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4月に迫る「種子法廃止」は、なぜ異例のスピードで成立したのか?

昨年2月、国会が森友問題で大揺れしている最中に閣議決定された「種子法の廃止」。今年4月には有無を言わさず施行されますが、なぜこのような廃止案が通ったのでしょうか。日本の農業と経済に大きな影響を与える、「主要農作物種子法」の改正案が成立した裏側を探ります。(『らぽーる・マガジン』)

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2018年3月19日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

種子の私有化、外資の参入…問題山積みの廃止案はなぜ通った?

4月には有無を言わさず施行される

種子法は通称であって、正式には「主要農作物種子法」と言います。

昨年2月、国会が「森友学園問題」「加計学園問題」で大揺れしている最中に閣議決定された種子法の廃止は、4月には国会で可決成立し、1年後の今年4月には有無を言わせず施行されることになりました。

つまり来月には施行されるのです。

ほとんど報道されない、これが私達の生活にどう結びついてくるのかも一般国民には理解されないまま、法律だけが成立するのです。

種子法の役割とは

種子法廃止に関しては、廃止反対の意見もあれば、反対者の意見を否定するものもあります。

この「主要農作物種子法」が制定されたのは1952年5月のことで、この前年に制定されたサンフランシスコ講和条約が発行された1952年4月の翌月になります。

主要農作物種子法は、米・麦・大豆などの主要な農産物に関しての優良な種子の安定的な生産と普及は、国がその役割を果たすべきであることを定めたものです。

時代背景から見て、主要農作物種子法(以下通称の「種子法」を用います)は、食料の安定供給が目的だったかと思われます。

これを廃止するということは何を意味するのでしょう。

主要農作物種子法はたった8つの条文のみで、対象となるのは「稲、大麦、はだ
か麦、小麦及び大豆
」です。

このラインアップからみて、「米の輸入自由化」という議論がすぐに浮かんできます。

TPPがらみでトントン拍子に廃止が決まった

この種子法は、2016年9月から開かれた内閣府の規制改革推進会議「農業ワーキング・グループ」で議題に上がり、実に早いペースでことが進んでいきます。

2016年11月には政府が決定した「農業競争力強化プログラム」にも種子法廃止の方針が盛り込まれ、翌2017年2月には「主要農作物種子法を廃止する法律案」の国会提出が閣議決定、3月から衆議院の農林水産委員会に付託され、約5時間の審議を経て衆議院を通過、参議院でも5時間の審議と2時間の参考人質疑を経て、4月11日に参議院本会議で可決、成立しました。

規制改革推進会議「農業ワーキング・グループ」第2回会合(2016年9月)で、種子法を「民間企業が種子産業に参入しにくい」障壁だと指摘され、規制緩和の対象法規制に、種子法がリストアップされました。

10月の第4回会議で、種子法廃止の説明とされる資料が提出されます。資料のタイトルは「総合的なTPP関連政策大綱に基づく『生産者の所得向上につながる生産資材価格形成の仕組みの見直し』及び『生産者が有利な条件で安定取引を行うことができる流通・加工の業界構造の確立』に向けた施策の具体化の方向」、つまり種子法廃止はTPPがらみの話だということです。

Next: TPPに参加するため、強引に「規制緩和」できる対象を探していた…



何がなんでもTPPに参加したかった日本

資料には「戦略物資である種子・種苗については、国は、国家戦略・知財戦略として、民間活力を最大限に活用した開発・供給体制を構築する。そうした体制整備に資するため、地方公共団体中心のシステムで、民間の品種開発意欲を阻害している主要農作物種子法は廃止する」とあります。

この議論が進んでいるときはドナルド・トランプ政権発足前、まさかアメリカがTPP交渉から離脱するなんて思ってもいなかった頃の話です。

とにかく何がなんでもTPPに参加しようと、ある意味強引にいろんな規制緩和に関する法案を通そうとしていたときでした。

年初のダボス会議で安倍総理が、政権政策の一番はTPPだと明言した年でした。

「種子法廃止」は外資の参入を促す?

TPPの中心的な考え方で、同じ産業において民間企業の競争を妨げる国等の関与が認められた場合は、国を相手に提訴することができるISD条項があり、それゆえ、同業種における競争条件をフラットにする(イコールフッティング)必要があるという考え方です。

それゆえ国が直接事業に関与してるものは見直す必要がありました。金融業界における郵政、賃貸業におけるUR事業国金貸付もそうですね。

このイコールフッティングの考え方は、TPP反対者からすれば「外圧」とみなされていました。自由競争は外資の参入を促すことになるというのが反対者の意見でした。

西川芳昭教授が懸念する「種子の私有化」

西川芳昭龍谷大学経済学部教授はかつて雑誌のインタビューで

種子法廃止の根本的な問題として、新しい品種をつくるために素材となる遺伝資源である品種は、国や都道府県が“公共の資産”として持つという考え方だったのが、民間に委ねられた場合、遺伝資源を基にして改良された新品種について、改良部分だけでなく種子全体に特許をかけ企業がその所有権を主張するのではないか…。

という懸念を指摘されています。さらに、

ロイヤリティ(特許料)を払わなければその種子が使えなくなる、遺伝資源が企業に囲い込まれてしまう、これは「種子の私有化」を意味する。

とも指摘されています。

Next: 野菜では既に数社の多国籍企業が「種子」を牛耳っている



多国籍バイオ企業の意向が反映しての種子法廃止か

すでに民間が主体となっている野菜などの作物では、圧倒的な技術力と資本を持つ数社の多国籍企業が、中小の種苗会社を次々に買収し、世界中にシェアを拡大しています。

今スーパーなどで販売されている野菜の多くも、そうした多国籍企業の種子によるものなのです。

【関連】日本の農業をぶっ壊す種子法廃止、なぜほとんど話題にならない?=田中優

種子法がなくなることで、公的に支えられてきたコメや麦などの主要作物の開発についても、効率や経済性の追求に傾いていかないかと西川教授は心配されています。

思い起こせば、アメリカがTPP交渉で最後までこだわったのが「知的財産権」にかかわる話でした。

米国を中心とする多国籍バイオ企業の意向が反映しての種子法廃止ではとの見方も捨てきれないようです。

TPPに絡んで急いで通したと思われる種子法廃止が、来月には施行されるのです。

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らぽーる・マガジン』(2018年3月19日号)より一部抜粋
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