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金融市場は「安倍退陣」を現実のシナリオとして意識し始めた=近藤駿介

安倍総理にとっては内憂外患による失地挽回を賭けた日米首脳会談だが、失敗といえるだろう。市場は「安倍退陣」を現実のシナリオとして意識していくことになる。(『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。

北朝鮮「核凍結宣言」でも喜べない日本。安倍首相の進退に注視を

安倍首相にとって失地挽回を図るチャンスだったが…

「100%一致している」ことを確認し、内外に表明するはずだった日米首脳会談。しかし、結果的に「100%一致していない」ということを印象付けるものになってしまった。

加計問題や財務省のセクハラ問題によって支持率が一部の調査で20%台まで下落するという内憂を抱えていた安倍総理にとって、「馬の合う」トランプ大統領との日米首脳会談は成果を挙げて失地挽回を図る最大のチャンスだったはずである。

確かに、北朝鮮問題では「安倍首相にとって重要な問題であるため私にとっても重要だ。拉致被害者が帰国できるよう最大限努力する」という言葉を引き出すことに成功したうえ、3回目のゴルフ外交を行うなど「蜜月関係」をアピールすることには成功した。

拉致問題を含め「成果はなかった」に等しい

だが、トランプ大統領のセクハラや人種差別的な言動が題視されているうえ、米国人3人も北朝鮮に拘束されているのが米国の現状である。

トランプ大統領が人道問題である拉致問題を軽視する発言をする可能性はほとんどなかったことを考えると、拉致問題で成果があったと見るのは早計だといえる。

そもそも拉致問題は日米間に認識のずれがほとんど生じていなかった。

これに対して、日米間で認識のずれが明らかになって来ていた肝心の通商問題では、何の成果もあげることはできなかった。

日本ではトランプ大統領がTPP復帰の可能性を検討する指示を出したとの報道を好感する動きも見られたが、実際には「米国は巨額の貿易赤字を日本に対して持っている。我が国が拒否できないような好条件が提示されない限りTPPには復帰しない。日本と1対1で交渉を行いたい」というマイナス回答を突き付けられた格好になった。

蜜月関係をアピールした直後に通商問題でマイナス回答を突き付けられるというのは、蜜月関係が少なくとも通商問題においては無意味であることを強く印象づけるものであり、蜜月関係を強くアピールしてきた安倍総理にとっては大きなダメージになったはずである。

Next: イメージとは裏腹に論理的に動くトランプ大統領



論理的に動くトランプ大統領

トランプ大統領は、外交と通商問題の両面で強硬姿勢を強めている。

多額の貿易赤字を抱える中国に対しては、中国が「お付き合い」することが不可能な規模の制裁をチラつかせることで市場開放などの譲歩を勝ち取った。

また、ロシアに対してはTwitterでミサイル攻撃を予告することで、シリア空爆に対する軍事的な反撃を封じ込めることに成功した。

制御不能に見える暴君は、正しいかは別として、言われている以上に論理的に動いている。

トランプ政権のパワーバランスが大きく変化してきた

本題から外れるが、今回の日米首脳会談で印象的だったのは、イヴァンカ氏とクシュナー氏が出て来なかったことだ。

最高レベルの機密情報を取り扱える権限を失ったことが報じられた2月末以降、クシュナー氏はほとんど政治の表舞台に出て来ていない。それだけでなくイヴァンカ氏も平昌オリンピックでその姿を見せた以外は姿を見せていない。

それと共に強硬姿勢を強めるトランプ政権。こうした動きは2年目に入ったトランプ政権のパワーバランスが1年目とは大きく変わって来ていることを感じさせるものである。

北朝鮮「核凍結宣言」でも喜べない日本

拉致問題で唯一の小さな成果を挙げるにとどまった日米首脳会談直後の週末に、今度は北朝鮮から「核凍結宣言」が飛び出した。

核実験と中長距離、ICBMの実験を中止するという今回の発表は、平日であればヘッドラインだけで株式市場は好感したはずである。しかし、週末に発表されたことで、「核凍結宣言」が日本にとって必ずしもいい内容ではないことが、市場が開く前に明らかになってしまった。安倍総理はツキにも見放されてしまったのかもしれない。

北朝鮮による米国本土に届くICBMの実験中止表明は、米国にとって歓迎するものであり、トランプ大統領にとっても強い圧力をかけた成果だとアピールできる絶好の材料でもある。

しかし、日本に届く中距離弾道ミサイルが含まれなかったこと、北朝鮮が実質的に核保有国として存在し続ける可能性があることを考えると、日本は今回の北朝鮮による「核凍結宣言」を受け入れることは難しい。

トランプ大統領にとって受け入れやすく、安倍総理にとって受け入れにくい北朝鮮の「核凍結宣言」。北朝鮮から繰り出されたクセ球は、北朝鮮問題に関しては「100%一致している」ことを強調してきた安倍総理の内角を厳しくえぐるものになりかねない。

トランプ大統領が「核凍結宣言」を受け入れた場合、「100%一致している」とはいえない安倍総理は苦しい立場に追い込まれることになる。それは、拉致問題に関して「100%一致している」ことを示した今回の日米首脳会談の小さな成果を水泡に帰すものでもある。

Next: 現実味を帯びてきた「安倍退陣」シナリオ。物価統計に注目を



現実味を帯びてきた「安倍退陣」シナリオ

安倍総理にとっては内憂外患による失地挽回を賭けた日米首脳会談であったが、失地挽回は叶わなかったといえる。

支持率が20%台まで低下した安倍総理が失地挽回できなかったことを考えると、金融市場は「安倍退陣」を現実のシナリオとして意識していくことになるはずである。それは、為替や株式市場にとって重荷になる可能性が高い。

物価統計に注目が集まる

4月に入ってから政治面での大きな動きの陰に隠れて忘れかけられている印象のある経済動向であるが、今月末にかけて再び注目を集めるかもしれない。注目すべきなのは物価統計である。

それは、米国の携帯電話の料金プラン価格が2016年4月から2017年3月にかけて過去16年で最大の12.9%の下落をしていたことで、物価統計に下方圧力が掛かっていた可能性があるからだ。

これまで完全雇用状態にあるなかで、物価が上昇してこないことをイエレン前FRB議長は「」と称するとともに、こうした携帯電話料金の値下がりという一時的要因が物価統計を押し下げている可能性に言及してきた。

4月11日に発表された3月の米国コアCPIは前年同月比2.1%上昇と、1年ぶりの高い伸びとなり、FRBの目標である2%に乗ってきた。

こうした携帯電話料金の値下がりという一時的統計要因が剥奪していくなかで、コアCPIが1年ぶりに前年比プラス2.1%となったことは、今後、経済統計上で物価上昇が確認される可能性を感じさせるものである。

FRBが物価指標として見ているのはコアCPIではなく4月30日(月)に発表されるPCEコアデフレーターである。今のところ3月のPCEコアデフレーターの予想は前年同月比1.8%上昇となっているが、結果が予想を上回るものとなれば、「謎」の正体が携帯電話料金の値下がりだったという見方が強まっていく可能性が高い。

利上げペースが加速するか?

コア物価統計には含まれてはいないが、ここに来て原油価格が上昇基調を示し68ドル台まで上昇してきている。

こうした状況下、統計上で物価上昇が確認されることになれば、FRBの利上げペースが上がる、さらにはイールドカーブがスティープ化することは十分に予測されることである。

4月17日には0.433%まで縮まった10年国債と2年国債のイールドスプレッドは、週末には0.498%と0.5%近辺まで戻してきている。

物価上昇が経済統計に反映されやすい時期に近付いてきていることで、米国の長期金利には上昇圧力が掛かりやすくなっている。長期金利の上昇圧力が増す局面で重要なのは、実体経済が金利上昇圧力に耐えられるほど堅調であるという証明である。

物価上昇が経済統計に表れやすくなり、長期金利に上昇圧力が加わりやすい局面で最悪なのは、保護主義的な政策などの影響も加わり景気にピークアウト感が出て来ることである。

Next: 政治イベントはいったん収束。市場の関心は再び経済・FRB動向へ



市場の関心は再び経済・FRB動向へ

政治面では、5月下旬から6月初旬にかけて開催が見込まれている米朝首脳会談」と、トランプ大統領が支持した中国に対する追加政策の結果が出るのが6月であることを考えると、足元大きな注目を浴びている政治イベントは一旦ピークアウトに向かう。そして市場の関心は、再び経済およびFRB動向に向けられることは念頭に置いておくべきだろう。

物価の「謎」が解けた時に景気がピークアウトしているという「ねじれ状況」には注意が必要である。

安倍退陣シナリオの現実性を注視すべき

日本は今週末からGW入りすると同時に、内憂外患に陥った安倍退陣シナリオの現実性が高まるかを見極めなければならない局面を迎えている。

世界の投資家のなかで国内投資家が、一番慎重なリスクコントロールを求められる時期になっていることは認識する必要がありそうだ。


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・顕在化してきたトランプリスクと、苦境が迫るパウエルFRB(4/9)
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・「もはや低インフレとは言えない米国」を織り込み始めた市場と、それに苦しむ日本(2/5)

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元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』(2018年4月23日号)より抜粋
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