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必然だった2月の調整。巨匠ピーター・リンチなら今の株価をどう見るか?=東条雅彦

今回は、現在の市場全体は割高なのか? それとも割安なのか? についてお話します。2月2日、NYダウが「665ドル安」というリーマンショック以来、9年ぶりの下げ幅を記録しました。今回の調整でどこまで株価が下がるのかは不明ですが、一度、この辺りでファンダメンタルズと照らし合わせて「株価の妥当性」をチェックしていきたいと思います。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)

規則性に気付け!ピーター・リンチ・チャートで読み解く米国相場

一本調子に上昇してきた米国市場

歴史的には米国市場は今まで一本調子で上昇してきました。1871年1月から2017年2月現在までのS&P500の株価チャートがこちらです。

<S&P500 1871年1月~2017年2月>

赤の点で書かれている「Black Tuesday(1929年)」と「Black Monday(1987年)」は歴史的な大暴落を記録したタイミングです。

<ブラック・チューズデー(1929年10月29日)>
暗黒の木曜日に引き続いて起こった10月29日の株価大暴落。1920年代に起こった米国株価の大暴落の中でも、最も有名なのが10月24日に起こったブラック・サースデー(暗黒の木曜日)ですが、さらに翌週の火曜日にも、ニューヨーク・ダウは大幅に下落しました。この2回の暴落によって、アメリカの株式市場は壊滅的なダメージを受け、世界恐慌へと突入していきました。

<ブラック・マンデー(1987年10月19日)>
1987年10月19日月曜日に起きたニューヨーク株式市場の大暴落。世界的な株価の暴落を招いた。暗黒の月曜日。

出典:weblio辞書

この2つの大暴落のイベントですら、長期で見ると、単なる押し目買いの場面に見えます。

ただ、前者のブラック・チューズデーは世界恐慌の引き金になったこともあり、株価は1929年から1932年にかけて、6分の1まで下落しました。そして、元の株価を超えたのは1954年。なんと回復するまで25年もかかっています。

そのことを考えると、2000年のITバブル崩壊と2008年のリーマン・ショックは、「単なる押し目買いのチャンス」だったと言って良いでしょう。

2018年2月2日、NYダウが「665ドル安」というリーマンショック以来、9年ぶりの下げ幅を記録して、ビビっている人も多いかと思いますが、長期で見れば、何も恐れる必要はありません。世界恐慌クラスの危機が来ない限りは安心して良いと思います。

そして、大局的には2020年代中盤からAI革命が本格起動を始めます。仮に今、世界恐慌が起きたとしても、かつてのように復活するまでに25年の時間を要するという確率は低いと思います。なぜなら、AI革命(第四次産業革命)は既に確定している未来だからです。

Next: 長期で見れば、2018年2月の下落は心配無用。それでも不安なら?



2017年とは明らかに異なる2018年の株式市場

長期で見れば安心だと言いつつ、やはり不安に感じている人も多いと思います。

元々、レバレッジを利用して取引している機関投資家は株価が下がると、信用枠を確保するため、すぐに保有する株式を投げ売ります。そうすると、その売りが売りを呼ぶ形になって、あっという間に10%⇒20%⇒30%⇒40%⇒50%と暴落していきます。しかも、意外に長期にわたって下げ続けます。

参考までに2008年のリーマンショック時には、S&P500は次のように推移しています。

<リーマンショック時の下落率と所要日数>

下落率は2008年9月15日の1192ドルを起点して算出しています。概ね10%刻みで示したのですが、実際の株価変動が大きくて、ちょうど10%刻みでは示せませんでした。

25%前後までは案外、すんなり下落します(所要日数:24日)。その後は時間をかけて下落し続けるイメージです。最終的に、大底の683ドルに達するまでに5ヵ月と19日(=172日)もかかっています。

既に2月下旬の時点で株価は回復傾向なのですが、今回の2018年2月に生じた株価の下落がどこで底を打つのかは不明です。

相場格言では次のように言われています。

強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく。

ステージ1:市場参加者が総悲観になった時が強気相場の出発点になる。

ステージ2:市場参加者が懐疑的なうちは株価は上昇していく。

ステージ3:市場参加者が楽観的になった時が強気相場の天井である。

ステージ4:市場参加者が幸福感で満たされている時に強気相場が終わる。

今、株式投資をして、儲かっている人は例外なく2008年のリーマンショックからの上昇相場に乗ってきたはずです。でも、そのリーマンショックからの立ち直りというボーナスステージ(=ステージ2)はとっくの昔に終わっています

2018年1月までは、「GDPは順調に成長している」「企業の業績が良い」「失業率が低い」という三拍子が揃った状況で、株価が下落するなんてあり得ないと思われていました。

しかし、この今の状況は先程の相場格言でいうステージ3かステージ4のどちらかでしょう。いや、どちらかと言えば、ステージ4に近いのかもしれません。

市場参加者が「楽観的になっている時」は密かに危険です。もし今がステージ3だったら、2月の株価下落は一時的な調整で、本格的な暴落はまだもう少し先になります。もし今がステージ4だったら、このまま株価下落が長期間にわたって続くことになります。

そして、今がステージが3なのか? それとも4なのか? それはわかりません。今後、株価が上昇するのか下落するのかは不明で、かつ、投資家にはアンコントローラブルであるため、議論しても仕方がありません。

でも、株価暴落時の心構えはしっかりと持っておきたい。そこで、本稿では「そもそも株価はどういう根拠で動いているのか?」を明らかにした上で、2月に巻き起こった株価下落の真相を探っていきたいと思います。

Next: 株価は適当に動いているわけではない



株価は適当に動いているわけではない

株価は適当に動いているわけではありません。1分とか1時間とか株価を計測する期間を短くすればする程、ランダム性が高まります。しかし、長期では企業の売上高や純利益(=企業価値)を元にした値付けが行われています。

イメージとしては次のような感じになっています。

<企業価値と株価の関係>

企業価値よりも株価が下がっていれば、投資する上では安全性が高まります。「バリュー投資の父」と呼ばれているベンジャミン・グレアムは、本来の価値よりも株価が低い状態を指して「安全域」と命名しました。

株価の暴落は大きな安全域を生み出すもので、バリュー投資家にとっては「株価の暴落はチャンス」です。

株価の根拠は企業利益である

株価の割安性を知るために、最もよく使われる指標はPERです。PERとは株価が純利益の何倍で推移しているかを示した指標となります。

<例>

A社:株価150ドル÷1株あたり純利益10ドル=PER15倍
B社:株価200ドル÷1株あたり純利益10ドル=PER20倍

上記のA社とB社を単純に比較した場合、A社の株価の方が割安です。当然、投資家は「割高ではなく割安になっている株式」を保有している方が安全性で、大きなリターンを見込めます。そして、このPERという指標は「株価の根拠は企業利益である」ということを暗に示しています。

ピーター・リンチ・チャートとは?

米国のピーター・リンチというファンドマネージャーを知っていますでしょうか? 既に引退しているので、知らない人も多いかもしれません。米国ではウォーレン・バフェットに並ぶ有名人です。

ピーター・リンチはかの「マゼラン・ファンド」を世界最大規模の資産に育てあげた功労者として知られています。運用実績で数々の伝説をつくったことから、「世界No.1のファンドマネジャー」と称されています。

1977年から1990年の14年間で、2000万ドルだったマゼラン・ファンドを140億ドルにまで増やしました。その間の年平均リターンは29%です。

そのピーター・リンチが開発した株価チャートに「ピーター・リンチ・チャート」というものがあります。

ピーター・リンチ・チャートとは「株価は常にPER15倍で推移する」と仮定して、描いたチャートのことです。このピーター・リンチ・チャートと現実の株価チャートを比べることで、ファンダメンタルズと株価の乖離が視覚的にわかるようになります。

ちなみに、PER15倍という値は株式益回りに計算しなおすと、6.6%(1÷15=0.06666…)になります。株式に投下した資本が毎年6.6%程度の純利益を生み出す状況を、1つの基準として捉えようという話です。

Next: 1880年から現在までの振り返りでわかる「株価の規則性」



ピーター・リンチ・チャートで振り返る米国の株式相場

1880年から20年区切りで、S&P500の株価とピーター・リンチ・チャートを見比べていきます。このピーター・リンチ・チャートを確認することで「株価は決してデタラメに動いているわけではない」ということが視覚的に理解できるはずです。株価は各年の12月末時点の値となっています。

<ピーター・リンチ・チャート(1880年~1899年)>

1880年代・1890年代のS&P500は、概ねピーター・リンチ・チャートと足並みを揃えて動いています。つまり、S&P500は企業純利益の15倍の価格で推移していたことになります。1987年10月19日にブラックマンデーが発生していますが、年単位で見ると、ほぼ無傷です。株価も少し上げる時はあっても全体的にはヨコヨコで推移しています。

<ピーター・リンチ・チャート(1900年~1919年)>

1900年代のS&P500は、概ねピーター・リンチ・チャートと足並みを揃えて動いています。1910年代の後半から、S&P500はピーター・リンチ・チャートを大きく下回るようになっています。

第一次世界大戦が1914年7月28日から1918年11月11日にかけて行われています。戦争の特需によって、企業利益が1915年、1916年、1917年と急速に上昇していますが、世間の人たちは投資どころではなかったのでしょう。株価の方がまったく追いついていません。

1910年代・1920年代は共に、S&P500は横ばいまたは下落基調です。今でこそ「長期投資で資産を築ける」と考えている人が増えてきましたが、この20年間については投資するには悲惨な期間でした。長期投資だったら成功するとは限らないという好例だと思います。

<ピーター・リンチ・チャート(1920年~1939年)>

1920年代・1930年代のS&P500は、概ねピーター・リンチ・チャートと足並みを揃えて動いています。1929年から1941年までは世界恐慌の期間で、景気はよくありませんでした。ただ、株価の方は企業利益とほぼ連動していて、健全な期間だったと言えるでしょう。株価の乱高下がとても激しい時代でした。

<ピーター・リンチ・チャート(1940年~1959年)>

1940年代・1950年代のS&P500は、全体的にピーター・リンチ・チャートを下回ることが多くなっています。特に、1947年から1953年までは乖離が大きくなっています。1939年から1945年までの6年間は第二次世界大戦が行われていました。戦争が終わってから企業利益が急速に拡大していますが、S&P500にはその企業利益を反映されていない状況になっています。しかし、1950年代の後半に入ると、株価に企業利益が織り込まれるようになっています。

<ピーター・リンチ・チャート(1960年~1979年)>

1960年代のS&P500は、ピーター・リンチ・チャートよりも少し高い範囲で推移しています。1973年から逆転して、S&P500がピーター・リンチ・チャートよりも低くなっています。米国経済は1960年代の前半までは概ね順調でしたが、1970年代に入るとスタグフレーション(景気沈滞下のインフレ)が誰の目にも明らかになってきました。

1971年に米国のリチャード・ニクソン大統領がドルと金との交換を一方的に停止しました(ニクソン・ショック)。1944年から続いたブレトンウッズ体制(金とドルとの交換を
前提とした固定相場制)が一気に崩壊して、変動相場制に移行していきます。通貨が「お金」から「紙幣」に成り下がって、ゴールドが「真のお金」に切り替わるという劇的な変化があった時代です。

<ピーター・リンチ・チャート(1980年~1999年)>

1980年代のS&P500はピーター・リンチ・チャートと概ね一致しています。1985年にはプラザ合意があって、2年後にはドルが約半値に切り下がっています(1ドル=240円台から120円台)。これは米国の「双子の赤字(=財政収支と貿易収支の赤字)」を解消するためです。

米国は昔から自国の経済がピンチになると、強引な手法で経済を立て直していきます。ドルの価値が半分になれば、財政赤字が半分になって、輸出競争力が向上します。このプラザ合意によって、日本経済は壊滅的なダメージを受ける一方で、米国経済は急速に回復していきます。

S&P500は1995年から大きく上昇し始めます。この年はマイクロソフトが「Windows95」を大ヒットさせた年です。ここからいわゆる「ドットコムバブル」が始まります。S&P500はバブルが崩壊する2000年まで一直線に上昇し続けます。この時代は株式投資をするには「最適な時代だった」と言えるでしょう。

<ピーター・リンチ・チャート(2000年~2017年)>

2000年代の初頭はドットコムバブル崩壊の影響で、S&P500は大暴落を演じますが、2002年に底打ちして、徐々に復活してきます。2000年代・2010年代は共に、S&P500はピーター・リンチ・チャートよりも高い値を示し続けています。リーマンショックのあった2008年は企業利益が大きく減ってしまったため、ピーター・リンチ・チャートは大暴落しています。もちろん、S&P500も暴落していますが、それでもピーター・リンチ・チャートよりも上の範囲で推移しています。

そして、注目すべきは近年の動きです。リーマンショックから株価が回復していますが、2014年頃からピーター・リンチ・チャートとの乖離がどんどん大きくなってきています。2014年、2015年、2016年、2017年と毎年のように乖離が広がってきており、「ミニバブル」状態でした。

Next: 2018年2月の株価下落は必然だった?



リーマンショック後のS&P500のPERの推移

2008年10月にリーマンショックがあって株価が大暴落しました。約半年後の2009年3月に底打ちして、そこから「米国株の快進撃」が始まりました。

2007年から現在までのS&P500のPERは、次のように推移してきました。

<S&P500のPER 2007年~2018年>

ピーター・リンチ・チャートではPER15倍を基準にするので、参考までにオレンジの線を引きました。2009年はリーマンショックの影響で企業利益が激減したため、PERが異常値になっているので除外しました(灰色の網掛け部分)。

リーマンショックが起きる前年の2007年のPERは17倍です。そのPERが明確に上昇し始めたのは2014年からです。2014年、2015年、2016年、2017年、2018年(1月)と時間が経過すればするほど、ピーター・リンチ基準のPER15倍からかけ離れる状況が続いていました。

2018年2月の株価下落は必然だった

S&P500は歴史的にはピーター・リンチ・チャートとほぼ連動して動いています。つまり、株価は企業利益の15倍で推移する傾向にあるのです。

両者は短期的には乖離しますが、概ね5~6年以内に収束します。乖離が永久に続くことは絶対にありません。

このことを踏まえて振り返ってみると、2018年2月のフラッシュバック的な株価の下落は「いつかは起こり得る調整だった」と思います。繰り返しますが、もちろん、この調整がいつどのような形でやってくるかは誰にもわかりません。

ピーター・リンチ・チャートから読み取れるのは「乖離が大きくなっていて、なんとなく危険そうだ」という、ぼんやりした話でしかないのです。

Next: まとめ:現状は強気相場の天井、もしくは終了局面である



まとめ

<1>

歴史的にはS&P500はピーター・リンチ・チャートと足並みを揃えて動く(=株価は企業利益の15倍で動く)。

<2>

S&P500とピーター・リンチ・チャートは大きく乖離したとしても、概ね5~6年以内に収束する。

例1:戦後復興期に株価に企業利益が織り込まれていなかった ⇒ 1947年~1953年
例2:ドットコムバブルで株価が企業利益を無視して大幅に上昇した ⇒ 1995年~2000年

<3>

S&P500がピーター・リンチ・チャートをやや上回る状況では、長期にわたってその状況を維持する。

例:1958年から1972年の間はS&P500がピーター・リンチ・チャートを上回っています。しかし、大きく乖離していないので「調整」は入りません。

<4>

直近の2014年、2015年、2016年、2017年は、S&P500とピーター・リンチ・チャートの乖離が大きく広がってきた。歴史的には「大きく乖離する期間は長くても6年ぐらい」。そのため、調整が入りやすい状況だったと言える。

<5>

今がステージ3だった場合:2月の株価下落は一時的な調整で本格的な暴落はまだもう少し先になる
今がステージ4だった場合:このまま株価下落が長期間にわって続くことになる

現時点では、ステージ3なのかステージ4なのかは不明であるが、少なくともボーナスステージ(=ステージ2)はとうの昔に終わっている。よって、投資家は大幅な調整が近い将来、入っても文句は言えない状況にある。

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ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2018年2月23日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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