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安倍首相は日米会談でも言いなりになるのか? 米ロ中にある「暗黙の了解」=近藤駿介

シリア空爆でもロシアは報復せず、米中貿易摩擦でも前面衝突は回避へ向かっている。米ロ中といった大国同士は衝突しないという暗黙の了解が存在しているようだ。(『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。

常に蚊帳の外にいる日本。シリア空爆も米中貿易摩擦も予定調和か

先週、NYダウは底堅く推移

先週(4/9~)の米国株式市場は米中貿易戦争やシリア情勢に一喜一憂する展開となった。週明け9日を除いてNYダウは連日で2桁以上の上昇下落を繰り返した結果、前週末比427ドル高で週内の商いを終えた。

米中貿易戦争やシリア情勢など外交的不透明感が高まる中でNYダウが底堅く推移できたのは、第2四半期入りしたことによるリスクオンの流れのなか、上昇したVlt-index(恐怖指数)が水準訂正局面にありカバーが入ったことによるものである。

貿易戦争は黒字側が妥協するしかない

金融市場の大きな懸念材料となっている米中貿易戦争は、10日に習近平国家主席がアジアフォーラムでの講演のなかで、中国で証券や保険、自動車製造を営む場合に外資の過半出資を認めることや、自動車などの関税を下げて輸入を拡大する方針を示し、米国との全面戦争を避ける姿勢を示したことで一旦はおさまる状況にある。

中国政府は「貿易戦争は望まないが怖くはない。贈り物を頂いたら返さないと失礼。最後までお付き合いします」という強硬姿勢を見せていたが、トランプ大統領が制裁規模を1600億ドルと中国の米国輸入額1300億ドルを上回る規模に設定した時点で「お付き合い」することが不可能になっていた。

仮に「お付き合い」する強硬姿勢を見せても、報復規模の上限が1300億ドルではトランプ大統領が制裁規模を上げれば上げるほど中国側の報復規模が見劣りし、「弱腰な中国」という望ましくない印象を与えかねない状況にあった。

習近平主席が米国との貿易摩擦を和らげ、交渉による解決を目指すことを示唆したのは、米国との報復合戦よりも、市場開放路線を見せることで米国の保護主義的な政策を際立たせた方が賢明であるとの判断があったからだと思われる。

貿易不均衡問題に関する対立は、それによって問題が解消するかどうかは別にして、貿易黒字を抱える国が妥協するか、通貨高を受け入れるかのどちらかでしか解消しない

こうしたことを考えると、米中貿易摩擦問題は、攻めのトランプ、守りの習近平という構図で進む可能性が高い。これは中間選挙を控えたトランプ大統領にとって悪くない構図だといえる。

Next: 米ロ中の間にある「暗黙の了解」。トランプが通れば道理が引っ込む?



シリア空爆は予定調和か

強硬姿勢を見せるトランプ大統領は、週末に英仏両国と共にシリア空爆に打って出た。米国によるシリア空爆は2017年4月以来ちょうど1年ぶり。米国に反撃する能力を持たないシリアへの空爆自体はそれほど大きな出来事ではなく、問題はシリアに駐留するロシア軍の動き。しかし、トランプ大統領が事前にTwitterでミサイル攻撃を予告したこともあってか、空爆による人的被害も、懸念されたロシアからの反撃も見られなかった。

シリアが化学兵器を利用した証拠は明らかにされていないが、ミサイル攻撃を実施し米英仏に反撃すると、万が一シリアが化学兵器を使った明らかな証拠が出てきた場合、化学兵器を使用したシリアを庇う格好になってしまうこともあり、ロシアもうかつに動けなかったようだ。

トランプ政権はその辺りも計算済みだったのだろう。Twitterでの事前予告を含めて考えると、シリア空爆は予定調和の一環だったともいえる。

米ロ中の間にある「暗黙の了解」

20014年のロシアがクレミアを併合した際にもNATOとロシアの軍事衝突は起きなかったし、今回のシリア空爆でもロシアは軍事的報復をしなかった。また、米中間の貿易でも前面衝突は回避される方向に動いている。

こうして考えると、代理戦争的な紛争は起きても、米ロ中といった大国同士は衝突しないという暗黙の了解が存在しているといえる。

米ロ中の間で暗黙の了解があるとしたら、米英仏3か国のよるシリア空爆が金融市場に与える影響は限定的だといえる。

トランプが通れば道理が引っ込む

大国間での暗黙の了解があるせいか、貿易面でも軍事面でもトランプ大統領の強硬姿勢が全て通り「トランプが通れば道理が引っ込む」という状況になってしまっている。

こうした中で17日から日米首脳会談が開催される。内政で苦境に追い込まれている安倍総理にとっては、「馬が合う」トランプ大統領との首脳会談でポイントを稼ぎたいところ。しかし、強硬姿勢が全てうまく行っている今のトランプ大統領相手にポイントを稼ぐのは難しい

TPP参加を説得するような愚行に出たら、大きな反撃を食らいかねない状況だといえる。

Next: 支持率で上回るトランプ政権。安倍首相は言いなりになってしまうのか



安倍首相は言いなりになってしまうのか

頑なな態度を取り続ける日米両首脳だが、RASMUSSENの世論調査によると、トランプ大統領の支持率は50%(内Strongly Approve 34%)と、30%台まで低下してきている安倍総理の支持率を大きく上回っている。

強硬姿勢を貫くことで支持率が回復してきたトランプ大統領と、頑なな態度で支持率を落としてきた安倍総理との会談で、安倍総理が外交的なポイントを上げることは極めて難しいといえる。

むしろ、貿易不均衡に対して強硬姿勢を見せられ、貿易問題では「100%一致していない」ことが露呈する可能性の方が高い。

もしそれが露呈した場合、安倍政権の失地挽回が困難となり、金融市場が円高に反応するリスクが高いといえる。それは、リスクオンに向かうなかで、日米の金融市場の動きが「100%一致しない」可能性を感じさせるものである。

image by:photocosmos1 | Frederic Legrand | ID1974 / Shutterstock.com

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元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』(2018年4月16日号)より抜粋
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