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イエレンとトランプの「戦い」 警戒される3月15日危機の切り抜け方=藤井まり子

トランプとイエレンの間では、今後の金融政策についての話し合いはもうすでに終了しているのではないのか?トランプノミックスのベストシナリオは、「2017年の比較的早い時期におけるバブル崩壊」だからです。(『藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』藤井まり子)

※本記事は有料メルマガ『藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』2017年3月7日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。

ベストシナリオは「2017年、比較的早期のバブル崩壊」である

市場で警戒される「3月15日危機」

ブログでもお知らせしましたが、直近のマーケットを解説してみると――

金融緩和を伴わない(=イエレンFRBを味方に付けない)トランプノミックスは、画竜点睛に欠けていた。100万馬力だったけど、欠陥車だった。遅かれ早かれ、ドル高・長期金利の上昇を巻き起こして、アメリカの実体経済を失速させ、アメリカ株式市場を大幅調整させる。

はずだったのだけど、

年初からのトランプ大統領の強力な口先介入で、ドル高はなんとか押さえられてきた。

ところが、

「人為的なドル安」「不自然なドル安」を2ヶ月も維持したので、アメリカ国内で「2%のインフレ期待」がしっかり定着してしまった。

その結果、

「イエレンFOMCの3月利上げ」が、唐突に現実となり始めた!

という流れです。

そして、ドル高・金利高を放置しても、人為的にドル高をなんとか食い止めて人為的なドル安にしても、イエレンFRBを味方に付けない限りは、すなわちイエレンFRBが「金融緩和へと大転換」しないかぎりは、アメリカ株式市場はいつかは大幅調整することになるのです。

加えて、3月13日前後(まだはっきりしませんが)は、トランプ大統領が「予算教書」を議会へ提出する日です。このトランプの「予算教書」の中身は、先週号でもお伝えしましたように、「トランプ政権内部の権力闘争の激化」の中で、急いでとりまとめられたものなので、とてもではありませんが「マーケットの期待」に答えられる内容とは、ほど遠いものになるでしょう。

国境税の調整ひとつとっても、「国境税増税(保護主義)を掲げる対中強硬派のナバロ」と「自由貿易を推進しようとしている対中穏健派のコーン」との間の権力闘争は、そう簡単に収まるものではないでしょう。

この「予算教書」の提出をきっかけに、とうとう、恐れていた「米中の通商貿易戦争」の「火ぶた」が切られるかもしれません。なんだかんだ言って、トランプ大統領はこれまで選挙公約を守ってきています。そしてトランプ大統領は、通商政策においては保護主義者です。

2月28日の大統領演説での「大人しいトランプ」「大統領らしいトランプ」は、「嵐の前の静けさ」たったかもしれないのです。

ちなみに「予算教書」は、大統領が議会へ提出する「2017年10月-2018年9月の予算案(大統領案)」なので、その中身は、2月28日の演説よりも、はるかに具体的な内容になっていなければなりません。

さらに、アメリカでは3月16日から「米国債の債務上限問題」が再浮上します。

また4月には、アメリカ財務省が「為替報告書」を提出します。

今のトランプ政権がイエレンFRBに対してできる「せいいっぱいの嫌がらせ」は、せいぜい、「予算教書」の議会への提出を、次回FOMCの日程(3月14-15日)の前後(13日か?16日か?)にぶつけるくらい。

繰り返しになりますが、「トランプノミックスのベストシナリオは、2017年の比較的早い時期のアメリカ株式市場の崩落」です。あくまで、ベストシナリオなんですが…。

トランプの予算教書にマーケットが大きく落胆して、マーケットが大幅調整したならば、トランプ政権としては、イエレンFOMCの「利上げと金融政策」のせいにできます。さらには、「債務上限問題」のせいにできます。

あるいは、3月15日のオランダ総選挙のせいにできます。

3月半ばは、様々な行事が目白押し。マーケット関係者からは「3月15日危機」と名付けられて、今から警戒されています。

マーケット関係者たちが一斉にここまで警戒すると、かえって「15日危機は起きないんじゃないか?」と、勘ぐってしまうくらい、マーケット関係者たちの警戒感は高まっています。

3月15日あたりから、いよいよ、内外の株式市場にボラティリティ(乱高下)が戻ってくるかもしれません。

Next: バブルを作る「天才的トリックスター」としてのトランプ大統領



「天才的トリックスター」としてのトランプ大統領

バブルを作るには、バブルを作る人々が必要です。ここで言うバブルを作る人々とは、小悪魔的なトリックスターたち、小悪党の天才たちです。

サブプライム・バブルのころは、「金融工学を駆使して、リスクの高いCDO(債務担保証券)などを細分化して、あたかもリスクの低い金融商品であるかのように組成しなおして、(本当はリスクが高いのに)その金融商品を大量に売りさばいていた人たち」や、「そのリスクの高い金融商品に『トリプルA』の高い格付けを与えていた格付け会社」などなどが、トリックスターたちでした。

ITバブルのころは、「実体のないIT関連企業や、赤字のIT関連企業の粉飾決算を見抜ぬこうともしなかった大手会計事務所」などが、トリックスターでした。

でも、今回の「先進国株式ブーム」では、こういったトリックスターたちが、なかなか現れませんでした(2015年の日本では、一部証券などに、日本の適正株価を従来のPERではなくROAで計ろうとする「トリック的な動き」がありました…)。

今回の「先進国株式ブーム」では、「トリックスターが現れない」ことが不思議であるといえば不思議でした。が、「100年に一度の危機」が起きたばっかりで、金融規制が厳しく強化された後だったので、現れないのが、当たり前といえば、当たり前だったかもしれません。

アメリカ株式市場では、ブームは巻き起きても、バブルの領域にまでは、なかなか足を踏み入れることができなかったのです。

ところが!「先進国株式ブーム」の最後の最後になって、その「トリックスター」がアメリカで現れてしまいました。その「トリックスター」は、なんと、アメリカの新大統領その人だったのです。

「トランプ・ラリー」は、バブルの領域に足を踏み入れています。

この「トランプ・ラリー」のトリックを最初から見破ることができた人々は、アメリカFOMCのメンバーたちや、手前味噌ながらこのメルマガや、ジョージ・ソロスやガンドラックなどの少数の理論派だけ(すんなり普通に見破ってしまったので、おかげで、チャンスをかなり見逃してしまいました)。

たいていの人は、いえ、ほとんどの人、大多数が、新大統領のトリックを見破れませんでした。トランプノミックスが欠陥車であることに気がつかなかったのです。たいていの人は、「すごい!これからは景気が良くなる、株価が上がる!」と踏んだのでした。

中には、トリックを見破っていたにもかかわらず、バブルをあおる側に回ったヘッジファンドマネージャーもいました。

かくして、トランプ大統領は、アメリカ株式市場でバブルを巻き起こすことに成功しました。トランプは天才的なアジテーター、天才的なトリックスターです。

いったん、バブルが起きたならば、バブルは行き着くところまで行くのでしょう。

しかしながら、「トランプのトリック」はあまりに成功し過ぎたので、とうとう、イエレンFRBが「早々とバブルつぶしの利上げ」に乗り出すことになりました。

行動経済学者でノーベル経済学者のロバート・シラー博士が、「アメリカ株はあと4%上昇するだろう」と発言したのは、2月20日のこと。その後、株価はグローバル規模で「うなり」をあげて上昇しています。

冗談みたいな話ですが、「シラー博士の予言」が予定調和的に働いて、今の内外の株式市場は「バブルの最後の一刷毛」状態です。

本当に冗談みたいな話だけど、馬鹿みたいな話だけど、S&P500ならば、2450ポイントあたりを、ダウならば2万1450ポイントあたりを、ナスダックならば6050ポイントあたりを、それぞれタッチしてから、すなわち、2月20日から数えて4%くらい上昇してから、アメリカ株は崩落を開始するかもしれません。

それくらい、今の米国株式市場は「イケイケ」「熱狂」状態です。

なにはともあれ3月3日には、後述するように、イエレンFRBが「3月利上げ」を明快に予告いたしました。近いうちの「大幅調整」は、必至なのではないでしょうか?

それとも、バブルは「5月売り」まで突っ走るのでしょうか?

Next: 「トランプラリー」は、「イカロス・トレード」になるのか?



「トランプラリー」は、「イカロス・トレード」になるのか?

シラーPERは、今では29ポイントを上回っています。

今現在の米国株の「割高感」「バブル度」は、サブプライム・バブルの頃の割高感をはるかに上回って、ITバブルの頃の熱狂を彷彿とさせはじめています。

今は日本株式市場でも、アメリカ株式市場でも、個人のトレーダーがイケイケになっているんですね。プロの機関投資家が様子見に徹しているか、少しずつ利益確定を行なっている中で、個人投資家がイケイケになっているんです。

ここまで来ると、一旦はバブルが発生してしまったのだから、「行くところまで行くしかないのか…」といった見方が出てくるのは当然です。

バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチは、「イカロスト・レード」と称して、「S&P500が2500~2600まで上昇する可能性」を否定しません。ロバート・シラー博士の予想「S&P500が2450まで上昇する可能性」よりも、さらに強気な予測です。

この「イカロス・トレード」とは、皆様ご存じの通り、ギリシャ神話に出てくる「イカロスの翼」から来ています。

ギリシャ神話では、「蝋(ロウ)で羽を付けた翼を得たイカロスは、自由自在に空を飛べるようになり、自信過剰に陥って」しまいます。最後にはイカロスは、「最初の戒めをあっさり破って、太陽に向かって飛び立ち」ます。その結果、「太陽に近づくと、熱で蝋が溶けて」しまい、「翼を失ったイカロスは、真っ逆さまに失墜してしまう」のでした。

3月3日に、イエレン&フィッシャーFRBが「早々とバブル潰しの利上げ」に乗り出したのも、無理はないでしょう。

Next: イエレンFRBの「バブル退治」宣言、その裏にあるベストシナリオ



イエレンFRBの「バブル退治」宣言、その裏にあるベストシナリオ

3月3日の講演で、イエレンFRB議長とフィッシャーFRB副議長は、唐突に、しかも、高らかに明快に「3月利上げ」を予告しました。

本当に、今回のイエレンFRBの利上げ予告は、「唐突感」が否めません。2月28日あたりから、急遽、連銀関係者たちが3月利上げの大合唱を開始しました。

2月10日の議会証言から、まだ1ヶ月も経過していない中で、あまりに唐突な「利上げ」予告でした。

イエレンFRB議長が、この手の講演会で「次回のFOMCでの利上げ予告」を行なうことはとても珍しいです。今までは「なかった」です。

この「唐突感」は、当然、「直近のアメリカ株式市場のバブル化」を意識してのことでしょう。

かねてより、「金融市場の安定化」に力を入れてきたイエレン&フィッシャーFRB。アメリカ株式市場で生まれた「トランプ・バブル」をもっと巨大になるまで放置したら、後々、アメリカの金融市場は不安定になります。その後の金融政策ではもっと苦労してしまいます。

ここらあたりは、イエレンFRB議長とて、「2%インフレ目標」を盾に取ってでも、「アメリカ株式市場のバブル状態」を比較的早期にクールダウンさせておきたいところでしょう。

3月3日のイエレン&フィッシャー発言を受けて、かのJPモルガンも、次の利上げ次期を3月に繰り上げて、年内利上げ回数も2回から3回に変更、「3月、6月、9月」の3期連続利上げに予想を修正しています。これは、かなり「厳しい引き締めへの転換」予測です。

3月14-15日のイエレンFOMCで、金融政策が大きく引き締め方向へと加速されるならば、さすがの「トランプ・ラリー」も、調整局面入りするのではないでしょうか?

そして、いつも、ついつい、以下のように、想像・憶測してしまうんです。

「トランプとイエレンの間では、今後の金融政策についての話し合いはもうすでに終了しているのではないのか?銀行監督行政担当のFRB副議長のポストを巡って、トランプがイエレンの意思を尊重してあげたことと引き替えに、イエレンFRBは比較的早い時期の『トランプラリー潰し』に乗り出したのではないだろうか?」

繰り返しお伝えしますが、トランプノミックスのベストシナリオは、「2017年の比較的早い時期におけるバブル崩壊」です。

トランプは、トランプラリーがバブル化したのを見計らって、後のことは安心して、イエレンFRBに任せているのではないのでしょうか?

債券市場は、こういった一連の動き(利上げ→バブル潰し→再度、金融緩和への転換)を察知して、利回りを上昇させていないのではないのか?

株式市場と債券市場がばらばらな動きをするのも、こういった「トランプ政権とイエレンFRBとの間の暗黙の取り決め」をすでに見透かしているからではないでしょうか?
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※本記事は有料メルマガ『藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』2017年3月7日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。

藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』(2017年3月7日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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