったヘッジファンド

株式市場の低ボラティリティに苦しめられてきたヘッジファンドだが、低調なパフォーマンスを指をくわえて見ているはずはなく、逆転を狙った行動に出るのは当然のことである。

その最後の賭けの対象になったのがビットコインであった可能性は高い。ビットコインも――

続きはご購読ください。初月無料です

image by:Michael Candelori / Shutterstock.com

有料メルマガ『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』好評配信中。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

<初月無料購読ですぐ読める! 12月配信済みバックナンバー>

・ビットコイン急騰を演出した「懐疑の中で育ったトランプ相場」(12/25)
・割高になり過ぎた都心不動産 ~ メザニンで不動産市況は救えない(12/23)
・税制改革に対する過度の期待とFRBが抱えるジレンマ(12/18)
・リスクに備えることを忘れたリスク(12/11)
・2018年は2017年の延長線上にある?(12/4)

<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>

※12月分すべて無料の定期購読手続きを完了後、各月バックナンバーをお求めください。

11月配信分
・狭まる「長短金利差」と広がる「日米政策格差」(11/27)
・変化した海外投資家動向と、変化しないイールドカーブフラットニング化(11/20)
・トランプラリー1年 ~「期待」から「現実」へ(11/13)
・転換点を迎えた金融政策 ~「出口論」を強いられる異次元の金融緩和(11/9)
・パウエル新FRB議長決定 ~ 消えた不透明感と湧き出た不透明感(11/6)

10月配信分
・「恋は盲目」「あばたもえくぼ」(10/30)
・リスクを忘れた市場に表れる中期的リスク(10/23)
・FRB次期議長問題 ~ 日米で大きく異なる「金融政策の専門家」(10/20)
・リスクが消えた金融市場を演出した「トランプ&シンゾウ」(10/16)
・黄色信号が点滅した?「ゴルディロックス相場」と「アベノミクス相場」(10/9)
・株価史上最高値更新の陰で進められているFRB議長人事(10/5)
・Volatilityの限界水準(10/5)
・FRB利上げ観測によって現れた市場の変化と市場間の乖離(10/2)

【関連】大事件発生を予告か?英語圏版2ちゃんねる「4chan」に不気味な投稿=高島康司

【関連】2018年はお金が貯まる!敏腕FPが教える「すごい貯金」と人生を変える習慣=俣野成敏

【関連】ビットコインという「実験」の裏で進む、AIとブロックチェーンの大融合=高島康司

元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』(2017年12月23日)より
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚

[月額4,070円(税込) 毎週 月曜日(祝祭日・年末年始を除く)]
時代と共に変化する金融・経済。そのスピードは年々増して来ており、過去の常識では太刀打ちできなくなって来ています。こうした時代を生き抜くためには、金融・経済がかつての理論通りに動くと決め付けるのではなく、固定概念にとらわれない思考の柔軟性が重要です。当メルマガは、20年以上資産運用、投融資業務を通して培った知識と経験に基づく「現場感覚」をお伝えすることで、新聞などのメディアからは得られない金融・経済の仕組や知識、変化に気付く感受性、論理的思考能力の重要性を認識して頂き、不確実性の時代を生き抜く一助になりたいと考えています。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。