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波乱の米国市場、FRBの選択は「利上げショック」か「見送りリスク」か=斎藤満

市場が混乱を続けるなか、3月米利上げの有無に注目が集まっています。FRB関係者の間でも意見が割れていますが、仮に見送ったとしても市場は大打撃を受けそうです。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年2月9日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

どちらに転んでも混乱。FRB要人発言から読み解く今後のシナリオ

FRB関係者3名の見解は

ゴルディロックス経済(適温経済)、異常に低いボラティリティのなかで、米国の株式市場は長期安定的な上昇を見せ、高値更新を続けてきました。それが長期金利急騰という「ハチの一刺し」によって、にわかに不安定化し、これが欧州やアジアにも波及しました。サブプライム危機とは異なりますが、随所にバブル崩壊現象も見られます。

そのなかで7日には3人のFRB関係者が発言しましたが、いずれも足元の市場の混乱を意識したものになっています。

<ニューヨーク連銀・ダドリー総裁の発言>

今年半ばには退任すると言っているニューヨーク連銀のダドリー総裁は、ボラティリティの上昇をかなり意識しています。VIX指数をベースにした投資商品の相場急落で混乱が生じたことから、そのリスクヘッジ要素は認めつつも、その商品設計を問題視しています。

逆VIX指数が数日のうちに価値が9割以上も下落して、大損を出した投資家が少なくないためで、サブプライムとは比較できないまでも、バブル崩壊現象が起きたことになります。低ボラティリティの下で株価が上がり続ける中でできた投資商品が、あっという間に暴落しました。また、ボラティリティが上昇して株価が大きく下落した事態を重く見ています

<サンフランシスコ連銀・ウイリアムズ総裁の発言>

サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁は、米国景気指標に強いものが続き、これがFRBの利上げ加速観測を呼んで長期金利を押し上げた点を注視。強い指標の続出を認めつつ、「経済が過熱している兆しはない」として、FRBが指標に過剰反応して経済を台無しにするようなことはしない、シナリオ通りの緩やかな利上げを続ける、と言って市場をなだめました。

<シカゴ連銀・エバンス総裁の発言>

またハト派の1人、シカゴ連銀のエバンス総裁は、インフレが大幅に加速するとの確信が持てれば別だが、足元のインフレや市場の動きを踏まえて、「少なくとも今年半ばまでは利上げは不要」と言っています。

一時9割方織り込んでいた短期金融市場での「3月利上げ」の織り込み度は7割以下に低下しました。

Next: 「3月利上げ」はできるのか? 金融市場に広まる不安



さらなる金利上昇、相場下落の余地がある

逆VIX指数投資以外にも「バブル崩壊」的な現象はみられます。ビットコインなど、仮想通貨取引でも相場が急落してピークから3分の1以下になったものも少なくありません。米国10年国債利回りの2.8%台は、それ自体、現在の米国経済の成長スピードから見れば決して高すぎず、むしろまだ低すぎるくらいです。裏を返せば、昨年秋につけた2.1%割れの水準がかなりのバブルでした。

その国債利回りが、わずか4か月余りの間に0.8%も上昇しました。高金利債券なら0.8%程度の上昇でも価格の下落は知れていますが、2%という低金利国債のもとで0.8%も金利が上がると、価格の下落は逆に大きくなり、債券保有者は損失が大きくなって、持ちきれなくなります。現に3月決算を前にした日本のメガバンクは売却を余儀なくされたようです。

そして2.8%台の利回りはまだ実勢に比べると低すぎる面があり、さらに金利が上昇し、相場が下落する余地があります。債券相場の下落、仮想通貨のバブル崩壊と連鎖して、市場のボラティリティが急上昇し、株価の大幅下落、逆VIX指数商品の相場も大暴落しました。市場は突然嵐に襲われた形になりました。

「3月利上げ」はできるのか?

先に紹介した3人のFRB幹部も、さすがにこうした動きを無視できなくなりました。金融市場にも一部に3月利上げはできるのか、との不安の声が出るようになりました。こういう状況になると、FRBにとっては、利上げをしても、利上げを回避しても、どちらにしても市場に影響を与えてしまいます

そもそも、市場が不安定で、市場が利上げを織り込んでいない状況なら、さすがにFRBも利上げはできません。しかし、今のように、株や債券市場は不安定ながら、景気は好調で、市場が先物市場で約9割、短期金融市場で7割弱の利上げ織り込み、という状況では利上げも不可能ではありません

それでも、金利とは別にFRBはすでに保有資産を圧縮し始めていて、国債についても当初は月に60億ドル、年明けからは120億ドル、4月からは180億ドルと、圧縮スピードを速めていきます。この量的引き締めと合わせて利上げをするので、市場が十分に織り込んでいないと、長期金利の上昇、株価下落のリスクが大きくなり、相場が下落すると、それが景気の冷却効果を持ちます。

それだけ利上げショックが大きくなり、経済への引き締め効果が大きくなります。FRBはそれでも「中期的に中立な水準より低く、依然として緩和的」と説明するはずですが、利上げの影響は大きくなります。

Next: 利上げを見送るとどうなる? 想定される2つのリスクとは



利上げ「見送り」で生じる2つのリスク

ではFRBが利上げを見送ればよいかと言えば、こちらもリスクが少なくとも2つあります。

1つは為替市場の反応で、ドル安が進む可能性があります。市場は少なくとも3月、6月は利上げがあると見ていましたが、ここで利上げが見送られると、金利の前提が狂い、それだけドル安になりやすくなります。政権は短期的にドル安を歓迎する面があり、むしろ日本に円高リスクがかかることになります。

もう1つは、FRBが利上げを見送るということは、当局が経済や市場に不安を持っているととられ、本来なら利上げが回避されて株価が上昇しても良いのですが、景気の先行き不安、市場不安が先行して株が下落するリスクがあります。ドルが下がると、その裏返しで原油価格が上昇する面もあります。

パウエル新議長はどう出る?

現在の市場不安が早期に解消し、また堅調な経済の下で株価上昇地合いに復帰すれば、こうした問題は回避できますが、このところの相場の動きは依然として荒く、ボラティリティも高く、長期金利はまた上昇しています。冬季五輪の間は混乱を避けるとしても、五輪明けにまた市場が不安定になるリスクはあり、FRBは利上げの是非を真剣に考えざるを得なくなると見ます。

そしてどちらに転んでもリスクがあるなら、市場に対して事前に情報を流し、事前準備を十分に取らせる必要があります。3月のFOMCはパウエル新議長のデビュー戦となるだけに、彼は慎重に市場との対話を進めると見られます。

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image by:Wikimedia Commons

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・適温経済と適温相場は別(2/7)
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マンさんの経済あらかると』(2018年2月9日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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