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負の連鎖が続く米ハイテク株、トランプ陣営の権力争いに耐えられるか?=斎藤満

フェイスブック個人情報流出問題やアマゾンへの課税強化懸念を受け、米ハイテク株は一時大きく下落しました。その裏にはトランプ陣営の権力争いが潜んでいます。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年3月30日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

誰がリークした? フェイスブック個人情報流出に潜む2つの問題点

トランプが「アマゾン」を狙い撃ち

ナスダックの下げが最近きつくなっています。大統領選挙中からトランプ大統領はハイテク関連業界に批判的でしたが、ここへきて、ハイテク関連への規制強化、事情聴取など、締め付けが厳しくなっています。ハイテク株にとってはまさに「トランプ・リスク」に直面しています。

NASDAQ 日足(SBI証券提供)

3月28日の市場では、自動運転車事故を受けた規制の懸念から、テスラ株がこの日も7.7%下げと、続落しています。

同時に、これまでもトランプ大統領の標的にされるとの懸念があるアマゾンが、一部のニュースサイトの記事で一時7%の大幅下落を見ました。このニュースによると、大統領はアマゾンが零細小売業を圧迫している点を重視、アマゾンに対する課税措置を見直すと書きました。

もっとも、ホワイトハウス高官は、アマゾンについて、現時点で米国政府による特定の政策変更はない、と述べています。しかし、大統領がアマゾンに執着し、ターゲットにしていることは周知の事ゆえに、こうした報道に市場は敏感に反応します。

「フェイスブック」がトランプ政権の弱点に

これとは別の意味で「トランプ・リスク」とされているのが、フェイスブックです。

こちらはトランプ大統領が狙っているわけではなく、むしろトランプ大統領との関係を疑う議会が、ザッカーバーグ氏を議会に召喚して証言させようと圧力をかけています。

ことの発端は、イギリスの大学教授を通じてデータ分析会社がフェイスブックの顧客5000万人分の個人情報を不正に入手した、というものです。そのために、フェイスブックの情報管理が問われ、同社は米英の主要新聞に謝罪広告を載せました。

そしてアメリカ上院司法委員会は、4月10日の公聴会で、ザッカーバーグCEOに証言するよう求めています。

問題点は大きく2つ

ここで考えなければならない点が2つあります。まず、不正に個人情報を入手したデータ分析会社がトランプ陣営のものであったこと。

そして、もう1つが、ザッカーバーグ氏は、故ディビット・ロックフェラー氏の孫といわれ、実際にはD.ロックフェラー氏の私生児の子供と言われます。ロックフェラーはトランプ大統領の後ろ盾となっています。

つまり、フェイスブックは、ザッカーバーグ氏の出自のおかげで、つまり祖父の七光りによって事業拡大が可能になったと見られ、一方でトランプ陣営はロックフェラーとのつながりのおかげでフェイスブックの個人情報を有利に利用でき、これが大統領選に有利に作用したと見られることです。

それゆえに、議会がザッカーバーグ氏の証言を得ようと躍起になっています。

Next: いったい誰がリークした? ロシア疑惑以上の大事件に発展しかねない



窮地に陥るトランプ政権

このことは、トランプ大統領、フェイスブック双方に大きなリスクとなりうるものです。

トランプ大統領にとっては、ロシア疑惑だけでも大きな問題ですが、ここにフェイスブックの5000万人の個人情報を不正に利用したとなると、ある意味ではロシア疑惑以上に大きな問題となる面があります。大統領にとっても、これは大きな負担となります。

問題は、これが背後の支援勢力であるロックフェラーから流れることはないはずで、いったい誰が何のためにこれをリークしたかです。

明らかにこれは反トランプ陣営による「攻勢」と見られます。議会民主党とともに、トランプ降ろしを画策してくる可能性があります。

まだ油断できないハイテク株の値動き

もちろん、フェイスブックにもザッカーバーグ氏自身にも負担となります。

アマゾンのような大統領からの攻撃はないとしても、その反対勢力、議会民主党から、フェイスブックをターゲットにした個別規制の導入となる可能性も否定できません。

そうなれば株式市場では情報関連中心に、ハイテク株に一段の売り圧力となります。

トランプ陣営の勢力図は

現在のトランプ陣営では、どういう力が主導権を握っているのか、非常にわかりにくくなっています。

ある時はネオコンなど軍事強硬派勢力が優勢に見えましたが、最近では軍部出身の大統領補佐官などの辞任が続き、北朝鮮問題は対話路線に傾斜してきました。

背後の力関係がまた変わったのか、統制力が落ちたのか、一貫した政策理念が見えなくなりました。

Next: 制御できないトランプの個人プレー。日本のハイテク分野にとっても脅威に



日本のハイテク分野にとっても脅威に

それだけに、ロックフェラーの血筋だからザッカーバーグのフェイスブックは安全とも言い切れなくなり、トランプ大統領の個人プレーを制御できる人がいなくなれば、アマゾンへの個別課税措置がとられるリスクも出てきます。

トランプ・リスクも、様々な形態で露露呈するようなりましたが、足元ではハイテク株の分野で特に大きな脅威になりつつあります。

アメリカ第一主義といっても、トランプ大統領の頭の中では古き良きアメリカの製造業を守ることが優先されています。今日のハイテク分野は大統領の守るべき世界とは別で、むしろ攻撃の対象として狙われている節さえうかがえます。

これは米国マターではすまされず、日本の情報通信、ハイテク分野にも波及してくるリスクがあります。


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3月配信分
・ハイテク株にもトランプ・リスク(3/30)
・見えてきた点と線(3/28)
・見えてきたドル円の100円割れ(3/26)
・姿を現したパウエルFED(3/23)
・自動車業界と流通業界とのコラボ(3/19)
・日銀の金融政策も政権如何(3/16)
・安倍政権に春の嵐(3/14)
・雇用絶好調でなぜ賃金が上がらない(3/12)
・金利差円安論はすでに破たん(3/9)
・二転三転する黒田発言の真意は(3/7)
・トランプならではの貿易戦争リスク(3/5)
・エネルギー株に3つのリスク(3/2)

2月配信分
・親子バトルが銀行株を圧迫(2/28)
・裁量労働制論議で露呈した日本の問題(2/26)
・中央銀行の支配者(2/23)
・半島融和の裏で中東に火種(2/21)
・(金利差・ドル円・株の関係が崩れる2/19)
・米国債のバブル性(2/16)
・トランプ予算教書に2つの危険性(2/14)
・日銀人事の裏側(2/13)
・市場不安定化が3月利上げの負担に(2/9)
・適温経済と適温相場は別(2/7)
・米金利とドル円の関係、ここに注意(2/5)
・米金利高が日本の投資家を襲う(2/2)

1月配信分
・個人消費の低迷に歯止めがかからず(1/31)
・物価本位主義見直しの時(1/29)
・安倍総理の密かな戦略を探る(1/26)
・規律を失い惰性に走る財政金融政策(1/24)
・米長期金利上昇は「吉」か「凶」か(1/22)
・強まる中国への風当たり(1/19)
・地政学リスクとビジネス・チャンス(1/17)
・粉砕される円安期待(1/)
・デフレ脱却宣言を拒む実質賃金の低迷(1/12)
・北朝鮮問題に新展開か(1/10)
・インフレ如何で変わる米国リスク(1/5)

12月配信分
・新年に注意すべきブラック・スワン(12/29)
・新年経済は波乱含み(12/27)
・日銀の過ちを安倍政権が救済の皮肉(12/25)
・金利差と為替の感応度が低下(12/22)
・インフレ追及の危険性(12/20)
・日銀が動くなら最後のチャンス(12/18)
・不可思議の裏に潜むもの(12/15)
・制約強まるFOMC(12/13)
・生産性革命、人材投資政策パッケージを発表(12/11)
・米国に新たな低インフレ圧力(12/8)
・政府と市場の知恵比べ(12/6)
・長短金利差縮小がFRBの利上げにどう影響するか(12/4)
・原田日銀委員の「緩和に副作用なし」発言が示唆するもの(12/1)

11月配信分
・中国リスクを警戒する時期に(11/29)
・会計検査院報告をフォローせよ(11/27)
・改めて地政学リスク(11/24)
・低金利で行き詰まった金融資本(11/22)
・内部留保活用に乗り出す政府与党(11/20)
・日銀の大規模緩和に圧力がかかった可能性(11/17)
・リスク無頓着相場に修正の動き(11/15)
・トランプ大統領のアジア歴訪の裏で(11/13)
・異次元緩和の金融圧迫が露呈(11/10)
・戦争リスクと異常に低いVIXのかい離(11/8)
・変わる景気変動パターン(11/6)
・日本的経営の再評価(11/1)

10月配信分
・日本の株価の2面性(10/30)
・FRBの資産圧縮が米株価を圧迫か(10/27)
・リセット機会を失った日銀(10/25)
・低インフレバブルと中銀の責任(10/23)
・フェイク・ニュースはトランプ氏の専売特許ではない(10/20)
・金利相場の虚と実(10/18)
・米イラン対立の深刻度(10/16)
・自公大勝予想が示唆するもの(10/13)
・中国経済に立ちはだかる3つの壁(10/11)
・自民党の選挙公約は大きなハンデ(10/6)
・当面の市場リスク要因(10/4)
・景気に良い話、悪い話(10/2)

9月配信分
・アベノミクスの反省を生かす(9/29)
・高まった安倍総理退陣の可能性(9/27)
・日銀も米国に取り込まれた(9/25)
・安倍総理の早期解散に計算違いはないか(9/22)
・日銀は物価点検でどうする(9/20)
・中国経済は嵐の前の静けさか(9/15)
・トランプ政権はドル安志向を強める(9/13)
・気になる米国の核戦略(9/11)
・日銀の政策矛盾が露呈しやすくなった(9/8)
・ハリケーン「ハービー」の思わぬ効果(9/6)
・北朝鮮核実験の落とし前(9/4)
・内閣府は信頼回復が急務(9/1)

8月配信分
・個人消費の回復に疑問符(8/30)
・あらためて秋以降の中国リスクに警戒(8/28)
・米債務上限引き上げかデフォルトか(8/25)
・利用される「北朝鮮脅威」(8/23)
・バノン氏解任でトランプ政権は結束できるか(8/21)
・日銀の「ステルス・テーパー」も円安を抑制(8/18)
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・北朝鮮の行動を左右する周辺国の事情(8/14)
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マンさんの経済あらかると』(2018年3月30日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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